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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第五節:クラス対抗戦 vsB組
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vs悠花「火之迦具土」

日本神話に登場する火の神。生まれ落ちた時、自身の母である伊邪那美イザナミに火傷を負わせ、それが元で伊邪那美は死んでしまう。それを嘆いた夫伊弉諾イザナギは、十拳剣とつかのつるぎで首を落としてしまう。そんな悲しい歴史を持つのが火之迦具土。


それをモチーフにしたキャラクターは色々なゲームだとか漫画に存在する。だがこの世界にも、そんなものがあるとは思ってもみなかった。


その姿はまるで大蛇。だが火の神らしく全身が燃え盛る炎で出来上がっている。だが何よりも問題は、


「……デカすぎるだろ、マジで」


身体の太さだけでも、髑髏を巻く大蛇の身体の中にいる悠花の倍近く、3mくらいある。


「しかも火属性……」


属性相性。俺が得意としている光属性は、今悠花が使っている火属性に対して弱い。だが、自身の持つ魔力量だとか、使用する魔法・魔術の質によってある程度の補完は可能ではある。事実多治見の拳銃から放たれる弾丸だったり、瑞浪の防御とはちゃんと渡り合えている。


だが悠花が繰り出した大魔術には歯が立ちそうにもない。悠花にあんな魔術があるなんて聞いてない。どうにか勝てそうという状況が一変して、勝てるかどうか怪しいという状況になった。


「どうする、颯……?」


「どうするって言われても……」


何にしても、今はあの魔術の情報が無さすぎて、対策を打ち立てようにもない。


「とりあえず様子見からだな……」


何も分からない状態の時は、まず適度に立ち回って様子を見る。情報不足、かもしれないで行動するのは禁物。それはあのロリ老女に教わった、戦いにおける立ち回りの一つ。だからその言に従って、まずはあの魔術を見極める必要がある。


「火之迦具土!」


先に動いたのは悠花のほう。悠花の声を聞いて、蛇の頭が一直線に飛んでくる。


「速いっ!?」


瞬発風力で全力で横に跳ぶ。


「Raining、Concentrate Shooting!!」


矢を一極集中にして撃ち込む。だが全ての矢が火に呑まれて効果を発揮しない。


「チッ」


最も得意な空属性の攻撃は、撃つだけ無駄になりそうだ。蛇頭はそのままMRBフィールドの障壁にぶつかる。その衝撃によって障壁が大きく揺れる。


「物理的な威力もあるのか。本当にやばいな……」


あれを喰らったら一発でアウトだろう。


「颯、右!」


「っ!」


ハルネの声で右を向けば、次は尾のほうが飛んできていた。再び瞬発風力による横跳びで回避。尾はさっきいたところを通過してから動きを止める。


「だったら……」


そのまま動きを止めずに新たな魔法のイメージを固めていく。


「そう好きにやらせないよ!」


悠花の宣言のあと、最初に攻撃してきた蛇の頭がこちらに振り返って再び突撃態勢に入る。


「それは私だって同じだわ! Inviolable Field!!」


ハルネが全開の防御球で蛇頭を止めにかかる。


「サンキュー……」


おかげで重統魔法のイメージは完成した。


「Water Ball+Water Ball、Superimpose! Poppin’ Bubble!」


浮かび上がる二つの魔方陣。中心の図式は三角(トライアングル)。それが重なり合って六芒星(ヘキサグラム)を思い起こさせる図形となる。


外側になるにつれて回転が速くなる魔方陣からは、水の球が溢れ出てくる。それが一直線に飛び、蛇の側面を攻撃する。


シャギャオオオオオオオオォォォォォォ!!!!


雄叫びのような声を上げる蛇。やはり水の攻撃は効果がある。


「その訳わかんない魔法、水属性もあるの!?」


悠花は目を見開いている。


「新しい重統魔法……?」

「空属性だけじゃないのかよ……」

「マジでか……」


A組からもそんな声が上がってくる。



水属性基礎魔法Water Ballを利用した重統魔法Poppin’ Bubble。水球を大量に生み出して、それが一斉に攻撃していく。やっていることはほぼRain Arrow(矢の雨)と同じで、属性と飛翔速度が遅い点が違い。


「お主の光属性の魔法は、火属性に滅法弱いことは知っておるじゃろう? 今はお主の膨大な魔力量と質で対抗できておるようじゃが、それもすぐに効かなくなるじゃろうし規模の大きい魔術には現時点でも歯が立たん。じゃからお主が今早急にやるべきことは、水属性の重統魔法を完成させることじゃ」


