魔法・魔術戦闘、VS贄川・紺野。
「っ!」
開幕の攻撃。もう慣れた攻撃は彼ら二人に一直線。
しかしそれは彼らも同じ。慣れたということは対処も簡単だということ。真っ直ぐ飛ぶだけの矢は横に飛ぶだけで避けられる。
「Instantaneous Wind」
そこに追撃をかけるために、瞬発風力で贄川の元へ跳んでいく。
「Light Blade」
その間に手に短刀を用意する。
「まさかいきなり近接戦とはね」
そんな俺の第二撃も贄川は避けてみせる。
「それも作戦だ!」
三撃、四撃、五撃と攻撃を追撃を止めない。だが贄川は後ろ飛びで逃げ続ける。
しかし避けられることは想定内。こうして短い間合いのうちにいれば、たとえ透明化しても対処は可能。それを狙った近接戦なのだ。
「甘いよ、颯!」
にも関わらず、贄川は透明化をする。
「なっ!?」
それに対処するべく剣を振るおうとするが、その先に魔法陣を準備させた紺野の姿が見える。
「っ」
単純な魔法魔術の威力では勝ち目はない。紺野から発射される魔術を避けるべく、瞬発風力で急ぎ横っ跳び。
それを見た紺野は魔術の発射を中断。
「……やられた!」
贄川の姿を完全に見失った。
贄川は逃げながら紺野との一直線上に俺を誘導していた。その上で姿を消すことによって、俺の視界に紺野の姿を写す。紺野が魔術発射態勢だと俺が知れば、防御できない俺は必ず避ける。それによって俺は贄川を捕らえることは不可能になる。
「がっ!?」
着地した瞬間、横から何かの攻撃を受ける。見えない何かの衝撃で吹っ飛ばされた。が、すぐに体勢を戻してその場から離れ、お嬢様の元まで後退。
そしてついさっきまで俺がいた場所に姿を表す贄川。
「甘いよ颯。この短い期間で成長しているのは君達だけじゃない。僕も少しは成長したのさ」
「……」
「透明になりながら、魔法なら使えるようになっているんだよ。まぁ魔力量の関係で魔術は使えないままだけどね。まずは君と同じ瞬発風力、それで跳んだ君の懐まで僕も一緒に跳んでいたんだ。そしてBlow Windで君を吹き飛ばした」
「……そんな素直に喋っていいのか?」
「魔法それ自体を透明化することはできないから、構わないよ。まだ透明化は僕には欠点の多い力だ。それに魔法合戦をするつもりはないからね。だから、ここからは魔術で君を圧倒する!」
「Wind Blaster!」
彼が横跳びした瞬間、その奥にいた紺野から魔術が発射される。
「Multiple Border、Inviolable Field!」
それに対応したのはパートナーであるお嬢様。この時間の間に魔法は組み上がっている。その時間稼ぎには成功した。
紺野の魔術が衝突した瞬間、この防御結界の真価であるクラッシャブル・ストラクチャーが作動。第一膜は四散するが内部の第二膜以降は無事。
「……なるほど、それが昨日あの滝を防いだ正体みたいだね。何層にも巡らした魔法結界、しかもその一つ一つになんかの仕掛けがあるみたいだね」
「……っ」
「じゃあ全部の層が壊れるまで魔術を打ち込めばいいわけだ!」
そうして二人同時に魔術攻撃を仕掛けてくる。一枚、また一枚と層は削り取られていく。
「今しかない」
結界が削り切られない間に、魔法を完成させる。目をつぶってイメージを練り始める。
「昨日と同じように。足し合わせるでも混ぜ合わせるでもない、重ね合わせるんだ。それできる魔法陣……」
昨日と全く同じものが頭に描かれる。それを現実のものとするべく、腕を振り上げる。
「Light Arrow+Light Arrow、Superimpose!」
「!?」
その言葉にいち早く反応したのは贄川。上を見上げる。
「魔方陣が二つ? でも魔法じゃ! 吹き荒れる風により、外からの攻撃を弾か……?」
そう言って防御の魔術を唱え始めるが、展開途中の二つの魔方陣がおかしな動きを始め、それに驚いて詠唱を中断する。
「……なんだ? 何をしている?」
そう、それはあり得ない動き。完成間近の二つの魔方陣が一つに重なり合わそうとしている。
「バカな!?」
贄川からはそんな声が聞こえてくる。
「何をしているんだ、あれ?」「何が起こってる!?」「こんなこと……!?」
その同様は観客席も同じ。誰も知られていないことをやってのけているのだからこの反応は当たり前だ。
そうして出来上がった魔方陣。他の魔法・魔術と何ら変わらない円状の魔方陣。だがその中心に描かれた図形。空属性を示す星が二つ、反転して重なり合っている。
「Raining、Coordinate specify Shooting!」
最後の詠唱と共に、腕を振り下ろす。完成した魔方陣内では、重なった星はそれぞれが違う方向に回転し始める。そして、矢の雨が二人の元に降り注ぐ。
「避けろ、紺野!」
贄川は何かを悟ってその場から飛び去る。
「魔法攻撃なら魔術で! Wind Circular Escutcheon!」
しかしそれを聞かず、紺野は魔術防御を展開する。
だがその見通しは甘かった。始めはシールドが矢を弾いていたが、徐々にヒビが入り、すぐに崩壊する。
そこにさらに矢の雨が追撃。紺野のHPゲージを持っていく。
「……何をした、颯。こんなこと、あり得ない」
「贄川。お前のいう通りだよ。俺も同じように、成長したのさ」
〜〜〜〜〜〜
「さて、お主のは……」
俺の手元に届いた本を見て、表情が険しくなるロリ老女。
「?」
「まさかこれが来るとはな……」
「???」
何を言っているのかさっぱりわからない。
「……守勢魔法と違って、攻勢魔法の強化はほとんどの者ができなかった。だから、魔法をどう当てるかという部分に注力していった。じゃが、たった一人だけそれを成し遂げた者がいる」
「たった一人?」
「その者は名前を名乗ることもなく、ただそれだけを披露して、資料を残して、いつの間にか姿を消したんじゃ」
「……なんだそりゃ」
「わしも、わし以外の者も同じことを思っておるよ。じゃが、そうして残された資料、これがまた問題なんじゃ」
「?」
「簡単に言えば、誰も再現ができなかったんじゃ」
「……はぁ?」
「じゃから、誰も再現できておらんのじゃ!」
「?????」
訳がわからない。誰も再現できないってどういうことだ?
