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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第五節:クラス対抗戦 vsB組
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開戦、vsB組

今日は火曜日ということで、本来二年生がこの時間に魔法・魔術の授業を行なっている。だが今回は俺たちが今日クラス対抗戦を行うことになる。だからその代わりとして本来授業をやっている水曜日、つまり明日と入れ替えになっているらしい。


以前のクラス内戦の時の様に、一番前側の席にまで行く。その時、


ガゴンッ!!!


機械音と同時に振動が起こる。


「なんだ!?」

「なになに!?」

「なんの音!?」


不安を露わにするクラスメイトたち。


「みんな、あれ!」


そんな中で最初に気づいたのはハルネだった。彼女が指差すのは左側の壁。それが少しずつ下がってきていた。


「え、なに?」

「どういうこと?」

「なんで壁が……?」


唐突の出来事に困惑する。5分ほどかけてゆっくり降りてくるk壁を見つめていると、その壁の向こうに


「悠花?」


「颯?」


悠花を含めた、B組の面々がいた。


「驚いたか? クラス対抗戦は訓練室二つ分の広さで戦ってもらう。そのためにB組との間にある壁を取っ払わせてもらった。ちょうどいいサプライズになっただろう?」


「「「「「……………………」」」」」


全員が沈黙。呆れ返って口を動かせないという類のもの。


降りてきた壁は、床に繋ぎ目が出来ないようにピッタリ収納された。本当この学園は訳の分からないところに金をかけすぎだ。この学園は本当なんでもアリだ……。


「さて、今頃あっちの壁の向こうでも同じような状況だろうし、そろそろ始めようか」


そう言いながら、日出先生が一番下のフィールドまで降りていく。客席から少し離れた場所でこちらを振り返り、話を始める。


「本来なら全クラス集めて、というかそこの壁も取っ払って開会宣言の一つでもやるべきなんだろうが、ぶっちゃけ下げてすぐ戻すのには時間がかかりすぎて面倒だし、電力の無駄。というわけで、この二クラスで取り行おうと思う」


そんな前置きを置いてから、本題に入る。


「さて、今日から三ヶ月間の戦いが始まる。どのクラスも強敵だ。自分たちの持てる力の全てを結集させて戦うんだ。だがこの戦いは、クラス間の交流も目的の一つだ。だからお互いの良かったところは認めて、次の自分たちの戦いの糧にする。そして最後には手を取り合って笑い合える。そんな戦いになることを期待している。それでは今この瞬間に、ハーシェル学園第一学年クラス対抗魔法・魔術戦の開会を宣言する!!」


