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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第四節:魔法使いたち、魔術師たちの戦い。
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魔法使い同士の戦いは突然に。

一週間が過ぎた。


この長いようで短い一週間で、ある程度クラスの雰囲気が出来上がっていた。


クラスではいくつかのグループが出来上がってきた。どんな学校、どんな学年、どんなクラスにおいてもこういう部分は変わらない。


しかし普通の学校と違うのは、件のパートナー制度が相当効いていること。クラス内のグループは、このパートナーに関係なくできているものも多いが、パートナー間の交友があって、それを元手にグループ間の交友は積極的。どのグループにおいても敵対関係がないのはいいことだ。


そしてお嬢様とその側付き騎士はクラスのマドンナというかアイドル的存在という立ち位置に落ち着いた。二人揃って浮世離れした容姿。それによって男性陣はおろか女性陣ですら積極的に話しかけに行く人は少なかった。自分たちが触れるのは恐れ多いと、崇め奉る存在だと言った様子。ただ、お嬢様の場合は彼女自身から積極的に話に行くタイプなので、会話がまるでないということはない。


その一方、そのお嬢様と本来なら無条件で話すことができるはずの俺は、この一週間彼女とは一切会話していない。クラスでの立ち位置も、見事ぼっちキャラとして確立された。


理由はいくつも存在する。


第一に、クラスでの俺の立ち位置にある。


クラスでの俺に対する印象は『怖いやつ』『近付き難い人』『他人に興味がない』『危険人物』といったところ。おかげさまでこの1週間、クラスメイトの誰一人とも会話をしていない。


最も、それは俺が望んでいたことだし、誰からも干渉されない というのは非常にありがたい状況だった。


二つ目に、『そんな俺をお嬢様に近づけてはいけない』という、あの近衛騎士の意見を当人を筆頭に男女問わずみんな賛同しているから。得体の知れない人間を、クラスのアイドルに近づけてはならぬという集団心理が完成していた。


そんな空気を読んで、休み時間はすぐにクラスから離れてチャイムギリギリに戻ってくるようにしている。


そんな一見完璧にガードされたお嬢様と、何者の邪魔されずに話ができる機会は二つある。一つは寮の部屋の中、もう一つは魔法・魔術の授業でだ。


ただ、部屋の方は毎日変わりばんこに誰かしら部屋にやってきている。これも俺への牽制が主な目的らしいが、俺は寝る時とシャワーを浴びる時以外はほぼ部屋にいないので、これについてはあまり意味を成していない。


もう一つの魔法・魔術の授業、ここでも会話はやはりない。俺からはもちろんだが、あのお嬢様からも一切話しかけてくることがない。気まずいということなのだろう。話しかけようとはするものの、俺が一瞥するだけですぐにそれを引っ込める。この間の俺の指摘はかなり効いているようだ。これが会話のない三つ目の理由。


そう、これでいい。俺と彼女とでは住む世界が違うのだ。本来交わることのない、これが本来の姿。俺はあの近衛騎士が言うところの、危険な人物なのだから。


そんな一週間と少しが経った4月の中旬の水曜日。


今日の午後の授業は、例の魔法・魔術の授業。一つの訓練室を三学年三クラスでシェアする関係上、この授業は週に二回、俺たちは水曜日と土曜日となっている。


基本は集まったら挨拶などはなくすぐにパートナー同時で魔法・魔術の訓練となる(これは挨拶してる暇があったら少しでも魔法・魔術に慣れろという先生の指令)が、今日は珍しく日出先生のアナウンスから始まる。


「さて、全員が最基礎の魔法を使えるようになったわけだが」


先生の言う通り、クラスのほぼ全員が、一番最初の授業で見た五大属性の基礎攻勢魔法と守勢魔法を使えるようになっていた。


魔法を使いやすくするというこの制服のおかげが、それとも彼らの努力か。恐らくはその両方の相乗効果によって、ファンタジーな力を使えるようになっていた。特に放課後に訓練室に残る生徒がほとんど全員になっているところを見ると、彼らの努力はしっかりと実っているように感じる。彼らの原動力の一部には、俺に負けまいとする部分もあるようだが。


