表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/129

挑発と因縁と

『初めまして、A組B組の皆さん』


動画を開始すると、すぐに二人の女子が画面に映る。


『私たちはC組のクラス委員、島内凛(しまうちりん)と』


駿河梓(するがあずさ)、よろしくね〜』


この二人には見覚えがある。一ヶ月前のクラス委員の顔合わせと、このクラス別対抗戦の話を着た時にいた面々。


(こいつらがあの訳の分からない行動に出た原因か?)


そんなことを思っている間も動画は進む。


『今頃君たちは、私たちの行動に混乱してることだと思う』


『どうしてD組にわざと負けたのかってね』 


息ピッタリに二人で喋るC組のクラス委員たち。その態度にほんの少しイラつくのは、彼女らなりの挑発なのだろう。


『答えは簡単、私たちは勝てない戦いをしなかっただけ』


『別に私たちのクラスは優勝を目指してないからね〜』


彼女らは俺たちが一番疑問に思っていることを、思いの外すんなり解答した。


「優勝を、目指してない……?」


「勝てない戦いはしない、だって……?」


贄川の言っていた推理そのままだ。


『でも、優勝は目指していなくても、戦いを放棄するつもりはない』


『そうそう。どのクラスにも負けてあげるだなんて御人好しなことをするつもりはないんだよね』


『だから私たちC組は』


『A組・B組に対して』


『『戦線を布告する(よ)』』


ビデオはそこで終了した。


「「「「「…………」」」」」


誰一人、言葉を発することができるものはいなかった。


(挑発……は、目的の一つだろう。だが何のために? 俺たちの試合結果を見てB組はともかく、俺たちに勝つ自信があるのか? いや、それだけの何かがあると見たほうがいいのか? だが、なんでわざわざ宣戦布告してくる? 一体奴らは何を考えている?)


思考を巡らせど、彼女たちの考えは少しも見えてこない。


この動画をわざわざ送ってくる必要性など皆無だ。なのに、敢えてあんな行動に出た意図が理解できない。


ドンドンッ!