「というわけで、結局すぐに忘れられて誰も覚えておらんかった。わしもそんなものがあったなというくらいの記憶しか残っておらん」
「なんだそりゃ!」
そんな実現不可能なものを渡して、どうしろと言うんだ?
「わしもあと一歩のところまでは行けたんじゃが、そこでどうしても失敗したんじゃ……。それで結局放置しっぱなしじゃ。それにじゃ」
「それに?」
「魔術が使えるから必要ないからの」
「……そりゃごもっとも」
いちいち神経を逆撫してくれるロリ老女だ全く。
「まぁそう怒るでない。わしはこれでもこの魔法についてはかなり調べこんだんじゃ。じゃから、たどり着いた部分まではちゃんと教えてやる」
曰くこの魔法は、二つの魔法を足し合わせ通常よりも攻勢魔力量を得ようという考え方をしているようだ。
だが完成された魔法が混ざり合うことは決してない。だったら最初から完成している魔法を組み上げればいいという考え方になるが、それも失敗に終わったらしい。
しかもこの魔法の資料がまた問題だらけなのだ。この資料、謎の文字でほとんど解読できない上に、図なども無いから魔法の様子は伝承でしか残っていない。その伝承も、この超絶長生きロリ老女以外はもう覚えている者はほぼ存命ではないそうだから、結局忘れ去られていったらしい。
どうしても悔しくて、このロリ老女は一生懸命謎言語を解読して魔法の魔法陣と事象結果とを解読したらしいが、肝心の魔法の足し合わせる具体的な方法が書いていなかったため、結局失敗に終わったそうだ。
「……これを残した人は、間違いなく伝承させるつもりなかっただろうな」
「その意見には賛同するほかないな。じゃがこの大樹が選んだということは、お主なら出来るかも知れんということなのじゃろう」
「…………」
どのみち選択肢はない。やるしかなさそうだ。
「……じゃあ、教えて下さい。この謎の魔法を」
「うむ」
〜〜〜〜〜〜
「重統魔法。それがこの魔法だ」
名前のなかったこの魔法に、昨日あのロリ老女が名付けたのがこの名前。
「……やばいねこれは」
攻撃を受けた紺野の元に駆け寄りながら、今の魔法を思い出している。
「でも、連射はできないみたいだね」
「…………」
確かにこの魔法もとある事情からかなりの集中がいるため連射はできない。それでも魔法完成までかなり短く仕上がっているのはあのロリ老女のおかげだ。最もこの魔法の創始者は、これを無言でマルチアクトして連発までしていたそうだが。
そのまま立ち上がると、両手を上げ始める。
「っ」
俺もお嬢様も、次なる魔術を警戒する。
「降参。降参しまーす」
だが贄川の動きは予想とは正反対のものだった。両の手を上げて、降参のポーズ。
「…………は?」
「いやいや、魔術に対抗できる魔法攻撃と魔法防御にはどうしようもないよ。こっちが攻撃したら防御されて、その間に攻撃されたら終わりだし。反対に防御していても、半端な魔術じゃ防御しきれないそうだし。流石にそんな高等な守勢魔術は覚えてないからね」
「「…………」」
二人とも拍子抜けしてしまった。Winner表示は出るものの、まだ受け入れられない。
「……本当、よくわからないやつだ」
「まぁまぁ、そんなこと言うなって。僕は別に喧嘩したいってわけじゃないんだからさ」
「その割には本気で戦えとか言ってた気がするが?」
「君の本気は見たかったしね。洗馬渚と洗馬可奈の子どもらしい戦いだったよ」
「……そうか」
結局最後の最後まで贄川の考えることは分からないまま、準決勝は幕引きとなった。




