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1年A組動乱:第一回戦

「来たな、洗馬とハルネ」


急ぎ訓練室に戻ると、すでに反抗連合も日出先生も揃っていた。


「お待たせしてすみません」


「時間前だから問題ない、ハルネ。とりあえず二人は下まで降りてこい」


指示された通り、階段を降りてフィールドに向かう。


観客席には多くの学生が集まっていた。クラスメイトはもちろん、二年三年の生徒もかなりの数いることには少し驚いた。


そんな彼らに見られながら階段を降りていくと、おかしなものが視界に入る。


「……なんだアレは?」


一番前の列にホワイトボードらしきものがあって、そこには『洗馬・ハルネ委員vs反抗連合 勝つのはどっちだ!?』と書かれている。


「ん〜、割合は4対6ってところかな。それなりに意見が割れてるみたいだね」


「……おい」


こんなバカげたことをやる奴はたった一人だけだ。


「なにをやっている、贄川……?」


「いや〜、こんな機会滅多にないから楽しみたいじゃん。あっ、もちろんお金は賭けてないよ。賭けてるのは食堂の数量限定メニューのチケットだけだよ」


食堂の数量限定メニュー。月に何度かそう言ったメニューが出るのだが、それは早い者勝ちのプラチナチケットらしく、気がつくと売り切れになっている。


一度ハルネに頼まれて、全開の瞬発風力まで使ったのにも関わらず、食券はすでに完売になっていた。だから俺もハルネも、まだ一度も食したことがない。


アレを手に入れている人は一体どんな手段に訴えているのだろうか、そんな疑問を持たせる限定メニューなのだ。今回賭けているのは、そのチケットの購入権利というわけらしい。


「そして今ここに来ているほぼ全員が、この賭けにのったよ。いや〜、みんなやっぱりこういうのが好きだよね〜」


数量限定のメニューをこんなことに使っていいのだろうか……。いや納得しているのならいいのだが。


「あ、もちろん日出先生の認可は下りてるから何の問題もなし! だからこれはもう合法! 僕を邪魔するものは何もないよ!」


「はぁ、そうか……」


一番気になったのはそこだった。いくら金銭取引がないとはいえ、こんな賭け事をやっていいのかという疑問。まさかあの人が一枚噛んでるとは……。いや、あの人はこういうこと好きそうだな。


「ほらほら、君に賭けた4割の人たちのために、行って来なよ!」


背中を押されてフィールドに出る。


まぁ賭け事には一切興味ないが、4割の奴らは期待してくれているということだから、多少はそれに応えなければいけないのかもしれない。


最も、そもそもそんなものがなくてもこの戦いには勝たなければならない。この戦いもまたハルネのためであり、なによりも俺たちにはあのロリ老女からのプレシャーがあるのだし。


「……で、最初の対戦相手はお前たちか」


フィールドに並んでいたのは武並・釜戸ペア。中央にいる彼らの前に立つ。


「洗馬颯。俺はクラス内戦の時のお前の戦いは尊敬していたし、武士道精神に則った素晴らしいものだったと思っている。だが今のお前は、あの時の戦いがまるで嘘だったかのような態度。とても残念だと思っているし、そんなお前を変える必要があると思った。だから俺は彼らの決起に賛同し、お前と戦うと決めたのだ」


それが武並の戦いの理由らしい。別に彼らの考えなど興味はないが、一つだけ気に触ることがあった。


「勝手言うなよ武並。お前の考える武士道とやらは万人共通じゃないんだ、お前の考え方と俺のやり方は全く違う」


別に俺は武並の武士道だか騎士道だかを馬鹿にすつもりはない。ただ、自分の考えこそが絶対正義だと思って、人にそれを強要して俺たちの邪魔する気なら、容赦なく叩き潰させてもらう。


「……これ以上は語るだけ無駄なようだな」


「そりゃそうだ、力ずくを選んだのはお前らの方だしな」


「フンッ」


それだけを言い残して、お互いに背中を向けて距離を取り始める。


「颯、結局何も作戦を考えてなかったけど、どうするの?」


「ハルネは基本自分の身を守ることに従事して、いざという時に俺を守ってくれればいい。そもそも今回恨みを買ってるのは俺に対してだけだから、いきなりハルネを攻撃することはないだろう。最も、今日は出来る限り速攻で終わらせるつもりから、その必要もないかもしれないが。まぁ見てろ、少しばかりあいつらの肝を冷やしてやる」


距離を取る間にそれだけを彼女に告げて、再び彼らと相対する。彼らには悪いが、新しい魔法の実戦訓練のための実験台になってもらおうか。


「それでは、試合開始!」


戦いの宣言が響き渡った瞬間、Instantaneous Wind(瞬発風力)のノンリサイトで彼らに向けて一直線に跳び出す。


「矢の攻撃じゃない!?」


この間の戦いとは違う行動に狼狽る釜戸。


「上等だ、この俺に接近戦を挑んでくるとは! 鉄化武装、腕部展開!」


武並が得意とする武闘魔術の一種、鉄化武装を唱える。腕に拳闘士が付けるような、甲冑のような武装を展開して、構える。


「……それはどうかな?」


あいつが接近戦が得意なのは百も承知、だから一度目の着地のタイミングで、魔力を込めた手を彼らに向けて振り込む。


その数瞬後には、釜戸の胸に俺の手から伸びる光の筋が突き刺さる。長さにして丁度4メートル。


「……Light Blade+Light Blade、Superimpose。 Extend Slashing。」


「かはっ!?」


「バカなっ!?」


そんな彼ら二人の叫び声は無視して腕を振り上げる。そうすればもちろん、剣も同じように振れ上がる。釜戸の胸に突き刺さった剣は崩れながらも彼を切り裂く。


当然、戦闘用複合現実魔術結界(MRBフィールド)が発動してるから本当に彼が真っ二つになるわけでもないし、釜戸が怪我を負うこともない。だが、彼のルール上のHPを吹き飛ばすには十分な攻撃だ。


