第三話 トロール襲来
ゴオー。と禍々しい殺気と共に、風が入り込んできた。
そこには広い空間が広がっていた。
そして私は言葉を失う。
私が目にした光景は━━複数のオークやゴブリンや狼等といった魔物等が、人と魔物が交わっていたり、悲鳴や叫び苦しみや苦痛、喘ぎ又は獣による雄叫び等様々な音が聴覚に入り込んできた。魔物等はやりたい放題に人等を痛め付けては騒いでいる。
一言で表すのであれば、このフロア一帯はカオス状態である。
どうやら、魔物等はまだ私には気づいていないらしい。
一先ず、さっき私が助けた後方に居る人等に、魔物等を近づかせない為に、大きな扉は閉めて置こうとした。
そして、扉を閉めたまではよかった。
━━がしかし、私は迂闊だった。その扉を閉めたと同時に「バタンッ」と大きく閉まる音が響いてしまったのである。
さっきまで賑わっていた、魔物等は突然と静まり返る。更に魔物等は一斉に扉の方に目を向けたのである。
━━そして、私に気がつくと一斉に唸り声を上げた。
私は即座に、魔物等の方を振り向いた。
すると、魔物等は一斉にこちらに向かって走ってきたのである。その大多数は武器を持って襲いかかってきた。
先手は完全に取られ、不利な戦闘となってしまった。
私は何とかして魔方陣を展開させるが、思っていた程魔物等も甘くはない。
「クッ、これじゃ間に合わない…」
私は咄嗟に、今着ていたフード変わりとしていた大きな布を脱ぎ捨て魔物等の注意を引いたのである。
その瞬間に左へと、交わした。
ズサー。と滑り込み、なんとかその場を切り抜けた。
私は第二手が来る前に、起き上がると同時に魔方陣を展開させた。
左右の手には、魔方陣が展開されている。
「さぁ、掛かって来い!」
ようやく自分の流れが出来たのである。
私は向かって来る魔物等に、魔方陣を回転させ投げつけ切りつけた。
「【魔方陣斬り】━━まぁ自分で言うのもなんだが、今思い付いた名前だからネーミングセンスは微妙だけど」
━━それからも、私は一人で複数の魔物等を圧倒し続けた。
「にしても、数が多いな。魔物も減っては居るだろうが、まだあちこちに居る。はぁ攻撃魔法が使えたら、このフロア一帯凪ぎ払えるのにな…」
人等を助ける気は更々なかった。
私は元より人等を助ける救世主なのではない。
「まぁ助けても何のメリットもないだろうが、意識ある人は後で助けてやるか」
そう言いながら交戦を続けた。
━━そして大分、魔物の数が減ってきた頃だろうか。突如として出来事は起きた。
突然「ドーン」と大きな音を立て、壁に大きな穴が空いたのである。
その穴から、オークより明らかに図体が大きい影が、砂ぼこりからシルエットのように出現したのである。
次第に砂ぼこりは消え、そのシルエットの正体が明らかになる。
その正体は━━トロールだったのである。
明らかに、さっきの魔物等と雰囲気が違う。私はその体格差に看取られていた。
というのも、その大きさは歴然。今は少女となって身長も大分縮んでいるので、余計に大きいと錯覚していたのだ。
「追々、冗談だろ━━あいつ倒せるのか。いや、倒すしかない!」
私は決意を決め、トロールが居る目の前まで走る。
左右の手には、魔方陣を展開させ走りながらトロール目掛けて【魔方陣斬り】をした。
━━攻撃は命中した。だが、トロールに全く傷がつかなかったのである。
「なッ!」
思わず、声を出した。
続けて連続で【魔方陣斬り】を放った。
命中はするもトロールは全く効いていないようである。
今度はトロールが反撃した。
トロールは私目掛けて右手に持っていた大きなこん棒を振ってきた。
「【魔方陣の盾】!!」
右手に展開していた魔方陣を前にし、その攻撃を防ごうとした。
けど、余りにも力が強過ぎて【魔方陣の盾】は直ぐに砕け散り、そのまま私は軽々吹き飛ばされた。
「うわっ!」
何とかして姿勢を立て直すべく、吹き飛ばされた後方に空中に【魔方陣の盾】を展開させた。そして、その魔方陣を足場として踏んだ。そのまま勢いよく足で魔方陣を蹴り、トロールの方向へと飛んだ。
「さっきはよくもやってくれたな。仕返しだ!【魔方陣斬り】!!」
