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集合、全クラス。険悪感を孕んで

現れたのはD組の長、ハルネの天敵。


「廊下がやけに騒がしかったから、通りかかってみたのさ。ハルネ、久しぶりだね」


「っっ」


声をかけられたハルネが俺の背中に隠れる。


「ハルネさん……?」


ハルネの様子に首を傾げる悠花。彼女はまだ二人の関係を知らないのだから、当然の反応。


「やれやれ、随分と嫌われたものだね。……いくら僕のことを嫌っても、君が僕の元に来る運命が変わることなんてないのに」


「一体何の用だ、金髪オールバック」


「人と人との会話に割り込むなんて、相変わらず無礼な下民だ。……それに、僕をそんな名前で呼ぶのはやめろ、落ちこぼれ風情が」


声のトーンが数段低くなる。これこそがこいつの本性。


「……この人誰?」


俺の後ろに隠れたハルネに悠花が訪ねていた。


「……あの人は、ガロスヴォルド・フォン・ヴァルモーデンさん」


「前に学内全員に送られた匿名メール、その差出人だ」


ハルネの説明に俺が付け加える。


「じゃあ、あなたが颯のことを……。あなた、一体何のつもりで颯を!」


「つもり? アレはこの学園に通う全員が知っておくべきことだから、そうしただけさ。この下賤の者による被害者をこれ以上出さないための、僕なりのこの学園の生徒に対する優しさだよ。それをそんな風に邪険にされるのは心外だね」


「なんですって……?」


悠花の睨めつけを嫌な笑い方で流すガロスヴォルド。


「で、一体何しに来た」


「上の者に対してその態度、万死に値するが、今は許してやろう」


「…………」


「別に君らに用なんてないさ。ただ、僕らのクラスの名前が上がって、人だかりができていたから見に来てみただけさ」


心底つまらなそうに吐き捨てる。


「まぁでも、君たちが面白いことをしているということは理解したよ。相変わらず君たちが愚かな下民だということもね」


「なんだと……?」


「君はさっき、C組は僕らと戦って負けることを恐れ、逃げ出したと言っていたね。しかしそれは全くの逆、大きな間違いだ。むしろ彼女たちは正しい選択をしたと言うべきだ」


「正しい?」


「そうさ。彼女たちは自分の身の程を弁えた上で、僕らと争うことなくむしろ僕らに従うという選択をした。絶対の強者に従うのは自明の理、君たちのように無謀にも挑んでくるよりも、何倍も利口だと言える。君たちも彼女らを見習って、素直に僕らに従ったらどうだ?」


「そんな要求に、素直に従うとでも?」


「お前になど聞いていない」


そうして奴が手を差し伸べたのは、


「どうだい、B組代表の平沢悠花。君も無益な争いをしないで、僕らに付くというのは。君のことは知っているよ、古くより受け継がれてきた魔術“火之迦具土”を持つ、今の日本の魔術師の中でも実力者足りえる存在だ。これから僕らが築いていく世界には、君のような実力者が必要なんだ」


「…………」


少しの間無言になる悠花。自分周りにいるB組の面々を見回してから、一歩前へ出る。


「悠……」


パンッ!!!


乾いた音が鳴り響く。ガロスヴォルドが差し出した手を、悠花が手の甲で叩いた音が。


「バカにしないで」


「……なんだと?」


「私たちは確かに颯に、A組に負けた。それはすごい悔しい。でも、ちゃんとした真剣勝負で負けたからから恨んではいないし、またいつかリベンジしたい。だから私たちは戦うことをやめない。また胸を張ってA組と、颯と戦うために、逃げるなんてことはしたくない」


