第三十八話 コアの力
「━━なッ!」と私は、口を漏らし目を見開いた。
それは、最後の最後で気を許してしまった、気の緩みで起こってしまったのだ。
クランが倒れた後、高らかと笑うメリアに対し、私は魔方陣展開させて短剣を胸目掛けて刺した。
すると、メリアは「うぐっ」と漏らすと、動かなくなった。それと同時に、村に覆っていた結界がガラスのように砕け散ったのである。
そして、今度は倒した事を確認した後、直ぐ様クランの元へと駆け付けた。
私はクランを抱え込むと、こう言った。
「━━おい! しっかりしろ!」
どうやら意識はないらしい。だが、僅かながら息はあるようだ。
私は、すかさず魔方陣を展開させた。が、私とて残り魔力は少なかった。
でも、今は無理してでもクランを助けなければならないのである。折角、生きて来たんだ。こんなところで死なせてたまるか!と、私はクランを助ける事に必死になっていた。
そして、突き刺さった人形の腕を抜くと、私は緊急応急回復魔法━━【生命回復魔法】を唱えた。
すると、傷はみるみると癒えていった。のだが、肝心の毒が治らなかったのである。
けど、毒の進行具合が思っていたよりも早く、どんどんクランの身体を蝕まんでいった。
傷は癒えても、毒を治せるような魔法は持ち合わせていなかった。このままでは、やがて毒に蝕まれて死んでしまう。
私は、頭を巡らせ考え始めた。余り、考えている時間もなかった。
時間が経つに連れてクランの呼吸も次第に薄れ始めてきたのだ。
私は、焦る中考えていると、一つの答えが浮かんだのである。だが、こんな事をして治るか不明だったのだ。
けれど、このままではクランの容態も悪くなっていくばかりだった。
(━━一か八かやるしかないか……)
すると、私は先程のコアを取り出すと、それをクランのお腹へと近付けさせた。
そして、コアに被さるように魔方陣を展開させると、私は意識を集中させ、コアの中にある魔力がクランの体内へと入り込んでいった。
(━━もし、毒がこれによるものだったとしたら、このコアで押さえられるはず……)
私は、微かな望みを信じながら祈った。すると、その祈りに応えたのか、クランの容態も良くなっていたのである。
すると、コアは力を使い過ぎたのか、突如パキッと皹が入った。
だが、クランもまた毒に侵されたのか、大分魔力と体力が消耗しているようだった。
一先ず、応急措置は済ませると、一息呼吸を整えた。
そして私は、クランを抱えると、そのままクランの家まで向かう事にした。
「━━あぁ、そうだ……」
と、その間際に私は、不意に何かを思ったのか、口を漏らした。そして、私は倒れているメリアを見ながら、黒い影を伸ばすと、そのまま影に飲み込ませた。
私の表情は、何処か浮かない様子と、疲れた様子だった。
◇◆◇◆◇
「━━あれ? ここは……?」
そこに広がっていたのは、真っ暗で何もない空間の場所に、私は一人ただ浮いている感覚だった。
それとは別に、何処か居心地の良い場所にも覚えた。
(そうだ。 あの時、私は刺された後気を失って━━)
クランは、うっすらとさせる中どうにかして、記憶を取り戻したのである。
(━━私、死んだのかな……でも、僅かにマスターの魔力が感じる。 とっても温かな魔力……それにしても、此処は何処だろう。 ちゃんと、戻れるのかな)
と、色んな思考が埋めく中、クランはただ流れるように、先の見えないこの空間に浮いて進んでいた。
暫くして、黒めいた光が中央に現れたのである。
「これは━━?」とクランは不思議そうに手を触れた。すると次の瞬間、回り一体に眩い光りが差し込み、クランを飲み込んだ。
クランは、思わず目を瞑ってしまった。それから、クランはゆっくりと目を開けた。
そこに広がっていたのは、先程の場所とは若干異なっており、その回りには無数の鎖が散らしており、その中央にその鎖が集まっていた。
