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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第六節:颯とハルネ、二人で最強の魔法使い
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戦いは苛烈を極め。

翌日。今日は二回戦目の計四試合が行われる。


「第二回戦第一試合、福島夕陽&エル・イングラム対多治見寛太・古虎雅俊」


4人の名前が呼ばれる。


これが近衛騎士チームの、このトーナメント初陣。優勝候補筆頭、全力の近衛騎士と福島を見ることができる。


「それでは、試合開始!」


そうして、第二回戦の火蓋が切って落とされる。


多治見は昨日と同じように、ホルスターからハンドガンを取り出して連写態勢。魔力を込めるだけでそれを銃弾化して連射まで可能なのは、あの武器最大の強みだろう。


しかも初心者にも扱いやすい武器だ。その部分に着目したのか、今日は古虎も同じようなハンドガンの引き金を多治見と一緒に引いている。両者フルファイア、攻撃だけに徹している。


「多治見くん、古虎くんにも銃を貸してるみたいね」


「魔力を込めるだけで銃弾化と発射を自動化してくれる。それなら古虎にも扱えると踏んだんだろう。近衛騎士の得意戦法はあの剣での接近戦。それを嫌って中・遠距離で戦うのは当然の選択だと思う」


だが、魔術の発射が少しでも遅ければあの近衛騎士はあっという間に間合いを詰めてきてしまう。それを考えて、連射速度にも一目置けるあのハンドガンを古虎に貸すという選択をしたと考えられる。先週の戦いを踏まえ、分析した上でのいい選択だ。だが、


「……あまりにも相手が悪すぎるな」


その銃弾を捌き切ってしまう化け物の姿がそこにあった。しかも彼女の後方、後ろの福島には一弾も命中していない。


「この間とは刃の色が違う……」


前回はアヴァンクの力を封じ込めた蒼い刃。だか今回は白く輝く刃になっている。


「エルはアヴァンクを受け継いだけれど、それ以外にもう一つ、ずっと練習してきた剣があるの。それがあの剣、Radiance Sword。エルは一刀流剣だから、時と場合によって使い分けをしているみたいだけれど、慣れている分あの方が扱いやすいみたい。特にああいった速い物体に対応するときには、こちらを好んで使っているわ」


というのがお嬢様の解説。なるほど、俺が入学初日の寮で首に突きつけられたあの白い刃はそっちの方だったのか。


とは言え、いくら扱い慣れていると言ってもあれを捌き切るのは恐ろしい。本気を出した近衛騎士はやはりやばい。


「お待たせ、エルさん!」


福島の声を聞いた瞬間、銃弾を捌いて高く飛ぶ。そうして、ようやく多治見、古虎の前に姿を現した福島の両手には魔方陣が完成している。


「Radiance Laser Light!」


最後にそう宣言すると、手のひらの魔法陣からレーザー光線が一直線に彼らに向かっていく。


あれは、俺が彼女たちとの戦いで無理矢理使おうとした魔術「光輝切断」。光を収束させて指向性も持たせた、いわばレーザーを撃つ魔術。細く束ねれば貫通力に優れ、あえて大きく束ねれば効果範囲を広げられる。術者の意向によって使い分けができる汎用性の高い魔術。


なんとか止めようと銃弾を撃つが、レーザーに炎など通用するはずもない。避ける間もなく彼らは光線に焼かれ、あっという間にHPゲージが吹き飛ぶ。


「勝負あったな」


しかも圧倒的な力の差。誰もが息を飲んで、ゾッとした。……本当に勝てるのか?


「二人ともおめでとう!」


戻ってきた2人に労いの声をかけるお嬢様。


「お褒めに預かり恐縮です、お嬢様」


「ありがとう、ハルネさん。ハルネさんも頑張ってね」


「私も応援しています。頑張ってください、お嬢様!」


「ありがとう」


そんな会話をしている。


「……洗馬颯」


不意に近衛騎士から名前を呼ばれる。


「……?」


「お前は、一体何を考えているんだ?」


「何って?」


「最初はお嬢様や周りの人間を遠ざけることに従事していた。それに戦うことすら嫌がっていた。それが今はお嬢様と行動を共にして、この戦いにも真剣に向き合っている。一体何を企んでいる? 何を考えているんだ?」


睨んできているわけではないが、やはり不審には思っているらしい。確かに、前と態度を180度変えているのだから仕方ない。


「……別に、何か企んでいるわけじゃないさ。これはただの恩返しだ」


「恩返し?」


「そ、ただの恩返しだ。」


「颯、それってどういう……?」


「話はまた今度、二戦目が始まる」


無理矢理話を遮って、彼女たちの意識を逸らす。実際に二戦目が始まろうとしているのは事実だし、近衛騎士たちにとっては次の対戦相手が決まる大事な一戦。見ないわけにはいかない。