その言葉にB組の面々は頷いたり、小さくも力強くガッツポーズを作ったりしている。


「それに、私は颯に追いつきたくてここに来た。颯を守るために、颯の隣にいるために。だから颯のことをバカにして、蔑むあなたの言うことを聞くわけないでしょ!」


ガロスヴォルドに対して舌を出して見せる悠花。


「悠花……」


「颯、私のこと少し疑ったでしょ?」


「いや、そんなことは……」


「私が颯のことを見捨てるなんて、ぜーったいにあり得ないんだからね! 私のこと、もうちょっと信じてくれてもいいのに……」


「……はぁ、分かったって悪かった」


「ん」


ほんの少しでも悠花を疑ったのは間違いだった。悠花はこれまでも一緒にいてくれた、だからこそ信じられる。


「……下等な下民風情が、調子に乗るなよ」


一方、手を叩かれたガロスヴォルドの頭には血が上っている。


「そんなに潰して欲しいのなら、徹底的に潰させてもらおうか。自分自身の選択を、後悔するなよ」


それだけを言い残して、踵を返して去っていく。


「……言っておくが、私たちは別に彼の味方というわけではない」


ガロスヴォルドが見えなくなってから、最初に口を開いたのは島内。


「むしろ私たちも、彼のあの態度は好きじゃないしね〜」


駿河も頷く。


「私たちは別に彼に言われて自ら撤退したわけではありません。私たち自身で決定をしました。ですから、そこだけは勘違いしないでください」


眼鏡を上げながら答える日市。


「では、私たちも行こう」


「そうだね。A組とB組のみんな、楽しみにしてるよ」


「あなた方がどういう風に私たちに挑んでくるのか、楽しみです」


そう言ってC組の連中も去っていく。


「神領さんに、武並くんも?」


「……あぁ」


「あなたたちもそうだったのね、それに贄川くんも?」


「そういうことに、なるのかな?」


四人が顔を合わせて通じ合っている。


「さっきの人たちは、お友達?」


その輪にハルネが聞いていく。


「私の場合は家の付き合いがあって、昔からの仲ってだけね」


「俺も同じだな。だがどちらかと言えば、ライバル関係にあると言っていい」


「私は神領さんと同じかな。家が近くで、それで知っているって感じ」


三者三様だが、どちらにせよ俺と悠花のように昔馴染みということらしい。


「……私、実は一度も凛に勝てた事ないの」


「は?」


「……俺もだ」


「……私も」


頭を下げる三人。


「勝てたことがないっていうのは?」


「家ぐるみでの付き合いがあるって言ったけど、その付き合いでたまに模擬戦闘みたいなことをすることがあるの。その時に何度か戦ったことがあるのだけど……」


「俺も同じだ。模擬戦でまだ一度たりとも……」


「……同じく」


「マジか……」


三人には、C組の言葉が俺たち以上に突き刺さっていた。彼らは自分の経験から、C組の言うことが間違いでないと分かっている。それが何度もあるとなれば、それをひっくり返すことなど簡単にはいかないと考えてしまうのは自然のことだろう。


「意外と情けないね」


かける言葉が見つからず頭を悩ませていると、悠花が首を傾げながらそう呟く。


「それがどうしたの? 負けたって言っても、それは1人対1人での話だよね? でも今回は一緒に戦ってくれるパートナーがいる。だったら結果がどうなるかなんて分からないでしょ?」


「「「…………」」」


目を見開く三人。


「そうだね、平沢さんの言う通りだよ」


「当てにしていいよって言えるほどの自身はないんだけど……」


「それでも、ちゃんと力になれるように頑張るから!」


釜戸、高蔵、勝川の三人、彼らのパートナーが出てくる。曇っていた三人の表情が、元の明るさと決意を取り戻す。当たり前のことながら、忘れていたことを思い出したのだろう。


「で、どうするつもりなの?」


悠花の後ろから今池が出てくる。空気を読んで今まで話に入ってこなかった彼女だが、そろそろ本題に入りたいといった呆れ顔。


「……どうするも何も、ないと思うが」


宣戦布告を受けたとしても、こちらはいつも通りに戦うのみ。というか、それ以外に考えることなんて何もない。


「そのことで、颯に提案があるんだけど」


「提案?」


「うん。私たちと、手を組んでくれないかな……?」

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