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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第六節:颯とハルネ、二人で最強の魔法使い
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颯とハルネ、本当の初陣

「颯?」


フィールドに降り立った途端にしゃがみ込んだ俺を見て疑問を浮かべるお嬢様。


「……本当に濡れてないな」


「……本当だ」


それを聞いて彼女もしゃがみ込んで地面を触る。


気になったから触ってみたのだが、完全に乾き切っている。さっきまでここが水浸しだっったとは思えない。


「……すごいと言わざるを得ないな」


恐ろしい限りだ。あんなレベルになるなんて、到底想像できない。


「へぇ、あれが噂の問題児か?」

「見てる感じ、そんなに性格きつくなさそうだけれど?」

「いやいや、アレで人を近づけるなとかいうタイプらしいから」

「わぉ……。そりゃなかなかだな」

「それで、彼には守勢魔力が全くないと? しかもペアの子も攻勢魔法すらままならないって……」

「可哀想にね……」

「それでどうやって戦うんだ?」

「無理でしょ。瞬殺されそう」

「でもこの間、制限付きの戦いでは善戦したって聞いたが?」

「流石に冗談でしょう? 魔術が使えないんだよ?」


そんな声が観客席から聞こえてくる。それを聞いたお嬢様は少し俯き気味。


「野次馬の評価なんて気にしなくて良い」


「えっ?」


「勝手に言わせておけば良いさ。俺たちは目の前の戦いに集中だ。あのハロウィンコスプレロリ老女に色々と教わったしな。ほらっ」


先に立ち上がって、お嬢様に手を伸ばす。それを見たお嬢様はぼーっと呆けている。


「あっ……と……」


ついついやってしまった。こんなの俺の柄じゃないのに。慌てて手を引っ込めようとする。だがその前に彼女が手を捕まえる。


「うんっ!」


真っ直ぐな笑顔で立ち上がる。


「「「「「……ん?」」」」」


観客席からそんな声が聞こえてくる。あと、


「せ、ん、ば、は、や、て、ェ……」


そんな殺気も。やっぱりやるんじゃなかった。


「洗馬、ハルネ! 早くこい!」


「すみません! ほら、行こうっ!」


呼び出されて、若干の駆け足で中央部まで。


「さて、一応ルールのおさらいだ。魔法・魔術の使用は自由に可。打撃等の直接的な攻撃も可、ただし相手に重傷を負わせない程度とする。それだけだ。あと洗馬、お前の……」


「……エンラージメントは禁止、でしょう?」


「分かっているなら良い。では両者、一礼ののち握手」


お互いが一礼して、その後握手。


「洗馬颯」


そのタイミングで声をかけられる。


「お前には絶対に勝つからな!」


「お前には絶対に負けねぇからな!」


「「合わせろよ!!」」


最後の部分でズレが起きて、それについて言い争う。


「は、はぁ……」 


その様子に生返事を返して距離を取るために歩き始める。


「一体なんなんだ……?」


「みんな、颯のことを認めているし警戒もしているんだよ」


「……そうなのか?」


あんまり信じられないが。


ある程度の距離を取って、改めて向き合う。相手との距離感、自分の位置、ちゃんと把握した。


それから、ゆっくりと目を瞑る。


「それでは試合、始めっ!」


試合開始の宣言がこだまする。


「っ!」


瞬間、目を開いて指を彼らに向ける。コンマ数秒で、Light Arrowの魔方陣五つが完成する。それを見てすぐさま矢を放つ。


「火は回りうねり、外敵から身を守る。Fire Circu……って、は?」


なんらかの魔術の詠唱をしていたらしいが、それが終わる頃にはもつ矢は目の前。それに驚いて詠唱を中断してしまう。


「「ぎゃあぁぁぁぁ!?」」


叫び声から命中明らか。2人のHPバーも1/5ほど削れたから間違いない。


だが、まだ勝ったわけではない。追撃の手は緩めない。再びLight Arrow×5。


「「うわあぁぁぁぁ!?」」


次弾群も命中したようで、2人ともひっくり返っている。だからこの隙にどんどん相手のHPを減らしてしまおう。


「どわぁぁぁぁ!」 

「ひゃあぁぁぁぁぁ!?」

「ちょ、ちょっとまっ……うわぁ!?」


終始彼らからは叫び声が聞こえるだけで、なんら魔法・魔術が飛んでくることはなかった。Winner表示がすぐに点灯する。


「……勝ったんで、いいんだよ、な?」


「……そう、だと思う、わ?」


あまりにも呆気なさすぎて、むしろ俺たちが困惑する羽目になる。観客席も呆然としていて、沈黙が場を支配する。


「ちょ、ちょっと待て! なんだあの発射速度は! 詠唱はどこ行った!」


それを破ったのは、攻撃を受けた大桑。立ち上がってこちらに駆け寄りながら、そんなことを言い始める。


「どこへって言われても、たかが詠唱を無くしただけだろう?」


「はあぁ!?」


「別に五連射は既に見せていただろうに。なんで防御しないんだ?」


「お前の無詠唱のせいだろうが! この間のアノマリーリサイト対策はちゃんとしてたわ! 余裕で防御間に合ってたわ!」


「???」


何がなんだか、訳がわからない。


「まぁ待て、お前たち」


いつの間にか日出先生もやってきていた。


「確かに大桑の詠唱は、この間の洗馬のアノマリーリサイトには余裕で間に合っていたな。だが、アノマリーリサイトの行き着く先ノンリサイト(無詠唱)、それを考えなかったのは間違いだったかも知れんな」


