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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第五節:颯とハルネ、二人の真実
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ハルネの急迫。

「はやっ、……」


みんなと話しているときに、ふと顔を上げた先に颯がいた。颯が皆のいるこの場所に顔を出すのは はじめてだった。だから呼ぼうとして、踏み止まってしまった。


颯は誰とも関わりたくないと言った。なら、今この場に呼ぶのは颯の意思に反すること。


そう思ってから再び顔を上げたとき、颯はもういなかった。


「……」


昨日は話が途中で終わってしまった。今日は今日でずっと颯はぐっすり眠っていた。あまりにも穏やかな眠り顔だったから、起こすのも憚られた。……寝ているときは、あんな顔をするんだ。いつもよりも子供っぽくて、可愛かった。


と、それは置いておいても、話の続きをしなければならないだろう。昨日颯は、私のことに気づき始めていた。あの戦いがあった後では仕方ないのだけれど。ならもういっそ、話してしまった方がいいかもしれない。


「ごめんなさいみんな。私、少し抜けてもいいかしら?」


「「「「えっ?」」」」


みんなの驚愕する声。


「どうかされたのですか?」「どこかお怪我でも?」「私たち、何か粗相を……?」


途端にみんなが言い寄ってくる。


「そうではないの。ちょっと用事があって……」


「それでしたら私めが参りましょうか?」


「ううん、エル。私が行かないと」


「それでしたら同行いたします」


「いいえ、多分エルがいない方がいいと思うわ」


「何故ですかお嬢様! ……まさか、何かお嬢様に……」


「そうじゃないの。颯に会いに行こうかなって」


「……洗馬颯に、ですか?」


これを言ったらエルがそんな風な顔をするのはわかっていた。みんなもあまりいい表情ではない。


「失礼ですがお嬢様、あの者に会いにいくのは賛成しかねます。お嬢様も既にご承知でしょう?」「そうですよハルネさん。あんなやつ……」「ルール違反で福島さんをあんな風にして、なおかつエルさんを怒らせて」「あまつさえハルネさんにもご迷惑をかけるような者を気にかける必要はありません!」


みんなエルに同調する。でも、


「颯って、そんなに悪い人なのかしら?」


「何かおっしゃいましたか?」


「ううん、なんでもないわ」


小声だったから聞こえていなかったみたい。


「颯とは昨日話半ばだったから、その話をしに行くだけよ。だから心配しなくても大丈夫」


「「「「……」」」」


みんな黙ってしまう。みんなの前で颯のことはあんまり話題にしない方がいいのかもしれない。


「お嬢様、それでしたら私も……」


「ううん、エルがいると多分颯も話し辛くなっちゃうだろうし。それにエルはみんなの教育係でしょう? だからそれをやっていて、ね?」


「……はい」


渋々だったが、納得してくれた。


「大丈夫よ、すぐに戻るから。ちょっと待っててね」


そう告げて、訓練室を後にする。


「えーっと、颯の位置は……えっ!?」


つい驚きの声を上げてしまった。


今時のスマートフォンと同じで、この端末にも位置情報の機能がある。そのシステムを活用した、特定の端末の位置を表示してくれる機能があった。それを使って、颯の位置を探すまでは良かった。


しかし、その位置が問題だった。颯の端末のある場所は、学園の裏山の山頂。颯が訓練室から離れてまだ5分も経っていない。あの裏山を登るのには15分くらいは必要だったはず。それなのにどうして颯はそんな場所にいるのだろうか。


「……とにかく、行ってみるしかなさそうね」


理由は颯に会ってから聞けばいい。とにかく山頂まで行くことに。


道はきちんと整備されていて歩きやすかったが、要所要所に階段や急な部分もあって、一人で歩くには 意外と大変な道のりだった。15分かけてようやく山頂部にたどり着く。


「わぁ〜……」


第一声は感嘆だった。


綺麗に整った草原。風が吹いて揺れている。空気が住んでいて、とても気持ちがいい。


その先、一番高い場所には一本の巨大な樹があった。とても大きな樹。一体何年生きているのだろうか。雄大で、ずっとこの場所で世界を見渡しているに違いない。


颯の位置は、ちょうどこの樹の場所。今見えている部分にはいないから、裏側にいるのだろうか。そう思って裏側に回り込む。しかし求めていた人物の姿はない。


その代わり、裏側に立て看板を見つける。


「『受願樹。この山の頂上に何年も生えているこの樹は、この地から常に人々を見守り、人々の願いを受け入れるものだと言われている。』。ロマンチックな伝説ね」


この山頂からずっと世界を見下ろしてきた。それを見た人たちがそんな願いを込めて名付けたのだろう。


再度周回を再開する。そのまま一周するも、やはり颯の姿はない。


「確かに場所はここなのに、どうしていないのかしら……?」


何度見返しても場所はこの位置を示している。さっぱり理由がわからない。


「もしかして、どこか壊れちゃったのかしら?」


考えられるのは端末の故障くらい。神秘の力が強い人は、精密機械を壊してしまうことがある。だからこの学園では魔法使い・魔術師専用の端末が配られている。そんな特別あしらえのものが、配られてすぐに壊れるとは思えないけれど。


「でも、本当に気持ちいい場所ね」


ぐっと背伸びをする。自分の故郷だったり、この国の都会とも違う、自然だけに囲まれた空間。自然と身体の力が抜けていく。柔らかい風と、揺れる草木の静かな音が、私を癒してくれているよう。


「受願樹さん、失礼します」


樹の根元に腰をかける。


そのまま樹の幹に身体を預けて、目を瞑る。時間がゆっくり流れて行って、微睡みに引き込まれてしまいそう。


「颯もこの場所を知っているのかしら?」


こんな素晴らしい場所を独り占めしようとしていたのだったらひどい。


しかし、端末上では場所はここを指していても、姿が見えない。でも、彼も今こんな風にゆっくりしているのだろうか。


このまま少し待っていれば、現れるだろうか?


