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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第五節:クラス対抗戦 vsB組
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vs悠花「開戦」


会場に張られた水を片付けた後、最終試合のアナウンスがされる。


「A組代表洗馬颯&ハルネ・グリフィス。B組代表平沢悠花&今池千種」


呼ばれて前に出て行く。


「……ぐむむむ……」


対戦相手の悠花といえば、顔を真っ赤にしてジト目でこちらを睨んでくる。しかもその目には若干涙が溜まっている。


「……はぁ」


今度は深く息を吐いて、目元を拭ってからまっすぐにこちらを見つめてくる。


「……最初から分かってたことだもん。颯が相手じゃ、厳しい戦いになるだろうって」


溜息まじりに、諦めたようにそんなことを口にする。


「でも、だからこそこの戦いには勝つよ」


「……俺としては、降参してくれると嬉しいんだけどな」


昨日贄川にはああ言ったが、やはり戦いたくないという気持ちを完全に捨て去るのは難しかった。出来ることなら戦いを降りて欲しい。


「……怒るよ、颯?」


「颯、流石にそれは平沢さんに失礼だよ?」 


でもその発言は悠花と、ハルネからも批判を浴びる。


「……そうだな、今の発言は取り消そう」


悠花もちゃんと覚悟を持ってこの場にいるのだ。その覚悟に対して誠実に応える必要がある。


「じゃあ、全力で相手する」


「うん」


戦いの前に、そんな会話と握手を交わして距離を取るべく背中を向ける。


「颯、本当に大丈夫……?」


「大丈夫って、なにが?」


「平沢さんのこと……。本当は戦いたくないのよね……?」


「…………」


本音を言ってしまえばその通りだ。いくらMRBフィールドの中で怪我をしないからと言っても、彼女に矢を撃ち込むのは正直憚られる。


「だが、悠花はわかってる上で戦いを挑んできてるんだ。ならそれにちゃんと向き合って戦うのが筋だろう」


その本音は仕舞い込むことが彼女のためにもなる。だから今だけは、幼馴染の悠花ではなくてクラス対抗戦での敵の悠花だと考えることにする。


そして再び向き合った時に見えた悠花の表情は、今までに見たことがないほどに真剣なものだった。


「……では最終戦、開始!!」


「Flame Strike!」


アノマリーリサイトで開幕から火炎放射を打ち込んでくる悠花。


「Multiple Border、Inviolable Field Restrict Wall!」


それに反応するのはハルネ。クラッシャブル・ストラクチャーの防御壁を前面に展開する。彼女の防御壁の数も増えているが、その全てを使ってようやく悠花の火炎放射を受け切る。


火炎放射と防御壁の干渉により発生した爆煙で視界不良になる。


「ッ!?」


その爆煙の中から唐突に赤い何かが飛んでくる。音が聞こえて咄嗟に左右に跳んだおかげで避けることができた。ちょうどハルネと俺の間にそれは当たり、焼け跡を作る。


爆煙が晴れて再び悠花たちを視界にとらえる。いつの間にかかなり距離を詰めてきている彼女の手には、赤い鞭のようなものが握られている。


「さっきの攻撃はアレか……」


射程は伸斬撃と同じくらいはあるかもしれない。


「まだまだっ!」


続けて二撃目を、ハルネに向けて打ち込む。


「Inviolable Field Restrict Wall!」


再び防御を展開して、鞭を受ける。だがいつまでも受けられないと判断したのか、瞬発風力で逃げ出す。


「逃がさない!」


ハルネを追って悠花も走り出す。


「離れたか……」


ここまでは想定通り。


「余所見しないで!」


「っ」


飛んでくる炎を避けて、声の主に向き合う。


「……俺の相手はあんたか、今池」


「悠花じゃなくて、悪いね」


「いや、いいさ。俺もお前に用があったからな」


「用?」


「あぁ……。うちのクラスの連中をたぶらかして、クーデターなんて起こしてくれたお礼をしなくちゃいけないからな」


「っ。な、なんのこと?」


「惚けなくてもいい。今池千種、中学の時には影の支配者(シャドウクイーン)なんてあだ名があるくらいには裏から学校を支配してたんだってな。自分では動かず、色々なやつを動かして目障りな相手を陥れて行く。……女って本当、怖いったらありゃしない」


初めてそれを聞いた時にはゾッとした。そんな漫画みたいなことをするやつが本当に現実に存在するとは思ってなかった。


「……なんでそれを?」


「うちのクラスにはこういう噂が大好きな情報通がいてな」


最初から警戒するように言われていた。原野たちに贈られてきた写真も彼女が撮って送ったもの。あの場にいてあの写真が撮れて、かつ原野たちのアドレスがわかるやつなんてそういないから、簡単に推理できた。


そしてその写真が決定打になって、彼らはクーデターに踏み切ったのだ。その行動に対しては厚く報いるに越したことはない。


「……そう、バレてるのならしょうがないね。元々私が何もしなくても、A組はあなたに対してヘイトをため込んでたみたいだったけどね。ちょっとそれを助長してみただけ、別に私が主犯ってわけでもないでしょう?」


