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因縁と挑発と

月曜日の放課後、みんなを集めて昨日導き出した結論を伝える。


「ひとまず、三人がやれることは以上です。実際の戦闘でどういう風に動くか、どんな作戦を立てるかについては、もうみんなで考えるしかないと思います」


昨日話し合った結果、戦力としての颯については諦めるしかないという結論に至った。そして頭脳として颯の穴を埋めるには、全員での協力が最善であると結論づけた。


「だから協力してください。お願いします」


頭を下げてお願いする。私が今できる事はこれくらいしかないから。


「当然!」


「当たり前でしょ!」


「洗馬くんに頼らなくても勝てないとね。洗馬くん頼りなA組だなんて思われたくないし」


「颯が戻ってきたら、お前なしでも勝てたぜって報告してやろう!!」


「そうそう、最初からそのつもりだったし、だからハルネさんが頭を下げなくても大丈夫だよ!」


「みんな……。ありがとう……!」


「お礼なんていいってば」


みんなもきっと同じだ。颯という存在がいかに大きいものか分かっているから、その颯がいないという現状を何とかしたいと思っている。


昨日贄川くんに強く言われたのがきっかけなのかもしれない。それでも、みんなが颯のことをちゃんと考えてくれているのは、颯がもうちゃんと、このクラスの一員だという証拠だ。なによりもそのことが、私もうれしいことだ。


「さて、それじゃあ贄川。俺たちにも色々と情報を……贄川?」


原野君が贄川君に話しかけるものの、贄川くんは返事をしない。


「…………………………」


「贄川くん……?」


「……電話」


「電話?」


「C組、から……」


「「「「!?!?」」」」


このタイミングでの連絡。狙っていたかのようなタイミング。


「どうする……?」


その問いかけの意味はあえて聞かなくても分かる。


必要はない電話。でも、颯ならきっと電話に出るだろう。なら、答えは一つ。


「……出ましょう」


贄川くんは無言で頷いて通話ボタンを押す。


『やっほー、A組の皆さん、こんにちは〜』


訓練室に画面が表示されて、C組の人たちが映る。


「こんにちは、駿河さん、島内さん」


『こんにちは、グリフィスさん。お隣に洗馬くんがいないみたいだけど、彼はどうしたの?』


「っ、颯は……」


「性格が悪いな、駿河さん」


答えあぐねる質問に対して、贄川くんが前に出てきた。


「もう知っているんだろう? 少なくとも耳聡い日市がいて、知らない筈がない」


『まぁそうだね。ちゃんと知ってるよ。無茶をやって、洗馬くんが倒れたって事はね。“魔力に対する過干渉による脳への過負荷”、だったっけ?』


「!?」


なんでそれを……、颯に起こった症状をどうして……?


「過干渉?」


「過負荷?」


知らない人たちは、首を傾けて言葉を反芻させるのみ。


『分かりますよ。洗馬くんの戦い方を見ていれば』


話しながら駿河さんと島内さんの後ろから出てきたのは日市さん。


『完成されている魔法をつなぎ合わせるなんて通常はあり得ないことです。そんな不安定で未完成な魔法を成立させている時点で、彼が相当無茶をしているということはすぐにわかりました。その無茶が限度を超えたから倒れたんでしょう? 同時に驚きましたけどね、それを使いこなしている洗馬くんにもね。……いえ、使いこなせていないから倒れたんでした。まぁ魔術が使えないということなので仕方ないでしょうけど』


