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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第一節:再開は新たなる始まりを告げる
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戦いに向けてやるべきこと

「……ということで、今月から三ヶ月間にわたって、他のクラスと魔法・魔術の試合が行われることになりました。詳しいことは今から説明します」


昨日言われた通り、クラス対抗魔法・魔術戦についての詳細をクラスメイトに話し始める。


試合の形式、勝敗におけるルール、今月末にはB組の代表メンバーと戦うこと、私たちのメンバー選出には私と颯の承認が必要なこと、これから具体的な作戦を考えていくこと、色々を話した。 


「「「「「…………」」」」」


反応は、無言。私たちも昨日そうだったように、みんなも困惑していた。


それも仕方ないと思う。特に初めて魔法・魔術に関わった人たちからすれば、また戦いなのかと言いたくなってしまうでしょう。


いきなりこの世界に連れてこられて、その力をようやく使えるようになって。そのすぐ後にクラスメイトたちと戦うよう言われ、ようやくそれを乗り越えたばかりだというのに。またすぐに次の戦いが始まるとなれば、誰であっても文句の一つも言いたくなる。


魔法・魔術にそれなりに関わっていた私でさえそう思う。なんでこの世界は戦いばかりしているのだろうかと。戦うのではなく、もっと魔法・魔術を別の有効な使い方をすればいいのではないだろうか。例えばオティリエさんが大樹の図書室で見せてくれたような、生活するのに便利な魔術とか。


颯が積極的ではないのはこの辺りが理由の一つなのだと思う。颯は人と関わることと同じくらい、人と争ったりすることを嫌っているようだから。昨日私と平沢さんが言い争いをしていた時もうんざりしたような顔をしていたし、その前にこの戦いについて告げられた時も嫌そうな顔をしていた。


「してお嬢様、具体的にはどのようになさっていくのでしょうか?」


この無言の状態を最初に壊してくれたのはエルだった。


「そうね、基本的には魔法・魔術に長けた人を選出するのが1番だって思うけれど……」


「となると、ハルネさんたち、エルさんたち、贄川たち、田立さんたちのペアは確実だよなぁ」


「だよね、この間の戦闘でもその4ペアは飛び抜けて凄かったもんね」


「最低3勝すれば勝ちになるんだから、ハルネさんペア、エルさんペア、贄川ペアが頑張ればなんとかなると思う」


「でも最終的なスコアはどの試合に勝ったかが重要になってくる。だからただ三人が勝っても意味がないだろう」


「試合に勝って、最終的な勝ち点でも勝つには、やっぱり全戦全勝を目指すくらいじゃないといけないでしょ?」


「それもそうか。準決勝まで勝ち上がった4ペアは確実にしても、後1チーム出さなきゃいけないのか」


「しかしどう決めるか……、頼りきりも流石にまずいだろ?」


エルを皮切りにしてみんなも盛り上がり始める。戸惑いは最初だけで、実はみんなやる気満々のよう。


「ところでハルネさん、彼は放っておいていいの?」


福島さんが指差す先には、一人訓練室の床に座っている颯。


「考え事したいからクラスへの説明は任せた」


と、それだけを告げて授業が始まった時からずっと座り込んでいる。


昨日から颯の様子はおかしかった。ずっと何かを考え込んでいて、私との会話もいい加減になっていた。それに最近は一緒できていたお昼休みには、最初から最後まで教室にいなかった。


颯のことだから、もしかしたらすでに色々な策を張り巡らしているのかもしれない。でも、何を考えているのか一切明かしてくれないのだ。


もしくは、昨日平沢さんと言い争いをしてうんざりしたのかもしれない。確かに昨日は白熱しすぎたし、颯はそれに対して終始嫌そうな顔をしていた。自分でも分かっていたのに、自分をコントロールできなかった。だから少し避けられているのかもしれない……。


「……ふぅ」


そんなことを考えながら見つめていたら、颯は小さく息を吐いて立ち上がる。そしてこちらに振り向いて歩み寄ってくる。


「……お前ら、そんなに勝ちたいの?」


「「「「「!?!?!?」」」」」


颯の言葉を聞いて、みんな狐にばかされたような顔をする。私も驚いた。あの颯が自分からクラスメイト達に話しかけたのだから。


「あ……、当たり前だろ、洗馬。やるからには勝ちたいし、負けようなんて誰も思わないだろ?」


「そ、そうだぜ。やるからには勝たなきゃ意味がないだろ?」


颯の質問に応えたのは原野くん、宮越くんペア。この二人はクラスメイト達からの信頼も厚くて、自分たちもそれを分かってみんなを引っ張ろうと頑張っている。ある意味私たちよりもリーダーっぽい二人。


