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協力体制

「さてと、こんな夜に呼び出して悪いな」


戦いまであと一週間と少しを残した火曜日の夕方。校舎棟での練習を終えた後に、そのまま今度は寮の訓練ルームに全員を集めた。


「今日は一体何なんだ?」


「全員に、いくつかの情報共有をしておこうと思ったんだ。今から配るものに目を通しておいてくれ。ちなみに明日の放課後までに。ただし、寮の外に持ち出すのは禁止だ」


「えっ?」


「ど、どういうこと?」


戸惑っている連中を他所に、こちらはとっとと準備を済ませる。


「ねぇ洗馬くん。とんでもなく積み重なったその紙の束は、何?」


「今から配る資料だ」


「じょ、冗談だよね……?」


「残念ながら冗談じゃない。もちろん明日の放課後までにって言ったのも」


「「「「「…………」」」」」


全員が黙り込む。


「とりあえず配ってから説明する」


贄川とハルネの手を借りて、時間をかけて全員に資料を配る。


「やっぱり分厚い……」


手にした誰かがそんなぼやきを吐く。一つの資料で20枚近くもあればそれも仕方ないか。


「まず見てほしいのは一番最後の2ページだ」


アナウンスと一緒にページを開く。全員が同じように開いたのを確認してからその続きを話していく。


「上手くいけば、明日の午後の授業の時間にB組と合同練習ができる。その時に今やってるみたいに、いくつかのグループに分かれてもらおうと思ってる。自分の力を伝えて、他の人から伝えてもらう。で、そのグループ分けについてを、その裏に記載してある。これに関しては、こっちでさんざん悩んで、悠花たちと話し合って決めた。自分の強化にも、新しい力の勉強にも役に立つように」


先週B組の練習にいた時から、悠花たちとこのことについて詰めていた。


「だから明日までに確認してほしいのは、自分がどのグループに属しているのか、グループにいるメンバーは誰か、そして、そのメンバーの持つ力はどんなものか。その三つを頭に叩き込んでほしい」


「なるほど……」


「それならできるかな……」


「これ全部を詰め込むんじゃないならね」


「当たり前だ。大体、一日でここに書かれてる内容すべて覚えられるなら、試験で困ることなんてないだろう?」


「「「「「悔しいけど言い返せない」」」」」


「というわけで、頑張って覚えてくれ。もちろんB組でも同じようなことが今頃行われてるだろうから、話が噛み合わないなんてことにはならないはずだから心配はしなくていい。というわけで、よろしく頼む。それじゃあ解散!」


その合図で、手に持った資料をのぞき込みながら帰っていく面々。


「武並、いいか?」


その中でたった一人を呼び止める。


「なんだ?」


「?」


「颯?」


武並がこちらを振り向くと同時に、パートナーである釜戸も当然立ち止まるし、ハルネも疑問を覚えて俺を見る。


「あー、ハルネと釜戸は先に戻ってていいぞ。武並との個人的な話だから」


「個人的な話?」


「あぁ」


「そっか、……うん、わかった」


「よくわからないけど、とりあえず先に部屋に戻ってる」


素直に二人は引き下がってくれる。


「さてと、それじゃあ始めるか」


「それは構わないが、別に二人をわざわざ返す必要はなかったのではないか?」


「もともと俺が人の目が好きじゃないのは分かるだろう? ……自分が努力している場面なら、尚更」


「……わからないでもないな。まぁいいだろう、始めるとしようか」


「よろしく頼む」





「それじゃあ、A・B組合同練習を始めるよ~!」


一晩明けた翌日の午後。


観客席の少し上がった位置からフィールドを見下ろす悠花が高らかに宣言する。


以前から悠花が言っていた合同練習。ようやく訓練室にある壁を取っ払う許可が下りて、開催できるようになった。


「この許可を取るのに、どれだけ説明して回ったことか……」


日出先生にはさんざん愚痴を言われたが。


そもそもこういう取り組み自体が前代未聞で、上級生たちもこの時期はクラス別で何か戦うようなことを行っているらしい。


(学年が上がっても、また同じようなことをするとか……)


話を聞きながら、うんざりとした顔が表に出ていなかったか少しばかり心配だったが、とにかくそういう理由で、クラスの枠を超えて協力だなんてことが、この時期には考えられないことだということのようだ。


