【第一夜 少年と六匹の魔物達】
飛び出した空の向こうは、異世界でした。
「(詰んだ……。)」
詰んだ、マジで詰んだ。
もう、どうにもしようがない。
元々、どうにもしょうがない人生だった。
大した特技もなく、大した知識もない。
平凡が指差して嘲笑ってくるような、愚図で鈍間な人間だ。
生きることが、ただただ辛かった。
『グルルル……。』
なんで、目が覚めたら目の前にドラゴンがいるなんてハードモードな展開になってんだよ。
学校の体育館でも収まりきらないような、大きなドラゴンが目の前にいる。
薄暗い中でも分かる雄大で威厳のある姿。
何がどう罷り通ればこんなことになるんだよ。
瞬き一度で、この様変わりだ。
一体自分の身に何が起きたというのだ。
「(………昔読んだ小説みたいだ、異世界転生?異世界転移?そんな感じの。)」
物語の導入テンプレでいうなら、そのあたりが自分の状況を説明するのに妥当な所だろう。
だが、いくらありきたりなネタでも、現実として自分の身に起きたとなると話は違う。
ジトリと自分を見下ろしてくるドラゴンを前に、身動き一つ出来ない。まさに蛇に睨まれたカエルだ。
「(……ああ、でも。)」
良いんじゃね?と、思い直した。
ドラゴンに喰われて死ぬとか、そんな貴重な体験そうそう出来ない。
少なくとも、あのまま六畳一間に引きこもっていたなら、あり得なかった状況だ。
なにがなんでこうなったのかは分からないし、此処が何処なのかもまるで分からない。
だからこそだ。
そう想うと、ストンと心が落ち着くのを感じた。
強張って震えていた身体が、スッと楽になった気がした。
「(生け贄として丸呑み、或いは、侵入者だと始末されるか。)」
このドラゴンは自分をどう処分するだろうか。
伝説民謡に果ては昨今のゲームやアニメに至るまで、ドラゴンの話は多い。
宝を守る番人、邪悪なる魔物の王、或いは神様か。
媒体によって立場は異なるが、粗雑な物語の咬ませ犬にされる場合を除けば総じて強者である事が多いだろうか。
このドラゴンが何者かまでは分からないけれど、ちゃちな中ボスキャラとは思えなかった。
そうは言っても、鑑定やらステータス表示やらは存在しないし判断する人間が自分程度だから色々定かではないが。
「カッコいいなぁ…。」
感嘆と出て来た言葉。
威風堂々、その佇まい。
弧を描く鋭い爪、均一な形をした深緑の鱗、対する様に滑らかな深黄の腹、灼熱の炎の様な紅い赤い瞳。
画面越しに見てきたキャラクターよりも、狭い現実世界でみた他人より、どんなものとも比べられないぐらいに全てが鮮やかだった。
生き物としての格の違いを、その迫力から強く感じ取る。
思わず手を合わせてしまった自分は変ではない筈だ、拝むだろうこんなすごいものを前にしたのなら。
モブ以下人生の末路には、あまりに贅沢な餞だ。
『……貴様、我が怖くないのか?』
それにしてもなんのアクションもしてこないドラゴンが妙だなと感じた直後だった。
ポツリと、大きな口を小さく開いて、ドラゴンがそう言った。
「ふひぃっ…。」
言葉通じるタイプのドラゴン様っぽい。
そう気付いた瞬間、ダァッと嫌な汗が流れた。
唸るだけだから魔物系だと思っていたら意思疎通は無理だと思ってたから腹括って大人しく座っていたわけだけど、言葉が通じるとなれば話は違ってくる。
「突然の来訪!!!大変失礼致しました!!!」
すぐさまジャパニーズドゲザである。
だって意思疎通が出来るって事はだ。
価値観や文化の違いは兎も角、状況を判断出来る知性があるって事だ。
ドラゴン様視点からしたら、いきなり目の前に人間が現れた訳だ。
なのに突然の異分子に対して攻撃ではなく会話を選択をする判断を取れるということは、人間に対して友好的又は人間と敵対関係であっても対話から物事を判断しようという思慮深さを持ち合わせているわけだ。
