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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第四節:魔法使いたち、魔術師たちの戦い。
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魔法戦闘、VS近衛騎士とそのパートナー。

「それでは、はじめッ!」


お互いが十分に距離を取ったところで、試合開始の号令が響き渡る。


「Light Arrow!」


今はチームメイトのお嬢様と戦った時もそうだったが、魔法・魔術の戦闘の始まり方なんて一切わからない。


それならそう割り切って、先手必勝。初手から一番使いならした空属性基礎魔法を打ち放つ。


ただ、それが彼女たちに当たった様子はない。爆発音と共に、向こうの二人のすぐそばで爆煙を見る。この間も見た、防がれた時に起こる煙。


「……開始直後の先制攻撃。貴様ならそうくると思っていた」


徐々に収まってゆく煙と共に聞こえるその言葉は、防御を展開しパートナーごと守った近衛騎士のもの。


「……以心伝心で何よりだよ」


やはりそんな簡単にはいかないらしい。


「Mae'r dŵr sy'n casglu yn dod yn llafn miniog.(集まる水は研ぎ澄まされた刃とならん)」


腰に下げた柄を取って、聞いたことのない言語を話し始める近衛騎士。


魔術は、理容する魔力量が大きい反面、それの制御を密にしなければならない。詠唱は魔法・魔術の制御系に関わる大事なパーツの一つ。そのため、魔術は魔法よりも詠唱が長くなるというデメリットが存在する。あの長さは間違いなく魔術の詠唱。


「やらせると思うか!」


黙って見ているはずもなく、即座に光の矢を発射。


「Protection!」


それに反応して聞こえる声は、あの騎士のものとは違う。さっきと全く同じ轟音、爆煙が起こる。


「Cleddyf Dwr Afanc(水の剣アヴァンク)!!」


その声で、魔術の完成と攻撃の失敗を悟る。それも今度は、


「見事な防御です、福島さん。ありがとうございます」


「い、いえ、とんでもありません!」


近衛騎士のパートナーにも防がれる。光の矢一本程度に込められる攻勢魔力量じゃ、常時守勢魔力を送り続けられる守勢魔法を突破できないか。


だが、そんなことはどうでもいい。気になるのは、完成した近衛騎士の魔術。手にしているのは、彼女が常に携帯していた柄。その先にできた蒼い刃。この前突きつけられたものとは全く違う。


「エル……、本気ね」


「おい、あれは一体なんだ?」


「水剣アヴァング。ウェールズ神話に出ている水性の怪物の力を収めた剣。エルの家で代々受け継がれている剣の一つで、エルがここにくる前に、継承を許された剣よ」


「アヴァンク?」


聞き慣れない言葉だった。だがウェールズ神話、確かアーサー王物語の原作かなんかだった気がする。ただ、その程度の知識しかないから、何か言えることはないのだが。ただあの剣、間違いなくやばそうだ。


「今度はこちらから行くぞ!」


言うが早いか、猛スピードで迫ってくる。


「クッ」


あっという間に剣の間合いまで迫られ、振り下ろされる剣を紙一重に避ける。しかし剣戟は一度で終わらない。振り下ろされた剣はすぐに振り上げられる。左からの切り下ろし、右からの切り上げ。次から次へと繰り出されるが、なんとか見える剣捌き。後ろに逃げながら ギリギリのところで避けていく。


「Light Arrow、Multiple Activation、Light Arrow!」


避けながらも反撃を試みる。マルチアクトによる二本の矢を天井から振り下ろす。


「この程度っ!」


と、二本は切り払われる。だがこれは囮。彼女が上空を気にする隙に、次は五本をマルチアクト。


「Protection!」


三本を切り捨てて、残り二本は防御に徹する。その隙に剣の間合い以上の距離を開ける。それを見た騎士は一度動きを止める。


「なるほど、貴様のマルチアクトのカラクリが分かったぞ。指の数だな」


「っ。……ご明察」


戦いの中で敵の分析をするとは流石と言うべきだ。こんなにも速く言い当てられるとは夢にも思わなかったが。


マルチアクトの際に作らなければならないもう一つのイメージ。それは魔力をどう魔方陣に送るかというイメージだ。俺の場合はそれを指先から行うようにしている。それがマルチアクトをかなり早く習得できた理由であり、矢が一度に五本までしか打てない理由でもある。


「だが、指の数ということは矢は五本までしか使えないのだろう。それなら見切ることはが可能だ」


「……」


今見せたように五本程度では柔然に防がれてしまうだろう。


しかしなんだろうか。何故か手を抜かれているような感じもする。主君を守る専属の近衛騎士の剣筋を、戦闘慣れしていない俺程度の人間が全て見切ることができるなんて思えない。


「貴様と違って、私は一人でお前を倒す必要はないからな」


「は?」


こんなにもムキになって俺に突っかかってきているくせに、一人ではない?



