第三十話 ハクアの決断
━━そして、今私はクランの家の前に居た。あの後、話しは進み私に有余を与えてくれた。
もう一度回答を聞くべく、明日の寝静まった日に、クランの家の前にて、あの二体の人形が来て、再び交渉する事となった。彼女とて争いは避けたいようだ。
それでも、私の回答は既に決まっていた。もう一度、出向く必要性は感じられなかったが、メリアは何か企んでいるようにも感じた。
「━━さて、どうしたものかな……」
と、私は独り言を呟いた。すると、クラン達が戻っきた。クランは私に大きく手を振っていた。私は、クランの期待に応える形で、手を振ってあげた。
今までとは違うクランを見るのは、何処か変な気分になって仕方なかった。それでも私は、今のクランに対しても普通に平常で接した。
「━━楽しめたか?」
「うん。 楽しかったよ」
クランは、とても楽しそうな表情で言ってきた。私は、そんなクランを見てこう思った。
(━━クランも、こんな笑顔で喋るんだな……)
━━それから、私は家に戻るや、クラン達は早速パーティーの準備に取り掛かった。
私はというと、クランの部屋で待つ事となった。どうやら、私は客人らしい。
(━━此処が、クランの部屋か…… それにしても、この家もそうだったが、この村は人が居ない割には綺麗だな。 掃除も全てあの人形達がやっているのか)
と、思いながらも、私はクランの部屋を歩き回りながら、色々と物色していた。すると、机の上にはとある写真が置いてあった。
私は、その写真を手に取って見ると、そこには幼い頃のだろうか、クランらしき人物が真ん中で、左右にはその両親と思われる人物が経って、三人で写り込んでいた。
(━━家族写真か…… クランも、こんな事に巻き込まれなかったら、普通の女の子に育っていたのかな)
と、私は何故かクランを哀れんだ様子だった。それからも、色々見て回ったが、他に目ぼしいものがなかったので、ベッドの上に座って待機する事にした。
━━暫くして、クランが戻ってきた。そして、戻って来るなり、私にこう言った。
「━━マスター、準備が整ったから早く行くよ」
私は「━━ああ」と頷き、立ち上がると、クランの後ろを歩いて行く形でリビングへと向かった。
━━すると、リビングでは飾り付けや料理やらが並べられていた。そして私達も、椅子に座るとパーティーが始まったのであった。
クランは、楽しそうに今日の事や、今までの出来事や、私の事なんかも話して、とても盛り上がった様子の会話だった。
(━━これが、家族というものか……)
私は、何処か悲しそうに感じていた。というのも、私の元居た世界では家族で、何かするという事はして来なかったのである。
今のクランにとっては、家族との再開でより一層楽しい時間を過ごしている様子だった。
これが、人形ではなく本物だったら、どれ程よかった事だろうか。クランは、現実を知ったらきっと悲しむだろう。
それでも、クランは現実を受け入れられるのか、それとも夢に浸り幻想の中で生きて行くのかは、私には止められなかったのだ。
私は、神様ではないのだ。でも、クランを間違ったところに行かす訳にもいかないのも事実である。
私にいったい何が出来るのだろうか……。
と、考えているうちに気づけば、パーティーも終盤を迎えていた。そして、そのままパーティーは、何事もなかったように終わった。
そして、今日は此処で泊まる事となった。一先ず、色々片付け終え、次に私とクランで、お風呂に入る事になったが、流石に私は一緒に入るのを断った。
だが、クランが強引に私を、お風呂場へと引っ張って行った。もう、一緒に入る事が前提となっている気がした。
そして、私は何事もなくお風呂に入り、暫くして出た。今回は、クランがじゃれる様子もなくおとなしかった。
すると、何故か私はクランの着替えへと着せ替えられた。別に今まで道理の衣装で、よかったのだがクランは、どうやら私に着せたかったようだった。
クランは、私の姿を見るなり、こう言ってきた。
「━━マスター、似合ってるよ」
素直に言われられると、私は少し恥ずかしくなり、クランの顔が見られなかった。
