第三十二話 それぞれの思い
━━クランが短剣を飛ばす際、私は反射的に、目を瞑ってしまった。
そして、私は恐る恐る片目で開けると、クランが刺したその短剣は、見事に胸を貫いていた。よく見ると、クランの瞳には涙が滴り落ちている。
だが、メリアの様子もおかしかった。先程までの表情とは、明らかに険しいそうな感じだったのだ。
そして、メリアは自分が今、置かされている状況を理解した。メリアが、恐る恐る顔を下ろすと、その胸元には、短剣が突き刺さっていたのである。
状況を把握するや、メリアは息を荒げながら、クランに問い掛けた。
「━━な……なんで……? クラン……敵は、あそこよ? どうして……私を……?」
すると、クランは無言のまま、ただ感情のない状況で涙が滴り落ちているだけだった。
メリアは、そんな無言のクランに振り向くと、ある事に気が付く。
それは、クランの片目の色が、明らかに違っていたのである。そして、メリアが何かを察したかのように振り向き、今度は私を見てきた。
そこには、手足を縛られ身動きの取れない状態の私が居た。ただ、片目が閉ざされ、私の頭から血が滴り通っていたのだ。
「━━その片目どうした……!? いったい、いつから……」
と、大分表情も険しく、私に向かって言ってきた。すると、私は閉じていた片目を開くと、微かに魔方陣が描かれていて、その瞳にはペリドット色の目が現れたのである。
メリアは思わず「━━ッ」と、口を紡いだ。そして、私はメリアに言う。
「流石に気づいたか━━それは、ゴーレムの攻撃の際中、私はクランとの目を変えたのさ」
「そんな事は……見れば、わかるわ━━」
と、メリアが怒鳴ると「ガハッ」と、メリアの口から血が溢れ出た。
メリアも、そろそろ限界がきているようだった。すると、引き続き話しをかけてきた。
「いったい、そんな事……どうやって━━」
と、言いかけた後、メリアは何かを察したかのように、私の方へと眼光を向けた。
そして、再び私に言う。
「━━あの時……クランの鎖使っていたのは……そういう事だったのね……」
「━━ああ。 そうだ……」
「あなたが……どうやって、クランの力を盗んだか知らないけど……やってくれたわね……」
━━そして、メリアが最後の力を振り絞り、先程の生命の石を二つ手に取ると、そのまま口の中へと飲み込んだのである。
「━━私の邪魔ばかりして…… もう、許さないわ…… 思い知るがいい! 【箱の蠍】」
すると、メリアの真下には、凄まじい程の魔力が解き放たれると、そこに大きな無数の魔方陣が描かれた。
更に、先程のゴーレムと、個々の村人だったであろう人形達が現れると、その半数がメリアを囲うかのように分裂し、そのまま魔方陣の中へと呑み込んでいった。
「━━この魔力……まさか!?」
━━と、荒れ狂う膨大な魔力に、私の意識までもが、持っていかれそうだった。
一先ず、私は【魔方陣の盾】を使い、鎖を絶ち切る。その後、大分怪我もそれなりに酷かったので、応急手当てだが【治癒回復】を、軽く自分に使った。
そして、ただ呆然と立っているクランの元へ走り向かう事にした。
だが、正面にはメリアが居るので、くの字を取る形にして【加速魔法】を使用し、すかさず急いでクランの元へ向かった。
すると、矢張クランは突然の事が、色々頭に入り過ぎて、困惑していた。
一先ず、クランの記憶は、私の目を宿している限り、その意識では、クランが私の片目を補修しているので、この忌々しい幻影を見せれずにいたのだ。
ただ、幻影が無くなるという事は、村の人出なくなり、そこには木で作られた人形が見える事となるのである。
クランは、両親の関係で泣いているのか、それともこの村の実態を目の当たりにして泣いているのかわからなかった。少なくとも私はクランに嫌われたかなと思っていた。
だが、今はそんな悠長な事は思っていられなかった。もし仮に、メリアの唱えた魔法が"あれ"だとするのなら、一刻も早く止めなければならなかったのだ。
私は、クランにこう告げた。
「━━クラン! 今だけでいい、私の言葉を信じて欲しい。 今のクランなら、この村の事情を理解出来るはずだ! 本当なら、もっと早くに言えばよかった……すまない」
だが、クランの感情が上下し、錯乱状態に陥っていた。それに対し、私はすかさずクランの両腕を掴むと、そのまま顔を近付けさせた。
「クッ━━目を覚ませ!」
そう言うと、半ば強引だったが私とクランとの唇が触れ合った。そして、私は心の中で【精神回復】を唱えた。
クランは、次第に自我を保ち始めた。すると、クランは私とのキスをしているのに、気づくと今度は暴れる様子を見せた。
けど、両腕を掴まれ身動きが取れなかった。そのまま、受け入れるかのように、暴れるのを止めた。
私は、ようやくしてある程度の魔力を注ぎ込み終えると、顔を離した。
結構長い事していたので、お互い息を吸った。そして、私はもう一度クランと、この村の実態の全てをクランへと話したのだった。
━━それから、話し終えるとクランは、どうも納得いかないと言った様子だった。それも無理もなかった。クランとて、全てを理解出来た訳ではなかったのだ。
それでも今は、目の前の事を片付けるのが、先決だった。
「━━話しは後でちゃん言うよ。 それじゃ私は、あいつをどうにかして倒す……」
と私が言うと、クランはコクりとだけ頷いた。そして、私は続けてクランに語る。
「━━クランには、あそこに居るクランの両親の人形と、その回りを頼む。 これは、クランが決着を付けなければいけない事だと思う。 荷が重いのは、百も承知だ。 でも、最後くらいは、クランの手で葬ってやれ……」
クランは、戸惑う中それでも今は、前の事に集中した。そして、私とクランが背中同士合わせる中、お互いの背中を預ける形で、私は合図をした。
合図をすると、それぞれの役目を果たすべく前へと走っていった。
その間際、私はクランにこう言ったのだった。
「━━クラン、ごめんな」