「颯、後ろっ!」



「うし……ぐぁっ!?!?」


離れた位置からの叫び声とほぼ同時に、背中に熱と衝撃を受ける。その衝撃と痛みで膝と手をつく。


「な、なん……っ」


四つん這いのまま後ろを見ると、その先にいたのは近衛騎士のパートナー。


「当たった……!」


初めての攻勢魔法の攻撃成功を喜んでいる。こちらは大きくHPを削られる。


「まだまだいくぞっ! はぁっ!!」


追撃の手を緩めまいと途端に切りかかってくる。それを手と足で跳び除ける。


だが、その着地点目掛けて火の球が飛んでくる。着地点に着く前に足でさらに地面を蹴り、さらに後方へ飛ぶことによってそれをスレスレの位置で躱す。


当然剣戟も一撃で終わるはずもなく、さらに切り掛かってくる。それを避けつつ、同時に飛んでくる火の球にも注意を向けなければいけない。一度に二人を相手にしているのだ。逃げるのだけで精一杯、使用する魔法の形も魔方陣もイメージできない。これは間違いなく。



〜〜〜〜〜〜



「……颯狙いだな」


言わなくても、この試合展開がそうなっていることには誰であっても気づいているだろう。


「徹底した洗馬くん狙いですね。やはり圧倒的に攻撃力の高い洗馬くんを先に倒してしまおうというところなのでしょうか?」


真由美が聞いてくる。


「戦略としては間違いではないな。エルはハルネのことなら何もかも知っている。それを考えれば当然の選択肢だ。パートナーの福島との連携も見事なものだ。陰ながら練習していたな?」


エルのあの剣の弱点は、なんといっても間合いの短さ。それを避けにくくするために遠くから福島が魔法攻撃。


颯はその二つを同時に相手にしなければならず、魔法をイメージする余裕がない。避け続けるのにも限界があるだろう。実際にエルの剣はハヤテを捉え始めている。まだ制服が掠る程度だが、すぐに逃げられなくなるだろう。


「颯は戦略レベルにおいても戦術レベルにおいても失敗しているな」


「と、言いますと?」


「まず戦略レベルにおいては、なによりもハルネとの連携を考えていなかったという点だ。まぁあいつの性格上、自分一人で相手するとでも言ったのだろう。そして戦術レベルでは、試合開始直後。最初の射撃を遠慮することなくマルチアクトも使えばよかったんだ。あいつの射撃なら、単純な魔法防御なら撃ち抜ける。要は先制攻撃の失敗がこのピンチを招いていると言えるな」


「なるほど……」


颯がこの一週間、何もせずにいたはずがない。だが、それを見せたくないと遠慮したのが失敗だ。


「とは言え、あいつの一番の失敗はやはりハルネとの協力関係を築かなかったことにある。いや、協力でなくても、色々やりようはある」


「協力でなくても、ですか?」


「もしあいつが勝利だけを求めるなら、非情な手段がある。簡単に言えば、ハルネを盾にするという方法だ。そうすれば近衛騎士であるエルは攻撃を躊躇するし、ハルネの防御は福島の魔法での突破は絶望的。その状態で颯は魔法を放ち続けるだけで勝てるだろう」


「確かにそうですね。ですが洗馬くんはそれをしなかった。その考えに至らなかったのでしょうか?」


「いや……」


あいつは間違いなく思いついているだろう。だがあいつはそれをしなかった。それはあいつの性格故にだろう。あいつは他人に冷たく接していても、非情にはなれない人間だ。


だから、この状況になった颯はこの一週間の成果を使うことを躊躇しないだろう。颯の本領が、全開が見れる。それが少し楽しみでもある。


それに、あのお嬢様この状況を黙って見ているわけはない。恐らくは……。



〜〜〜〜〜〜



「これ以上はっ! エル!」


俺と近衛騎士の間に入るお嬢様。


「っ、お嬢様!」


やはりあの近衛騎士は主人であるお嬢様に斬りかかることはできないらしい。慌てて剣を引いて、少し距離を取る。


ようやく横に振り向く余裕とイメージを作る余裕ができる。


もう躊躇している場合ではない。HPも大きく削られて、余裕もないのだ。


まずはうざったらしい、迫りくる三つの火の球をなんとかするところからだ。


「Light Arrow×5!Trigger!」


近衛騎士のパートナーに向けた手の先に、順々に五つの魔方陣が展開する。だがその展開速度は先ほどとはまるで違う。ほぼコンマ何秒レベルでの差しかない。


そこから発射された五本の光の矢のうち、三本は火の球に当たって爆発。だが残り二本は無傷のまま彼女の元へ。


「ぷ、Protection!」


突然の矢に驚かされた彼女のイメージする力など脆い。彼女の防御は二本の矢の前に崩れ去る。


「このっ!」


お嬢様を大きく飛び越えた近衛騎士が、俺に切り掛かってきる。どう避けようとしても剣先が俺の体に触れるのは間違いない。だから別の手段に訴える。


「Light Blade!」


手のひらから光の発光。それが短剣の形となり、それを掴みながら近衛騎士の攻撃を受け止める。


「アノマリーリサイト(変則詠唱)にLight Bladeまで。貴様、一体どうやってそれを……!」


「そりゃ企業秘密だ」


やはり近衛騎士は全部知っている魔法と技術のようだ。


だが、その入手経路をバラすほど俺はお人好しではない。なにせこれらは苦労してやっと見つけたんだから。

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