無言の空間に、ノックと言うには強い音が鳴り響く。そして間髪入れずにドアが開け放たれる。


「颯!」


「悠花?」


尋ね人は悠花。その後ろにはB組の面々が何人もいる。


「どうしたんだ?」


「颯も見たでしょ! C組の動画!」


「……今さっき」


用件は予想通り。B組も同じように宣戦布告の対象になっていたのだから、同じ疑問を持つのは当たり前のこと。


「颯はあの動画、どう思ってるのか聞きたくて」


「……正直、分からないというのが素直な回答だ」


考えは巡らしたが、やはりこれといった答えは見つからない。


「そっか……颯でも分からないんだね……」


露骨にガッカリする悠花。そう言われるとちょっと頭にくるものがある。


「颯を頼りに来ておいて、それは酷いんじゃないかしら?」


そんな悠花に絡むハルネ。


「……分かってるわよ」


今回は自分に非があるのが分かっている悠花が引き下がる。


「みなさん集まって、どうしたのかな〜?」


B組の面々の奥から声がする。次々と振り返る彼らの間を通って、集団が現れる。


「やっほ〜、A組とB組のクラス委員さんたち〜」


「島内と駿河……?」


C組のクラス委員以下数名、おそらくはC組の面々であろう集団がやってきた。


「……何の用?」


「まぁまぁ睨まないで平沢さん。ちょーっと人混みを見つけたから興味を持っただけだよ〜」


「…………」


悠花の睨めつける目を軽く遇らう駿河。


「それで、わざわざ挑発しに来たのか?」 


「やだなぁ洗馬くんまで〜」


俺も悠花と考えは一致している。あんな動画を送ってきたタイミングで接触を図ってくるなんて、挑発以外の何物でもないだろう。


「その辺でいいだろう、梓」


そこまで黙っていた島内がようやく口を開く。


「早いよ凛ちゃん〜……。もう少し楽しく会話したかったのに〜……」


「こうまで疑われている時点で、彼らからしたらこの会話に何一つ楽しさはないだろう?」


「まぁ、そうだけどさ〜……」


渋々ながら引き下がる駿河。


「私たちがここに来たのは、君たちの予想通り挑発だ。それと、あの動画を見て君たちがどう考えているのかが気になったんだ」


「……親切丁寧に、ご説明どうも」


駿河と違い、直球に自分たちの狙いを伝えてくる島内。臆面も無くそんなことを言ってくるとは、よほど自信でもあるのか、神経が図太いのか。


「俺たちも丁度、あんたたちにあんな動画を送りつけてきた理由を聞きたかったところだよ」


「理由?」


「惚けなくてもいい、送る必要もないあんな動画をわざわざ作って送ってきて、なんのつもりだ?」 


「つもり……。別に私たちは事実を伝えるために動画を作り、君たちに送っただけだ」


「事実?」


「お前たちと戦いお前たちを倒す。そのことを伝えるために」


なんら表情の変化もなく、ただただそれが当たり前のことのように告げる。自分の発言に対する絶対の自信、そしてそれを何一つ疑うことがない。


「……相変わらず随分な自信ね、凛」


背後から声がやってくる。その主は、


「久しぶりだ、香苗」


「……えぇ」


「……?」


周囲を置いてきぼりにして、二人だけで目で何か通じ合っている。ただそれはどちらかと言えば因縁の相手という様子。


「私が言ったことが間違いだったということは今までなかった。それは香苗、あなたが一番知っているはず。一度も私に勝てた試しがないあなたが」


「っっ!」


唇を噛み締める神領。その悔し顔が、島内の言の真偽を物語っている。


「神領との関わりは知らないが、何もしないうちから勝利宣言するのはいかがなものだと思うが? 実際に戦ってみなきゃ、結果なんて分かるわけないだろう?」


「分かりますよ」


今度は島内と駿河の後ろから人物が出てくる。ただ、その容姿が完全に、


「……チビッ子?」


「チビッ子ではありません!」


腰に手を当てて、背伸びをする女子。だがどう頑張っても、その容姿は小学生にしか見えない。あのロリ老女といい勝負してる。


「私は日市小春(ひのいちこはる)です!」


胸を張って自己紹介する。だがその姿もやはり子供にしか思えない。


「D組との試合についても、今回の動画についても、全て彼女の提案だ」


彼女について島内が補足する。つまり、このチビッ子がC組のブレーンであり、全ての元凶ということか。


「あなた方は、クラスのメンバー配置について何も知らないんですか?」


「クラスのメンバー配置?」


「どういう風に振り分けられたか、ということです。毎年D組は特に力に秀でた人たちが、C組はそれには劣るけれど優秀な人材が。B組はそれに溢れた人たちが配置されてるんです」


「じゃあ俺たちA組は?」


「性格、魔術、その他諸々に関して難ありの問題児たち、要するに落ちこぼれの集まりってことですよ」


「……なんだって?」


「そ、そんなことはないわ!」


「そうですか、ハルネさん。よく考えてみてくださいよ?」


今まで静観していたハルネが、ここに来て口を開いた。だがハルネの参戦を軽く遇らって、日市は言葉を続ける。


「クラスの誰も彼も赤点になりかけたり、委員長の彼の行動を信じずに暴動を起こしたり、そんなことやってるのはA組だけですよ? 歴代稀に見る問題を起こしてる時点で私の言うことが正しいって証明されていませんか?」


その言葉にクラスの中から歯を噛み締める音が聞こえてくる。それはクラス内動乱を起こした彼らが一番分かっているはず。


「そして何よりも、そのクラスを統べるべきクラス委員は二人揃って魔術が使えない、あなたたちこそが一番の問題児ではないですか。そんなあなたたちに負けるA組の人たちも、実力不足だと言わざるを得ないですがね。どうですかハルネさん、これでもまだ反論できますか」


「そ、それは……」


日市の情報量に圧倒され、何も言えなくなるハルネ。


……このチビッ子、なんで俺たちのクラスの事情をここまで握ってる?


「……相変わらず、よくもまぁそんな憶測を事実のようにペラペラ言えるね」


「贄川?」


今度は贄川が前に出てくる。


「知り合いか?」


「まぁね。彼女のご両親は僕の両親と同系統の家だから」


「同系統?」


確か贄川の両親は、魔法・魔術統治省の情報局だったか? それと同系統ということは、つまり彼女も何かしら情報に通じることができる人間だということか。


「流石はマスコミ、相変わらず情報改竄と印象操作はお得意だね」


「情報隠蔽が得意なあなたたち情報局には言われたくないですね」


両者が睨み合う。彼らも神領たちと同じで、


「……因縁浅からぬ仲ってことか」


「えぇ、図らずも」


「それは僕のセリフなんだけれど」


睨み合いを続ける。完全に水と油の関係だ。


「まぁ、因縁があるのは私たちだけではないですけれどね。そうでしょう、中萱(なかがや)くんに(みなみ)さん」


「だな」


「そうですね」


次から次へと出てくる。俺からすればもう勘弁して欲しいのだが。


「中萱、和真(かずま)……」


「久しぶりだな、武並」


真菜(まな)、も……?」


「久しぶりですね、莉子さん」


武並と春日が教室から顔を出す。神領と同じように、動揺に似た何かが二人にある。……C組と因縁がある人が、どうにも多いらしい。


「……お前らの仲については知らない。だが日市、少なくともあんたの考えは間違っているな。悠花たちの前でいうのは何だが、実際俺たちはB組に完勝した。その時点でお前たちの論は崩壊していると思うが、違うか?」


「確かに驚きましたね。まさかあなたみたいな人嫌いがクラスをまとめていたことも、あなたの策略が全て上手くハマっていたことも。B組が想像以上に脳筋だったことも一要因でしょうけどね」


「そ、そんなわけっ!」


「事実ではないですか、平沢さん。洗馬くんの術中に嵌って一勝もできなかった、誰でも思いつくような手に踊らされて、考える脳が足りてないように思いますけど。最も、あなたが洗馬くんへの個人的な想いから手を抜いたという説もありますが」


「そ、そんなことしてない! 私はちゃんと全力だった!」


悠花は慌てて反論するものの、上手く言い返せていない。ハルネも悠花も舌戦は苦手だから、日市に一方的に殴られてるのみ。


「まぁとにかく、あなたたちに勘違いして欲しくないからあの動画を作ったんです。私たちはあなたたちとちゃんと戦って勝利すると。これは傲りはありません。私たちは勝利を確信しています」


「やってもいないうちに確信なんて、随分と自信過剰だな。少なくともお前らは、D組との戦いから逃げてきたんだろう? そんな臆病風に吹かれた連中に負けるつもりも、負ける気もしないな」


最初から負けると思って戦いを放棄するような連中にごちゃごちゃと言われるのは我慢ならなかった。


「僕らがどうしたって?」


「!?!?」


そんな時、C組のさらに後ろから声が聞こえてきた。そしてC組の面々を掻き分けて、俺たちの前にやってきたのは。



「ガロスヴォルド・フォン・ヴァルモーデン……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