つまり、化け物だと思って呆然としていた自分の態度は、完全に悪手だ。
「申し訳御座いません!!!ドラゴン様の余りに雄大なお姿に驚愕し許可も得ずに発言をしてしまいご無礼を……スンマセン!スンマセン!スンマセン!!」
そらもう地面に頭突きをかます勢いで土下座ワッショイだ。
だってさ、自宅で寛いでたら突然来客があって、しかもその客はなんの挨拶も無しに留まり続けるって状況。意味が分からないでしょ。
『ユーダイ?キョーガク?なんだその言葉は、カッコいいではないのか。』
ドラゴン様は首を傾げてなにやら呟くと、その御顔をずいって自分に向けて突き出す。
至近距離で見ると鱗がキラキラしてめちゃくちゃ綺麗だヤバイ語彙力なくなる。
『貴様、異世界から来た者だろう?』
「ふぁい!!!」
『ならば何故、我を怖がらぬ?』
「……え?」
目と鼻の先にある、ドラゴン様の鼻頭。
くんくんと鼻を動かしながら不思議そうに尋ねてくる姿が、なんか物凄く可愛い。ギャップ萌えか。
『過去に何度か異世界からニンゲンがやってきたが殆どのモノが「バケモノコワイ!!」やら「ナズェチートヌァイノォ!!」やら「キモチワルイキタナイコワイヤダァ!!」やら「ムリゲーダツンダコレェエ!!」と謎の呪文を叫んで死んだ。』
あ、あー……はいはいはい。
なんだ、一度や二度じゃないのか、異世界からの来訪者は。
だからドラゴン様も冷静だったのかそうか、一つ謎が解けた。
恐らく、その異世界から来た連中。
半分は一般人、半分はゲーマーと異世界転生モノ作品を嗜んでる奴らだな。
化け物怖いは、まあ普通の人間なら妥当な反応だろう。自分だって目の前の方がドラゴン様じゃなくて初手がゴブリンやオークだったらその人らと同じ事を言ってそうだ。
気持ち悪い汚い怖い嫌だなんてのもそう。都会暮らしで土すら触れた事がない様なお嬢さんか、潔癖症が言いそうなセリフだ。
無理ゲーだ詰んだコレなんてのは、ゲーマーかつドラゴン様を現実だとキチンと認識しなきゃ出てこない言葉だろ。勝てる訳ないって絶望したのだろう。
何故チート無いのって、異世界からの異分子の分際でなんで何らかの有り難いギフトが貰えると思っているんだかな。傲慢だろ。
皆、異世界転生チート万歳とか異世界で現実世界スキル無双なんて、夢見過ぎだろうよ。
「(いや、現状を夢って事にしたい。)」
このやり取りは、正直しんどい。
何故こんな圧迫面接みたいな事をされなければならないんだ。
自分は底辺の人間だ。
ゲームと漫画とアニメとたまに本しか観てない引きこもりに出来る事なんか、何も無い。
料理も得意では無いし、植物の知識も無いし、手先は器用ではないし、ましてや運動なんか学生以来していないしから戦えなんて無理、色仕掛けなんか出来るか童貞処女だ馬鹿野郎。
つまり、この状況をどうにか脱出する術がないのだ。
だから、足掻くという発想自体が思い浮かばなかった。
『我を見ても逃げ出しも気絶もしないニンゲンは初めてだ。何故、貴様は平気だ?』
そんなポンコツそのものみたいな自分を見つめながら、ドラゴン様は問いかけてくる。
好奇心旺盛にキラキラした目は子供みたいで、あまりに尊みを感じられた。
「しゅごい…。」
『シュゴイとはなんだ?』
「あああああ『凄い』です!!!実物のドラゴン様ってこんなに瞳が綺麗だとか!!!鱗の一枚一枚も綺麗だとか!!!迫力があってカッコいいのに可愛いとか!!!僕なんか一口で噛み砕けそうなおっきい口なのに………なのに……。」
語彙力なくなるわ、こんなん。
思えば、動物自体そこまで得意では無い。
犬には必ず吠えられるし、齧歯類にも大体いつも噛まれるし、鳥は飛ぶから怖いし。
猫ぐらいか、平気なの。
なのに、恐怖や嫌悪より、感動の方が強い。ドラゴンって凄い。
『……何故、泣く。』
え?