二試合目は、一回戦で魔術の応酬に競り勝った田立・坂下ペアと、羽虫で会場を恐怖の底に陥れた木曽・十兼ペアの戦い。


「汚物は消毒!!」


という宣言の下に、田立・坂下ペアの先制にして超広範囲攻撃が炸裂する。彼女たちを中心にして、フィールド全面を炎の壁が広がっていく。その攻撃の豪快さにみんなが沸いた。


虫たちには魔力を効かせているから灰になって消滅という事はないが、熱にやられて全ての虫がひっくり返って動けなくなった。その様子にショックを受けて、あっという間に二人は降参。観客席とは違い、虫好きの2人には暗く重いムードが漂っていた。


こういう風に戦う範囲が狭く限定されている場所はただでさえ戦い辛いのに、そこに範囲攻撃をされると非常にやりにくいようだ。


その後、ひっくり返った虫一匹一匹を回収するために試合がしばらくの間中断された。


だいたい20分くらいで回収は終わり、ようやく試合は再開される。


「第三試合、贄川翔太・紺野定光ペアvs春日莉子・勝川泰子ペア」


次の試合も注目の一戦だ。昨日恐ろしい力を見せた贄川・紺野ペア。それに対して春日・勝川ペアはどう対抗するのか。それに加えて、俺たちがこの後勝った場合、この試合の勝者と明日戦うことになる。だからこそちゃんと見ておかねばならない。


試合開始の宣言と同時に動いたのは春日。


「煉獄の檻、熱の檻。元より熱く発せられる力、敵を封じ込めん! Prominence Prison!」


彼女から出ているものは炎の輪。それが贄川たちを取り囲む。その中に囚われた2人は動けないでいる。円状の炎の檻、抜け出すのは容易ではないだろう。


「……熱を操る力か」


それは春日の持つ力の正体。


彼女の一家は熱を操る力を持っているらしい。その力を受け継いでいる彼女は、空間の気温を操作するなんて大それた事はまだできないものの、ああいった超高温を巧みに利用する方法を使ってくるらしい。


それが、贄川が開幕に透明化しなかった理由に繋がる。彼女は熱を操る分、熱に敏感に反応する。要は、生ける熱源センサーのようなものだ。いくら透明化したところで、自身の発する熱まで無くすことはできない。


今回も彼にとっては天敵と呼べる相手らしい。そういう奴と二連戦とは運がないとしか言いようがないが。


「下手に魔術を打っても、爆発してその余剰波で自分たちの方が危険になるな。じゃあ昨日と同じようにプランBかな……」


「させると思う? 泰子!」


「えぇ! Indefinite Shot!」


今度は勝川が動く。檻の中にいる二人の後方に魔方陣が浮かび、そこから鋭利な石の数々が飛んでいく。


「そんな簡単じゃないよね!」


二人は当然避けるが、その場所に別の魔法陣から同じような攻撃が狙う。そんな四方八方の攻撃が連続する。


「檻の中で無差別に四方八方から攻撃してくるとは……。案外えげつないことするね、二人とも」


「うるさいわね! あんたも人のこと言えないでしょ!」


「確かにね」


言いつつも、攻撃は確実に避けるか防御するかしている。だが、この状態では昨日の暴風の魔術は使えない。昨日もわざわざ紺野に防御を頼んでいたのだから、発動に相当の集中がいるのだろう。


「……本当は明日に取っておきたかったけど、仕方ないね」


初めて贄川の顔つきが変わる。今までは笑顔でありながら、底にあるものを悟らせないような顔をしていた。それが初めて、真剣でありつつもそれが少し苦であるような顔をする。


