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俺たちは落ちこぼれ、でも二人でなら最高の魔法使い  作者: 広河恵/ぴろめぐ
第一章第二節:クラスメイトとパートナー。
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俺とお嬢様と近衛騎士。

「んっ……」


暗い場所から徐々に意識が上がっていく。目を開くと見知らぬ天井。蛍光灯の光が眩しい。


「あっ、やっと起きた!」


「む……」


そんな俺の様子に気づいた二人の女子が顔を覗き込んでくる。一人はパートナー(仮)のお嬢様ハルネ・グリフィス。もう一人はその近衛騎士のエル・イングラム。


「なんだ……?」


寝かされている状態だったので、起きようとする。しかし身体は一切言うことを聞かない。と言うより、


「なんで俺は縛られてる?」


ロープによってガッチガチに縛り上げられた状態。身体を動かすどころか起き上がることさえ不可能だった。


「貴様がお嬢様に行ったことを思えば、当然の処遇だ」


俺が行ったこと……。偶然スイッチを押して洗面所のドアを開いたら、着替え中かなんかでバスタオル一枚のお嬢様に出会ったことか?


「行ったって……、ありゃただの事故だっての」


「そうよエル、扉のロックをしていなかった私も悪いもの。颯だけを責めるのは間違っているわ」


と、お嬢様は味方してくれる。確かに彼女がドアのロックをし忘れたのは彼女が全面的に悪い。


「そういう問題ではありません。私はお嬢様を守る者として、このような不吉な輩をお嬢様に近づけることはできません」


柄を抜く。同時に、柄の先にみるみるうちに白い光を放った刃ができていく。なるほど、鞘のない秘密というわけか。これも魔法だか魔術だかなのだろうか?


「この者のことはすでに調べ上げました。お嬢様、この者には近づいてはなりません」


調べ上げた? ってことは、こいつは俺のことを知ったということか。だったらこの反応はおかしくないな。最も、最初にこのお嬢様を邪険に扱った時点で相当嫌われてるみたいだが。


「どうして、エル? 私は……」


「無論パートナーのことはわかっております。学園側に交渉しましたが、残念ながら私ではどうにもなりませんでした」


「エル……」


なんだ、こいつの交渉はダメだったのか。期待して損した。


「私は未だに信じられません。この者が、お嬢様との魔力相性が私よりも上だなんて……」


「魔力相性?」


聞き慣れない言葉に、つい反応をしてしまう。


「言っていただろう、パートナーを組む際には諸々を考慮すると。魔力相性とはその際に最も重視される、魔力の量や力の相関関係のことだ。我々の世界ではそれを“魔力相性”と呼称している」


いかにもファンタジックな言葉だが、単純明快で分かりやすい。


「私とお嬢様の相性は97%だった」


「あら、そうなの? エルと私とではやっぱり高いのね」


高い、のか? 他との比較がないからよく分からないが、まぁ聞く限り低くはない数値だということは分かる。そんなことを考えているのがバレたのか、解説をしてくる。


「普通はこの数値は60〜70%くらいが平均なの。80%ならかなり高いくらいよ。だからエルと私とのその数値はすっごく高いって言えるわね」


「へぇ。なのにあんたたち二人はパートナーにならなかったのか。なら、俺とこのお嬢様の指数はどれくらいなんだ?」


単純に疑問だった。一見水と油な俺とこのお嬢様が一体どうしてペアになったのか。その理由の一端がようやく分かりそうだ。


「……っ! 貴様とお嬢様は……、99%だ」


「……は?」


「99%なのだ! 貴様とお嬢様の相性の指数は!」


「99???」


「そうなの? これは予想外ね」


まさに予想外、その通りだ。このお嬢様がさっき言っていた事が真実なら、この騎士さんでなくてもその数値には誰だって驚くだろう。一体どうしてそんな数値が出たのか。


「私も驚きましたし、信じられていませんし受け入れてもいません。無論学園側も最初はそうだったようです。しかし、どれだけ見直しても結果は同じ。この者、お嬢様と他数名を除いて、相性の数値はほぼ全員30%以下らしいのです。その結果一番相性の良いお嬢様がこいつのパートナーとなってしまったようなのです。その他に98%もいたのだから、そちらになれば良かったのに……」