ぽたりと、音がして気付いた。
自分が、泣いている事に。
嗚呼、そうだ。
こんな風に他人と話すなんて、何年振りだろう。
深く深く頭を垂れて、涙の理由を伝えた。
「こんな…見ず知らずの矮小で異分子でしかない恐らく異世界産なんて胡散臭い人間なんかに丁寧に話しかけてくれるなんて……なんて親切なドラゴン様に出会えたんだろうなぁって……。」
小さな頃から憧れていた。
不思議な生き物、奇妙な生き物。
魔物化物妖怪魑魅魍魎、昔からそういう類が好きだった。
ソレが目の前にいる、それが嬉し過ぎた。
しかもこんなに親切丁寧に話を聞いてくれる方だなんて、運が良いにも程がある。
蓋をするばかりの人生だった。
自分の本音なんて吐き出せる場所はなかったから、おかげで家族以外は全方位人間不信だ。
だから元の世界で人間相手にするより、このお方と相対する方が気が楽にさえ感じる。
その久々過ぎるお喋りも、涙の理由なんだ。
『……ところで、実物はと言ったが、どういう事だ?』
なんか絞り出す様に出て来た言葉に、また粗相をしたことに気づいて我に帰る。
そりゃあ他人が突然泣き出したりしたら困るよね。
しかして、どう説明しろってんだよ。
ドラゴン様の疑問に涙がスルスル引っ込んで行く。
アニメとかゲームとか、そんなもん無いだろうに。
「ああああ、えええと………故郷に伝わる御伽噺の本に載っていまして。」
嘘はついていない。
某ゲームキャラの色違いっぽいんだよ、このドラゴン様。マジイケメン。
あの人気ゲームはアニメだけでなく色んな形でコミカライズされていた、特に僕は某女性作家が描いた魔物達をメインとした物語が大好きだった。なんなら絵本とか小説だってあった筈だ。本には沢山なっていた、嘘ではない。
『オトギバナシ?ホン?』
「うぇ?」
だいぶ分かりやすいのをチョイスしたと思ったのに、ドラゴン様的にはそうでもなかったらしい。
まさか御伽噺も本も無い?
日本だって平安時代には紙はあって枕草子とか源氏物語とか書かれていたよな?世界史はサッパリだけど、パピルス……紙的なものとかってだいぶ昔からあった筈だよな。三国志の演武とかいつだっけ。あー無知が露呈する!!
駄目だ、薄暗すぎて此処が部屋なのか洞窟なのかもよくわからない。
ドラゴン様が素敵なことしかわからない。
「御伽噺とは、物語や伝承の事です。」
『デンショウ?』
「えっと……人間達は長生きが出来ませんので、生活の知恵や戒め…してはいけない事とかした方がいい事とか、いろんな大事な事を物語にして子供や孫に伝えるのです。それが伝承です。」
『ふむ……吟遊詩人どもの唄のようなものか?ヤツラは唄で物語を伝える。』
「はい!似たようなものです!」
そうか、吟遊詩人って分かりやすい例があった。
なんだか王道なファンタジー世界っぽいなぁ。
「紙って、ご存知ですか?」
『人間の冒険者が地図に使うアレだな、知っている。大陸や町が描かれていて実に分かり易い。』
「ソレに物語や伝承を書き記した物が本です。僕の故郷には本を売るためだけの店があちこちにありました。娯楽として僕ら庶民からお偉い方々まで、本は親しまれておりました。」
『なんと、紙をそんな風に使っておるのか。贅沢な…。』
「うぇっ。」
どうやら紙は貴重品らしい。
すなわち存在自体はしていて、冒険者の手に渡る程度には普及しているけど、娯楽にするほどではないと。
原始的な時代ではないにしろ近現代でもないのが分かる、ますます王道ファンタジーっぽい。
『して、その本とやらでドラゴンの姿を見て知っていた、という事か?』
「はい!僕の大好きな物語なんです!」
厳密にはゲームでだけど、そこは余計な事は言わない。