「魔法、そして魔力というものに慣れた君たちには、そろそろ本格的な魔術に関わっていってもらおうと思う」


魔法を使えるようになって、魔力というものに慣れた人が進む次の段階。魔術の使用。攻勢魔力と守勢魔力を掛け合わせて、より強く、より多彩な力を得ようという段階にようやく踏み込んでいくらしい。


「だが、その前に一つ伝えなければならないことがある」


そこで空気が変わる。何事かと全員が先生に注目する。


「このクラス、まだ一つ決めていないことがある。なんだか分かるか?」


「「「「「?????」」」」」


基本的にこの先生は最初から答えを言わない。誰かに気付かせようとするタイプの人だ。しかし、誰一人としてその答えにはたどり着いてない。もちろん俺も全然答えがわからなかった。


「このクラスで決めていないもの。それはクラス委員だ。」


「「「「「……あぁ〜!」」」」」


その言葉に、クラス全員が納得する。


「言われてみれば確かに」「決めてなかったね」「普通クラスができてすぐに決めるものだよな」「でもやらなかったから、すっかり忘れてたね」


みんなそんな認識。俺も同じく、そういえばそんなものあったな決めてなかったな程度だ。


「ま、要するにクラスをまとめていくリーダーを作るってことだ。もちろんこれにもパートナー制度は適応される。要はクラス委員は二人ということだ」


相も変わらずパートナー制度は各所で使われている。ここでもそれは例外ではないらしい。


「はい! 私やりたいです!!」


と、一人高らかに手を伸ばす。そしてそんなことをやらかす人は。


「ちょ、はあぁ!? バカ! 何言ってんだお前!」


うちのお人好し何にでも首を突っ込んでいくパートナー、ハルネ・グリフィスお嬢様。


「え、は、颯はやりたくないの……?」


「当たり前だよなんでそんな面倒事を」


「そ、そうなの……? でもそうすれば颯もみんなと関われるかなって……」  


「そんな余計な気遣いはいらん!」


一瞬のうちに上がった手はしなしな萎れていく。クラスメイトに関わりたくない俺がクラス委員なんて冗談じゃない。


「おい貴様、お嬢様のご厚意を無碍にするとは何様のつもりか。」


そんな会話をしたら特に当然あの近衛騎士が黙っていない。


「そうだそうだ!」「ハルネさんの思いを無駄にするな!」「せっかくの女の子の決意を……サイテー」「そんなんじゃモテねーぞ!」「そうそう、面白そうだからやってみなよ〜」


色々文句を言ってくるクラスメイトたち。……なんか最後の二つおかしくない?


「落ち着けお前たち。まぁ、立候補者がいるのは喜ばしいことだし、是非ともやる気のある者に努めてもらいたい。……と、言いたいところなのだが」


暴走しかかるクラスをなだめつつ、流れを変わる日出先生。単純にやりたい人間を立候補させるのではダメなのだろうか?


「この学園においてのクラス委員長決めは、毎年伝統的なやり方がある。それすなわち、魔法・魔術の戦闘によって決する」


「「「「「はいぃ!?!?」」」」」


クラス全員の叫び声が訓練室にこだまする。全員が驚愕と混乱に叩き落とされる。


「……それは冗談か何かですか?」


驚いて固まっている全員の代わりに、俺がクラスの声を代弁する。


「残念ながら冗談ではないよ。どんな時代においても魔法使い・魔術師を引っ張っていく者は、強い者でないといけないという考えなのさ。実際これから先のことを考えると、これは必要なことだ」


「……随分前時代的な考えですね」


「そうかもしれないな。しかしこれは決定事項だ。今更変えることなんて出来やしない。全員受け入れる他ない」


「俺たちのような、まだこのファンタジーの力に触れて間もないのにですか?」


「そうなるな。しかし今後も多くの戦いが君たちを待っている。だったら早いうちに慣れてしまうのが一番だと思わないか?」


「……」


あの樹の図書室に初めて行った時に読んだレポートにあった。魔法使い・魔術師の弱体化が進んでいる。それを少しでも防ぐための施策でもあるのか?


