9︰トレスティン
トレスティン・トア・カラミーテ、第三王子。
一作目では、アルト様の幼少期回想シーンで多少出てくるだけだったけど、二作目ではガッツリとストーリーに組み込まれていた。
酷評の原因だった、やたらバリエーション豊富な欝エンドの大半に絡んでくるのがコイツ。
アルト様のルートでも、二パターンの登場があった。
オーソドックスなルートでは、邪悪な力に取り込まれた家臣に担ぎ出されて、敵対勢力のボスとして。
この時には単に嫉妬や憎しみに囚われた愚かな王族の一人として描かれてて、一番ましな展開に進んだとしても、敗北したトレスティンは力を失ったうえに廃嫡され、あとは放置されてる。
分岐はいろいろあるけど、味方陣営の主要キャラがやられちゃったり、混乱しているうちに他国の侵略を受けて王国全体が没落したり、ろくな結果にならない。
ところが、アルト様が闇堕ちするルートでは、逆にアルト様を正気に戻す、つまりアルト様をいったん倒すための戦力の要として立ち回ることになる。
最後には、王国の未来と愛する兄のためにといって、自分の命と引き換えにアルト様の呪いを解いて死んでいくという驚きの展開。
普通に言ったらアルト様の命の恩人として感謝するべきなんだろうけど、その後のアルト様は陰が消えないままエンディングまで進んでしまう。
他に方法はなかったのかって検証班がひたすら分岐を探っていたけれど、五十歩百歩の結果しかなかった。
他の攻略対象のルートでも、ストーリーの都合ですぐ死んでしまうので、人柱少年とか自爆霊とか呼ばれてむしろヘイトを集めてしまっていた。
悪いのは脚本なんだけどな!
私は第二作の記憶があまり残っていないのでヘイトもそれほどないけれど、そのデタラメな強さは印象に残っている。
敵ボスとして登場したときは、ミニゲーム的にちょっと特殊な戦闘が展開されたのだが、モグラ叩きのように手下が湧いて出て、とにかく色々な攻撃を仕掛けてくる。
アクションゲームがそれほど得意ではなかった私は、攻略サイトの解説を読み込み、対応の手順をひたすら暗記してどうにかこなしたものだった。
そのトレスティンが、パズ&ダズの舞台でも、私の前に立ちふさがったのだ。
今回は、アクションの要素は少ない。
でも、手下を大量に召還するパターンは踏襲されていて、初戦は、数ターン後に発動される一斉攻撃で全員が大ダメージを受け、あっさり死んでしまった。
見たところ、一斉攻撃には様々な属性が含まれててて、単純な防御強化系魔法や軽減スキルでは耐えられそうもない。
残り日数が限られる身としては、さっさと攻略サイトのお世話になることにする。
〇トレスティン・トア・カラミーテ(闇)の攻略
・四~五ターン目に発動する一斉攻撃を受けきるには相当な耐久パを組む必要あり。なお、聖鎧アルト(コラボガチャ限定、レア度六)を入手、覚醒段階まで育成できていれば、スキル発動で戦闘が終わるまでこの攻撃を封印できる。
・聖鎧アルトが引けなかった場合も、平服アルト(コラボガチャ限定、レア度四)のスキルで三ターンは封じておけるので、その間に大火力で押し切ろう。ちなみに、平服アルトは特に育成の必要はない。
・コラボガチャを回したくない場合、ペリクレスタ(ノーマルストーリー・八-十三クリア報酬)またはリュクシー(サイドストーリー・C-三クリア報酬)のスキルでも回避可能。
えっと。
HPデータみたいな詳細な攻略情報がないということは、ほとんどのユーザーにとっては取るに足らない敵ってことだ。
それで? 高レアのアルト様がいれば、あの攻撃自体を封印……ですと? くっ。
でも、狙って引けるものでもないから、うらやんでも仕方がない。
で、平服アルト……なんだか、いて当たり前みたいな扱いはどうなのよ。
こっちはまだ出会えてないのに。
銀レアだから、外れ枠の扱いなのに。
なんで出会えてないのかしらね。
ノーマルストーリーは7ステージで停滞しているから、すぐには進められない。
サイドストーリーのC章って……炎獄編のこと? は、もっと難易度高いし。
つまり、平服のアルト様さえ引ければ、なんとかなる……そして、引くしかないってことね。
今回のコラボガチャ、排出割合でざっと七割は銀レア。
銀レアのレパートリーは十一種類だから、一回当たりでアルト様を引く確率は六パーセントちょっとある。
十連では五割に届かないが、二十連で七割を超え、四十連もすれば九割を超える。
……あれ? なんで今まで引けてないんだ……?
いや、過去は過去だ。
過去は未来の確率に影響しない。
これまでのことは、忘れるんだ。
トレスティン・トア・カラミーテ。
待っていなさい。
私は、アルトクリフ様とともに、お前を倒す!
つまり、お前を倒すために、アルトクリフ様は、私のもとに来てくださる。
ああ、分かってしまった。
このシチュの、この瞬間のために、今までお姿を見せずにいたということが……。
始めましょうか、降臨の儀を。
土曜の夕方のベッドの上、この季節はもう日暮れも早い。
薄暗くなっていく部屋の中、私は魔法石を砕き続ける。
あれ? あれ……?
冷たい砂漠を歩き続けるような、ひりつく時間。
ば、爆死……?
そして、崩れ落ちた私を癒しの光で包んだのは、宿敵トレスティン、その人だった。