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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第二章第一節:再開は新たなる始まりを告げる
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変わらないもの、変わるもの

科学技術が発達と進化を続ける現代で、陰でひっそりと魔法・魔術なんてファンタジーな力を振興するハーシェル学園に入学して、1ヶ月が経った。


4月末のクラス内戦から一週間を経て、クラスで変わったことと言えば。……特になかった。


元々クラスメイト達同士の仲は悪くないし、その関係は戦いを通してより強固になったと言える。友であり、研鑽し合うライバル同士でもある。理想的な関係と言えるだろう。


魔法・魔術を元々知らなかった人たちも大分その力に慣れてきた。覚えた魔術もだんだんと増え続けてる。


一方の俺は、特に変わることなく一人でいることがほとんど。クラスメイト達も、どうにも声をかけづらいらしい。俺としても、初日にあんな大見得を切っておいて今更態度を変えられるわけにもいかないし、変えるつもりもなかった。俺と関わることでどんな厄害が降りかかるか分からないのだから、これでいいと思う。


クラス委員になったはいいものの、特段やる事も指定されないのだから、彼らと積極的に関わる必要もないという部分もある。


ただ、ほんの少し変わった部分もある。


まずは、隣の席のお嬢様が以前に増して話しかけてくるようになったこと。読書に集中してる時とかは話しかけてこないので、その辺りのタイミングはちゃんと考えてくれている。だから無碍にもできず、応対はちゃんとするようになった。それと、大きな変化といえば、ちゃんと彼女の名前を呼ぶようになったことくらいだろうか?


加えて、彼女のお目付役で、常に引っ付いている近衛騎士の態度も多少丸くなった。それほど会話するわけではないが、少なくとも何もしていない時に睨まれるような事はなくなった。ただ、視線は妬ましいという色合いに変わりつつあるのだが。


森のロリ老女との訓練も相変わらず続いている。重統魔法も、矢の雨だけではこの先やっていかないからと言われたから。そしてそれは隣でクラスメイトと談笑しているお嬢様も同じ。Inviolable Fieldが絶対の万能魔法ではない以上、他の防御手段は必要。最も、俺と違ってこれについては相当難航しているらしい。


とはいえ、戦いがすぐに目の前で切羽詰まっていたこの間とは違って、かなりゆったりした訓練になっている。元々お茶会好きなロリ老女、あの大樹の図書室に行くと紅茶を飲んでるの方が長くなりつつある。その時間は色々と魔法・魔術の話をしたり、魔法資料を読んだりもしているので一切の無駄というわけではない。



そんな、いつも通りの5月10日、火曜日の朝。


ガラッと勢いよく開けられるドア。こんなドアの開け方をするのはごく限られている。


「全員席につけー!」


クラス全員に声をかけながら入ってきたのは日出先生。この1年A組の担任、それと今現在俺の親権を持っている人物。担任はともかく親という感じは全くしないのだけれど。


「さて、今日もHRを始める。とは言っても、()()()()()()()特に連絡事項はない。しいて挙げるとすれば、ちゃんと勉強するようにということだ。月末には中間考査があるからな。学生の本分は勉強にある、なーんて頭の硬いことは言うつもりはないが、必要なことではある。魔法・魔術の勉強が大事であるのと同様に、今受けている教育を疎かにしていい理由はない。やるべきことには存分に励めよ」


口調や身振りは若干ふざけているものの、真面目なトーンで話をする。


だが、そんなことは誰でも分かっていることだろう。それより気になるのは先生がわざわざ付け足した“全員に対しては”という文言。普段はそんな言葉はつけない。つまり、


「それと、洗馬とハルネに連絡事項だ」


そんなところだろうと思った。今回は隣のお嬢様も一緒ということは、おそらくクラス委員関連のことだろう。


「放課後になったら、各クラスのクラス委員を集めた集会がある。それに出席するように。場所は一階の多目的ルームだ。」


「……分かりました」


「分かりました、日出先生」


二人で返事を返す。なんだかんだクラス委員になっての初仕事だ。しかし全クラスを集めて何をするつもりなのだろうか?


