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なぜここに来ることになったのか。

なぜこの学園に来ることになったのか。


こんなことになって、改めてその時を思い出す。



〜〜〜〜〜〜



「ハーシェル学園???」


季節は冬、12月。外では身長を軽く超える雪が降り積もり、毎日どこかしらで除雪車か除雪をする人を見かける、そんな季節。


そんな時に職員室に呼び出しを受け、担任から聞かされたのは、ハーシェル学園からの入学推薦の話だった。


校内放送による呼び出しを受けた時、周囲はまた何かやったのかとザワついていたし、俺自身も()()()と思った。


だからこそ予想の遥か外にあったこの話を聞いた時、素っ頓狂な声になってしまっていた。


「そ、そうだよ……。えーっと、洗馬くんは、この学校のこと、知ってる、かな……?」


怯えた声で聞いてくる担任の女の先生。別に何か危害を加えるつもりは毛頭ないのだが。そもそも自分から何かをしたことはない。しかし、自身にまとわりついた噂が彼女を怯えさせているのだ。


「……まぁ、噂程度なら聞いたことがあります」


ため息混じりに担任の質問に答える。


この辺では、いやこの県を含めて周辺の中学生なら、そのほとんどが知っているだろう。それくらいその学校の噂は有名なものだからだ。



ハーシェル学園。全寮制の高校で、平均的な学費をしっかり収めれば、自分の部屋に三食ちゃんとついてくるという豪華なもの。


教育設備にものすごいお金がかかっていて、その資金を国や様々な一流企業が出している。卒業できればその様々な企業に勤めることが叶うなんて噂もある。


そういった大企業や国の機関とパイプを持つその学園は、どんな生徒、保護者から見ても夢のような場所で、そんな学校が存在すると聞けば、誰もがその高校に入りたがる。


しかしその恩恵を受けられる、つまり入学できる生徒は、学校から推薦状が来た者のみだという超特殊な制度という話がある。受験などで一切受けることができないなんて学校が存在する事実だけでも話題になる。


加えてその推薦状が来る人は完全にランダム。部活動とか勉強とかの成績は一切関係しない。入学した時には成績が悪かった者も卒業する頃には優秀になっていたなんて話もあった。そしてそれ選ばれる、一学年の人数も極端に少ないらしい。一学年3、4クラス程度。


そういう学校なら、普通はお金持ちの家の子が入ると想像しがちだが、それも違うという。自分のような、全然裕福ではない子供にも推薦状が届いたのだから、その噂の信憑性は確かなものだろうと、噂は確信に変わる。



「そ、そっか……。えっと、それで、せ、洗馬くんはどうするの……?」


「…………」


それを聞いて少し考えに浸る。まさか自分がその学園に招待されるなんてこと、夢にも思ってなかったから戸惑っていた。


「わ、私はいいって思うよ。洗馬くんは、多分近くの高校じゃない方がいいって思うし、そこなら今までの人たちも多分いないから……。それに今の、その……、住んでるところはあんまり居辛いんでしょう? ご両親のいない洗馬くんなら、全寮制の学校は嬉しいんじゃないかな……?」


「……」


「ヒッ! ご、ごめんなさい、失礼だったよね……」


別に失礼でもなんでもない。俺に()()()()()()というのは事実なのだから。


両親は、彼小学五年生の時宿泊研修に出かけている間に事故にあって死んだらしい。しかも宿泊研修中に、ちょっとした事故があって俺自身も怪我を負っていたから、それを知らされたのは帰ってきてからのことだった。


親戚は、両親が保有していた莫大な資産を欲しがったが、その後遺書のようなものが発見され、財産は全て俺に譲渡するという旨が書かれていた。それがあって、親戚の全てが親権を放棄することになった。


両親の実家、俺からすれば祖父母にあたるが、両親は元々望まれた結納ではなく、お互い家族とは喧嘩別れのような状態で家を出てきたようで、その子供を家で預かる気は無いと言ったそうだ。


そんなことがあって、その時から児童養護施設のお世話になることとなった。


ただ、とある噂と事実から、学校でも児童養護施設でも忌避されるような存在であった。学校では友達はおろか、人と会話することは滅多にない日々を過ごしていた。園でも年下の子供たちからは怖がられ、年上の人や育母の人たちからは危険視されていた。こうして担任と話したのはいつ以来だろうかというほどに、人との接触がない日々を過ごしていた。