「神速にして不視。それは切りつける怪。風が生み出す傷。その名は鎌鼬!」


詠唱と共に、魔方陣は完成する。にもかかわらず、何も起こらない。


「……なに?」


「……なんなの?」


魔術を発動したのになにも起こらない、そんな状況に春日・勝川の二人は困惑する。


「……失敗したの?」「いや、魔方陣は完成してたし、失敗ではないはず……」「でも、なにも起こってないよ?」「鎌鼬? 聞いたことのない魔術だ……」


その困惑は観客席も同じ。全員が同じようになにが起こったのかを理解できていない。


だが、変化は間を置かずに現れ始める。


「キャッ!」


勝川が突然倒れ込む。横から何か力を受けたような倒れ方。


「えっ!?」


直後、春日も突然吹き飛ぶ。


それによって、炎の檻も四方攻撃も消失していく。


「な、なんなの!?」


周囲を警戒する春日。だが、なにが起きたのかさっぱり理解できていない。今度は後ろから攻撃を受けたように倒れ込む。


「!?」


「颯?」「?」「??」


不意に立ち上がった俺に、ハルネ、エル、福島の三人がこちらを向く。


「なんだ……あれ?」


何かが……。いや、姿は見えない。だが……。


「確かになんだろう、あの攻撃……」


「目に見えない部分はともかく、春日さんの熱源センサーにも引っかからない攻撃とは……。なにをしているんでしょうか?」


「いきなり試合の流れが逆になっちゃったね……」


三人は何もわかっていないのか? じゃあもしかして……。


フィールドでは、春日も勝川も何もできずに、ただただHPを削られていくだけだった。


「勝者、贄川・紺野ペア」


第三試合はそのまま終わりを告げた。


「どうだった、僕たちの試合は?」


戻ってきた贄川が声をかけてくる。


「……性格の悪いやつなだと思った」


「昨日と同じ! 変わってないしひどい!」


なんて、あからさまにショックを受けている。


「じゃあ颯、先に待っているよ」


「…………」


そう言い残して席に戻る。


「第四試合、瑞浪成也・土岐由奈vs洗馬颯・ハルネ・グリフィス!」


四戦目の名前が呼ばれると共に、瑞浪への声援が会場中に響き渡る。


「……少しくらい俺たちを応援してくれてもいいんじゃないか?」


「ま、まぁまぁ。エルたちは私たちのことを応援してくれているし」


「……あれはあんたの応援だけどな」


振り返ると、「お嬢様! 頑張ってください!」と言っている近衛騎士。間違いなく俺のことは眼中にない。


「あ、あはは……。とにかく頑張ろう、颯。ね?」


「……」


まぁいいか。とにかく、目の前の試合に集中しよう。


「洗馬」


「?」


「大桑と野尻は油断していたから足元を掬われた。だが、俺は絶対に油断しない。いい戦いになるといいな」


「……そうか」


油断してくれた方が俺たち的には嬉しいのだが。というか、俺と戦う前に必ず話しかける風習でもあるのか?


「本日の最終戦、試合開始!」


「っ!」


開幕の宣言と同時、昨日と同じく無詠唱で矢を発射。


「Heat Circular Escutcheon」


着弾直前、たった一言の鍵言だけで炎の盾が生まれる。矢はそれに着弾して爆発を起こすが、彼らは無傷。


「アノマリーリサイトが自分だけの力だと思うなよ、洗馬。使い慣れた魔術でなら俺でもできるのさ」


「……」


「そうしてこの戦い、俺たちの勝ちだ。由奈!」


「来たれ滝水! 流れ落ちる大瀑布!!」


スタート時点から魔術を組み上げていた彼女が、その完成を宣言する。真上を見ると、はるか上に巨大な魔方陣と、そこから大量の水が落下し始めるのが分かる。


「今だ!」


「うん! Inviolable……」


俺たちは、滝の中に入って誰からも姿が見えなくなる。



〜〜〜〜〜〜



「お嬢様!」


観客席では、彼女のボディーガードのエルさんが立ち上がって叫んでいた。


「大丈夫だよ、エルさん。別に命を取るわけじゃないんだから」


そう言って睨みつけてくる彼女を宥める。


そう、これはあくまでゲームだ。命の駆け引きのない、ただの遊び。


だからこそ、少しくらいあの洗馬には痛い目を見てもらう必要がある。


入学初日に一人でいると言いながら、今はあのクラスのマドンナ、ハルネさんと一緒にいる。ハルネさんが何故か気をかけていることもよくわからないが、それを妬ましく思っている男子も多い。女性陣なんてほとんどがそう思っている。だからその罰を俺がクラスを代表して、彼に下してやる必要がある。


別に喧嘩しようというわけでもないし、彼を一人仲間外れにするつもりもないが、これはそのために必要な通過儀礼だ。ちょっとしたお仕置きを受けて彼が自身を悔い改めれば、誰でも彼のことを許すだろう。


俺はその手助けをしたに過ぎない。


何がともあれ、戦いは俺たちの勝利。洗馬もこれで……。


「ご、ごめんなさい。ちょっと濡れちゃったわ」


「むしろこれくらいで済んでよかっただろ。後でシャワー浴びないと絶対風邪引くだろうけど」


「!!?」


滝の水でできた霧の向こう、二人の影が浮かび上がる。首や腕を振ったりして、水気を払っている。


「……こんな水浴びをあせられるとは。だが、よくやってくれた」


「どういたしまして」


そんな呑気な会話をしている。


やがて霧が晴れると、髪や制服が濡れながらも、健在な二人の姿が見える。


俺たちのWinner表示も出なければ、二人のHPバーもまだ4/5程度残っている。


「ば、馬鹿な! なんで無事なんだ! 由奈の滝をまともに食らったのに!」


「なんでって、彼女が防御してくれたからだよ」


「そんなわけないだろう! お前ら二人は、魔法しか使えないはずだ。なんで魔術攻撃を耐えられる!?」


「……やれやれ、入学式に日出先生が言っていただろう?」


俺の言葉を聞いて呆れ返っている洗馬。


「自分の目の前で起きたことは真実だ、それを受け入れることが大事だって。そこのお嬢様があんたのパートナーの攻撃を防いだ。まぁ若干濡れたけど。それが事実だ」


「馬鹿な……。あり得ない……」


あり得ない。どうして魔法しか使えない彼女が、魔術攻撃を凌げる? そんな方法、見たことも聞いたこともない。


「まぁ、これは色々教わったからな」


「教わった……?」


「あぁ、森のハロウィンコスプレロリ老女にな」

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