いずれくる事だとは予想していた。魔法使い・魔術師といえばやはりどんな場においても戦いがつきまとってくる。そのための攻勢魔法・守勢魔法なのだから。


だが、こんな素人同然な俺たちをいきなり戦わせるなんて傍若無人もいいところだが。


「その戦いは来週の一週間を使って行う。今日は魔法・魔術の戦いがどのようなものかを見てもらおうと思う」


なるほど、別に今すぐにやるわけではないのか。一応戦いに備える期間はもらえるらしい。


「さて、対戦相手だが、君たちの中から二つのパートナーを指名しよう。一つはエル・イングラムと福島夕陽、もう一つは洗馬颯とハルネ・グリフィスだ」


「はぁ!?」「えっ!?」「なっ!?」「うそっ!?」


その言葉で、該当者四人が一斉に立ち上がる。なんだって俺たちがそんな戦いをしなければならないのか。


「お待ち下さい、なぜ私とお嬢様が……」


早速噛みつく近衛騎士。そりゃそうだ、このパートナー同士で戦うということは、すなわち主君に剣を向けるということなのだから。


「悪いがそんなことは私たちには関係ないんだよ、エル。まぁ一応、君たちの家に許可は取ってある。両家とも、『必要なことだ。』と納得してくれたよ」


「クッ。……分かりました」


悔しそうに舌打ちする。すでに根回しもバッチリとは恐れ入る。二つの家が認めてしまっては、彼女とて従う他ないのだろう。


しかし主従の関係にある二つの家が、そんなあっさり二人の戦いを認めるとは、一体何を考えているのか。……俺には関係ないけど。


「あの……なんで……」


顔を真っ青にして、声にならない声を上げている近衛騎士のパートナー。そりゃいきなり戦えと言われればそうもなる。


「君はこのクラスで一番優秀な魔法使いだ。勉強熱心な君だ、戦闘についてもエルから色々と教わっているのだろう?」


「そ、それは……そうですけど……」


「不安な気持ちはよくわかる。でも、誰だって初めてやる時は同様な不安を抱く。むしろ君は、ここでそれを経験できる分次回からそれは小さくなるだろう。その点で君は他の者よりも秀でることができるんだ。どうだ?」


「……!」


その言葉が彼女に火をつけたのか、彼女は決心を固めたように顔を上げる。


「分かりました。……不安ですけど。やってみます!」


「誰だって最初は不安さ。だか、その勇気には私も敬意を表するよ」


焚きつけ方が上手い。先生のあるべき姿といえば聞こえはいいが、やらせようとしていることが無茶苦茶なことなのを俺は忘れない。


「さて、こっちのペアは了承したが、お前たちはどうだ?」


今度はこちらに聞いてくる。


「もちろん遠慮します。なんでそんなことをしなきゃいけないんですか」


すでにある程度魔法の力は使える。だから今の俺は、これ以上望むものはない。こんな戦い無駄でしかない。


「ほう、入学して二日目にいきなりハルネと決闘した者の言葉とは思えないな」


「うぐっ……」


それを言われると弱る。


「どういうことですか、先生」


「こいつは入学して二日目にいきなりパートナーと模擬戦しているんだ。その血の気の多さはこの場で発揮されるものだと思ったんだがな……」


事情を知らないクラスメイトたちにも説明がされる。これでは、この戦いを断ったら臆病の謗りを免れ得ない。


「人の使い方が悪魔的ですね……」


ボソッと愚痴をこぼす。


「それができる大人なんだよ、颯。勉強になるだろう?」


聞かれていたらしい、小声で言い返される。


「さて、あとはハルネだけだが、どうだ?」


「……やります」


さっきクラス委員に立候補した手前、やらないとは口が裂けても言えないだろう。


「いい返事だ。よし、それでは準備にとりかかる。真由美、残りの生徒の誘導を頼むぞ」


「はい、先輩! それじゃあ皆さんは、観客席に行きましょう」


藪原先生は残りのクラスメイトを観客席に誘導する。


「さて、四人は彼らの移動の間に作戦会議をしていてくれ。時間はそうだな……、今から3分間だ」


「はっ」「はい」「……はい」「分かりました」


それぞれ返事をして、少し離れる。


向こうのパートナー同士を見ると、二人で入念に話し合っている。授業中を見ていてもあのパートナー同士は相当仲がいいし、成長度もクラス一。あの近衛騎士の教えが相当いいんだろうな。