別に俺は不良というわけではないし、そんなつもりはない。部活動には所属していないものの、成績も平均以上で学年でも上位に入っている。学校は皆勤賞で暴力行為を働いたという事実もない。普段は勉強して本を読むくらいの、普通なら目立たない学校生活を過ごしている。


だが周囲からすれば、『洗馬颯とは存在しているだけで迷惑な存在』なのだ。それは俺自身が一番に理解している。そこにいるだけで忌避される、絶対に関わってはいけない存在だということを。


そんな理由から、今いる児童養護施設が居辛い場所だというのは確かに事実で、そこから離れられるのなら願ったり叶ったりという部分はあった。最も、園から追い出されないだけ、感謝するべきなのかもしれないが。


それに、両親が残してくれた資産は予想よりもはるかに莫大で、高校に行く学費を支払えるくらいの貯金額は余裕にあった。


それらを総合して考えれば、今の俺にとってこのハーシェル学園への入学は魅力的であると言える。


「それに、全く関わりのない人なら洗馬君のことを知ってる人はいないと思うから、人と関われるようになるかも、よ……?」


「…………」


「ヒッ!」


いちいち怯えなくても、別に何かしたりするつもりはない。ただし、俺の噂を知っている人間は大抵がこんな反応なので、今更だった。


(別にどこに行っても今までと変わらない。ただ、周りに常に怯えられながら生きるよりかはマシかもしれないな)


そう考えて、答えを決める。


「……わかりました。先方には受諾の旨を伝えておいてください。施設には俺から伝えておきます」


「そ、そっか。それなら良かったよ」


「それでは失礼します」


椅子から立ち上がって、出口へ向かう。


「失礼しました」


静かに扉を閉める。


「はぁ〜……怖かったよぉ〜……」


「お疲れ様でした。それとおめでとうございます先生!」


「これで先生も出世コース間違いないですな」


「三年間あれの担任をやらされていましたからね……」


そんな声が閉じた扉から聞こえる。


これもハーシェル学園の噂によるもの。スーパーハイスペックながらも、入学者を選ぶ学校。ここに入学を許された生徒を育てた担任は、出世コース間違いなしという話がある。要するに、半分彼女の出世のための人柱(ひとばしら)にされたようなもの。


(ま、担任ということで三年間も迷惑をかけたのだから、それくらいの幸運があってもいいだろう)


これでもあの担任が自分のために、学校を追い出されないように尽力していたことは知っている。だからこそちゃんと感謝もしていた。それくらいの役得があってもいいだろうと思う。


(それに、なんの試験もなしに入学ができるとのことだったから、面倒な入試を受けずに済むなら願ったり叶ったりだな)


どんな学生であっても、入試イコール面倒というのは共通の法則だ。俺もその例に漏れず入試なんて面倒だとしか思えない、その辺りは普通の生徒となんら変わらない。



その後、天王学園からの入学推薦状が届いたことは瞬く間に学校中に広まった。


「なんであいつなんだ……。」「あんなクソ野郎に……。俺の方がはるかに運動はできるぞ。」「だったら俺は勉強はあいつよりも……。」「居るだけで周りに迷惑をかけてる奴が……。」


と、周りの俺に対する憎悪の念はより一層強くなった。誰も彼も俺にプラチナチケットが届いたことを信じたくないのだろう。


実際園に戻ってそのことを話した時も、誰一人としてそれを信じてくれる者はおらず、園長などは天王学園にまで電話をしていたくらいなのだから。


なによりもその招待状を受け取った俺自身が一番信じていなかった。なにかのドッキリではないのかとさえ疑っていた。できることなら他の誰でもない俺自身が、入学の理由を知りたいと一番強く願っていた。



〜〜〜〜〜〜



それが、俺がこのハーシェル学園に入学することになったきっかけ。


そして早くも、その選択を後悔し始めていた。


聞かされた学園の噂の真実。この学園に入学することになった本当の理由。それを聞いた最初の感想は。


「……やばい場所に来たな、これは」

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