そんな開会宣言に、拍手喝采が贈られる。会場が拍手に包まれる中で、日出先生はさらに言葉を重ねる。


「それじゃあ両クラスの代表、前に出てこい」


「「「「???」」」」


呼ばれるままに、フィールドに降りる。


「両クラス代表握手。それが開会宣言の最後の項目だ」


宣誓の代わり、両者の健闘を願ってというやつか。それを拒否する理由はないから、お互い向き合って握手を交わす。


「颯」


「?」


「……負けないから」


決意に満ちた目と覚悟の言葉。それがいかに悠花が本気かを物語っていた。


「……それはいいけど、負けても泣くなよ?」


「えっ?」


「ほら、昔一緒にゲームで戦った時、俺が全勝して悠花が大泣きしたことg……」


「わあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」


顔を真っ赤にして慌てて俺の口を塞ぎにかかる。


「颯なんでそれっ……覚えてっ!?」


「はっひほほひはひは(さっき思い出した)」


「忘れて! お願いだから!」


「ひは、ふひはほほほふ……(いや、無理だと思う)」


「え、なにそれなにそれ〜。後で私にも教えて、洗馬くん!」


「絶対教えちゃダメだからね!? もーーー!!!」


悠花の叫び声が響き渡ってこだまする。


「……お前たち、その辺でいいか?」


「「……すみません」」


今度は日出先生の方が呆れる番。


「じゃあ四人とも戻れ」


「「「「……はい」」」」


「では第一回戦の選手、A組代表エル・イングラム&福島夕陽、B組代表塩尻克人(しおじりかつと)&広丘正樹(ひろおかまさき)。両チーム前に出てこい!」


俺たちが歩いて戻る中、両クラス代表が立ち上がって降りてくる。すれ違いざまにハルネが二人に声をかける。


「エル、頑張ってね。福島さんも」


「もちろんです、必ずや勝利を収めて戻ってまいります」


「うん、頑張るよ!」


「ほら、颯も」


「俺も? ……まぁ二人は大丈夫だろう。適当によろしく」


それだけを言って、二人を送り出す。悠花たちも初戦のメンバーといくつか話をしてから席に戻ってきた。


彼ら四人は戦いの前の確認事項を済ませて、ある程度の距離を取る。


「それでは第一回戦、試合開始!」


開始の合図。だが両者とも大きな動きは起こさない。


「Cleddyf Dwr Afanc(水の剣アヴァンク)」


近衛騎士がいつもの通り腰に下げた柄を握り、その先に蒼い剣を出す。


「青い剣……なるほど、水属性のようですね」


冷静に近衛騎士の剣を見つめ、判断を下すのは広丘正樹。


「俺に水属性で挑むなんて、運がなかったなぁ!?」


パンッと手を合わせ、それを離した瞬間に、塩尻克人の手から無数のスパークが走る。彼の手からもバチバチと放たれる電流。


空属性雷魔術。見かけるだけで珍しいと言われる程度には、扱える魔術師の少ない魔術。塩尻は学生ながらにしてその雷魔術を扱う、そこそこ希少な魔術師だという。


「電気!?」

「おいおい……これ、相性最悪じゃね?」

「やばいよ、これ!」


事態を察したクラスメイトたちが慌て出す。向こうのB組では、こちらと真逆の歓声が叫ばれる。


「おい洗馬、考えがあるとかなんとか言っておいて、早速やべーじゃねーか!」


同時に文句が飛んでくる。


「うるさい、黙って見てろ」


だがそれを相手にするつもりはない。こんな状況、なんら機器ではないと見ていれば分かるのだから。


「まずは小手調べだ! Plasma Ball!」


サッカーボール大の電磁砲を数発発射する。


「Cododd Dŵr Glas!(青水薔薇!)」 


それに対抗して近衛騎士が繰り出すのは、舞い散りゆく青薔薇の花弁。


「バカか! 丸ごと焼かれろ!!」


自信満々に叫ぶ塩尻と観衆。だが、


「それはどうかな?」


近衛騎士の言葉通り、プラズマボールと花弁は衝突と同時に相殺される。


「あ?」


「え?」


予想外の出来事に困惑する敵二人。そしてそれは観客席にいるB組の面々も同様だ。


「だったら、Lightning Needle!」


今度は電気を帯びた細い針が無数に飛んでいく。


「Gwn peiriant dŵr(水機関銃)!」


対応すべく放つのは水弾の機関銃。それらがさっきと同様に、全て相殺していく。


「チッ! だったらRunning Current!」