あの人気ゲームの、初代をプレイした時の感動は今だに色褪せない。
初めての相棒だった、データ消えたからもう会えないけど大切なヤツだった。
初めて出会った竜でもあったし、あのゲームは間違いなく自分の人生を決めた出会いのひとつだった。
それにしてもこの方、こんな何のスキルも無いような吹けば吹き飛ぶどころか爆発四散しそうなちっぽけな自分なんかの話を、物凄く丁寧に聞いてくれる。
知らない単語も一つ一つ聞いてくれるし、豪快に見えて真面目なのかも知れない。
『聞かせてみよ。』
「ほぇ?」
『その、貴様が大好きだという物語とやらをだ。』
そんなにウキウキされても困るんだけど。
自分は喋るのは下手だし、ましてや語り部みたいなことなんかした事無い。
断れば怒って噛みつかれたりするかも知れない。
それは願ったり叶ったりだけど、なんというか。
だけど、だ。
「……僭越ながら、お話させて頂きます。」
このヒトをガッカリさせたくない。
いや口下手が話をしたところでガッカリエンドは確定なんだろうけど、断りきれないよなぁ。
背筋を伸ばし、正座をして、ドラゴン様を見上げる。
物語を語るならば日本人ならばやはりこの姿勢だろう、床冷たいけど気にする余裕はない。
***
昔々、ある所に「穢れなき大地」と名付けられた小さな田舎町がありました。
其処には齢十歳となる、冒険に憧れる人間の少年が住んでいました。
少年の住んでいた地域には、ある珍しい職業がありました。
それは【魔物使い】。
此方の世界の魔物と人間がどういった関係かは新参者の私には存じ上げませんが、その地域では魔物と契約をし魔物と共に生きる事は極々当たり前の事でした。
『魔物と、ニンゲンが?馬鹿な!!!』
嗚呼、成る程。
此方の世界では魔物と人間が仲が良くないようですね。
ですが、これは【異世界の物語】です。
そんな奇妙な所もあるのだなぁと、思っていただければ。
『ふむ……。』
契約の内容はとても簡単なものです。
人間は契約した魔物の衣食住や怪我をした際には治療をしたりと、生活する上での一切の世話をする。
魔物は契約した人間の日常生活や仕事の手助けをしたり、他の魔物に襲われた際に救い出す。
持ちつ持たれつの関係、それが彼らの契約です。
そして、その資格が許されるのは十歳からなのです。
少年は誕生日の日に、魔物使いとしての修行とまだ見ぬ大地を求め旅立つのです。
『ふむ、つまり最初の魔物がドラゴンなのだな!』
いいえ、鳥の魔物です。
少年が幼い頃から兄弟の様に共に過ごした魔物です。
『鳥ぃ?突く飛ぶしか出来ぬか弱い生き物ではないか。』
その鳥の魔物は少し特別なんですよ。
葱、という植物をご存知ですか?
『ネギ?』
細長い植物なんですよ。
長い物でしたら私の片腕ほどで、太さは私の親指より一回り大きいぐらいです。
色はドラゴン様の角の様な真っ白な茎と、ドラゴン様の鱗の様な鮮やかな緑色をしています。
因みに食用です。出汁をしっかりと取った鍋に他の野菜や肉魚と一緒に煮込むと物凄く美味しいです。
『美味い野菜か、ふむ。』
葱をその鳥の魔物は武器とし、刀の様に扱います。
『植物を武器に!!?しかも刀だと!!!東の島国でしか作れないレア物だぞ!!!?』
極々一部の地域ではポピュラーな武器らしいですよ、葱。
別の世界の物語ですが、葱を愛剣として扱い悪を討ち滅ぼした猛者もいるぐらいですから。
元は食用ですし非常食にもなりますから、理に適ってはいますね。
『ネギ…おそるべし…。』
少年と鳥の魔物は、まず蛙の魔物を仲間に加えます。
『蛙……?』
嗚呼、えーと。
この世界にはフロッグマンという魔物はいますか?
