【三節】第四十話 ベルドル王国
「━━クラン、そっちに行ったぞ!」
私は、足で地面を踏むと、それと同時に魔方陣を出現させ、そこから鎖を出し、潜っている魔物を誘導する形で、クランの方に誘き寄せた。
何故か、私の身体の調子が良く、魔方陣の展開や鎖の出すタイミングが、いつも以上にスムーズだった。
(━━これも、この魔法に慣れてきたお陰なのかな)
そう思いながらも振り替えると、そこにはクランが待ち構えていた。
すると、その潜っていた魔物が姿を表した。この砂漠地帯の中で、潜っていたのは、大きな魚の形をして、鋭い牙を尖らせていた。
その魔物は、口を大きく開けクラン目掛けて飛んできたのである。
だが、クランはその魔物には動じず、立ち向かっていった。
そして、予め罠がされていたのだろう。クランは、手を前に出しそのまま上げると、同時に地面から無数の鎖が飛び出ると、その魔物に向かって巻き付いたのだ。
その後、身動きの取れなくなった魔物に対し、クランは両腕を前に伸ばすと、そこから鎖が飛び出てきた。
その鎖には、鋏の形をした片割れの短剣がそれぞれ、魔物に向けられた。
すると、その短剣は魔物に突き刺さり見事命中する。だが、これで終わりではなかった。
次に、クランは腕をクロスさせると、突き刺さった短剣はそれに釣られ、勢いよく切り刻んでいく。
更に、腕を上げると短剣もまた、上に上がり切り刻んでいった。
そして、魔物は動かなくなり、見事倒したのである。自分より、遥かに大きな魔物を相手にして、クランも少しずつだが、成長していた。
(━━矢張、生きていく上では、こういう環境にも慣れさせて措かないとな)
と、私はクランの元へと歩み寄る。すると、クランもまた私のところへ向かうや、何処かソワソワさせた様子を見せてくる。
言わずと、何なのかは察していた。私は、クランの頭を撫でてやった。
「今日は、クランのお手柄だったな」
すると、クランは何処か嬉しそうは表情を浮かべる。きっと、クランも誉められたいお年頃なのだろう。
(━━でも、クランが手柄を取る度に、こうやって誉めてやらないといけないから、何かペットな気分で面倒だな…… だけど、私が倒すと、クランはムキになるしな……どうしたものか)
と、私は少し悩んだ様子で、クランを撫で続けていた。
━━そして、その魔物は今日の食事にする事となったのだが……
「━━えッ!? いらないのか?」
それは、私が声をあげてクランに言った。すると、クランはコクリと頷いた。
だが、私は心配していたのだ。それは、エルボルを出てから三日も過ぎたのだが、私達は未だ食していないのである。
私は、元々食さなくとも影で取り込む事で、その取り込んだものを自分のエネルギーとして保有出来る為、食事しなくてもいいのだが、クランは違ったのだ。
クランは、私みたいに死神でもなければ、悪魔でもないただの人なのだ。
(━━もしかして、私と契約した事でその力を宿し、クランも食さなくてもよくなったのか?)
私が取り込んだものを自然とクラン方へと流れ込んでいるのか。色々仮説は立ててみたが、どれもわからない事だらけだった。
私は、再び難しそうな顔を浮かべながら、クランを見る。そして、私はクランにこう言った。
「でも、やっぱりクランはまだ子供だから、しっかり食べて大きくならないと成長しないぞ?」
此処はやっぱり、大人な対応でしっかりと教えて置くべきだと思った。
だが、クランは私の言葉に対し、こう返してきた。
「いらない━━お腹空いてない」
(━━なッ!? これが、反抗期ってやつなのか……)
どうも、クランはこれだけは譲れない様子で抵抗していた。流石に、こんなところでいがみ合っても、仕方ないと思い私はおとなしく引いた。
(━━はぁ。 もう少し子供の対応が出来たらな…… 私も、詰めが甘いな)
と、諦めた。そして、先程倒した魔物は、私が影で飲み込ませた。
それから、私達は先へと進むべく、足を再び歩ませていったのである。
━━暫く歩いていると、私は口を漏らした。
「さてと、そろそろ着くと思うんだけど━━」
そう言った先には、大きな国が見えてきた。それは次の目的地だった。
私達はエルボルを出てから、歩きながら道中、色んな魔物等を相手しながら、力を付け先へと進んで行ったのだ。
メルスアから近くに行った先では、地図から確認すると国がある事がわかったので、一先ずこの国に立ち寄る事にしたのであった。
(━━この世界の事も、わからない事だらけだからな。 何か、情報になりそうなものがあるといいんだけど……)
私は、そう思いながら国の門の前へと向かった。そこには、何名か兵士達が門番をしていた。
国という事もあってか、結構厳重なようだ。すると、一人の兵士が私達に気付くと、近付きこう言ってきた。
「━━お前達は、何者だ?」
「私達は、旅人なんだけど、この国に入る事は出来ないか?」
私は、直ぐ様返答したのだが、何処か疑いを持っているようだった。
まぁ、それも無理はなかった。何故なら、こんな小さな女の子二人が旅をしていると聞いても、直ぐには理解はされないであろう。
すると、兵士は私達に、こう言った。
「━━では聞こう。 君達はこの"ベルドル王国"へ何しに来たのだ?」
「先ずは、旅の疲れを取るべく、その宿泊と資材調達かな」
私は敢えて、濁らす形で疑われず、どうにかして言いくるめた。のだが、どうも信用出来ないと言ったようで、頑なに拒んでしまった。
私達が、そうこう言っていると突然、今度はとある男性が私達に声を掛けてきたのである。
「━━まぁまぁ、いいではないか。 彼女達も態々遠い場所から来てくれたのだろう?」
その男性は、明らかに貴族ぽそうな服装に、肥満体型でやるしかちょび髭の明らかに柄の悪そうな人物だった。
「こ、これはビルガ伯爵! ですが、しかしこのような怪しい人物を━━」
と、兵士が言う中、突如その兵士は、黙り込んだのである。そして、そのビルガとかいう伯爵は、私達を見るなりこう言ってきた。
「君達━━さっきは、すまなかったね。 お詫びとはいかないが、私がこの王国を案内してあげよう。 さぁ、私の目を見て━━」
まぁ、何か知らないけど、この国に入れるようだったので、私達はこのビルガとかいう人物に従った。
でも、一つ気掛かりなのは、何故ビルガの目を見るんだろう?私は何の疑いもなく、ビルガの目を見てしまったのである。
しかし、目を見つめたが何も起こる様子はなかった。私は、首を傾げる中、ビルガが何故か慌てた様子を見せていた。
すると、今度はビルガの指に嵌めていた指輪を、私達に向けてきた。
だが、私達には何も効かなかったのだ。そして、ビルガは私達にこう言ってきた。
「━━お、お前達いったい何者だ!?」
「私達は、ただの旅人だけど、さっきから何してるんだ?」
一先ず、ビルガは一呼吸し落ち着かせると、私達を再び見るなり、こう言ってきた。
「い、いや何でもないよ。 そ、それじゃあ、中に入ろうか」
と、明らかに動揺しているようであったが、私は仕方なかったので、このビルガに口を合わせながら、共に行動する形で、門の中へと潜り抜けていったのであった。