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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第二節:それはデート? ただのお出かけ?
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お出かけのあと

「洗馬くん、漫画も読むんだね」


帰りのバスで、福島が唐突に聞いてきた。


「確かに、お前はもっと、頭が堅い感じがする本を読んでいそうな印象があるな」


「難しい本を読んでそうだよね、颯って」


「お前らは俺に対してどんな印象を持ってるんだよ……」


このお嬢様といい、その近衛騎士といい俺をなんだと思っているのか。確かにそう言った本もたまには読むけれども、そればかりというわけではない。


「たまには漫画くらい読むっての。久しぶりに書店のある場所に来たから、色々と見たかったしな」


「そう言う割には、結果買わなかったよね〜?」


「だってこの端末で借りれるだろう?」


画面は小さいが、せっかく無料で読めるのだから使わない手はない。


「なるほどね〜。でも私は小さい画面で見るのはあんまり好きじゃないな〜。細かくて目が疲れるし……」


「分からなくはないな」


漫画はともかく、活字を画面で見るとやけに疲れる。確かに画面は小さいし、目にも良くはないだろう。だから本当は小説とかは紙ベースで読みたいと思っている。だがお金のことが最優先、タダで読めるのなら多少の我慢はする。


「じゃあ今度、私が持ってきた漫画を貸してあげるね?」


「あ、あぁ……よろしく……」


別にただ漫画を読み漁りたいというわけではないのだが、厚意は素直に受け取っておくべきだな。



そんな会話をしたのは最初のうちだけ。20分もしたら近衛騎士以外の女性陣は全員眠りについていた。あれだけはしゃいだのだから無理もない。


「お前は寝なくていいのか?」


「愚問だな。私はお嬢様の護衛だぞ?」


「……さいですか」


さすがは近衛騎士といったところか。


「お前こそ寝ないのか?」


「考えることがあるからな」


誰にも邪魔されずに、考え込みたいことがいくつもある。短い時間でできることから処理していかなければパンクしかねない。


「考えるべきことか。お前が一番に考えるべきことは、クラスのことじゃないのか?」


「は?」


「一体何を考えているかは知らないし、お嬢様はお前のことを全面的に信頼していらっしゃる。が、クラスの者たちはそうではない。皆お前に対して様々に疑念を抱いている。そんな状態で、本当に統率など取れると思っているのか?」


「…………」


「統率の取れない部隊など、崩壊は目に見えている。そんな状況ではこの戦いの敗北は必至だ。洗馬颯、お前はどうするつもりなんだ?」


「…………」


「なぜそんな顔をしている?」


「いや……お前にそんなことを言われるとは思わなかった」


こいつが俺の心配をするとは、明日には隕石でも降ってくるのか?


「別にお前の心配はしてない。お嬢様が勝ちたいと申しておられるから心配しているだけだ。それに私もクラスの一員だからな。これで負けたりしたら、どうなるか分かっているだろうな……?」


彼女の目は本気だ。これで本当に負けたらどんな目に合うか分かったものじゃない。


だが、何をするにしても今はまだ……。



〜〜〜〜〜〜



「……さて、ショッピングモールで言い争いをしていたという事情について聞こうか?」


バスで学園まで戻ってきた時に、校門で俺たちを待っていたのは日出先生以下教師陣。さすがにあれだけの注目を集めた上に、俺たちは制服だった。通報の一本くらいは入っているか。


「小学生の時の同級生を名乗る奴が因縁がましく絡んできただけです」


「小学校の同級生?」


「名乗るっていうか、金山くんは一応ちゃんと同級生だってば」


「悪いがそんな奴は覚えてない」


悠花以外で小学校の同級生なんてほぼほぼ忘れてしまった。だからその金山という奴も全くさっぱり記憶にない。


「うーん……、でも確かに颯が覚えていないのは仕方ないかな? 颯とはあんまり関わりがなかったし。五年生の時に一度だけクラスメイトになったってだけだったと思う」


「……なんでそんな奴が俺に絡んでくるんだ?」


「それは……」


そこで言葉に詰まる悠花。


「悠花?」


「え、えーっと、確か昔彼が好きだった子が、颯にバレンタインデーでチョコをあげていたこと、とかかな……?」


「そんなことあったかな……?」


頑張って記憶を探るが、どうにも思い当たる記憶が出てこない。というか、バレンタインデーにチョコなんてもらったことあっただろうか? そもそも小学生の恋愛なんてお子様なものに本気になるなよ……。


「バレンタインデー……」


ハルネはハルネで、そう呟いてから雰囲気を暗くし出す。バレンタインデーが一体なんだというんだ?