「だろう、みんな?」


「あ、あぁ!」

「……うん!」

「そうだな!」

「もちろん!」


その二人にみんなも同調を示す。やる気は十分。


「はぁ……。なんでどいつもこいつもそんなに戦いたいのかね……」


右手で頭を押さえて、頭を掻きながら小さく呟く颯。


「は?」


「気にするな。んじゃ、一応クラス委員らしく、お前たちにやるべきことを伝えるとしようか」


「お、おぉ……。なんだ?」


颯の提案に驚きつつ返事をする。


「お前達がやるべきことは、自身の魔術を鍛えること。以上だ」


それだけを告げた颯は眠そうにあくびをする。


「えっ……、いやいや、もっと他にないのか?」


誰もが困惑する中、宮越くんが颯に話しかける。


「他に?」


「そうだよ! 具体的に誰をメンバーにするとか、作戦をどうするとか。それだけじゃなくて、もっと具体的な訓練方法とか、なんかないのか?」


「そ、そうだ、一緒に作戦考えるとか、色々あるだろ?」


原野くんも合わさって颯に問いかける。


「アホかお前らは」


でも颯は呆れた顔をして一蹴する。


「なっ!?」


「俺は魔術を使えないんだぞ? そんなやつがどうやって魔術の訓練方法なんて考えるんだ?」


「そ、それはそうかもしれないが、でも他にもやれることはあるだろ。例えば、アノマリーリサイトを俺たちに教えるとか……」


「そんなもの知ってるやつはクラスにもいるんだから、そいつらに教われば習得できるだろ。魔術のアノマリーリサイトなんて俺はわからないし、その方が確実だ」


「だ、だったらせめて誰を選ぶとか、作戦はどうするかとかくらい……」


「そんなのは前日に言えば十分だろう? そうでなくても、お前達がそんなことを考える必要はない、時間の無駄だ。その時間で自分がどうやったら強くなれるかについて考える方がよっぽど有意義だ」


二人の主張を突き放すように言い放つ。


「……なんだよ、それ」


「は?」


「なんだよそれはって言ってるんだよっ!」


「お、おい宮越、落ち着けって」


激昂する宮越くんと、それを抑えようとする原野くん。


「クラス対抗戦で一致団結しなきゃいけないはずなのに、なんでクラス委員のお前が協力しようとしないんだ!」


「協力しない? 何言ってるんだ? お前らが勝ちたいって言うから、そのために必要なことを言ったんだろう?」


「それのどこが協力なんだよ!」


「じゃあ聞くが、お前達の言う“協力”っていうのは、一体どんなんだ? 一緒に作戦を考えることか? 一緒に戦うことか?」


「っ……」


「そんなに作戦を考えたいって言うなら、お前らには今何か策はあるんだろうな? 100%勝てる、全戦全勝の、絶対無敵の作戦が」


「そ、それは……」


「ないんだろう? まぁ俺にもないが。だったら今この場で作戦がどうだとか、無駄な論議でしかないだろう? それに最終的に戦うのは自分のパートナーとだけだ。なら訓練も間違いなくパートナーとやった方がいい」


「…………」


「それに俺にとっての協力は、お前らが考えて定義するところの“協力”とは違う。お前らがそうであるように、俺にも俺のなりの考えと方法がある。一緒にするな」


その言葉で、誰も何も言えなくなってしまう。


颯の言うことは正しい。人には人の考えがある、それは当たり前のことなのに、みんなが忘れがちなこと。みんなもそれを分かっているから、颯の言葉に何も言い返せない。


「というわけで、今お前たちがすべき事は自身の力を高める事だけだ。それ以外この戦いについて、お前たちは何一つ考える必要はない。以上だ」


改めてそれを伝えて、颯は訓練室の壁を背に腰掛ける。


最近の颯はこの時間のほぼ全てをそうしている。ほとんど魔法は使わないで、みんなの訓練を眺めているだけ。時々ぶつぶつと何か呟きながら掌に魔法陣を浮かべる事はあるけれど。


そういえば最近の颯はいつも眠そうにしているから少し心配だ。今も眠そうに欠伸をしている。


「お前こそ、人には自身の強化を命令しておいて、そうやっていつもなにもしないじゃないか! そんなやつの命令に従うと思っているのか?」


「じゃあ聞くが、そのサボり魔で、かつ魔法しか使えないやつに負けたのはどこのどいつらだ?」


「っ!?」


まだ詰め寄っていた宮越くんは、そこで完全に止まる。


「魔法は魔術に勝てない、その考えは間違っていないと思う。だがお前たちはその魔法に負けた。魔術という圧倒的な力を持っているにも関わらずだ。俺がこうしているのも、何かの実験のためだって考えはしないのか? 俺に構ってる暇があるなら、とっとと練習を始めたらどうなんだ?」


颯のそのダメ押しの言葉で、宮越くんは完全に黙り込んでしまう。


「……これ以上考えても仕方ないな。それに洗馬の言った事は間違ってはいない、ちゃんと訓練しないと勝てないんだから。だからみんな、今日も練習を始めよう。」


原野くんがその場を取り仕切る。みんなは不満そうな顔をしているものの、彼の言う通り少しずつ行動を始めていった。

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