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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第四節:一難去ったらまた……
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一難去ったらまた……

「ふぅ……。今日も終わったか」


いつも通り、定刻にチャイムが鳴って授業が終了する。


この気まずい空気の中でも当然授業はちゃんと行われるし、中間試験一週間前だから気も抜けない。各教科試験範囲が配られたので、これからは試験の対策を考え始める必要がある。


「HRを始めるから席につけ」


前の授業の教員と入れ替わりで、日出先生が教室に入ってくる。授業終わりのHRで先生がクラスの中まで入ってくると言うことは、何か連絡事項があるということ。それを分かっているから、全員席を動かずに前を向く。


「さて、全員わかってると思うが今日は中間考査一週間前だ。分かってるとは思うがちゃんと勉強するようにな。以上だ」


「ちょちょちょ、ちょっと先輩! ストップストップ!」


試験について当たり前のことを告げて立ち去ろうとする日出先生を藪原先生が止めにかかる。


「なんだ真由美、言うべきことは言っただろう?」


「言ってません、それに関してもっと大事なことを!」


「大事なこと……あっ」


「今『あっ』って言いましたよね『あっ』って! 忘れないでくださいよ!」


「いやいや、すまんすまん」


「「「「「………………」」」」」


一体何のコントを見せられているのだろうか。俺ら生徒側は困惑一色。


「そうだったそうだった、忘れてたな。……いいかお前たち」


いきなりカッコよく雰囲気を変えて俺たちの方を向く。だがどう取り繕ってももう無駄だと思うのだが……。


「今日から来週の金曜日まで、放課後の魔法・魔術訓練は禁止となる」


「「「「「………………」」」」」


「……お前ら、ちゃんと聞いてたのか?」


「「「「「…………は?」」」」」


全員の数秒の沈黙と全員の疑問の声が完全に一致した。


「『は?』と言われても、今言った通りだ。放課後に魔法・魔術の練習をするのは禁止。校舎棟の訓練室も、寮の訓練室も完全に鍵をかけて誰も入れなくなるからそのつもりで。分かってるとは思うが、勝手に魔法・魔術を使ったら同様にクラス対抗戦に出れないからな?」


「いやいやいやいや」

「ちょっと待ってくださいよ!」

「え、なんで? どうして?」

「B組との試合もすぐなのに!?」


一斉にクラスの連中が立ち上がって騒ぎ出す。そりゃ突然そんなことを言われれば混乱もするだろう。正直口に出していないだけで、俺も疑問符が頭の中を飛び交っている。


「落ち着けお前ら。いいか、試験の時にはちゃんとそれに集中しろということだ。中学の時にもそういうの、あっただろ?」


クラスの奴らはそれで黙り込んで着席。


「……あぁ、そういう」


俺もその言葉で納得したが、一方、


「???」


隣の外国から来たお嬢様は何のことかさっぱり分かっていないご様子。


「颯、どういうこと?」


「あーっと、なんて説明すればいいか……。日本の一般的な学校には部活動ってものがあって……要するに一種の課外活動みたいなものだな」


「そういえば、日本について勉強するために読んだ漫画に、そんなことが書いてあったわね……」


一体何の本を読んだのか……。まぁそれは知ったことではないので話を進める。


「でだ。その部活動は試験期間になると活動を強制的に停止させられるんだ。理由は今日出先生が言った通り」


この学園には部活動がない代わりに、放課後は全員が魔法・魔術の訓練を行なっている。要するに、この処置は部活動停止の代わりということらしい。


「……で、()()()()訓練が禁止ということですね?」


「! ……あぁ、その通りだ洗馬」


なるほど、そういうことらしい。流石にクラス対抗戦の前だしな。最も、今のやりとりの意味に気付けた奴がどれほどいるのか分からないが。


「じゃ、とにかくそういうわけだから、しばらくは勉強に集中する様に。以上だ」


「『以上だ』じゃありません!」


「なんだよ真由美、必要なことはもう言い終わっただろう?」


「終わってませんよ! まだ大事なことが残ってます!」


「……あぁ、アレか」


一体何度このやりとりをするつもりなんだろうか……?


「そうそう、この中間考査で赤点を取ったら、もれなくこの三ヶ月間のクラス対抗戦には出場できないから、そのつもりで勉強するように。ちなみに赤点ラインは平均点の1/2だからな。今度こそ本当に以上だ。だよな、真由美?」


「はい」



三度目の正直、ちゃんと確認してから教室を後にしようとする。


「「「「「………………」」」」」


「「「「「…………はあぁぁぁぁぁ!?!?」」」」」


今度はクラス全員が叫び声と同時に立ち上がる。


「ちょちょちょ!?」

「どういうことですか!?」

「何でそんなことに!?」


さっき以上の抗議の怒号が教室に響き渡る。


「当たり前だろ? いくらこの学園が特殊だからって、勉強を疎かにしていい理由なんて何一つないんだ。それくらいの枷があって然るべきだろう? だからちゃんと勉強しろよ」