「Cododd Dŵr Glas!(青水薔薇!)」 


地面を伝いながら走る電流を、再び薔薇の花弁が受けていく。その後も電流を領した攻撃を放ち続けるも、その全てが近衛騎士の水によって相殺されていった。


「……てめぇ! どんなイカサマをしてやがる!」


「イカサマだと?」


「じゃなかったら、お前の水属性の魔術は俺の電撃で爆散しねぇんだ! 明らかにおかしいだろ!」


あり得ないことだと、不正を疑い出す。


「……馬鹿馬鹿しい。水が非電導性の物質だというのは常識だろう?」


「そんなわけないだろ!?」


「自身の勉強不足を私のせいにするとは……、見下げた男だな」


「なっ!? んだと!?」


彼の怒りのゲージはどんどん上がっていく。ムキになって電撃攻撃を続けるが、近衛騎士の水は一つとしてその電撃を通さない。


「おかしい!」

「絶対何か不正してるだろ!」

「そうよ! こんあこと、あり得ないんだから!」


観客席からもそんな野次が飛んでいる。全く、どいつもこいつも勉強不足なことこの上ないな。


「洗馬、一体なにが起こってるんだ?」

「なんでエルさんの水は電気が通らないんだよ?」

「水は電気を通すものだろ? エルさんは一体なにを言ってるんだ?」


……ここにも勉強不足な奴らがいた。


「……超純水。ちょっとは自分たちで調べろ」


そもそも水という物質それ自体は非電導性だ。だが一般的に出回っている水は電導する。それはその水に様々な不純物が混ざっているからだ。そんな不純物が混ざっていない、本来の水という物質だけ、限りなく100%に近いものを超純水と呼ぶ。


もちろん並大抵の魔術師ではそんな超純水を生み出すことはできない。魔術師としての腕前が上であればあるほど、不純物の割合は限りなくゼロに近づいていく。


そして、A組の中で唯一その域に達している魔術師が近衛騎士。主君のハルネを守るべく昔から力を鍛えていた彼女だから、彼女の生み出す水の魔術は洗練されている。


だから塩尻の放つ電撃を電導せずに相殺している。要するに、彼にとって近衛騎士は天敵と言っていい。


「こんなことがあっていいのか……」

「嘘だろう……?」

「あいつの魔術が効かない水なんて……」


B組にはそんな絶望が漂い始める。自分たちの予想が180°ひっくり返ったのだから仕方ない。


彼の魔術の希少性はなかなかに高い。それを思えば、副将などもっと後半に選出してもいいのではないだろうかと思う。


だが彼をあえて先鋒として選出してきたのは、おそらく機先を制して勢いに乗ろうといった思惑があったからだろう。もしくは彼ら自身に何か問題があるか。


そしてその理由は、すぐに分かる。


「ハァ……ハァ……ハァ……」


「大分息が上がっているな」


「ハァ……ハァ……、チッ!」


魔力の減り具合にかなりの差がついている。近衛騎士曰く自身はそこまで魔力が多い方ではないらしいが、それでもまだ6割程度は魔力残量がある。反対に塩尻は残り3割を切るくらい。


「やはりその魔術の魔力消費量は激しいらしいな」


「ッ」


今近衛騎士が言った通り。要するに燃費の差がこの差を作っているのだ。


つまり彼は長期戦に向かない魔術師ということで、だからこそ先鋒として短期決戦を仕掛けてクラスに勢いをつけるという考えをしたのだろう。


「では、もうそろそろ終わりにしよう」


その言葉と共に、頭上に無数の薔薇を咲かせる。


「……ちくしょおぉぉぉぉぉぉ」


その薔薇に対抗するべく、塩尻も全力で電魔術を繰り出す。だが今度は電撃の方が花弁を相殺しきれず、とうとう塩尻がダメージを受ける。


「はあぁ!!!」


すかさず懐まで近づいて、剣戟でトドメを刺す。


「まだまだ修行が足りないな。昔同じ魔術を使っていた人と戦ったが、その人の方がもっと上手かったぞ」


そんな言葉を彼にかけながら。


「こ、このっ!」


近衛騎士と塩尻の派手な戦いに誰しもが見惚れて、彼自身もそうだったために、完全に蚊帳の外に置かれていた広丘が魔法陣を展開する。


「……忘れてないか? 私は一人ではないということを」


「なっ、ガッ!?」


側面から攻撃を受ける広丘。その攻撃をしたのは当然福島。


「もう一撃!」


まともに攻撃を受けて立ち上がれずにいる広丘に炎魔術の追撃を加える。


「……決まったな」


第一回戦は、近衛騎士と福島の完勝に終わった。

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