「そうだな、確かに俺に落ち度があることもまた事実、お前に全ての責任があるわけじゃないさ。だが……」


手を伸ばして、二つの魔方陣を展開する。


「ハルネにも迷惑かけて、関係ない悠花も巻き込んで。余計なことをしてくれた礼はちゃんとさせてもらう!」


魔方陣は重なり合って一つの新たな魔方陣へと姿を変える。二重の星を中心に描いたオリジナル。


「魔方陣が、融合した!?」

「いや……重なった?」

「なんだアレ……」

「見たことない……」


観客席からは今まで以上のざわめきが聞こえてくる。


「魔方陣が? ……まさか、あなたが!?」


「情報捜査が得意な割には、情報には疎いんだな。Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。Raining、Concentrate Shooting!!」


彼女目掛けて、無数の矢が一直線に飛んでいく。


「クッ、Flame Strike!」


悠花と同じ火炎放射を放つ。悠花よりも威力も射程もないが、矢を防ぐにはなんとか足りるだけの火力そんな風に相殺されることなんてわかってる。だから、


「消えた!?」


爆煙が止む前に動き出す。


「後ろだ!」


「後ろっ!?」


「もう遅い! Spread & Whole-Sky Shooting!」


観客席から俺の位置を伝える叫び声が聞こえた時にはもう魔法は完成済み。背後上空から彼女目掛けて矢が飛んでいく。


「Flame Strike!」


今池はさっきと同じ魔術で対処にかかる。だが火炎が矢に届く直前、矢は全天周囲への分散を開始する。


「なっ!?」


「……二度も同じ方法で防げるわけないだろう?」


360°から襲いかかってくる矢になす術もなく、全ての矢を受けて膝をつく今池。


「こんなの……ズルすぎるでしょ……」


手を強く握りしめながら、そんなことを言う。確かに矢の雨の中でも拡散&全天周囲に関しては初見殺しの性能が極めて高い。


「……俺からすれば、魔術を扱えるお前たちの方がよっぽどずるいがな」


だがそれを一から創り出す労力、この形になるまでの失敗の数々、使う際のイメージと魔法陣展開の時間を考えれば、既に完成されていてそれを覚えてしまえば自由に扱える魔術の方がよっぽど優れている。


「……しかし、呆気なかったな」


まだこの世界に入って二ヶ月の俺が言うのも何だが、動きがかなり鈍かった。魔術の威力も射程もそこまでではなかったし、俺の動きへの反応も悪い。元々前線に立って戦うという性格ではないとは思うが、それでもお粗末に過ぎる。


(じゃあもしかして、彼女が俺と同じ……?)


この世界を知らなかった人なのか?


悠花と同じ魔術を使いながら、その威力は悠花よりも劣っている……。それはつまり悠花の見様見真似、もしくは悠花に教わったばかりだから……?


「ハルネっ!?」


気づいた瞬間、瞬発風力で駆けていた。彼女たちはすでに奥の壁側まで行っていた。


「なっ!?」


そしてそこで見たのは、Inviolable Fieldの全球展開で辛うじて耐えているハルネと、そこにひたすら炎球を打ち込む悠花の姿。


「っ、Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。Raining、Coordinate Specify Shooting!」


ハルネの周囲一帯の座標を指定して、矢の雨を降り注ぐ。


「なにっ!?」


「颯!」


一方からは困惑、一方からは希望の声が聞こえてくる。そのままの勢いでハルネの元へ、悠花との間に降り立つ。


「HP、半分近く持ってかれてるな……」


「ご、ごめんなさい……」


「いや、生き残っただけ上出来だ」


悠花は元からこの世界のことを知っている側の人間。しかも相当な使い手なのは見てわかる。こんな相手に生き残ってただけで十分すぎる。


「ハルネさんの防御、噂通り硬いね。全然攻撃が通ってくれないから困ったよ」


「とか言いながら、HP半分も削ってるっていうのはどういう了見だ、悠花?」


にっこり笑うだけでなにも答えない。……ほんとに怖いな。


「まさか悠花が、この世界を知っている側だとは思ってもみなかった」


「なに言ってるの、颯もでしょ?」


「……?」


こんな訳のわからん世界知ってるわけがないだろう? そう口にしようとして、なぜか口が動かなかった。その間に悠花の方が言葉を重ねる。


「颯こそ、ちょっと千種を倒すのが早すぎない?」


「……単に火力と性能で圧倒させてもらっただけさ。大したことじゃない」


「そっか」


言葉はそこまでで、悠花が構える。だからこちらも会話の最中にイメージを組み上げた魔法を展開する。


「Fire Strike、Connection Firing!」


「Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。Raining、Carpet Shooting!‬」


通常の魔方陣の外に、文字列が綴られたリング状のものが外周に張り付く。そのつながった一つの魔法陣から、炎弾が連続して発射される。


それに対してこちらは矢の雨の絨毯爆撃、悠花と俺との間に降って炎弾を尽く撃ち抜いていく。


「……なんだよ、今の魔術は?」

「……なに、今の魔術?」


技を打ち合った二人が同時に同様の疑問を口にする。


「颯、あれが魔術連結発動(マジックコネクション)よ。前にオティリエさんのところで聞いた……」


小声で耳打ちしてくる。そういえば、マルチアクトの強化版があって、そのうちできるように試そうと言われていたな。


「あれが……」


実際に使われているのは初めて見た。


「……そっか、噂の人って颯だったんだね」


頷きながら悠花が話しかけてくる。


「噂?」


「通常の魔法とも魔術とも違う、誰も見たことない力を扱うって噂だよ」


「そんな噂が……」


さっぱり知らなかった。いや、周りの人などに関心がないから、そういった情報が耳に入れなかっただけだろう。


「じゃあ……もっと全力で戦わないとね」


「全力……?」


よく分からないことを言いながら、悠花は掌を合わせた。

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