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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第二節:それはデート? ただのお出かけ?
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知らない感情

「は、ハルネさん。それで、さっきの人って……?」


一緒に街に出かけたみんなに聞かれる。確かにあんなことがあっては、気にならないわけがない。


「ごめんなさい。さっきは私も取り乱して……」


「ううん、それはいいの」


「誰だって、愛しの彼氏を取られそうになったら、ねぇ」


「か、彼氏!?」


話が予想していた所から別方向に飛び火した。


「えっ? 違うの?」


「私たち、てっきりもう恋人同士になってたんだと思ってたんだけど……」


「そんなこと! 万に一つも!! ありえません!!!」


私が言う前に、エルが大声で否定した。


「え、エルさん落ち着いて。ここ公共施設だから……」


「はっ、も、申し訳ございません。つい……」


福島さんがエルを宥める。我に帰ったエルは周りに謝罪の意を示すべき頭を下げる。


「でも、エルさんが知らない間にっていうのもありえるよね?」


「実際、部屋は同じなんだし」


「それに洗馬くんも、ハルネさんだけには優しいよね?」


「そうそう、ハルネさんだけ名前呼びだし。それで、ホントのところはどうなの、 ハルネさん!」


改めて問いかけてくる。


「……少なくともみんなの言う恋人という関係ではないわ。ただのお友達、ただのパートナー同士よ」


「「「えぇ〜……」」


期待外れの回答だったのか、みんなからはそんな声が上がる。一方のエルはホッと胸を撫で下ろしていた。


「じゃあじゃあ、さっきの子は本当に誰なの?」


それでようやく質問が最初のところに戻る。


「彼女は平沢悠花さん、だったかしら。颯の幼馴染って言ってたわ……」


「「「幼馴染!?!?」」」


今度は驚きの声が上がる。


「み、みんな静かにね?」


「そ、そうだった……。でも、幼馴染? それって本当なの?」


「うん……颯もそうだって言ってたし……」


「「「はぁ〜〜〜」」」


「え、えっと……?」


「こんな美人なハルネさんがパートナーで」


「しかも可愛い系の幼馴染まで同じ学校だなんて」


「罪な奴だね〜洗馬くんは」


みんなが盛り上がっている。


「それよりももっと大事なことがあるよ!」


「大事なこと?」


「ハルネさんがどう思ってるか! それが一番大切でしょ?」


「「「あぁ〜」」」


「で、ハルネさんはどう思ってるの?」


「…………」


颯は私と同じく魔力に問題を抱えていて、暗い過去と傷を抱えている男の子。人と関わることが好きじゃないから、その胸の内を絶対に明かそうとしない。でも間違いなく何かをやろうとしている。だから今は、エルと同じくらい頼りになる。


そんな颯をどう思っているかなんて、真面目に考えたことはなかった。でも、今颯のことを思うとすれば、


「……頼りになるし、色々と考えてて、凄いって思ってるわ。」


「う〜ん、そうじゃなくってね……」


「じゃあ、洗馬くんと平沢さん?が一緒にいるところを見たらどう思うの?」


「そ、それは……」


自覚はある。あんなに取り乱して、私らしくないと。でも……。


一昨日初めて平沢さんが颯に飛びついた時、胸が締め付けられた。あの颯に、あんな風に気軽に入っていける人がいるとは夢にも思わなかった。多少は心を許してくれた私でも、あんな風には……。


同時に、颯の態度にも驚いた。抱きついてきたことには驚いていたものの、それをごく自然に、当たり前の様に受け入れていた。さっきも彼女が納得するように案を出していた様に、颯は平沢さんには優しい。他の人とは、私とは明らかに違う何かが二人の間にある。


それを受け入れられないというのは、きっと私のわがままでしかない。颯の優しさが、私以外の人にも向けられるなんて、当たり前のはずなのに。


それなのに、颯のそばに他の人が踏み入ろうとすることを、私は受け入れられていない。誰よりも颯の近くにいたいと思ってしまう。それが抱いてはいけない願いなのは、分かっているはずなのに……。


「(あー、これは……)」


「(無自覚、だね……。でも)」


「(間違いなく洗馬くんのこと……)」


「(純粋無垢だよね、ハルネさんって。私たちが洗馬くんを取ろうとするのが申し訳なくなってくるね……)」


「(そしてこれは間違いなく)」


「(手伝ってあげた方がいいよね)」


悩んでいる中で、他の人たちは輪になって何か話していた。


「分かった! じゃあ洗馬くんがハルネさんだけを見るように、私たちが協力してあげる!」


「えっ? えっ??」


「いくら洗馬くんって言っても、男の子であることには変わりないし。それに少なくともハルネさんだけにはちゃんと接しているみたいだから、ハルネさんからアプローチをかけていけば何とかなるって思うな」


「で、でも……」


「でも?」


「でもそれは、颯の優しさを独り占めしようとすることになる。そんなこと、私にはできないし、しちゃいけないって思うわ……」


「「「……」」」


それを聞いたみんなは、目を見開いた後呆れるようにため息をついた。


「……ハルネさんの優しさって、美徳だと思うしいつまでもそうあって欲しいって思うよ。でもね?」


「優しさは、時に自分を苦しめるよ。特に男を巡る戦いの時にはね」


「お、男を巡るって。颯はそんな……」


「でも、このままだと間違いなく、あの平沢さんって子に洗馬くん取られちゃうよ? それは嫌なんでしょう?」


「そ、それは……そうだけど……」


「なら、なんとかしなきゃでしょ? 今のハルネさんに足りないのは、洗馬くんを自分のものにしようって覚悟だよ!」


「覚悟……」


「私たちはハルネさんのこと、応援するよ!」


「よ、よろしくお願い、します……?」


「なら最初は……」


そうして、『洗馬颯籠絡作戦』(みんながそう名付けた)が始まった。

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