「やーっと一人になったね、ハルネ」


「!?」


いくつもの足音と一緒に、自分の名前を呼ぶ声がする。その声で目を開ける。それはエルのものでも、クラスメイトのものでもない。そして、颯のような温かさもない、冷え切った声。


「ヴァルモーデン、さん……」


「そんな警戒しなくても、別に何もしないさ。それに、ちゃんと名前で読んで欲しいんだけどな」


「……」


「黙り、か。せっかく君にためにこんな地味な国の、田舎臭い学園まで来てあげたというのに」


「……確かに煌びやかとは遠いのかもしれないわ。それでも、この国のもつ文化は、他のどの国にもないかけがえのないものよ」


「ふっ。こんな国の肩を持つなんて、君は相変わらずだね。自分の国の魔術師の一人も守れないこんな国のことを」


大っぴらに手を広げながら笑いを堪えようとしない。一緒にいる人たちもそれに合わせて 嫌な笑みを浮かべる。


「……ところで、私に何か御用でもあるのですか?」


「いやなに、君が最近ご執心のパートナーとやらを一目見てみたくなってね。それで場所を調べてきてみたが、姿が見えないようだね。いったいどこに行ったのやら?」


「……」


「そんな怖い目をしなくても、別に何もしないさ。ただ、ほんの少しだけ、彼に立場の違いを知ってもらわないとね。あとは君が……」


「それはっ! ……颯には関係ないことよ」


「……確かにね。今現在彼は君に極力関わらないようにしている。それをこの後も継続してもらいたいだけさ。でも君が言いたくないなら仕方ない。それじゃあ一つゲームをしないか?」


「ゲーム……?」


「簡単なゲームさ。ちょうど新しい魔術を試していてね。君にはその実験台になってもらいたいのさ」


「魔術? 実験台?」


「別に君に危険はないさ。こちらの気が済むまで付き合ってくれたらいいだけさ」


「……わかったわ」


樹から右に少し離れる。


「交渉成立、だ。アウグスタ」


「えぇ」


そう言って、彼の腹心であり親戚でもあるアウグスタさんが前に出る。


「Schnell Infinitesimal」


私の方に伸ばした指先に、豆粒よりも小さい弾が出来上がって、発射される。耳を掠めて森の方へ飛んでいく。すぐに破裂音と木が折れる音がする。


「あははは。どんどんいくわよっ!」


次から次へと発射される弾丸。でもギリギリのところで躱せる速度だ。


また一つ、弾を右に躱した時。



ヒュンッ!



弾丸が制服をかする。驚いて顔を上げると、別の人が同じように私に指を向けている。


「言い忘れてたね。新しい魔術を試しているのはアウグスタだけじゃないんだよね。それにごく最小の魔力量だから、学校のセキュリティにも引っかからない。その分威力は劣るけれど。まぁ、だからせいぜい頑張ってね」


「っ!」


1対7。エルもいないこの状況では、逃げるしか選択肢がない。一目散に逃げ出す。目指したのは道を外れた森の中。


「逃すなよお前ら。あぁ、間違っても顔と胴体には傷つけないように」


「「「「「「は」」」」」」


そうして彼らも追いかけてくる。魔術を見せつけるために、あらゆる方向へ向けて発射し、芝生にいくつもの穴を開けながら。


そうして森の中を走り回って、弾から逃げ続けた。


どれくらい経っただろう。走り続けたら、私の背よりも少し高い崖の下に出た。完全な行き止まり、追手に半包囲陣に囲まれる。


息が切れてこれ以上は走れない。


「ずいぶん粘るね。けれどこんな山の中で、君も僕も汚れてしまった。そろそろ君も魔法を使ったらどうだい? 君お得意の守勢魔法をさ」


「それは……」


ようやく彼の本意がわかった。彼の本意は、魔法使用禁止の時間の間に魔法を使わせること。


どうして彼がその罰のことを知っているのかは分からない。それにどうしてわざわざそんなことをさせようとするのかも。


でも囲まれたこの状況だと、もうそれ以外に方法がない。


「さ、みんな。一斉にお見舞いしてあげな」


その声で、全員が指先に力を入れる。


ペンダントはまだ必要量に達していない。普通の魔法で守り切れるだろうか。それでも、何もいないよりかはマシだ。


「Pre……」

「何してるんだ?」


突然、頭の上から声がする。全員の意識がそちらに向いて、魔法・魔術が中断される。


顔を上げた先にいたのは―――。


「……颯?」

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