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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第二節:クラスメイトとパートナー。
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颯の両親とその秘密。

ついていった先は、職員室に併設されていた小さな部屋だった。職員室の中を通ってたどり着くその部屋に俺と日出先生の二人だけ、置かれたテーブルを真ん中に、向かい合ってソファに座る。


「藪原先生はよろしいんですか?」


「言っただろう、プライベートな話になると。真由美には外してもらった。それと、真由美を苗字で呼ばない方がいい。真由美は苗字で呼ばれるのが嫌いだからな」


「はぁ……」


別に名前を呼ぶことがあるとは思えないが、一応心のうちに留めておく。


「さて、ようやく本題だ」


一体何の話をされるのか、にわかに緊張が走る。だが俺の緊張に反して目の前にいる日出先生は、その目と肩の力をフッと緩めて笑う。


「久しぶりだな颯。私のことを憶えているか?」


「……は?」   


半音ほど声が高くなって聞き返してしまう。皆目見当のつかない話を振られたのだから、それも仕方ない。今日が初対面のはずなのに、憶えているかなんて言われたら、誰だってそういう態度になってしまうだろう。


さらには、名前で呼ばれたことについても動揺を隠せない。この二つが一挙に襲いかかって、その後どう反応していいのか分からずにいた。


「憶えてないという顔だな。まぁ仕方ないか。最後に会ったのは君の両親の葬式の時だからな。しかも君は傷心状態だったから、憶えていないのも無理はない」


「親の、葬式……」


思い出そうとするが、その時の映像は少しも頭に浮かんでこなかった。そもそも、両親の葬式の事はあまり憶えていない。黒い服の人がやけに多かったのと、両親の写真が飾られた何かがあったくらいの記憶だ。それは今先生が言った通り、俺自身の傷心状態が原因だろう。


「私は君のご両親、(なぎさ)可奈(かな)とは親友だったんだ」


「両親の親友、ですか……」


両親が一体どんな人生を送っていたのか、正直それすらもよく知ってはいなかった。それは二人は同じ学校で出会って、想い合ったなんて話くらいしか聞かされていなかったからだ。


「だから、私はこの数年ずっと奔走していたことがある。それは、君の親権についてだ」


「親権、ですか?」


親戚郎党は放棄したとか聞いたが、その後どうなったか両親の知り合いの弁護士とに任せっきりにしていて、今どこでどうなっているなどは気にも留めていなかった。両親を失ってから親権がどうだとか言われるような事態に陥った事もなく、またそれを持ち出さなければならない時には一応施設の人間を頼りにしていたから、半ば必要のないものとしか考えていなかった。


しかしなぜその話をこの人がしてくるのか、その疑問をそのまま目の前の先生にぶつける。


「ようやく話がまとまってな。君の親権をようやく私が手に入れることができたんだ」


「……はい?」


「まぁ混乱するのは分かる。ひとまず君の親権は私が持っていることになっている。そのことを伝えたかったんだ」


「……」


いつの間にそんな話になっていたのだろうか。あの施設にいた時は、そんな事を匂わされた記憶はない。


「君も知っているであろう、君の両親の知り合いの弁護士も私たちの同期でな。ずっと話し合っていたんだ。あと、君がお世話になっていた施設の園長も親権の話を知っている。同時に、君には難しいだろうから、話さずに置いておこうとな」


自分の知らない場所で、認知されずに行われていた。そんなことが進んでいたとは思わなかったし、それなら知らなくても無理はない。


「……そうだったんですか。ご迷惑をおかけしたようで」


「構わないさ。なぜなら私は、君に対して責任を取らなければならないのだから」


「責任、とは?」


ほぼ初対面の日出先生に、そんなものがあるとは思えなかった。


「私は君に謝らなければならないんだ。なぜなら、私は二人の命を奪う原因を作ってしまった張本人なんだ」


「命を奪う……? ちょっと待て! 両親は交通事故で死んだんじゃ……? 何言ってるんだよあんたは……?」


勢いよく立ち上がって、テーブルを手で叩く。受けた衝撃は、さっきパートナーについて聞かされた時以上。今まで自身の両親の死因は事故死と聞かされ、それを信じて疑わずに過ごしてきた。それなのに、こんな場所で唐突にその説をひっくり返されるだなんて、夢にも思わなかった。


「落ち着け颯。事実世間一般にはそう言っていて、だからお前の考えは間違っていない。だが、それも仕方ないことなんだ。なぜなら二人は、魔術に関する仕事の最中に亡くなったんだから」


