プロローグ
「Cododd Dŵr Glas!」
視界の先にいる敵が言い放つと、敵の頭上に巨大な蒼の薔薇が無数に咲く。その花びらが散るように、花びらを模した水流が一直線に飛んでくる。
「ッ! Indiscriminate Shooting!」
それに対応するべく、唯一使いこなせている魔法である“Arrow Rain(矢の雨)”を無差別に一斉射。彼らのちょうど中間で衝突して爆発と蒸発による霧を起こす。
そんな戦いの最中で、ふと頭をよぎることがある。“もし1ヶ月前の自分自身に今の状況を伝えたら、果たして信じてくれるだろうか”と。
答えは間違いなく“ノー”。加えて、「馬鹿なのか?」という罵倒付きで否定してくるだろう。
しかし、そんなのは当たり前だと言わざるを得ない。なぜならついこの間までただの一般人の俺が、この科学技術が発展した現代で。ファンタジー世界にあるような魔法を使って、SFのような魔法合戦をしているのだから。
そんなことを考えている間にも、爆発の奥から先ほどと同じ水の花弁が飛んでくる。
撃ち漏らしたのか、あるいはそれを見越してさらに用意していたのか。
「Inviolable Field、Expansion!」
後ろから聞こえた声と共に、目の前に半透明の壁が現れる。その壁によって残りの攻撃は全て防がれる。その間に飛び下がって、壁の術者の隣へ。
「……すまない、助かった。」
「ううん、いいんだよ。だって私たちは―――」
「パートナーなんだから。」
そう言って彼女は微笑みかけてくる。こんな戦いの中でも笑顔でいられるのは、彼女の性格であり、いいところでもあるだろう。
俺には、こんな訳の分からない状況よりももっと信じられないことがある。それは、自分の隣に誰かがいるということ。今までずっと一人でいて、これからも一人で居続けると信じてやまなかった自分の隣に、誰かがいることをを許したなんてことを。
1ヶ月前の自分にこのことを伝えたら、思い切りぶん殴られるだろう。なぜそんなことを思ってしまったのかと言いながら。そんな変化が、一ヶ月の間に訪れた。
「……Planed Ddŵr!!!」
巨大な水の球。青から蒼へと、水量の上昇と共にその色は濃く染まってゆく。
それは俺の魔法だけで撃ち抜くことも、隣の彼女の防御だけで防ぐこともできない。それだけの魔力密度を持った、敵の最強の一撃。
「……あの水球に対抗するには、もうアレをやるしかなさそうだ。」
「……うん、そうだね。でも大丈夫だよ。私達なら必ず成功できるよ!」
彼女の信念は堅い。でも、彼女はそう言うだろうと分かっていた。
だから彼は右手を差し出した。彼女は左手でその手を握ってくる。二人で握った手を前に出して、その手にそれぞれの魔力を込めていく。
俺たちは同じ存在。魔法使いとしてですら半人前。たった一人では間違いなく、魔術師には及ばない。
でも二人でいるなら、誰よりも強くなれる。二人でなら頂点に辿り着けるかもしれない。
だから、今はこの強大な敵と、二人で戦う―――。