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悲劇を呼ぶ戦い

「Spread&Whole-Sky Shooting!!」


いつも通りに、開幕から全天周囲に襲い掛かる矢の雨を降らせる。


「Electromagnetic Net!!」


塩尻が手を勢いよく叩き、勢いよく両腕を広げると、電気を帯びた全面に展開されるバリアーが形成される。


「へぇ……」


あんな防御があるとは聞いていない。この間B組に邪魔したときの俺の戦法を見て、対策を考えていたのか。なるほど、考えるべきことはちゃんと考えているらしい。


どちらにせよ、全天周囲による第一撃はすべて電磁フィールドによって防がれてしまった。ただし、フィールドが消えているところを見るに、こちらの火力と向こうの防御力は同程度だと見受けられる。


「その程度か洗馬颯!」


「そんなわけ、ないだろ」


第一撃が防がれるというのはすでに経験済み、驚嘆に値しない。だから防御膜を展開した段階で既に次へと動き出している。


着弾の間に後背に回り込み、次なる攻撃を仕掛ける体制を整えていた。


「Concentrate Shooting!」


「Heat Circular Escutcheon!」


今度は広丘の炎の盾によって集中砲火は防がれる。それなり魔術が上達していて、しかも属性相性の問題もあってか、矢は一本として貫通できなかった。


「その攻撃方法もすでに知っています。ですので、対処させていただきました」


「チッ」


塩尻のパートナーである広岡はインテリ系。俺の行動が研究されているのは何となく予想はしていたが……。


「Lightning Needle!」


「Carpet Shooting」


細い針のような攻撃を、こちらは矢の範囲攻撃で殲滅する。電と光、その衝突によるスパークが視界を白転させる。


「Inviolable Shield!」


「炎閃!」


置いてきぼりにしていたハルネが左側に飛び出してきた。そして、同じく左側に飛び上がっていた広丘からの攻撃に対処する。


「すまない、気づくのが遅れた」


「これくらい、大丈夫! 颯は目の前の相手に集中して」


「……了解」


広丘に対してはハルネが対応する手筈になっている。だから、俺はハルネでは対処しきれない塩尻を担当する。


「情けない奴だな、お前は」


「情けない?」


何故か静観していた塩尻から、そんな言葉を持ち出される。


「女に守られる、そんな奴が情けない以外のなんだって言うんだ? なるほど、そんな軟弱者だから、戦う闘志が見られないわけだ。そんな奴、俺がとっとと消し炭にしてくれる!」


「……やれるものなら、やってみろ!!」


そろそろこいつの言にも頭にくるものがある。挑発のつもりなら、あえてその挑発に乗ってやろう。


「Spread&Whole-Sky Shooting」


再び全天周囲の砲火を浴びせる。


「同じことを! Electromagnetic Net!!」


最初と同じように塩尻も電磁フィールドを展開する。矢はすべてそのネットに絡み取られて消失するが、そんなことは織り込み済み。だからもう次の手は打った。


「なっ!?」


消失した電磁フィールドから顔を見せた塩尻目掛けて放たれる、第二の矢の雨。


一発の弾丸の同一線上に、かつ一発目を撃った直後に一発撃つ。そうすることで一撃目は防がれても、二発目には対応できずに攻撃を命中させることができる。そんなブラインド弾とまでは言わないものの、似たような攻撃はいくらでも可能だ。今回のように、電磁フィールドそのものと、矢の攻撃を受けることによってさらに悪くなる視界を利用すれば、一回目の射撃の直後に二発目を放てば、同じような効果を得ることができる。