「じゃ、じゃあ颯! わ、私たちはドウシヨウ?」


一方のこちらのお嬢様。テンパっているのか、まだ気まずさが残っているのか。なんか話し方がカタコトだ。この人、普段はお嬢様って感じだが、テンションが上がったり焦ったりするとどうにも年相応っぽくなるらしい。


そういえば、結局この一週間、このお嬢様が攻勢魔法を使っている姿は一度も見なかったし、魔術もあの決闘の時のよくわからない青白い光のもの以外見ていない。彼女も俺と同じで手の内を隠しているのか? それとも何か知られたくない秘密でもあるのか? ……彼女の力がさっぱり分からない。こんな状態でどう作戦を立てろというのか。


今まで必要ないと全然会話してこなかったのが、こんな所で裏目に出るとは思ってもみなかった。全く、面倒な制度だ。


「……颯?」


考え事をしていて、反応に遅れた。心配そうにこちらを見つめるお嬢様。ひとまず何かしら言っておこう。


「……別に必要ないんじゃないか?」


「えっ?」


「まず俺はあんたの力を何一つ知らない。そんな状態でどう作戦を立てろと?」


「そ、それは……」


「それにあの近衛騎士は、間違いなく俺に挑んでくる。あんたには指一本手を出さないだろう。だからあんたが相手にするのは、もう一人の方だろう」


予想だがこれは間違いなく当たる自信がある。いくら両家が認めているからと言って、あの近衛騎士がこのお嬢様に弓引くとは到底思えない。それに俺へのヘイトが溜まりに溜まっているだろうから、間違いなく全力で俺を潰そうとしてくるだろう。


「あの近衛騎士のパートナーをぶっ飛ばすのがベストだが、まぁ勝手にやられなければそれでいい。あんたの仕事はそれだけだ。守勢魔法は得意なんだろ? それだけできてりゃ後は俺がなんとかする」


「なんとかって……二人を一気に相手にするの? でも夕陽はともかく、エルは戦闘慣れしてるのよ? 颯一人じゃ……」


「両パートナー、時間だ。こちらに来い」


真ん中にいた日出先生から呼ばれる。


「話は終わりだ、行くぞ」


「……うん」


話を打ち切って、真ん中まで行く。


「さて、四人に今回の戦いのルールを教えておく。魔法の使用は自由に可。打撃等の直接的な攻撃も可、ただし相手に重傷を負わせない程度とする。この辺りはまぁ普通のルールと変わりない。ただし、今回は一つ条件をつける。それは、魔術は一つに限定するということだ」


「「「「!?」」」」


四人とも先生を凝視する。


恐らくは、魔法・魔術戦闘初心者の俺と近衛騎士のパートナーを思ってのルールなのだろうが。むしろ魔術の使用が許可されるとは思ってもいなかった。


「何かあるのか?」


「……いえ」


しかしこの人は正気か? 一体何を考えている?


「それでは、洗馬颯、ハルネ・グリフィスとエル・イングラム、福島夕陽の魔法・魔術戦闘を執り行う。戦闘結界、展開!」


日出先生の宣言と、藪原先生の端末操作で、半透明な膜のようなものが真ん中から四方に広がっていく。この間お嬢様と戦った時同様の、戦闘のための結界。HPバーがそれぞれの頭上に表示され、戦いの準備が整う。


まだまだ見慣れない、珍しいその機能に見惚れていたら、目の前にいる騎士から声をかけられる。


「洗馬颯」


「なにか?」


「ようやく合法的に貴様を叩き潰すことができる。貴様はやる気がないようだが、情け容赦をかけるつもりはない。せめて死なないよう抵抗してみせろ」


予想通り、彼女はやはり俺を倒すことしか眼中にないようだ。それが予測済みだと悟られないように振る舞う。


「……そーですか」


しかし死なないようにって、この人俺のこと殺す気だよ怖いわ全く。


「エル、ダメよそんな口の利き方は。演技でもない」


「は、申し訳ございません。そうですね、では命を取らない程度までは痛めつけるということで」


「……変わってねぇ」


どっちにしても、本気で戦う気満々らしい。はぁ、とため息が溢れるだけだった。

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