「楽しみだね、颯」


小声で話しかけてくるお嬢様。


「そう、だな……。」


しかし、その問いには素直に応じられなかった。それは心配事があるから。


「とりあえず今日のところはこれで終わりだ。では1日励むように」


そう言って出て行く先生たち。やることはとっととやってさっさと終わらせる主義だから毎日こんな感じだ。そのまま少し経ってから、今日の授業が始まった。


特に何事もなく、今日一日の授業が終わった。いつもよりクラスメイトたちが疲れているのは、今日のどの授業でも、


「中間考査が近づいてきたから」


という理由で小テストが実施されたから。特段難しくはなかったのだけれど、それは人それぞれか。


「疲れたぁ〜……」


「お、お嬢様。はしたないです」


隣のお嬢様もぐったり机に伸びている。まぁほぼ全ての科目でそれがあったら疲れるか。


「大丈夫か、そろそろ行くぞ?」


「そ、そうだった。行かないと」


その言葉に反応して立ち上がる。


「部屋までお供します」


「わ、私も!」


近衛騎士と福島がそう宣言する。この二人はお嬢様の行くところにほぼほぼついてくる。


「さ、行きましょう。」


お嬢様の号令で四人で歩き始める。クラスのすぐ横にある階段を降り始める。


「そういえばグッタリしてたけど、もういいのか?」


「ええーっと、あれはその……、小テストが、ね?」


そんな理由だろうとは思っていたけど。しかし一見頭良さそうに見えるが、そうでもないのか?


「そういえば、颯の方こそ朝、私の質問に曖昧に応えてたわよね? それはどうして?」


「あぁ、それは……」


それに答えるか否かというところで、一階にたどり着く。同時にその向こうに人影を確認する。


「……ガロスヴォルド・フォン・ヴァルモーデン」


ようやく覚えた金髪オールバック野郎。少し前に突っかかってきて、俺たちの魔法に関することを学園に全公開したやつ。


俺の心配事はこれだ。


あの金髪オールバックは、初めて会った時も何人か引き連れていたし、その時点で実力があることは窺えた。そんなやつだから、クラス内戦は間違いなく勝ち上がっているだろうと思っていた。だからこそ、こいつと出会うのが本当に嫌だったのだ。


「おやおや?」


向こうから声がかかる。


「場違いな人間が二人いるけど、一体なんの目的なのかな?」


「…………」


「あぁ、そっか、付き添いか。それはそうか。魔法しか使えないペアが勝ち上がれるわけがない」


「…………」


「もう目的地なのだから、……とっとと立ち去ったらどうなんだ? 目障りだ」


余裕をひけらかす素振りから、突然本気のトーンに変わる。これも前見た通り。


「……悪いが、俺たちはちゃんと勝ち上がってここに来ている」


「……は?」


「そうそう思い通りに行くと思うなよ、金髪オールバック」


この間は散々な目に合わされた。少しくらい言い返したくなった。


「……チッ。さっさと行くぞ」


「は、はい……」


恐らくはパートナーであろう男子が付き従って行く。あんなやつのパートナーとは、少し同情する。


「颯……」


やつを前にしてからずっと袖を掴んで離さず小さくなっていたお嬢様。


「気にしなくていいさ。あいつへの対応は俺がやるよ」


「……ありがとう」


ようやく笑顔が戻る。



「颯……?」



俺の名前を呼ぶ声が聞こえてきたのはそんな時だった。


それは隣のお嬢様でも、後ろにいた近衛騎士でも福島でもない。聞き慣れない声。にもかかわらず、何故か聞いたことがある気がする声。


その声の発生源、後ろの方を四人で振り返る。


「颯!」


後ろに女子が二人いることを脳が認識したときには、そのうちの一人が既に駆け寄ってきていた。


「はやてぇ〜〜〜〜!」


その女子は踏み切って、俺に飛びついてくる。


「ぐえっ!? いっ!!?」


その勢いに身体を保てず後ろに尻餅をついてしまう。


「ようやく会えたね、颯! 本当はもっと早く会いに行きたかったのに、出来なくてごめんね。でももう大丈夫、ずっと一緒にいるから!」


「は? は?? は???」


何がなんだかさっぱり分からない。それは残りの三人も同様だ。


けれど、何故かその声は懐かしく感じる。容姿には何か覚えがある。頭をフル回転させて、その懐かしさの訳を探り出す。


「……もしかして私のこと、覚えてない?」


「……は?」


「私だよ、颯。ずっと隣に、一緒にいた……。」


「……!」


その言葉で、一つの記憶にたどり着く。


ずっと忘れていた、両親が死んだ前後の記憶。すっかり忘れてしまった過去。


突然蘇ってきたその記憶の中で思い出した、ずっと一緒にいた一人の女の子。


「まさか……。」


「思い出した?」


「悠、花……?」


「うん!」


返事と同時に、身体を寄せてくる。

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