「チッ!」


得意の雷魔術は間に合わないと判断したのか、弾地を使って跳び上がる。


「墜ちろ」


その行動は手に取るように分かる。だから、跳び上がってくる位置を見定めて先回りしておいた。


そこに、既に手に作り上げた剣を振り下ろす。ただの魔法の剣はヒビ割れて消えてしまうが、塩尻を地面にたたき落とすことには成功する。


「……仕留めそこなったか」


地面に降り立って塩尻のHPを確認する。頭を狙ったつもりだったが、HPの全損は確認できない。腕か何かでガードされてしまったか。


「こいつ……!」


「Light Blade+Light Blade、Superimpose。Strength & Length Balancize Slashing」


ただの魔法の剣では耐久力が全く足りないから、重統魔法の剣を作り上げる。剣身約1メートルの白く光る剣が右手に現れる。


「消し炭にするんじゃなかったのか?」


切っ先を向けて、今度はこちらが挑発し返す。


「このクソがぁ!」


ついに怒りが理性を上回ったのだろう、電磁砲を大量生産しこちらに飛ばしてくる。だが数だけで、直撃コースにあるものはそう多くない。


「フー……っ!」


だから、向かってくる電磁砲を視界と感覚の両方で感じ取り、避ける必要のあるものだけを一つ一つ斬り捨てていく。


「なん……だと?」


「近衛騎士の斬撃のほうがよっぽど速くて怖い」


毎朝行っている近衛騎士との剣術練習。剣術の達人の剣撃と比べたら、こんなものはノロノロ動いているようにしか見えない。


「Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。」


「何度も何度も!」


切っ先に現れる何度目かの矢の魔法陣。そして塩尻も何度目かの電磁フィールドの展開。この攻撃に対して一番効果的な対抗策があれのみなのだろう。


「……甘いな。Striking、Pierce Straight!」


物量で勝てないのなら、一点突破で突き崩すのみ。




そうして聞こえてきた破壊音は、()()




「―――!?」


すぐに音が聞こえてきた方、ハルネと広丘の戦う方向を振り向く。


「ハルッ」


見た瞬間に、すぐに状況は理解できた。ハルネの動く盾が一枚のみで、広丘の攻撃をかろうじて耐えている。


「戦いの最中に!」


「っ!?」


再び電磁砲が複数個迫ってきていた。とっさに瞬発風力で上に跳び避ける。


「余所見とはナンセンスだな! Electronic Sonic!」


今度は一直線に電撃が塩尻から伸びてくる。


「なんっ」


今までの電磁砲とは比べ物にならない速さで迫る電撃。矢での対処は間に合わず、とっさに手に持つ剣で振り払おうとする。


「っっっ!?」


電撃が剣に纏わりついて、右腕にまで伝ってくる。とっさに剣を離して電撃からさらに瞬発風力で上空に距離を取る。


電撃はある程度のところまで伸びて消えていく。あの攻撃を上空に伸ばすには限界があるらしい。


瞬発風力でさらに上空に位置取ったことで、戦況が嫌でも目に入ってくる。


すでにハルネのもう一枚の盾は破られていて、今は円球の防御で攻撃を凌いでいる。広丘にそこまでの攻撃力がついていたとは完全に計算外だった。


塩尻も有効打を見つけたと、手に電気をため込んでいる。


「Light Arrow×4、Double Superimpose」


この状況を一度に打開するには、多少の無茶はやむを得ない。


「Raining Coordinate specify、Two Point Shooting!」


塩尻と広丘のいる二点を指定した矢の雨。ハルネに迫っていた広丘、次の魔術を準備していた塩尻もその場から離れることによって矢から自身の身を守る。ひとまず牽制としては成功。今度は外さない。


「もう一撃、っ」


頭に痛みが走る。この前と同じ、おそらくは重統魔法を同時に二つ使用した代償。


「っ、Double Superimpose」


だがハルネを守りつつ二人を牽制するには攻撃の手を緩めている場合ではない。左手で頭を押さえながらも、魔法構築のイメージは止めない。


「Raining、Wide-Area Carpet Shooting!!」


四つの魔法陣が二つに収束重統して、矢を放つ。……はずなのに。


「っっっ!?」


急に視界が霞む。同時に頭が重くなって、頭にあったもの、目に入るものがすべて霧のように霞んでいく。


「っは……」


霞んだ視界は暗転する。急激に襲い掛かってくる頭痛に耐えられずに、痛みに意識を奪われて……。




……………………。




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