「はぁ……、とにかく事情はわかった。だが颯、魔法を使おうとしたのはいただけないな。お前がそこまで熱くなるのも珍しいが」


「…………」 


あの時は、ハルネと悠花をいっぺんにバカにされたことで、冷静さを欠いていた。ハルネと悠花のおかげで未遂に終わったからよかったものの、先生の言う通り本当に俺らしくなかったと思う。


「分かっているとは思うが、私たちの力は隠匿していなければならない。ハルネたちのおかげで未遂の終わったからよかったものの、今後は気をつけるように」


「……申し訳ありません」


「まぁとにかく、今回は未遂で終わったのだし、厳重注意で留めておこう。それに私たちが関わらそうにない事情があるようだしな」


それを告げた一瞬、視線が悠花に移った。悠花は気まずそうな顔をして縮こまるのみ。


「そういえば、お前たちなんで制服で出掛けたんだ? せっかくの日曜日だというのに」


「それは颯が外出用の私服を持ってなかったからです」


「…………はぁ?」


間抜けな声を出しながら、丸くした目で俺を見る。


「颯お前……マジか?」


「えっと、その……」


「だ、大丈夫です。今日ちゃんと私服を買ったので!」


「ねっ、颯?」


「あ、あぁ。はい、買いました……」 


私服にあれだけ金がかかるものとは思ってもみなかったが。


「……今度からは、ちゃんとそれで出かけるように」


片手で頭を抑えながらそれだけを呟いて、反対の手で出ていくようにジェスチャーする。


「失礼します」


六人一緒に職員室を後にする。その流れで寮の前まで歩いていく。


「じゃあ颯、今日はここで」


「あぁ、今日はありがとう。今池も、付き合わせて悪かった」


「構わないよ〜。洗馬くんを着せ替え人形できたしね〜!」


あの時はめちゃくちゃにされたが、その分勉強にもなった。


「ハルネさん?」


「な、何かしら?」


「一勝一引き分け、私の方が勝ってるんだからね? 颯にふさわしいのは私だって、分かってもらえた?」


「ま、まだまだこれからよ! そんな簡単に颯は渡さないわ!」


勝ち誇った顔の悠花と、悔しさを全開に出すハルネ。


「とにかく今日は世話になった、解散!」


これ以上言い合いになる前にとっとと終わりにする。時刻はすでに19:30を過ぎているし、色々とあって疲れたし、夕食食べたいし、これ以上疲れたくない。そんな理由を思い浮かべながらとっとと寮の中に逃げ込むことにした。


「ま、待って颯!」


「?」


「また明日ねっ!」


呼び止めた悠花は、それだけを告げて駆けていった。


「また明日ね、か」


久しぶりにその言葉を聞いた。ほとんど同じの下校路で、最後T字路で分かれる時に悠花がいつも言っていた言葉。また聞けるとは思わなかった。


そうして、ここに来て以来の初めての買い物は終わりを告げた。



〜〜〜〜〜〜



「……洗馬颯、あいつをこれ以上放置しておくわけにはいかないだろ」


「確かに。クラスの統率はせず、授業もいつもサボり気味。果たしてやる気があるのか……」


「今日だって、練習を一切せずに一日中出かけていたしな」


「いや、それは俺たちもあることだから責められることではないと思うんだが?」


「それはそうだけど、メンバーが問題でしょ? 一体彼はどっちの味方なんだろう?」


「ハルネさん、エルさん、福島さんをほぼ独り占めしやがって……、 許すまじ!」


「同感だ」


「完全に同意」


「分かりみが深い」


「……男子ってバカ? そうじゃなくて、B組の女の子と仲良くしてることが問題なんでしょ? しかもB組のクラス委員の女の子と」


「それにあれだけ彼女と仲がいいのは、実は内通してるんじゃないかって説もある。ほら、この画像……」


「……許すまじ」


「同感だ」


「完全に同意」


「分かりみが深い」


「それはもう分かったわよ! 本当に男子ってバカなんだから……」


「とにかく! そんな嫉妬は今どうでもいい! ただ、現状は変えないとまずいことに変わりはない」


「それはそうでしょうね。他のクラスと違って、統率のとの字もないんだから」


「それで、本当にやるんだな?」


「当たり前だ!」


「そもそもそれがちゃんと認められてるんだから、やる方がいいに決まってる」


「サボってばかりのアイツに目に物見せてくれる」


「対策はバッチリだし、負ける要素がないしね」


「勝ちに驕ってるアイツなら、対策なんていらない気もするけどな」


「じゃあ決行は明日。みんないいな?」


「あぁ」


「もちろんよ」


「アイツを黙らせてやる」


「これは俺たちの洗馬颯に対する反抗であり」



「クラスをより良くするための革命だ」



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