と、ロリ老女から言われて創り上げた魔法。


ただ、俺は水属性が一番相性が悪いらしく、やろうとしては失敗を繰り返しまくって、怪我も負って、そんな多大な苦労を経てようやく完成したのがこの魔法だった。


「それにしても、颯にしては可愛い名前だね」


「う、うるさい言うな」


自分でも自覚してるし、そもそもこの名前は俺がつけたわけじゃない。


本当は全く違う名前で魔法を創り上げていた。


そんな発動も安定しない状態だった時のこと。創り上げたこの魔法、何故か水の球が地面にあたってもポンポンと地面を跳ねるという不思議な効能を持ってしまった。それを見たハルネが、


「名前を変えてみたらどうかしら? んー……、跳ねるからPoppin’ Bubbleとかは?」


と言われて、その通りにやってみたら本当に成功したどころか発動も安定し始めた。


重統魔法も通常の魔法・魔術と同じで発動時の状態をちゃんと言の葉に乗せると安定して発動できる。だから仕方なく、ハルネの命名した名前を採用しているのだ。


……本当は恥ずかしくて仕方ないから今すぐに変えたいところではあるのだが。


それはともかく、少しずつこの巨大蛇について見えてきた。


「でも、次からはそうはいかないから!」


悠花が叫ぶと同時に、蛇の口から火球が飛んでくる。


「Poppin’ Bubble!」


さっきと同じ水球でそれに対抗する。


全弾が相殺されて、俺は再び瞬発風力で跳び上がる。狙いは、


「直上ならっ!」


悠花の姿がはっきりと見える。髑髏を巻いているあの蛇、やはり悠花の上側はガラ空きだ。


「Concentrate Shooting!!」


すぐさま矢を撃ち放つ。


「単純すぎ!」


蛇の身体が締まって、悠花の上にある穴を塞ぐ。


「だよな……」


追撃を警戒しつつ、すぐにその場から跳んで離れる。だが、恐れていた追撃はなかった。安全に地面に着地する。


「……?」


あの巨大魔術、もしかして……。


「颯、どう?」


「もう少し、もう少しだけ時間をくれ」


「分かった」


それだけを告げて、力一杯地面を蹴り上げる。今度はさっきよりも速い、瞬発風力による高速機動戦。


(これだけ動き回れば捉えられないだろ……っ)


同時に重統魔法の攻撃を行い続ける。


「颯の考える動きが……私に分からない訳ないでしょ!!」


「グッ!?!?」


急に脚が引っ張られて動けなくなる。見れば蛇の尻尾が俺の脚を掴んでいる。


「颯!」


ハルネの叫び声が聞こえてくる。


「颯の動き、昔と何も変わっていないよ。だからどれだけ速く動こうとしても、私にはその先が見えてる」


俺が彼女を観察していたように、彼女もまた俺のことを見ていた。だから動きを読まれた。……昔馴染みのクセを読まれたというほうが正しいか。悠花だからこそ俺の動きを捉えられたと言っていいだろう。


「ちょっと動きすぎたね、でももうこれで終わり!」


「おわあぁぁぁぁ!?!?」


尾が脚を持ったまま俺を逆さ吊りにして、そこに蛇頭が喰らいつかんと近づいてくる。


(これは……)


終わっ……。


「颯は……やらせない!!」


そんな叫び声が聞こえてきた瞬間、蛇頭が下に吹き飛ぶ。いや……俺は逆さ吊り状態だから、上に飛び上がったの間違いか。


「なに!?」


「おわっ!?」


続いて尻尾が突き上げられる。その衝撃で尾の拘束が解かれ、真っ逆さまに落ちる。


「クッ!」


瞬発風力で跳んで、蛇のいる場所からは逃れる。だが着地体制を取るのはできそうにない。


「颯!」


その落着点になぜかハルネが入ってくる。


「どわっ!?」


ハルネと激突するかと思いきや、何かに弾かれて地面に落ちる。


「いたたた……。一体何が……?」


身体を起こして、今の出来事の全ての原因が目に入る。

二枚のかなり分厚い、アクリル板に似たようなものが宙を飛び交っていた。


「何、これっ!?」


蛇頭がその板に襲いかからんとする。だがそれを左右に避けた二枚の板は、上に回り込んで同時に頭頂部にぶつかりにいく。その衝撃で板にはヒビが入って割れる。


板に衝突され、かつ板が割れたことによって発生した衝撃波の二つは、蛇頭を地面に叩きつけるには十分な火力だった。それによって、俺が何をやっても崩れなかった蛇の頭が崩れる。


そして、割れたことによって失われたと思ったアクリル板のような何かは、何事もなかったかのようにハルネの元へ戻ってくる。


「ハルネ……それ……」


「なんとか、ね」


「Inviolable Shield、Liberty Movement……」


それはハルネの挑戦の成果。

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