「なっ……!?」


次から次へと新事実が飛んでくる。自分の親権、両親の親友、両親の死因。すでにそれを受け止めるだけの心持ちは存在していなかった。


「魔法・魔術に関することは一般人には話せないからな。まだ一般人だったお前にも当然話すことはできなかったんだ」


「いやだからって……はぁ? 両親が、こんな訳の分からない世界にいた??」


「あぁそうだ。私たちの中でも飛び抜けて優秀な二人だったよ。だが私が二人にとある魔術師の行方捜索を頼んだ時に、二人とも命を落とした……」


「……」


「しかも残念ながら、犯人は未だにわかっていない」


「……そうですか」


「まさか同期最強と謳われた二人が一挙に亡くなるとは誰も思っていなかったんだ。当時は魔法・魔術界を騒がせたんだ。」


「両親が……?」


「あぁ。渚と可奈は、我々の同期では最強の魔術師たちだった。入学した時から、三年生すら打ち倒してしまうほどに、魔法・魔術の使い方も上手かった。」


「…………」


まさか自身の両親がそんな存在だとは思ってもみなかった。いや、こんな想像誰もできやしないだろう。


そんな中で、一つ思い出すことがあった。


「……そういえば、両親の墓にたまに何者かわからない仏花がありましたけど、それはもしかして先生が?」


「あぁ、多分そうだろう。毎年ちゃんと墓参りに行っているからな」


答えは予想通り。


「だから私はお前に対して責任があるんだ。だから私は渚と可奈に報いるためにも、お前の面倒を見ていくつもりだ。だからよろしく頼む」


そう言って、日出先生は手を差し出す。だが、それを取る気にはなれない。


「……ははっ」


「何故笑う?」


「……いえ。正直このことについて、あなたが責任を感じる必要は無いと思います。両親の命は両親のものだ、だからそれを失うのもまた両親の責任であって、あなたの責任では無い」


あくまでこの人のやったことは、一つの要因でしかない。もし両親を殺めたものがあるなら、その人物にこそ責任があるべきだ。それと同時に、自身の身を守ることができなかった両親にもその人物と同じだけの責任がある。


「それに親は最強だとかなんだとか言われてても、俺はそんなものになるつもりはないので」


彼は両親から魔法だとか魔術だとかいう存在は知らされていない。知らされていなかった。実際に見たこともなければ、両親が裏でそんな秘め事をしていたということも未だに信じられない。だからこそそれらを知っていた親と同じようになれるはずも、なるつもりもない。第一、両親を死に追いやった力を、世界をどうして信じられようか。だから、遺産の他にハーシェル学園(こんなところ)に来る力を残したと考えると、何故か笑えてしまった。


「それにパートナーらしいあのお嬢様とも、迷惑をかけない程度でしか関わるつもりはありません」


何よりも、“他人と関わるつもりなんてない”という強い信条が存在する。だから今まで通り、本当に必要最小限で関わるようにするつもりであった。こんな世界、そこに生きる住民とどうして仲良くする必要があるのか。今の俺には、この世界を信じるに値するものは何一つ存在しない。


先生はその言葉を聞いて、手を引っ込めてため息を一つ。


「……まぁお前がそんな反応をするのも仕方がないとは分かってる。私はお前に関する全てを知っている、もちろんお前の噂のこともな」


「……なら、お分かりじゃないんですか?」


「あぁ。お前が人と関わるまいと、人を避けていることは知っている。だが、お前をそんな状態のまま放っておくことは私にはできない。渚も可奈もそんなこと望んでいないのだから」


「……どうでしょうね」


「それに颯、お前はそれでいいのか?」


「……構いません。必要なことですから」


心からの本心で応える。今の状況が自分自身にも、他の者にも必要なことだと信じている。


「……そうか。それならいいさ。無理にお前の考えを変えようとは思わないさ。今日はこれで話は終わりだ」


「分かりました。それでは失礼します」


一礼し、立ち上がって出口に足を向ける。


「教職員はもちろん、魔法・魔術を知っている者はみんなお前のことを知っている。だからそれだけ、みんなはお前に期待をしていることを覚えておいてくれ」


「……」


その言葉には頷くだけに留め、個室を退出する。


「あっ、日出先生。エルさんがお話があると来ていますよ」


一緒に出てきた日出先生に、藪原先生が声をかける。その隣には件の女騎士がいる。


「わかった、それじゃあこっちの部屋に来てくれ。洗馬はクラスの集会に合流でもしなさい」


「……失礼します」


改めて頭を下げて、出口へと向かう。その道半ばでお付きの騎士とすれ違う。彼女は相変わらず俺のことを睨みつけて一言。


「……私は貴様のことを、決して認めない」


「……」


無視を決め込んで退出する。別に彼女に認められる必要も、認めてもらう理由もない。


あの騎士の話も何となく予想がついていた。まず間違いなくパートナーに関する話。むしろ俺にとっては非常にありがたいことだ。


彼女の隣にいた女子は、大人しめの人物と見受けられた。あのお嬢様と比べて向こうから関わることなんてしてこないだろう。だからこそ騎士さんの交渉力に密かに期待しながら職員室を後にするのだった。

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