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戦いのあと。

「んっ……」


目を覚ますと知らない天井。


「颯!」


声と一緒に手に温もりを感じる。声の方を向くと、心配そうな顔をしてるお嬢様。


「ここは……?」


「保健室。あの後倒れた颯を先生がここまで運んできたの」


「……あぁ」


説明を聞きながら身体を起こす。


「寝てなくて大丈夫?」


「頭がボーッとするし若干頭痛もするけど、まぁ大丈夫だろう。」


「なら寝てなくちゃダメ!」


そう言って身体を無理に寝かせにかかる。


「いや、ほんと大丈夫だから。むしろ寝てる方が退屈だからせめて身体は起こさせてくれ!」


「……本当に大丈夫なの?」


「大丈夫だ」


「分かった。颯がそう言うのなら」


なんとか起き上がっている権利は得る事ができた。


「そうだ」


「?」


後ろを振り返って何かも持ち出す。


「これ、優勝記念だって。本当はペアで貰う物だったんだけど、颯は保健室に直行だったから私が一人でもらってきたの」


「楯って……、あくまでクラス委員を決めるための戦いだったよな?」


「これに名前を刻まれたパートナーがクラス委員だって証明になるみたいよ」


「……なんとも不思議な事で」


いや、よく考えたら魔法だとか魔術だとかを使ってる時点で既に不可思議な学校だった。今更この程度驚くほどのことじゃない。……魔法なんて使ってから、俺はこの学校に毒されすぎてる気がする。


「あと、これもだって」


「……はい?」


彼女が手に持っていたのは、二つのリング。


「……ナニコレ?」


「何って、ペアリングよ?」


「いやこれ、嘘だろ……?」


「優勝記念品だって。裏側に名前が刻み込まれてるの」


そう言って手渡された二つのリングの裏側には、確かにそれぞれの名前が刻み込まれていた。


「って、いやいやいやいや。優勝商品だかなんだか知らないが要らんって。直ちに押し入れ行きの代物でしょ」


「……私は、颯とつけていたいな」


「うぐっ……」


だから身長差を利用した上目遣いは本当にやめてくれ……。


「……はぁ、分かった」


仕方なく、このお嬢様の提案を受け入れることにした。どうにもこのお嬢様に対しては甘くなっている気がする……。


「じゃあ颯、手を出して」


言うが早いか、彼女は俺の右手を取って、その薬指にリングをはめる。


「……意外とぴったりはまる物なんだな」


「魔術の力で自動的に指の太さに合わさるって」


「……あぁ」


魔術っていうのは本当、何でもありらしい。


「颯、私にもお願い」


彼女は迷うことなく左手を差し出してくる。


「……なんで左手?」


「なんででしょう?」


「…………」


からかっているのか、本気なのか。このお嬢様の考えることはイマイチ理解できない。


しかし、リングなんて今まで買ったことないし、どこにどうつけるかとかその意味すらよく分かっていない。もちろん唯一分かるのは左手の薬指。だがそれは流石に……。


「はぁ」


一つため息を吐いて、彼女の手を取る。リングをはめる場所はもちろん薬指ではなく、


「……小指?」


「そ。薬指以外ならどこでもいいと思ったし、とりあえずここで」


「…………」


「不満ですか?」


「……ううん、大丈夫。ここがいい」


ひとまず喜んでくれるようでよかった。


ホッとため息をついた瞬間に、指輪を見つめる彼女の瞳から涙がこぼれ落ちていく。


「えっ? ちょっ、えっ??」


「あれっ……なんで、ごめんね……私、嬉しくて……」


なんとか涙を止めようと目元をぬぐい続ける。


「っ」


そんな手を片方握る。


「颯……?」


「……別に泣いてもいいし、そんなことでで謝るなっての。誰だって泣きたいときはあるし、そんな時に我慢する方が絶対に悪い。だから、なんだ、俺は気にしない」


「颯…………」


その言葉を最後に、彼女が押さえ込んでいたものは完全に決壊した。


「…………」


何もいうことはない。ただほんの少しだけ慰めになればと、頭を撫でるのみだった。


彼女は内に秘めていたものを全部吐き出すまで泣き続けたのだと思う。それがどれくらいの時間だったかは分からないが、そのあとの彼女にはちゃんと笑顔が戻っていた。


「ありがとう、颯」


「……どういたしまして、お嬢様」


「あっ、そうだ! そう、それよ!」


「?」


「ず〜〜〜っと前から思っていたのだけれど、どうして私のことを名前で呼んでくれないの?」


「そ、それは……。わざわざ呼ぶ必要ないだろう?」


「さっきの戦いの最後で呼んでたのに?」


「うぐっ……」


あの時は、なんか感極まったというか、とにかくテンションがおかしかった。そのせいでつい叫んでしまったのだ。


「なので、颯もこれからはちゃんと私のことを名前で呼んでください!」


「え、……嫌です」


「どうして?」


「それは……、カーテンの隙間から見てるあんたの近衛騎士がそろそろブチ切れそうだからです」


「へっ?」


「なっ!?」


二人の声は重なり合う。


ベッドからカーテンを掴んで引っ張ると、そこにいたのは近衛騎士と福島、あと日出先生と上松先生も。


「エ〜〜〜ル〜〜〜!!!」


「も、申し訳ございませんお嬢様! ですが心配でして……」


「なんだよ颯。せっかくなんだから薬指にはめてやればよかったのに」


「そうだよ! ハルネさんの勇気を踏みにじるのはどうかと思うよ!」


「その様子ならもう大丈夫そうね。でも今日は絶対安静よ? それはそうと、リア充は即刻この神聖な保健室から出て行って欲しいのだけれど……?」


「そうだ洗馬颯、お前にも言う事があった。お嬢様のパートナーであることは認めてやる。だがお前自身のことを認めたわけではない。もしお嬢様に何かしたら即刻斬り刻んでやるから覚悟しておけ! それと、お前のことは本家に……」


「エル、そんな話は後! 颯! 私の名前!」


「お嬢様の名を呼び捨てにしたらどうなるか、分かっているんだろうな……?」


「なんだ、別にいいじゃんか。敗者に口無しだぞ、エル?」


「日出先生には関係ない話です! これは私の従者としての使命で……」


と、全員が一斉にめちゃくちゃに喋りだす。


「あぁもう! 順番に話せっての!!」


戦いのあと、こんな風に誰かと話したのはいつ以来だろうか。こんな祭り状態、やかましいったらありゃしない。……でも、それがほんの少しだけ悪くないと思うのは、きっと。





だから、恩返しはまだ始まったばかりだ。

初めまして。広川恵(ひろかわけい)と申します。


ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます!

第一章はここで完結です!


感想とかもまってまーす!


ではでは。


追記:第二章も始まりました、よろしくお願いします!

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