それだけ言って、今度の今度こそ教室を後にする。後に残ったのは、唖然として動けない俺たちだけ。


確かにあの人が言ったことは間違ってない。だが、それを告げるのがあまりにも遅すぎやしないか? もっと早くに言うべき情報だろうに。


「……マジで?」

「……嘘でしょ?」

「……どうするの?」

「……どうしよう?」

「……笑えないなこれは」

「……冗談、な訳ないよね?」


クラスの各所でそんな絶望感が漂い始める。……それが嫌な予感に繋がったのは言うまでもない。


「……おい、お前ら」


俺が話始めると教室の空気が重くなるだとか、もうそんなことに構っている場合ではなくなった。


「今すぐに着席してそこを動くな」


「せ、洗馬……?」


「……え、なに?」


「黙って指示に従え。……いや、これは指示じゃなくてクラス委員からの命令だ」


「……は?」


「何言ってんだ……?」


「逆らったら今すぐお前らに矢を撃ち込む」


教室の黒板前に魔方陣を組み上げ、いつでも発射可能の状態にする。もう命令がどうだとか、そんな彼らの主張に構ってる暇はない。もう事態はそれどころじゃないのだ。


そのままゆっくりと立ち上がり、教壇に立つ。


「ちょうど先週、全教科で小テストがあったな。今すぐにその結果を俺に送信しろ」


「「「「…………」」」」


有無を言わさんとする俺の態度に、渋々ながら従って行動を始める。順次俺の元に彼らのデータが送られてきたので、順番にそれを確認していく。


「……やっぱりか」


クラスは 30人。しかしこの学園にはパートナー制度なるものがあるため、誰か一人が赤点を取ると、自動的にそのパートナーもクラス対抗戦に出場できなくなってしまう。本当に厄介な制度だ。


そして問題はその成績なのだが、


「ほとんどのチームが、片方の成績が怪しいもしくは危機的状況って、ヤバすぎるだろこれは……」


どのチームも、片方の成績が赤点候補になりえるという危機的状況。もちろんだからと言ってもう片方は大丈夫かと言われれば、そうでもないチームも多くあった。


「心配なさそうなのは近衛騎士たちだけか……」


の近衛騎士は頭良さそうだし、福島も点数的になんら問題なさそうだ。


「いや……だって……ねぇ?」


「仕方がないというか……」


「魔術の練習してると、夜にすぐ眠くなっちゃうから……」


「それに抗えずに、寝ちゃうんだよね〜……」


そう口々にこぼしている。


その気持ちは分からなくもない。魔力も体力と同じで、使えば使うほど疲労が蓄積されていく。当然動き回っているのだから体力も削れていく。なによりそれを全て制御しているのは脳だから、脳にも疲労感が襲ってくる。


最初の頃は夕食をとった後はかなり眠かったし、今も朝に魔法の練習をしたあとの日中はなんとか起きているという時がある。


「だが一番文句を言いたいのは、昨日まで散々文句を言って色々とやってくれた反抗連合、お前らだ!」


昨日まで偉そうにしていた反抗連合の面々は全員、肩を震わせて顔を下に向けていた。


彼らの成績はこ、のまま放置していたら間違いなく何人かは赤点が出るレベルでヤバいものだった。


「昨日まで人に文句をつけておいて。自分たちはこのザマか。……全く、どこまでもどうしようもないな」


「そ、そういう洗馬はどうなのさ?」


「は?」


「俺たちのこと散々に言ってるけど、そういうお前はどうなんだよ!」


「一人だけ俺たちの成績を見ておいて、お前は自身の成績を秘匿するつもりか!?」


「そうだそうだ、公平を期すならお前も全員に公開するべきだろう!」


反抗連合じゃない奴らからも、そんな要求が叫ばれる。彼らの主張にも一理あるし、別に見られて恥ずかしい成績ではないし、秘匿するつもりもない。


「……いいだろう。だが俺の成績を見て勝手に後悔するなよ?」


今度は俺の成績を全員に共有する。


「……は?」

「なにこれ……?」

「マジで……?」


さっきまでの威勢はすぐに無くなる。


「全教科、8割強……」


「しかも、数学に至っては一問ミスだけって……」


全員が、何か違うものを見るような目を向けてくる。俺は珍獣でもなければ人外でもないんだが?


元々勉強は嫌いではない。授業を聞いて、復習して、問題を解いて、試験で結果を出す。小さい頃はそれができるだけで純粋に嬉しかったし、その感覚が今でも俺の中に残ってくれている。だからもっと点数を、もっと結果をと貪欲になれたのだ。


あとは小五の後半に転校して以降、人と関わることがなかった俺には、読書以外にやることがなかったとも言えるが。


それに別に無茶なことをしているわけではない。授業を聞いて、復習と問題演習をするなんて誰でも出来ることだ。だから、応用問題とかはかなり手こずるし、小テストですらそんな応用問題が数出るここの小テストは難しいと思った。数学の一問ミスは、後半の応用問題に手間取って、時間内に解ききれなかったからだ。


それでも基礎的な問題が配点の半分くらいを占めているのだから、それをちゃんと解ければ間違いなく赤点はありえない。


「流石は洗馬くんってところだね……。それにハルネさんも勉強できてそうだしね」


「っ」


話が自分に向いた途端、肩をビクッとさせる。すでに顔面は蒼白。


「……えっ?」

「あの……ハルネさん?」

「えーっと、もしかして……?」


そう言われるほどに、彼女の纏う雰囲気は暗く沈んでいく。


ハルネの成績状況を知っている人物は意外に少なかったらしい。小テスト結果を見ても、危ういゾーンにいる。


「……おい洗馬?」


「お前、自分のパートナーがあんな状態のくせに……」


「…………」


この間ちょっと勉強を見たときにそれはすでに分かっていた。が、ここは今の今まで知らぬ存ぜぬで通すことにしよう。


「お嬢様については心配は要らない。なぜなら私の全身全霊を以って、お嬢様に勉強をお教えするからだ!」


と、威勢よく立ち上がる近衛騎士。自分の使える君主の危機なんだから、お嬢様大好きな近衛騎士が動かないわけがない。


「……とにかく! 今すぐに寮へ直行して勉強しろ! 以上だ!」


今彼らに言えることはこれしかなかった。


ようやくクーデター紛いの連中を黙らせたと言うのに、一難去ったらまた一難かよ。ぶっちゃけ、


「……ありえないだろマジで」

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