A・B組共同戦線
「それでは第一回、A・B組合同クラス対抗戦対策会議を行いたいと思います!」
悠花の第一声に続いて、まばらに拍手が起こる。
事は数十分前、
「私たちと、手を組んでくれないかな……?」
「手を組む?」
「そう。A組とB組で手を組んで、協力してC組とD組を倒す。そのための共同戦線」
悠花から持ちかけられた提案がこの会議のきっかけ。
「共同戦線……」
手を組むこと自体は戦略として間違っていないと思う。B組とはすでに戦い終えているし、情報の共有などの点を見れば極めて有用だ。
だが、こればかりは俺個人で決められるような事案ではない。
「贄川」
「……颯の判断に任せるよ。僕的にはどっちでも良いしね」
特に異論はないらしい。本当にどっちでも良いといった様子だ。
「神領と木曽は?」
「私は賛成。少しでも味方は多い方がいいと思うもの」
「僕も同じかな」
現状のクラス対抗戦の対策チームは全員賛成。そして、
「ハルネは、どうだ?」
最後に同じクラス委員のハルネに聞く。
「……うん、私もいいと思う」
小さく頷く。
話はそんな風にまとまって、早速会議の場が設けられた。
今ここにいるメンバーはA組からは俺と贄川、神領、木曽。B組からは悠花と今池。
場所は校舎棟の一階にある多目的ルーム。寮や教室には入れないからと悠花が提案して、小腹が空いたとソーセージを頬張っていた日出先生に頼んでこの部屋を借り受けた。
特に怪しむ様子もなく部屋のキーを解錠日出先生には感謝だ。
「……で、具体的に何を協力するんだ?」
共同戦線を組むこと自体はいいが、一体何をどうしていくのかが全くさっぱり想像できない。正直言って、俺たちA組はB組の助けがなくてもやっていける状態にあるから。
「えーっとね……」
「?」
「正直に言うと、共同戦線って言っておいて何だけど、助けて欲しいのは私たちの方なの」
「……はぁ?」
「颯たちと戦って分かったの。ただ闇雲に強い人を選んでいくだけじゃダメだって。颯たちみたいに、ちゃんと考えて戦わなくちゃって。それも、試合の直前に考えるような付け焼き刃じゃなくて、ちゃんとした戦略と戦術を」
「戦略と戦術、それに作戦ねぇ……」
そういえば二戦目を終えたあとの休憩時間に、何やら集まって作戦会議をしていた。その後のロシア美人チームのややこしい作戦はあの時に思い付いたのだろうか? だが結局、贄川の前に沈んだが。
俺らと戦って、B組、ひいては悠花たちは自分たちの弱点を思い知った。それを反省して、今こんな提案をしているのだろう。
「だがそうは言っても、B組の面々に情報屋だったり、参謀役みたいな奴はいないのか?」
言いながら視線を移した先にいるのは、
「私?」
「あぁ。うちでクーデターなんて余計な策略を仕掛けてくれたのはお前だろ?」
「それはそうだけど……。私は人間関係の機微に詳しいだけで、魔法だとか魔術だとかには全然精通してないってば〜……」
「……それもそうか」
言われてみれば、今池も俺と同じこの世界を知らない側の人間だった。そんな彼女が魔法・魔術のことまで詳しいと思うのは早計だった。
「うちには作戦を立てるって人も、あんまりいないんだよね〜……。どっちかっていうと、『とにかく突撃していって火力でなんとかする!』ってタイプばっかり。アデリナさんみたいなタイプはほとんどいないからね〜……」
「なら、彼女に参謀役を勤めてもらうのは?」
「無理、だと思うな。だって彼女、極度の人見知りだから……」
「は?」
彼女が人見知り? 戦っている時の彼女は、細部まで動きが可憐に調っていて、ペアとの呼吸もピッタリで、そんな風には全く見えなかったが。
「アデリナさんって、普段からほとんど人と話さないんだよね〜。そんな部分がクールビューティーだって男子からは大人気なんだけど、あれって実は極度の人見知りで、頭の中は真っ青になってるみたいで」