この戦いで敵のHPを早く削るにはいくつかの要点がある。それは現実においても人間の弱点となる部位への攻撃。具体的には頭と心臓の部分。そこへの攻撃は本来なら致命的なものである。そのことが、このMRBフィールド下の戦いでも反映されているらしい。ロリ老女に言われるまでは俺も知らなかった、隠された特性。


「おいおいちょっと待てよ、あいつは魔術は使えないんじゃなかったのか!?」


「そのはずだけど……」


「だがあれは、どう見てもエターナルブレード……」


上級生を中心に、そんな声が観客から聞こえてくる。間合いを無視した、術者の視界の届く限り伸び続けるエターナルブレードとかいう魔術は、確かに参考にはさせてもらった。勘違いするのは仕方ないだろう。



光属性魔法Light Blade。エターナルブレードという魔術を基にして作られたこの魔法には一つ特徴がある。それは剣の長さを術者が自由に設定できることだ。


ほとんどの術者はこのことに気付いていないらしいし、事実教科書にはこの魔法の記述はあっても、その特徴についての記述はなかった。俺の場合は、初めてこの魔法を使った時に読んだ本に記述されていたから知り得た。


最大伸長は2mとなっている。普通の剣だとしたらかなりの長さなのだが、刃が短ければ短いほど耐久力は上がり、長くなればなるほど耐久性がなくなるというメリット・デメリットが存在する。


以前の近衛騎士との戦いで俺がこの魔法を短刀で発動していたのは、まさにこれが理由。近衛騎士のアヴァンクなる魔術剣を真正面から受けるには相当の耐久力が必要だった。しかも俺の多大な量の魔力を常に一定量流し込んでいて、ようやく近衛騎士の剣を受け切れていた部分がある。じゃなければ、あの近衛騎士の攻撃を受けたら一発でポキッと折れていたはずだ。


そんな魔法Light Bladeを二つ重ね合わせ、刃の長さに重きを置いた形で作り上げたのが重統魔法Extend Slashing(伸斬撃)。伸長は永遠とまではいかないものの、通常の倍の4メートルまで伸びる。それが釜戸の胸を貫いた剣の正体。



「貴様……接近戦に見せかけておきながら、卑怯だぞ!」


HPを失い片膝立ちの釜戸の心配をしながら、そんな方を言ってくる武並。


「卑怯もクソもないね。俺は俺のやり方で戦うって言ったばかりだろ。それにそんな言葉は俺にとっては褒め言葉でしかない」


「この外道め!」


堪忍袋の尾が切れたと、途端に飛びかかってくる。それを瞬発風力で跳んで逃げる。


「Light Blade+Light Blade、Superimpose。Extend Slashing!」


今度はその剣を武並に向かって放つ。


「そんな剣など!」


だが今度は、彼の真正面からの殴り拳によって刃が崩壊していく。やはり耐久性の低さというデメリットは免れ得ない。だが、いくら耐久力がないからと言って、正面から剣を殴り折るのは流石と言わざるを得ない。


とは言え、こうなってしまえばもうあとの戦いは楽だ。接近戦の武並にわざわざ接近戦を挑む必要はない。ロングレンジで叩いてしまえばいいだけのこと。だからそのセオリー通りに使用する魔法を切り替える。


「Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。Raining、Coordinate specify Shooting!」


着地と同時に魔法を完成させる。武並のいる位置を指定した矢は一直線に向かっていく。


「舐めるなぁ!」


立ち止まって力を溜めた一拳は、その矢を弾いていく。


「正拳突きで矢を弾くとは……だが」


多少はダメージが通っている。いくら正拳突きでも全ての矢を防げるわけではない。だから正拳突きが追いつけない量と速度で、矢の弾幕を浴びせ続けてやればいい。


「Light Arrow+Light Arrow、Superimpose。Raining、Coordinate specify Shooting!」


再び同じ位置から同じ魔法を撃つ。そして武並は同じようにそれを正拳突きで防ぐ。その隙に俺は跳び上がって奴の背後へ。そして同じように三度目の射撃。彼にはまだこちらに振り向く余裕があるが、こちらが高速移動と連続射撃を繰り返せばいずれ限界がやってくる。


そしてその限界は意外と早くやってくる。瞬発風力による動きに翻弄された武並のHPゲージが全て無くなって試合は終了。


「クッ……、全武装展開をする暇もなかった……無念……」


「いや、僕なんて何一つできなかったんですから、悪いのは僕の方です。今までとは違う彼の動きに驚いて、防御の展開を忘れてしまったんですから……」


そう言いながら膝をついていた武並に釜戸が近づいて彼を慰める。


「颯、いつの間にあんな魔法を?」


地面に着地した俺の元に、ハルネが寄ってくる。


「この間の戦いから今までの間に。これなら問題なく使えるな」


ロリ老女との訓練の時もちゃんと発動できていたし、ノンリサイトによる発動もほぼ出来ていた。この重統魔法は完成ということでいいだろう。


「さて、まずは一勝だ。どうする、反抗連合?」


そう言いながら見上げた観客席にいる彼らの顔は、驚きと怒りに満ちていた。

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