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魔法の発動。

号令によって、各パートナー同士ある程度の距離を取るように散らばる。


二人の先生はそれを見ているだけ。藪原先生はともかく、日出先生は最低限度必要なこと以外は、自身に掴ませていくというスタイルの人らしい。


「じゃ、じゃあ私たちも始めましょう! 守勢魔法のことなら任せて!」


前から戻ってきたお嬢様が話しかけてくる。


「…………」


特に返答せずに立ち上がって、さっき藪原先生のいた場所に一直線に向かう。


「颯?」


その行動を疑問に思うのは仕方ないだろう。だが、いちいち説明するつもりはない。


「昨日寮やった時と同じだよな? ……これでいいのか?」


まだ端末の操作にも慣れきっていないため、ひとまず適当に操作する。説明に従って訓練室の奥に、さっき藪原先生が撃ち抜いたものと全く同じものを表示する。


MR(Mixed Reality)、日本語で言う複合現実。現実世界と仮想世界を混ぜ合わせ、その互いの情報がリアルタイムで影響させ合うというものだ。今現在話題に上がるVR(Virtual Reality)とかAR(Augmented Reality)の最終到達点とも言っていい。だが、残念ながらこのMRはまだ完全な実現には至っていない。


ただし、それは科学技術のみではの話。魔法・魔術の技術と掛け合わせることによって、今のように実証実験レベルまで出来上がっているらしい。ただ、あくまでまだ完全なものではなく、実装されているのはまだ校舎棟と各寮の訓練室のみ。


これは昨日このシステムを初めて知った時の説明に書いてあった。正直読んでいた時はちんぷんかんぷんだった。MR以前にVRもARも体験したことがないのだから仕方ない。最終的には、使えるのならなんでもいいということになった。


目標は先ほどと同じく五つの的。その的に向かって手を伸ばす。


何事かと、散らばったクラスメイトたちも作業を止めて俺に注目していた。


「Fire Bullet」


その鍵言を唱えると同時に、魔法陣が発生する。


「えっ!?」

「うそっ!」

「どうして!?」

「いきなり!?」

「そんなバカな!」


そばまでついてきていたお嬢様を含め、後ろにいたほぼ全員からそんな驚愕の声が聞こえてくる。しかしこれだけでは終わらない。


「Multiple Activation。 Water Ball」

「Multiple Activation。 Blow Wind」

「Multiple Activation。 Grand Mass」

「Multiple Activation。 Light Arrow」


火の弾丸の完成を待たず、次々に詠唱を唱え、魔方陣を完成させていく。そうして出来上がった五つの魔方陣から浮かぶ火の弾丸、水の玉、風の竜巻、土の塊、光の矢が的を狙う。


「All Trigger」


待っていたと言わんばかりに、その言葉を聞いた魔法たちは的に向かって一直線。全弾命中して標的ごと消える。


「……“イメージが大事”、まさにその通りだな。こんなにすんなり上手くいくとは。まぁこんな訳の分からないファンタジーな力を使うんだ。頭も柔らかくしろということか……」


「おい、洗馬」


ぶつぶつと独り言を唱えている間に、目の前に日出先生がいた。


「お前、なぜ魔法が使える。いや、使えるなんてレベルじゃない。全属性の基本攻勢魔法に加えて、マルチアクトまでできるだと? 一体どういうことだ」


強めの口調と怪訝な目を向けてくる。その後ろには、心配そうな顔のお嬢様を筆頭に、驚嘆と疑念、そして怒気を混ぜ合わせた表情をしていた。


「……練習しただけですが」


「練習だと?」


「昨日先生と別れた後、ほぼ全ての時間を魔法行使の訓練の時間に費やしました。彼らが親睦会かなんかをしている間もずっと。端末に入っていた教科書通りに」


「……やはりか」


その回答は予想していたらしい。つい昨日まで何にも知らない一般人が今日になっていきなりその力を使えているとなれば、それ以外予測しようもない。


「「「「「……」」」」」


一方のクラスメイトたちは全員が黙り込んでいた。まさか自分たちが親睦を深めている間にそんなことをしてただなんて夢にも思わなかっただろう。


「ならマルチアクトはどうしたんだ?」


「それも同じです。昨日は全然使えませんでしたが」


マルチアクト。正式に言えばマルチプルアクティベーション(Multiple Activation)。これは、先ほど俺が見せたように複数の魔法を連鎖発動する、魔法発動技術の一つ。