「私たちもちゃんと話せるようになったのは最近なんだ。アデリナさんとまともに話せるのは唯一、彼女のペアの香織さんだけ。その香織さんも話ができるようになるまでものすごく苦労したって言ってた。それに引っ込み思案なところもあるから、多分断られるのがオチだと思う……」
「「「…………」」」
二人の言に、贄川たちは何も言えない。
「そりゃまた、厄介な……」
呆れているのは俺も一緒。人見知りだとか引っ込み思案とか人の性格を責めるつもりはないが、ちょっとは勇気を出して協力してくれてもいいのではないだろうか。
「いや、厄介さで言ったら颯の方が酷いね」
「は?」
「そうだね。洗馬くんなんて最初『俺に関わるな』なんて宣言を出したし、実際に洗馬くんから僕らに関わろうとはしてこなかったし」
「おい」
「間違いなく、アデリナさんより厄介だって言えるわね。今もあなたから積極的に関わろうとはしないし、正直何考えてるのか分からないしね」
「…………」
色々とやっかまれているだろうとは思っていたけれども、やっぱり直に言われると来るものがある。
「……それ以上、颯の悪口を言うのはやめようね?」
「「「「っ!?」」」」
凍てついた声は、悠花の口から発せられたもの。全員で悠花の方を向くが、そこにいた悠花は笑顔でありながら全く笑っていない。
「落ち着いて、悠花」
「はっ!? え、えーっと、その……」
「……とりあえず、話を進めようか」
これ以上脱線してたら、いつまでも話し合いが終わらない。
「まぁ別にその辺の協力をするのは構わないのだが……。流石に作戦に関しては助言程度しかやらないぞ?」
いくらなんでもB組の作戦を一から十までこっちが考えるのはまずい。あくまでB組の面々で考えるべきことなのだから戦略思考とかの助言はできても、作戦そのものを考えるのは悠花たち自身でなければならない。
「それは分かってる。私たちも頑張ってアデリナさんを説得してみるし、他のみんなと協力してみるよ」
「ただ……」
情報収集とかをこっちで受け持つとしたら、こっちの負担が一方的に増えるだけになってしまう。
それに対してこっちはその見返りに何を受け取るべきなのか。今現在俺らがB組から貰い受けるようなものが何もない。A組はB組の支援がなくても何一つ困ることがないのだから尚更だ。
「だったら颯、こんなのはどうだい?」
そう言って贄川が差し出してきたのは、彼の端末。そこに表示されていたものを見て、すぐさま俺も端末を取り出す。
「決めた。俺たちが欲しいのはこれだ」
「えーっと、何々……?」
今度は悠花に俺の端末を渡して、中身を確認してもらう。
「……うん、そうだね。私は別に構わないけど、他のみんなにも確認をとってからならいいよ」
「よろしく頼む」
ひとまず交渉は成立と見ていいだろう。
そんな感じで、対策会議の第一回は幕引きとなった。
「そういえば」
解散の最中、悠花が話しかけてくる。
「颯のパートナーのハルネさん。一体どうしたの?」
「さぁ」
そう、ハルネはこの会議に参加していない。悠花が絡むことにはなにかと対抗しようとするから、てっきりこの木々にもくると思っていたのだが、実際は違かった。
「ゴメンね颯。私今日はオティリエさんのところに行くね」
そう告げてきたのは、悠花が日出先生のいる職員室に行くことを提案してきたタイミングだった。
「分かった」
ハルネは作戦を組み上げる段階では特に役立つことはないし、その意味ではこの会議に参加するかしないかは彼女の自由。だからロリ老女の元へ行くことを気にもしなかったし止めもしなかった。
「変、とまでは思わなかったけど、少し様子がおかしくなかった?」
「……」
「どうかしたの?」
「いや……」
悠花がハルネの心配をするとは思ってもみなかった。昨日の戦いの後、何か通じ合っている様子が二人にはある。今朝悠花がやってきて二人が顔を合わせても、一ヶ月前のように睨み合うということはなくなっていた。
「まぁ、大丈夫だって思う。あれで案外、メンタル強いお嬢様だし」
「そう、なんだ……?」
俺も後でロリ老女のところには行くつもりだし、その時に確認すれば問題ないだろう。