そのフロッグマンの頭部から足が生えた四足歩行の生き物が蛙です。
『フロッグマンは居るが……シソクホコウ?』
こう、四つん這いになって移動する生き物の事です。
『なるほど…。』
それから、鼠の魔物が仲間に加わります。
黄色……ドラゴンさんのお腹の様な鮮やかな色をした魔物です。
『鼠ならば知っておる、尾の長い小さな動物だな。』
少年は彼らと助け合いながら二つの町と、月がとても美しく見える山を一つ越えて、新たな町に辿り着きます。
其処で出会ったのが、竜の魔物でした。
『おおぉ!遂にドラゴンの出番なのだな!!』
お待ちかねの所、大変申し訳ないのですが…。
『むん?』
この竜の魔物には、辛く悲しい過去がありました。
『辛く…悲しい……?』
どの世界でもそうであるように、その世界の人間達も全てが良いものではありません。
竜の魔物は、元は邪悪な組織の元にいた魔物でした。
『ソシキ?』
人間が作る集団のカタチの一つです。
大体の場合は、ある目的の為だけに集まってソレを達成させる為に集まる集団です。
竜の魔物が居た組織の目的は、お金儲けでした。
だからか、お金儲けの為ならば魔物を粗末に扱い扱き使ったりしていました。その為に、邪悪なのです。
『ソマツ…。』
たくさんたくさん働かせるだけ働かせてご飯をちゃんと上げなかったり、怪我をしても放ったらかしにしたりする事です。
『なんだと!!!?そんな酷い事をするニンゲンがいるのか!!!』
後は、様々な実験に魔物を使ったりとかしますね。
『実験?足の速さや空飛ぶ速さを競うものだな!!』
いえ。
……この世界には、魔法だとか呪術だとかはありますか?
『魔法も呪術も咒もお経も祝詞もなんでもあるぞ?
言霊と言ってな、言葉にする事はとても意味があるものなのだ。』
成る程、成る程。
スケルトンとかゴーストの様な、私達の世界でいう【お化け】と呼ばれているのですが、そういった魔物は居ますか?
『居るぞ居るぞ!スケルトンやゴースト!なんならマミーやゾンビも居るぞ!!奴らは聖魔法やお経以外ならば何でも耐えて何度でも復活するとても頼もしい魔物であるぞ!』
例えるならばの話です。
スケルトン一匹を捕まえてきて脱出不可能な牢に閉じ込めた上で、弱い弱い聖魔法で攻撃をします。
『ふむ。』
どれぐらいのダメージを受けたかを確認したら、スケルトンの体力を全快するまで回復させます。
『……むん?』
そうしたら、最初よりもちょっとだけ強いだけの、弱い聖魔法で攻撃をします。
これを、スケルトンが死ぬか魔法のネタが尽きるまで延々と繰り返すのです。
何度も、何度でも。
『……。』
それが、実験の一例です。
かけっことかでは断じてありません。
『うわぁ…。』
後はキチンとした契約を行わずに魔物を捕らえたり、既に他人が契約した魔物を横取りしたり、道中の邪魔というだけの理由で巣を無理矢理暴いて其処に住んでいた魔物を……。
『コワイ!!!』
そういう怖い事を平然とやらかす人間が沢山集まったものが【邪悪な組織】です。
そして、竜の魔物もその組織の被害者だったのです。
『なんという事だ……なんという事だ……!!!』
命からがら逃げ出した竜の魔物は、偶然にも少年と出会います。
竜の魔物は人間を恐れるあまりに少年に噛みつき手傷を負わせました。
『よし!よくぞ勇気を出して戦ったぞ竜の魔物よ!!!』
少年はボロボロに傷付いた竜の魔物を治療しようとしていたのに?