魔法の発動には四つの手順がある。


1:使用する魔法・魔術とその魔方陣をイメージする。


2:詠唱によって自身の中にある魔力に呼びかけて、魔法・魔術発動に必要な魔力を放出する。


3:放出した魔力がイメージした魔方陣を現実に描き、魔法・魔術の発動準備を整える。


4:魔方陣からイメージした、使いたい魔法・魔術が発動する。


どんな魔法・魔術であっても、基礎的な発動方法はこれ一つだ。


それに対してマルチアクトは、一つ目の魔法が発動手順の2から3に至っている段階で別のの魔法発動手順を始めようとする。もちろんこの技術を鍛えれば、2の段階で魔法発動連鎖を始めることもできる。


ただ問題は、新たな魔法発動最中に、既に発動させてある魔法を待機させておかなければいけないという部分。次の魔法の完成をイメージしながら、既に完成させかかった魔法のイメージも崩してはいけない。そのイメージがちゃんとできていないと、ホールドしていた魔法は途端に分解してしまう。それが一番難しい。教科書でも中盤の方に乗っていた、それなりに高度な技術。


昨日はイメージが全く掴めず、最終的な発動前に待機させていた魔法が空中分解を起こしてしまった。だから夜にベッドに潜り込みながら考えたものを実践してみたが、すんなりできるとは思っていなかった。


「いきなりあんなことができるなんて……」

「やっぱり最強の子供も最強になるのか……」

「俺たちとは才能が違うんだろうな」

「勘弁してほしいよ全く……」


「っ」


言葉の方に目線を向ける。クラスメイトたちからは、呆れと失望、怒りと不満が入り乱れている。


だが彼らは何一つ知らない。


昨日魔法陣を作り上げて火を灯すだけで一時間はゆうにかかったことを。水球など形になるまで二時間以上かけたことを。


もちろん同じだけの努力を彼らもこれからするのだろうが、ここまでの努力を“才能”なんて便利な言葉で比較して欲しくはない。


しかし、すぐにそんな怒りは飲み込む。彼らは所詮そんな言葉でしか物事を測れないのだ。そんな者たちに付き合って何か言う必要なない。


「す……凄い! 昨日だけでそんな風にできるなんて凄いわ!」


と、そんな空気を一蹴する声。ピョンピョン跳ねながら目の前に迫ってくるお嬢様。


「私なんて“Protection“だけで一週間もかかったのに……。なんでそんな簡単に魔法を発動できたの? 教えて、教えてっ!」


まるで犬のようにすり寄ってくる。というか、さっきまでの上品な性格が180度変わっている。どうなっているんだ?


あと、この様子を見た近衛騎士の顔が恐ろしいものに変わっているのも見える。とっととあしらわなければこちらの身が危ない。


「ちょ、なんで、必要ないだろ。あんたはもともと魔法使える側だろうに」


「それは……。でも新しい魔法とか覚えるためには必要だから。だから教えて欲しいの!」


後ろに逃げるが、追いかけてくる。


「まぁ私も驚いたが、アレは例外だ。他の者は、順当にゆっくりやっていけばいい。慌てることはないさ、あれくらいなら時期に誰でもできるようになる。では再開だ!」


混沌とし始めた場を鶴の一声でまとめ上げる日出先生。その言葉で他の人たちは訓練を再開する。


一方俺の方は、詰め寄ってくる大型犬の対応に追われたまま、壁際まで追い詰められる。


「教えて颯! 私も守勢魔法について色々教えるから!」


「ひ、必要ない。そもそもさっき言っていただろう、イメージが大切だと。それでやればいいじゃないか。そもそも魔法を知っているあんたに、俺が教えることなんてない」


そう言って座り込む。手にしていた端末で、教科書の続きを読み込んでいく。全く、本当に厄介な奴がペアになったものだ……。


それを見たお嬢様も、不満そうな顔をしながらも、読み込みの邪魔はする気はないらしく、隣に座って同じく端末を開く。


そのまま会話はなく、時間だけが過ぎ去っていった。

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