今度はトロールの顔目掛けて【魔方陣斬り】を間近でお見舞いしてやった。
私はそのまま地面に着地し、トロールの顔を見上げた。
あれだけの至近距離で食らえば人溜まりもない。普通は誰しもが思う。
だが、トロールは違ったのだ。なんと微動だにせず頭を指でポリポリと掻いていたのである。
「こ、この舐めやがって…」
そこまで攻撃が通らないといくら攻撃したところで倒せない。
私は、他に何か良いアイディアがないか考えた。
こう考えている間にもトロールの攻撃がやってくる。
「【二重魔方陣の盾】!!━━これならどうだ?」
と今度は、魔方陣を重ねて防御を試みた。
だが、結果は駄目だった。二重に重なった魔方陣は見事に壊され、吹き飛ばされる。
さっきよりかは吹き飛ばされてはいないが、それでも今の私の姿では吹き飛ばされてしまう。
「クッ…」
何とか体勢を保ち、地面へと着地した。
「辺りには人が倒れてるし、このままだと他の人にも被害が及ぶ。これ以上大きくは動けない。」
一先ず、トロールの弱点となる場所がないか汲まなく探った。
「どうする?どうすればいい?」と考えているのも束の間、次から次へと攻撃がやってくる。
私は避けられる距離を保ちつつも避ける。
今現状、私の魔法ではあいつを倒す術がない。
「いや、倒せそうな方法なら一つだけある。だが、通用するのか━━駄目だ、考えてる場合じゃない!駄目元でもやるしかない」
そう言い、私は新たに宙に魔方陣を展開させた。
すると、その魔方陣から二つの短剣が落ちてきて、地面に刺さった。
その短剣は特徴的で、ハサミの形をした片割れが左右対称の二つの剣なのである。
━━そう、この武器はコアがないと本来の力が発揮しないので、ただのガラクタ同然だと思っていた武器なのである。
私はその武器を手に持った。
その持ち方も独特で、剣先を下に向け、まるでクナイの持ち方みたいである。
「よし、行くぞ!」
掛け声と共に私は走る。
すると、トロールは私目掛けてこん棒を振り落とす。
私は瞬時に振り落とされる場所に【魔方陣の盾】を貼った。
トロールが持っていたこん棒が魔方陣と衝突し、その衝撃でこん棒が弾かれる。
私はそのまま走る事を止めず、トロールの足元まで来た。
そして、先ずは重心を崩すべく足横を切った。
するとトロールの足が切れたのだ。
切れ味は悪くない。切れ具合も中々に良かった。
「だが、まだ浅い!」
今度は、【魔方陣の盾】を前に展開させ、それを足場にし蹴って、さっき走って来た方向と逆の方へと飛んだ。
そして、さっき切った場所をまた切る。
「まだだ!」
私はまた【魔方陣の盾】を前に展開させ足場にし蹴り、その方向とはまた反対に飛んだ。
そして、切り口を狙い同じところを切る。
すると、トロールは体勢を崩したのである。
トロールはそのまま「ドスン」膝を下ろし込んだ。
今度は【魔方陣の盾】を宙に展開させ、それに乗りジャンプし、肩と背中との間に向けて勢いよく左右の短剣を刺したのである。
すると、トロールは腕に力が入らないのか、腕がぶら下がる。そして、そのまま「バタン」倒れ込んだ。
私は、トロールの背中に着地する。
そして、刺し込んだ短剣を引き抜いた。
「さぁ、これで終わりだ」
と言い、トロールの首目掛けて思いっきり刺した。
トロールはそのまま動かなくなった。
「強敵は倒した。後は━━」
と口を開き喋っていた間に、「ゴゴゴゴゴゴ」と地面が揺れたのである。
すると、さっき壁からトロールが現れた場所がまた「ドンッ」と大きな音を立てたのである。
私は嫌な予感がした。
そして私は恐る恐る壁の向こうを振り向いた。
すると、なんて事だろうか。さっきまで倒していたトロールが今度は三体壊れた壁から現れたのである。
「追々、一体でもあれだけ苦戦してたのに、まだいやがるのかよ」
嫌な予感は的中し、私は呆れと絶望していた。
武器
名前:シザーズ=エッジ(右:カストル 左:ポルックス)
特徴:ハサミの片割れが左右対称の二丁短剣である。
刃は鋭く尖っている。
元は一つのハサミだったのを、二つに分けて短剣にした。
今は、コアが無い為ただの切れの良い短剣である。




