ハルネと悠花が向き合う時
その後再びウィンドウショッピングを続けて、今度はゲームセンターにやってきた。
「さっきのファッション対決は引き分けになったし、次はこれで勝負よ!」
そう言って悠花が指さしていたものは、リズムゲーム筐体。流れてくる譜面に合わせて身体でリズムをとりながら足でそのリズムアイコンを叩くというもののようだ。比較的初心者向きであり、かつ協力プレイができるものを次なる戦いの舞台にしようとしているらしい。
「まずは各々テストプレイを一回して、その後に私とあなたが颯と協力プレイする。最終スコアが高かった方が勝ち。私たちがいかに通じ合ってるかを見せてあげる」
「……いいわ、やりましょう。私たちがいかに理想なパートナー同士かを見せてあげるわ」
火花を散らしながら戦闘ムードを醸し出す二人。やはり二人とも、さっきの引き分けには納得してない様子。さっきタピオカジュースを飲むための行列にに並んだ時の息ピッタリな雰囲気はどこへ行ったのか。それと、
(……俺の意思は?)
ないらしい。
流れに乗ったまま、このリズムゲームの初プレイをやってみた感想としては、
(……意外と難しいな、これは)
そもそも曲が全然わからないから、リズムが取れない。それと足の下にあるコマンドの配置を覚えきれない。同時押しとか来た時にはタイミングが合わなくてすぐにミスを連発する。それはハルネも同じだった。
一方の悠花といえば慣れてるのかと思えばそうでもなく、何回もミスを出していた。友人に誘われて一回だけプレイしたことがある程度らしい。流石にその辺りの公平性は保っているようだ。
そうして三人ともがテストプレイを終えてから、
「じゃあ私が先ね」
ジャンケンをして、悠花が先行となった。
「颯は自由にしていて。私が合わせるから」
「合わせるも何も、ミスしないことが大事なんだろ? このゲームは」
「だから颯は好きにやってていいよ」
「……?」
よくわからないが、とりあえず手は抜かないよう、やれるだけの事はやるつもりだ。
一度息を深く吐いて、譜面が映し出されるモニターに集中する。
そうして曲は始まったのだが、
(……やりやすい。さっきよりも、間違いなく)
あらゆる方向から音が鳴り響くゲームセンターで、これほどまでに正確にリズムを取れるとは思っていなかった。
それは悠花との足捌きが完全に一致しているからだと思う。彼女が俺のリズム感に合わせてくれている。だから俺もそれに呼吸を合わせていれば間違えない。
周りの音が全て消えて、曲と譜面と二人が紡ぐ足音だけに集中できる。
気がついたら、さっきとは違いほとんどミスなく曲が終わっていた。
「す、すごい……」
それをみたハルネは、ただただそれしか言えていなかった。
「やったねっ、颯!」
終わった瞬間、悠花が飛びついてくる。
「ちょ、こら悠花、離せっての!」
すぐに彼女を引き剥がす。
「でも流石颯、一回でもうコツを掴んでる」
「いや……、悠花が引っ張ってくれたからだ。じゃなきゃこんなにやりやすくなかった」
「颯に合わせるなんて簡単だよ、何年颯のこと見てたと思う?」
自慢げにしている悠花。その勝ち誇った顔でハルネの元へ。
「今度はあなたの番よ」
「っ」
ハルネは一気に緊張していた。それもそうだ。さっきのを見てしまったら、緊張しないわけがない。
(……大丈夫だろうか?)
ハルネに余裕がない分、さっき悠花がやってくれたことを今度は俺がやらなきゃいけなそうだ。
「まぁ、慌てずに気楽にやろう。俺に合わせてくれればいい、いつも通りだろう?」
「う、うん……」
声をかけるも、やはり彼女の空気は重いまま。そのまますぐに曲は始まる。
さっきと同じ感覚、同じリズム感で譜面を叩いていく。さっきやった曲だから、それら全てを身体が覚えている。ハルネもそれに合わせてなんとかついて来ている。
(問題はここから)
曲のサビの部分は一番盛り上がる分、難易度は上がる。それでもなんとかさっきの動きを思い出してリズムを崩さないようにする。
「次は、こっち、で……あと……」
だがハルネの方が次第に追いつかなくなってくる。ミスが少しずつ出始めて、
「キャッ!?」
「お嬢様!」
足を絡ませて倒れてしまう。いち早く反応した近衛騎士が駆け寄って無事を確かめる。俺も足を止めてそちらを向く。
「大丈夫よ、エル。ありがとう」
すぐに立ち上がれたから、怪我等はしてなさそうだ。だが、
『GAME OVER』
無情にも、画面には終わりを告げる文字が浮かんでいた。
「怪我はなさそうでよかった。でも勝負は勝負、今回は私の勝ちね」
「……っ」
ハルネは悔しそうに顔をしかめる。こんな表情の彼女は初めて見た。自分のことを語っている時ですら、そんな表情はしなかったというのに。
ゲームセンターでの戦いは次これで終わり、その場を後にする。
「今は……ちょうど4時だね。あと1時間くらいで帰らなきゃだけど、あと颯が行きたいところはある?」
「書店」
「そ、即答……」
悠花の質問に少し食い気味に答える。午前中に行っただけではほとんど見れなかった。もう少しゆっくり見て回りたいと思っていた。
「じゃあそうしよっか。でもその前に、お手洗いに行ってもいい?」
「あぁ、いってらっしゃい」
「わ、私も」
「私も行っておこうかな」
悠花の言葉に次々と乗り出す女性陣。タピオカなる重めの飲料水を飲んだのだから仕方がないか。
「じゃあ俺は先に書店に行ってるから、後で来てくれればいい」
「ん、分かった」
「じゃあまた後で、すぐに行くね」
そうして、再び一時的ながら別行動となる。
今いる場所は二階。書店は三階に上がってちょうど建物の反対側まで行かなければならない。そこへ向かってゆっくりと歩みを進める。
今日一日で、本当にいろいろな経験をした。誰かと出かけることも、私服を買うことも、タピオカなる飲み物を飲むために長時間行列を並ぶことも、ゲームセンターで遊ぶことも。
以前の俺だったら絶対にあり得ないことだ。ハルネと悠花、二人がいなかったら間違いなくこんなことはしていない。彼女たちがほんの少しいい方向へ、俺を変えてくれたんだろう。
だが、俺は……。
「おっ……!?」
唐突に背後から声がする。
「お、お前がなんでこんなところに!?」
振り返るとそこにいたのは―――
〜〜〜〜〜〜
「ねぇ、ちょっといい?」
お手洗いから出た時、先に出ていた平沢さんが話しかけてくる。
「……何かしら?」
彼女の顔は真剣そのもの。その真っ直ぐな視線に気圧されつつも、真っ直ぐ向き合う。
「初めてあなたと会った時から、ずっと聞きたいことがあったの」
「聞きたいこと?」
「そう。あなた……」
「颯のこと、どう思ってるの?」




