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106:来訪

旅行の予定をキャンセルして家でゴロゴロしているので、投稿頻度を高めております。

切り裂かれた服は、上半身だけではなかった。

慌てて毛布を引き寄せ、ベッドの上で下半身を隠す。


「いやいやいや、不法侵入っつーか、どうやって鍵開けたよ。

俺のことを知ってるのか。

誰なんだ、何なんだ。

頼む、教えてくれ!」


顔を赤らめて両手で覆ってる振りしてても、隙間からギラギラ光る目が見えてるんだよ。


「ひょっとして、向こうのこと、忘れちゃってんの?

ええー。

グレンガは、そんな副作用みたいな話、してなかったけどなー。」


グレンガ。

新しく聞く名だが……

これは、覚えていられる。


「なあ、どうやら、あんたの名前は覚えられないようになってるみたいなんだ。

何か、思い当たることは無いか。

呪いみたいな。」


俺の超常の力、しゃべる猫、謎の敵、俺を知っている訪問者。

俺、ひょっとして前世は異世界の勇者か何かで、その記憶を封じられているって奴か……!?


「私の名前が、覚えられない……?」


女は、首をかしげて考え込み、問い返してきた。


「逆に、覚えてることはある?

ここまで、転移か何かしてきたんでしょ。

スキルとかは、使えるんじゃないの?」


「ああ、スキルか。

自分にいくつか特別な能力があるのは分かる。

誰かを守ったりとか、傷を治したりとか……」


「ならさ、呪いを解くような術とか、自分に掛けてみるってのは?」


「おお、なるほど。」


言われてみれば、解呪のような能力もあるようだ。

自分の胸に手を当てて、スキルを発動させる。


封呪ディスペル。」


厨二っぽくてちょっと気恥ずかしさがあるが、目の前の女は特になんの反応もしていない。

スキルと呼んでいた能力、ふつうに使われていたってことか。


バシュ、という音を立てて術が弾かれる感触があった。

両手両足と額の辺りで、何かの反応がある。


「ダメだ、術が弾かれた。」


「ふーん、呪いの類があることは確かみたいね。

仕掛けの術の方が、強度が高いってことかな。

何か所かあるみたいだけど、ちょっと見せてもらっていい?」


疑っていてもきりがない。

俺は、とりあえずこの女を信用してみることにした。


「手首と足首、あと、おでこの辺りで魔力みたいなものを感じた。

手足の方が、固い感じの反応だったかな。」


俺が手首や足首を示しながら説明していくが、なんとなく女の視線が毛布の中に向かっている気がしないでもない。

おい。


「あ。」


女が、口元に手をやっている。


「どうした。」


「えーとね、手足の方は何となく分かっちゃったかな……。

呪いっていうより、力を封じてあるっていうか。」


「力?

スキルは、発動してたぞ。

さっきのは弾かれたけど、コンビニでも効果があったんだ。」


「ええと、スキルを封じるんじゃなくて、ステータスっていうのかな。

腕力とか、頑丈さとか、そういうところが、ものすごく弱体化されてるんじゃないかな。

って、コンビニでスキル使ったの?

誰かに見られたりした?」


「いや、誤魔化せる範囲だと思う……。」


間近で見られた気がしないでもないが。


「弱体化……。

俺は、元々は相当高位の戦士だったのか。」


「戦士としてはどうだったのかなー。

向こうでも、いろいろあってね。

私もそこまでギルの力には詳しくないんだけど、そういうのも忘れちゃってるんだ……。

思い出せない?

しっこく、って。」


「しっこく……

暗い色の漆黒?」


「ううん、手枷足枷のことだって言ってたけど。

なんだっけな、ステータスが何百分の一になるとかって。」


「呪いなのか。」


「呪いっていうか、力が強すぎると困ることが多いからって感じじゃなかったかな。

あと、向こうとこっちを行き来するには、力が圧縮されてた方が省エネで移動できる的な。」


「自分で施した封印ということか?」


「もともとはそうだったんだけど、今はバーミィが管理してるんじゃなかったっけ。」


「バーミィ……。」


「バーミィのことも、忘れちゃってるの?

猫の精霊よ。

あーあ、こんなマスターに会ったら、バーミィはなんて言うかなー。」


「猫の精霊か?

さっき、自分と契約しろとか言って来たぞ。」


「え、契約……?

何か、対価を要求されたりとか……?」


「いや、詳しい話はまだ。」


「うーん、前からバーミィはギルの僕みたいなものだったんだけど、精霊として使役する契約もしてなかったし、パーティーも組んでなかったのよね。

なんでかまでは聞かなかったんだけど。」


「契約せずに、一緒にいたのか。

あれか?

使役じゃなくて、自由な仲間でいたかったとか。」


「そういうことだったのかなー。

うーん。

だけど、私が見た時には、バーミィは契約相手の魂を自由にするとかなんとかって話だったしな……。」


女は唸るばかりで、いまいち答えが浮かばないようだ。


「待てよ、そうすると、俺は自分の力を取り戻すためにバーミィに魂を売るとか、そんなシチュエーションなのか?」


「んんー、バーミィがギルを支配したがってたなんて感じは、なかったけどなー、うーん。

ちょっとわかんないや。

あれ、契約はともかく、肝心のバーミィはどこに行ったの?

会ったんでしょう?」


「ああ、話してる最中に、俺が獣人みたいな奴に襲われてな。

そう、俺は、殺されたはずだったんだ。」


「えっ。

ひょっとして、蘇生っていうか、こっちでリスポーンした……?」


「やはり、そういうことか。」


「待って、待って。

その身体、こっちにいた時と同じじゃないの?」


「それがな、以前の記憶があいまいでよく分からんが、イケメンになってるみたいなんだ。

というか、イケメン扱いされた記憶なんて、過去の分にはまったくないんだよな。

困っちまう、はっはっは。」


「うそっ。

それじゃ、アルトクリフ様が、この世界に降臨されたってこと……!?

でも、中身はギルのまま……受肉、みたいな……?」


「こいつぁてーへんだぁ」、目を丸くした女の口からこぼれていた。



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