『すれ違い!!!』
少年と契約していた魔物の内、特に鼠の魔物は竜の魔物の反応に怒りました。
大事な少年を傷つける者は、例え手負いの魔物でも許せなかったのです。
しかも少年は竜の魔物を助けたかったのですから、その怒りも尤もでした。
『嗚呼……救いは…救いはないのか……?竜も少年も何も悪い事をしていないではないか……!!!』
鼠の魔物は、竜の魔物を攻撃しました。
『うわぁあああああ!!!やめろぉおおおお!!!?』
少年は、鼠の魔物の攻撃から竜の魔物を庇いました。
『……!!!』
少年は思いました、きっと酷い人間がこの子を沢山傷つけたのだと。
竜の魔物は特に人間である自分に対して怯えているのを、少年はすぐに理解したのです。
『少年凄いぞ!!!賢いぞ!!!』
少年は竜の魔物に、何度も何度も謝りながら治療をしました。
ごめんね、ごめんね、人間がひどい事して、ごめんね。
少しだけ、もう少しだけ我慢してね、きっと治るから。
少年は竜の魔物に惜しみなく……上質のポーションを使い甲斐甲斐しく竜の魔物を世話しました。
『魔物にポーションなぞ貴重な物を使う人間がいるのか!!!?それも上質の!!!?少年凄いぞ!!!』
契約した魔物達は、治療に専念する少年が他の魔物に襲われない様に警戒していました。
鳥の魔物も蛙の魔物も、少年がとても優しい事を知っていたからです。
鼠の魔物もそんな二人に、渋々といった様子で警戒に加わりました。
『良い奴らしかいないではないか!!!』
一晩明けて、竜の魔物を苦しめた傷は全て治りました。
『ポーションスゴイ!!!』
少年は回復した竜の魔物に一安心すると、達者でなと去っていきます。
『えっ。』
竜の魔物は人間を恐れていましたから、治療が終わったなら自分は去るべきだと思ったからです。
『何処まで優しいニンゲンなのだ少年……!!!』
あまりにあっさりと去ろうとする少年を、竜の魔物は追いかけました。
命を救われたのに、生まれて初めてこんなに優しくして貰ったのに、恩も返さずに野生に戻る気にはなれなかったのです。
『おぉおおお!!!』
そうして、竜の魔物は少年と契約し共に旅をする事に決めました。
その後、少年と共に【邪悪な組織】に立ち向かったり、ライバル達と競い合い、強くてカッコいい竜の魔物へと成長するのです。
『竜の魔物よぉおおおおお!!!!!!』
これが、私が生まれて初めて出会ったドラゴンの御伽噺です。
***
「……如何、ですかね?」
恐る恐るとドラゴン様を見やる。
そのままでは伝わりにくいだろう箇所を言い換えたり、ゲームまんまの物語を辿るんじゃ面白くないから自分がゲームをしている中で考えた妄想ふんだんに使ってかなりアレンジを加えた。そういうのあるあるじゃないかな?どうだろうか。
それにしても、どうやらかなりオーソドックスなファンタジー世界みたいだ。
ありがちなモンスターや道具の名前を出したらすんなり頷いてくれて助かった。
『素晴らしい!!!素晴らしい話だぞ!!!』
ドラゴン様は尻尾をビッタンビッタンさせている。
どうやら物凄くお気に召したらしい、嗚呼、ガッカリさせずに済んで良かった。
『いや続きもだが貴様!!!話を端折ったであろう!!!なぜ最初から語らない!!!?他の魔物との出会いとか!!!他の町や山での出来事もだ!!!全部聴きたいぞ!!!』
めっちゃ話ガッツリ聞いてくれてる。
口頭で絵も音楽も無いのに、よくしっかりと内容を聞いてくれている。
なんだ、ドラゴン様の周りってあんまり娯楽がないのかな?
『貴様、他にも知っているというのかオトギバナシとやらを!!!』
「え、えぇまぁ……。」
『良い返事だ!!!実は世界征服も大詰めでな!!!退屈しておったのだ!!!』
頷いた、勢いに負けて頷いてしまった。
そりゃあ趣味がアニメとゲームだから、その分は沢山の物語と出会ってきたつもりだ。
引き出し自体はいくつもあるし、アレンジすればいくらでも出来なくはない筈だ。
だから、嘘ではない。
自分が頷いたのを確認したドラゴン様は大はしゃぎだ、どんだけ娯楽ないんだよ異世界。
つか、世界征服?
まさか、ラスボス系ドラゴンだったりします?
『我の退屈を紛らわせるのだ!!!!!!』
ドラゴン様は嬉々として命じられた。
どうやら自分は、妄想語りだけでこの世界を生きなければならないみたいです。
無茶言うな。
NEXT!!