(━━もう、クランに完全に弄ばれてるな……)
と、次第に呆れ半分になり、そう思った。そして、何故だか私は、クランと一緒のベッドで寝る事となったのである。
流石の私も、これには予想外だった。普通に考えたら、そこは親と一緒に寝る流れだと思いきや、まさかの私と一緒にだったのだ。
それと、メリアの事もあったので、クランと一緒に居ると、抜け出せれなかった。
「━━少し、狭くないか? やっぱり、私が下で寝ようか?」
「駄目、一緒に寝るの」
と、私が責めてクランから離れようと試みるが、見事に断られ、しかも腕を掴むという始末だった。完全に、仇となった。
まぁ、仕方ないので、私はクランが寝るまで、何か雑談する事にした。
「━━クランは、今が幸せか?」
「━━うん」
「クランは、このままパパとママと一緒に過ごすのか?」
すると、クランが悩んだ様子だった。しまったと言った感じで、流石に話す言葉を間違えた。
だが、後には引けなかったので、私は続けてこう言った。
「━━正直、今が一番クランにとって、大切だと思えるところに行けばいいんじゃないか? 私の旅は恐らく、これ以上に過酷なものに、なるかもしれないし此処から先は、クランの目的とはかけ離れている。 危険を犯してまで私に付いて来るか?」
と、流石に責め過ぎたのか、クランを困らせるような事になってしまった。
そして、クランは今にも泣きそうな表情で、私に言ってきた。
「━━わからない……わからないよ。 私はどうしたらいいの?」
その言葉に私は、何も言えなかった。私が今出来る事は、クランを抱き締める事だった。
私は、クランを軽く抱き締めると、今にも、崩れてしまいそうな、その小さな身体を、私はただこれ以上は、クランを不安にさせまいとするくらいだった。
━━暫くして、クランは落ち着いたのか、そのまま眠っていた。私は、クランを起こさないように、ゆっくりとベッドから抜け出したのである。
そして私は直ぐ様、私の衣装に着替えると、そのまま外へと出た。
そこには、あの人形達が待ってた。私の中では、既に回答は決まっていた。
私は気づかれず、すかさずその人形の背後へ回ると、手に魔方陣を展開させ【魔方陣斬り】で、その人形の首を飛ばした。
だが、首を飛ばしても、その人形達は動き出したのである。
流石に「━━クッ」とさせ、まずいと悟った。それは、私が攻撃した事により、その人形達は私を敵対と認識したからである。
すると、その人形達の腕から、それぞれ鉈と鎌を出し、私に向かって襲いかかってきたのだ。
私は直ぐ様、魔方陣を展開させ【魔方陣斬り】を両手で、その人形達に投げるも、見事に武器で弾かれた。
「あの人形、頭飛ばして見えないはずなのに、どうしてこうも性格に━━」
と、思わず口にして言うと、私は直ぐにその理由が判明する。
「そうか━━魔力感知か! 無粋な真似を……」
この人形達は、私の魔力に寄って来ていたのだった。だが、こいつ等にも、大きな落とし穴もあった。そこをついてしまえば、簡単に倒せるのだ。
先ず私は、地面に手を置いた。そして地面から、左右に一本の鎖を伸ばし出させたのである。
すると、その人形達は、それぞれの鎖の方へ向かうと、その鎖に攻撃を仕掛けたのだ。
私は、そこを突き、すかさず両腕をクロスさせ、魔方陣を展開させると、新たに無数の鎖を出し、人形を巻き付けた。
そして、巻き付いた状態で、そのまま鎖を引くと同時に、鎖が締め付けられ、それに耐えきれなくなり、粉々に砕け散ったのだった。
「━━最後は呆気なかったな……」
と呟くと私は、それぞれの人形の首に、かけていたペンダントを取り回収した。
因みに、先程の鎖に予め、魔力を溜め込んで切り離すと、その人形達は、その鎖に溜まった魔力に退かれたのだ。
何とも呆気ない終わり方だった。私は、呆れ次いでに鉈を手に取った。
━━すると、背後に人影を感じた。私は、思わずメリアかと思い振り向くと、驚愕した。
なんと、そこに居たのはメリアではなく、クランだったからである。そして、私とクランとの目が合うや、クランがこう呟いたのだった。
「━━ま、マスター?」