「……はい」


「にしても、そこまで日が経っているわけでもないんだがな。洗馬、どこでどうやって覚えた?」


「……それは企業秘密です」


「…………」


顎に手を当てて思案を始める日出先生。しかしすぐに、まぁいいかとため息をつく。


「さて、最後がちと物足りない試合になったかもしれないが、これで第一回戦は終わりだ。第二回戦はまた明日。今日はこれで解散だ!」


そうして今日の試合は全て終了した。



〜〜〜〜〜〜



「……見ておったぞ、お主たちのクラスの試合は」


放課後は大樹の図書室。ロリ老女の教育を受けるために今日も来ている。


「それで、どうでした?」


「……最近の学生はあんなにも弱くなっていたとは思わなんだ」


「「…………」」


「いや、勘違いするでないぞ? 粒ぞろいではあると思うぞ? 贄川家の透明化は有名じゃし、木曽家のインセクトテイムも、歴史は浅いが強さは知れ渡っておる。そんなことよりも、お主たちは今日の試合の反省、他のチームの分析、次の試合の作戦を練る、やることはたくさんある」


「そうですね、頑張ります!」


お嬢様は意気揚々だ。誤魔化された事はいいのだろうか?


「それで次はどうするの、颯?」


「次に関してはもう考えてある。ただ、その作戦の成功には、あんたの力にかかってる」


「と、言うと?」


「今から説明する……」



「……なるほどね。確かに私は責任重大だわ」


「正直これ以外作戦を今のところ思いつけてないのがな……。負担をかけるが……」


「ううん。大丈夫。私も少しは活躍しなくちゃ、颯ばかりには任せていられないもの」


やる気は十分で何よりだ。


「オティリエさん! お願いしてもいいですか?」


「なんじゃ?」


「あの、これなんですけど……」


「ふむ……なるほど。いいじゃろう。ただしいつも通り別室でじゃ。その間にお主はちゃんと昨日の続きをしておくのじゃぞ!」


「分かってます」


最近はあのお嬢様につきっきりで俺は半ば放置状態。信頼しておるからなんて言ってるが、本当だろうか? ……ハロウィンコスプレロリ老女って言ったの、そんなに怒ってるのか? 個人的には語呂が良くて好きなんだが。


「さて、やろうか……」



〜〜〜〜〜〜



『ピロリン』


「なんだ?」


端末にメッセージの通知音。しかもそれは、一緒に改めて作戦会議を行なっていたお嬢様も同じ。


「……上級生による、1-Aクラス内戦評価集?」


「私も同じ。というより、クラス全員に当てられているみたい。」


「見てみるしかないな」


メッセージを表示すると、まず最初に今日行われた七試合の上級生によるコメントが表示された。しかも一言二言ではなく、試合の分析や使用した魔術、今後の展望など事細かく記載されている。


「すごいな、これ……」


大樹の図書室で2人で話し合った以上に細かく調べられている。さすがは上級生といったところか。


「ちなみに俺たちの戦いはどんな風に書かれているのだろうか?」


自分たちの戦いを客観視した意見を聞けるのはありがたい。そう思った数秒後、見たことを後悔することになる。


「手抜きではないか」「手抜きすぎて相手に失礼じゃ?」「魔法しか使えないのは分かるけど流石にあれは……」「無詠唱で魔法連発という鬼畜」「完全に一人で戦ってる」「女の子の方何もしてない、どういう作戦?」


とかいう酷評の嵐。


「う〜わ……」


まぁこれは仕方ない。もっといろいろ考えていたのに、初撃であんな簡単に先手を取れるなんて思っていなかったのだ。


「そうよね、私、何もしてないものね……」


俺よりもお嬢様の方が明らかにショックを受けている。


「気にするな。明日は作戦的にそんなことにはならないだろう? それにこれくらい酷評されたら相手が油断してくれるはずだ。だから気にしなくていい」


「……うん」


とは言っても、自分の願いを叶えるために2人で戦っている以上、気にならないわけがないか。


「……ん?」


酷評の嵐の一番下、それらとは一線を画すコメントがあった。


「入学して一ヶ月の生徒が無詠唱を使えているという事実を大半が見ようともしていないが、これはあまりにも恐ろしいことだ。そんな人間が、あれだけしかできないとは思えない。そして一人で勝ってしまったということは、相方を含め手の内をほとんど隠して勝利することに成功していると言い換えられる。戦略的に最も優位な立場にいるのはこのペアだ。相方の力を含めて、今後の戦いで明かされていく力に興味がある」


誰のコメントだか分からないがものすごい深読みしてくれている。当人たちとしてはそんなこと考えていないのだが。


「こんなコメントもあるんだ、感じ方は人それぞれだ。だから気にしなくていいさ。それよりも明日のことを考えよう」


「……そうね、そうするわ」


そう言って、決心を宿した目を見せる。もう大丈夫だろう。

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