「……なんだそりゃ」


「そんな理由で、学園側としてもお嬢さまとこの者のパートナーには、かつて類を見ないこの数値を叩き出したお二人には期待しているようなのです」


「……そういうこと」


先生が言っていたのは、俺が最強の魔術師たちの子供であるから、そんな子供が組んだペアが相性最高だという二つがあったからこそらしい。


全く、迷惑な話だ。俺は別に最強の魔術師になるつもりも、まして人と関わるつもりもないというのに。


「……まぁ安心していいよ騎士さん」


「む?」


「えっ?」


その言葉でお二人は俺に注目する。


「必要最低限以外でこのお嬢様に関わるつもりはないから。彼女に迷惑がかかることはほとんどないはずだ」


「……」


「颯……?」


「だからとっととこの縄解いてくれないかな。とっとと飯食って寝たいんだ」


「……」


少しばかり考える。しかしすぐに顔を上げて、


「……その言葉に嘘偽りはないな?」


「あぁ。そっちのお嬢様はともかく、俺は人と関わろうだなんて思ってないからな」


「……いいだろう」


その言葉に納得して、縛られた紐を解き始める。


「ちょ、ちょっと二人とも、どうしてそうなるの! いいえ、それよりも、私の意見は無視なの!?」


蚊帳の外に置かれたお嬢様はカンカンだった。


「お嬢様……。お気持ちはわかりますが、やはりこの者と関わり合いになるのは危険ですから……」


「この騎士さんのいう通りだお嬢様。こんな制度がある以上、必要な時は仕方ないが、それ以外で俺に関わらないほうがいい。あんたも不幸にはなりたくないだろう?」


「不幸に……?」


「まぁ、そういうわけだ」


ようやく身体の自由を取り戻して立ち上がる。そのまま一度部屋を後にする。


向かう先は食堂だ。昼食も忘れていたのだ、お腹が空きすぎて腹痛までしてる。ひとまず先のことはご飯を食いながら決めて行くことにした。



〜〜〜〜〜〜



「エル!」


「も、申し訳ございませんお嬢様」


深く頭を下げる。エルがこんなに申し訳なさそうにするところはほとんど見たことがない。


「ですがお嬢様、やはりあの者と関わり合いになるのは危険です。お嬢様の御身の為だとご理解ください」


「エル……」


エルはいつも私を中心に考えて行動してくれる。それを思えば、エルの言葉は決して間違いではない事は容易に理解できる。


「それじゃあエル、教えてくれないかしら。颯に近づいてはいけない理由を」


「! し、しかしそれは……」


「エル、私は颯のパートナーだけれど、それ以前に私は彼とも仲良くなりたいの。だから私は知りたい、颯のことを」


「お嬢様……」


「だからね、エル。お願い」


「……分かりました」


そうしてエルが話してくれた颯の事。颯がみんなに隠している、自分自身のこと。


「……そう。だから颯は……」



〜〜〜〜〜〜



端っこの席でゆっくり食事しながら決めたこと。


一つ目は、ある程度は魔法・魔術なるファンタジーを受け入れて、使えるようになること。ここにいなければいけない以上、それは必須条件。


これについては今後の授業もあるし、心配する必要はないだろう。


二つ目は、必要最低限ではあのお嬢様を筆頭に人と関わらないこと。おそらく魔法・魔術の授業を中心に二人で行動しなければいけない場面は多いだろう。それを除いて、極力他人と関わらないように計らう。この学園で一人でいるのは危険だが、あの山頂かプライベートルームにいれば人目にはつかないだろうし、あのお嬢様には基本そば付きの近衛騎士がいるだろうから、一人になる心配はない。


それが、この学校における俺の基本方針。


「さて、さっきの続きを少しやるか……」


食器を返却して、向かう先は寮に併設された訓練ルーム。時間帯が時間帯のようで、中には誰一人いなかった。都合がいい。


「……さっきはここまでか。じゃあ続きはっと」


そうして、山頂で行なっていたことを再開する。





「誰かいるのか?」


突然ドアが開いて人が入ってくる。


「おや、君はさっきの」


振り返って見ると、先ほど校舎棟の訓練室で見た先輩二人組だった。


「訓練室で何やっているんだ、しかも一人で」


相変わらずそのうちの一人は、俺の行動を疑うような目で見てくる。初対面から思っていたが、かなり失礼じゃないのか?


ただ、ここで下手に言い合いなどはしたくない。本当はもう少しここで色々やりたかったが、目をつけられたらコトだ。適当に理由をつけてとっとと退散したほうがよさそうだ。


「……いえ、単に見て回っていただけです。なんというか、私にとっては物珍しいですので」


「君のペアはどうした?」


「シャワーを浴びたいからと、先に部屋に戻っています。別にいついかなる時も一緒にいなければいけないというルールはないでしょう?」


「…………」


「…………」


無言の睨み合い。やはりこの先輩、何故か俺のことを警戒しているらしい。


「まぁまぁ二人とも。とにかく君はもう部屋に戻ったほうがいい。ここは10時までしか使えないんだ。寮の消灯時間は11時だからね。それに君は制服のようだけど、もし大浴場を使うならそれまでに入らなければいけないから、気をつけてね」


「……分かりました。失礼します」


端末で時間を見ると9:58だった。この人は見回り担当か何からしい。これ以上疑われないようにひとまず言葉に従って退出して部屋に戻ることにする。


部屋に戻ると、誰もいなかった。洗面所なども確認したが誰もいない。自室に戻ったのだろうか。


ひとまず部屋でシャワーを浴びて、自分の名前が書かれた扉からプライベートルームに入る。朝持っていた荷物はちゃんと運ばれていた。部屋にはベッドと、机とその上にPCらしきもの、端末の充電プラグがあった。過ごして行くには何不自由しない、十分すぎる部屋だ。


端末を繋いでベッドに潜り込む。そのまますぐに眠りに落ちていった。



〜〜〜〜〜〜



「……彼、何をしていたんだろうね。見学って言ってたけど」


「見てみるしかないだろう」


「どうやって?」


「管制ルームから監視カメラを逆再生するんだ」


「なるほど」


二人で奥の管制室へと向かう。見回り担当の管理者権限でアクセスして、監視カメラの再生を始める。そして、そこに映っていたものは。


「なっ!? こ、これ……。嘘だろう?」


「……あの一年、一体何者だ?」

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