「……そろそろその口を閉じろ、日市」


『珍しいですね、贄川君がそんな風に怒るなんて』


クラス委員もクラスメイト達も置いてきぼりでにらみ合う二人。


『日市、そのあたりにしておけ。さっきの言動は彼らが怒りを露わにするのは至極真っ当だ。私としても、今の君の言動は擁護できない』


「はいはい」


島内さんが止めに入り、日市さんはそのまますぐに引き下がる。島内さんという人は、正義感に満ちている人のようだ。


『まぁでも、洗馬くんも大変だねぇ。守勢魔法がなくて、魔術が使えなくて。ようやっと見つけた力で倒れちゃうんだから。悲劇な人生を送ってるな〜って』


『梓』


『最後まで言わせて、凛ちゃん』


日市さんの直後にそんな言動をする駿河さんも、ある意味ではすごい。……私も怒ってしまいそうなところを押さえてはいるけれど。


『別に私たちは洗馬くんの人生には興味ないんだ。……でもね、本当迷惑な存在だなとは思ってる』


「……迷惑、ですって?」


『だってそうでしょ? 訳の分からない力を使って、それで勝手に倒れて、そのせいで私たちまで魔法・魔術の練習を禁じられちゃったんだよ? これを迷惑だって言う以外に、何で表現すればいいのか分からないよ』


「っ」


『誰も知らないし、他の誰も扱えない。そもそもどこからどうやって見つけ出してきたのかもさっぱり分からない。そんなもの、私たちからすれば意味不明としか言いようがないよ。オマケに、その力を使って倒れて他の人に迷惑までかけてるんだから、どうしようもないって思うな』


「……確かに、実際上級生たちからも疑念の声が上がっている。今年の一年はいったい何をやらかしたのかって。自分たちの練習の邪魔をされたって怒るのも、当然ではある……」


確かに、他の人たちから見ればそう見えてしまう。反論できない。贄川くんも、その点については認めている。そして私も、そのことには気づいている。


颯が倒れてからというもの、寮にいる先輩たちからの視線がキツくなったような気がする。別に何か直接的に言われたわけでもないし、何かされたわけでもない。無言の圧力、それが私たちに先輩たちの訴えを伝えてきていた。


『だから、あなたたちにはその責任を取ってほしいんだよね。他の人たちに迷惑をかけた責任』


「責任……?」


『そう。残念ながら洗馬くんは今ベッドでスヤスヤ眠っててなーんにもできないんだから、その代わりにあなたたちに責任を取ってもらう』


「何で僕らが、そんなことをしなきゃいけないんだ?」


『人に迷惑をかけたからに決まってるでしょう? 連帯責任だよ、連帯責任。自分たちに一切の原因がないと本気で言うつもり?』


「っ……」


抗議は一瞬で折られてしまう。


『他の人たちが責任を追及するかは知らないし、私たちには関係ないけれど』


「……それで何をして欲しいの?」


『簡単なことだよ。次の私たちとの戦いの三回戦から五回戦のメンバーを、武並くんのチーム、春日さんのチーム、神領さんのチームにして欲しいな〜って』


「なんっ!」


「えっ!?」


「……何ですって」


私たちの視線の集まる先、指名のあった三人は同じように絶句していた。そしてそれは、クラスのほぼ全員がそう。


『そして、私たちから対戦相手として中萱くんチーム、南さんチーム、そして私たちが出る』


「何を……言って……」


『決着をつけないか、香苗』


「っ! あなたがそう言うなら……」


「待った、神領さん!」


前に出ようとする神領さんを、贄川くんが制する。それまで静観していた彼が前に出てきて話を始める。


「……そんな条件を、僕らが受け入れるとでも?」


『受け入れる受け入れないは、確かに君たちの自由なのかもしれない。だが、もしこの会話が、全学年の知るところならどうだ?』


「……なんだって?」


『この通信、会話だけですが全寮と校舎棟に流してみました』


島内さんにキツく言われてから一歩後ろに下がっていた日市さんが再び前に出てくる。


「おいなんだ、この騒動は?」


日出先生が扉をあけ放って訓練室に入ってくる。


『あなたたちがどういう結論を出すのか、楽しみにしてるよ。それじゃあね』


通話はそれで終了。誰も一言も発することはなく、無音がその場を支配していた。

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