クランは、その鎖が集まる場所へと導かれるように向かうと、次第に近付いて来る度に、その正体がわかった。
「━━マスター……?」
と、思わず口を漏らし言う。それは、ハクアの魂だったのだ。その魂に鎖が集中していたのだ。
その光りは、少し黒く濁っているようにも見えた。でも、それとは裏腹に、何処か温かな魔力が宿っていた。
と、思わず口を漏らし言う。それは、ハクアの魂だったのだ。その魂に鎖が集中していたのだ。
その光りは、少し黒く濁っているようにも見えた。でも、それとは裏腹に、何処か温かな魔力が宿っていた。
そして、クランはゆっくりと手を伸ばし、その魂に触れると先程、覆われていた鎖がパリンと砕け散ったのである。
クランは、そのまま何事もなかったかのように、その魂を抱き抱えたのだ。
「━━マスター。 私は此処に居るよ」
すると、その黒く濁っていた魂は眩い光りを放つと共に、再びクランを包み込んだのだった。
そして、クランはゆっくりと目を開けた。今度は、天井が私の視界に入った。
此処は、見覚えのある天井だったのだ。それは、クランの部屋だった。
どうやら今度は、ちゃんと元の場所へと戻って来たらしい。
それから、クランは首を動かし辺りを見渡すと、そこにはマスターが横で椅子に腰掛けて眠っていた。
よく見ると、マスターの片腕には鎖が巻かれていた。それの鎖を辿った先には、クランの片腕に巻き付いて繋がっていたのだ。
どうやら、これでマスターの魔力をクランに与えていたらしい。
そして、クランはゆっくりと腰を起こすと、少し思い詰めた様子でこう思った。
(━━あれは、夢だったのかな……?)
と、首を傾げながらそんな事を思っていると、そんなマスターはクランが起きた事を悟ったのか、目を覚ました。
そして、マスターはクランを見るなり、こう言った。
「━━おはよう」
それは何も変わらない、いつも通りの言葉だった。でもクランは、そんな言葉にとても温かな気持ちになっていた。
そして、クランもまたマスターに「おはよう」と応えたのであった。
◇◆◇◆◇
━━しかし、何故だろう。先程まで寝ていたせいなのだろうか、身体が軽い気がしていた。
(━━今回は、私がクランを見守って居る。 恐らく、クランもこういう気持ちで私を見守っていたのだろうな。 いつもなら、クランが側に居てくれたからな。)
と、何とも言えない気持ちだったが、私は余り深く考える事もなく、ようやく目を覚ましたクランに、こう言った。
「━━もう、大丈夫なのか?」
すると、クランはコクリと頷いた。久し振りの無表情さに、私は何処か穏やかな気持ちになっていた。
それから、クランの容態も確認出来た事なので、私の腕に取り付けていた鎖をほどいた。
クランも、すっかり元通りといった様子で、ベッドから起き上がる。
傷口もすっかり塞がっており、傷跡も見当たらなかった。一つ問題と言えば、衣装に穴が空いてる事だった。
まぁ、本人も余り気にしていない様子だったので、何も言わなかった。
というのも、どうせ次の行き先は既に決まっていたのだ。そして、支度の準備を済ましたところで、私はクランにこう言う。
「━━もう、いいのか?」
「大丈夫……」
それは、この家この村との別れだった。クランは、何か特別な事をする訳でも、見送る訳でもなく、何もしないまま後にしたのだ。
私的には、もう少しこの場所に残ってやりたいとも思ったが、私もまた先を急いでいた。
「━━じゃあ、そろそろ行くか」
と言うと、既に床に描かれた魔方陣の上に乗ると、私は転移魔法を使ったのだった。
色欲のコアの一部
コアの中には、色欲の蠍の力が宿っている。
その蠍の力は、使用者に毒の力を与えてくれる代わりに、代償としてその肉体に大きな負担も背負う事になる。
コアの一部とは言え、その力は強大で悪魔の力を宿している。
なので人が使い過ぎると、やがて自我を崩壊する事もある。