「だから、授業の時間限定だからな? というか、できても今日を含めて1、2回だからな?」


ため息交じりにそう告げられた。


「とにかく、この貴重な時間を無駄にしないように、頑張ろう!」


悠花が状況の説明を終えてから、すぐに練習時間に入る。


「意外とすんなり会話してるな……」


いきなりこんな形をとったのだから、もっと混乱や戸惑いがあると思っていた。だが実際は、割とすんなり混ざり合ってコミュニケーションを取っている。


「いろいろと共有しておいて正解だったな」


「全部の情報をプリントするのには、もーのすごく時間がかかったけどね……。それにここじゃそれができないからわざわざ僕の実家にデータ送って、それをこっちに送ってもらって……」


「それを思いついた自分の責任だろう?」


「今度、ご飯の一つでも奢ってもらうからね?」


そうは言いつつも、別に不満そうな顔はしていない。贄川としては、情報戦は望むところであり、楽しくて仕方がないのだろう。


「それよりも、贄川も早く行ってこい」


「そうだね、そうするよ」


そう言って、自分のグループへ駆け出していく。


「それにしても、眺めてるだけってのは暇だ……」


「仕方がないよ、私たちは魔術が使えないから……」


俺とハルネは魔術が使えないし、使っている魔法はロリ老女の元で作り出して調整された、規格外の魔法だから、グループには混ざれない。というか混ざったところでやれることがないのだから、元からグループには入っていない。こうして眺めてるほかないのだ。


「でも、みんなちゃんと仲良くやってるね」


「昨日の敵は今日の友、なんてことわざもあるくらいだしな。それに、今のこの時間が自分たちにいかに大事だということが、誰もが分かってる」


本番までもう一週間。残された時間の少なさが、緊張感を高めている。


「それで、颯のほうはどうなの?」


「どうって?」


「もちろん、今回の作戦について」


「…………」


C・D組の面々の情報は贄川たちの努力のおかげで手に入った。そして、各チームに対する対処法についても、ある程度は策定済み。


問題は、どのチームがどう出てくるのかが全くつかめないということ。贄川曰く、


「特にD組に言えることなんだけど、彼らはまるで戦いに関心がないみたいなんだ。僕らとは真逆、練習もすごく緩やかだし、まるで準備なんて一切していないって感じなんだ。正直ゾッとするよ……」


あの贄川がそう言うのだから、本当のことなのだろう。


まるでこっちの必至さが馬鹿みたいに思えてきてしまう。なぜ向こうはそんなに余裕でいられるのだろうか? 何を根拠に、余裕を持てるのか?


「また怖い顔してる」


「っ!?」


いきなり顔を覗き込まれて、それに驚いて後ずさる。


「コラーーーーーーーー!!!!!」


「「!?!?」」


怒号の下、悠花が猛スピードでやってくる。


「何をしてるの! ハルネ・グリフィス!!」


「な、何って……?」


「今! キスしようとしてなかった!!?」


「きっ、ききき、キスッ!?!?」


詰め寄る悠花と、たちまち顔を沸騰させるハルネ。


「してないしてない!! そんなことしないってば!?」


「ほ、ん、と、う、に?」


「本当に!」


「…………」


ジト目の悠花に縮こまるハルネ。


「颯は何にも言わないの?」


「ボーっとしてたら、顔を覗き込まれただけだ。それ以上でもそれ以下でもない」


「本当に……?」


「そもそもだ、ハルネがそんなことをするなんてありえないし、そのつもりもないだろう?」


「「……………………」」


俺の言葉を聞いた瞬間、今度は二人そろって目を丸くする。まったく、表情豊かだ。


「まぁ颯だもんね……」


「颯だから、仕方がないよね……」


「?」


「「……なんでもない」」


今度は息ピッタリな二人。……相変わらず、この二人が組み合わさるとよくわからない。


「悠花はとっとと元の場所に戻る。ほかの連中も手を止めてるんだから……」


「あっ……」


ようやく我に返ったのか、周りを見回して今度は悠花が顔を赤らめる。


「ごめんなさい……すぐに戻ります……」


そのままトボトボと自身のチームに戻っていく。


「……そうだ」


一つ用件を思い出して、悠花を追いかける。


「どうしたの、颯?」


「悠花と、あと悠花のチームに用事がある」


「用事?」


「悠花と同じチーム……いや、春日と多治見だけ、ちょっと来てくれないか?」


「「??」」


読んだ二人が首を傾げながらやってくる。


「多治見にはこの二人だけに教えてほしいものがあるんだ」


「教えてほしいもの?」


「あぁ。クラス内戦の時にお前が使っていた……」

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