第二十七話 クランの住んでた村
━━私は、故郷に帰って来た。そう、このメルスア村に帰って来たのだ。このメルスア村を見た時、私は今までの記憶が蘇るように全て入り込んできた。私が捕まって囚われる以前から後の事まで全部……。
私の名前は、クラン=ネルラ。このメルスア村で育って、パパとママとの三人で暮らしていた。
この村も何事もなかったように、賑わっていた。
(━━私は、ようやく帰って来れたんだ)
私は、嬉しさの余り、涙目になりながらも、何処か嬉しさを滲ませていた。
私と一緒に手を繋いで居る人は、ハクアというらしい。私の命を救ってくれた恩人でもあり、今は勝手ながらも敬意を込めてマスターと呼んでいる。
この村に入って少ししたところに、私の家はあった。どうやら、光が照らされているようで、中には人が居るようだった。
そして、私は家の扉の前へと立った。私は、恐る恐る手をドアノブへとかけた。そして、この胸の高鳴る鼓動を押さえ、そのドアを開けたのである。
「━━ただいま」
すると、そこには私のパパとママが居たのだ。パパとママは、手を広げてくれていた。どうやら、私を心配していたようで、出迎えてくれていた。
私は、余りの嬉しさに、涙が零れ落ちる。一瞬、マスターの方を見るや、その手を放し矢張、パパとママとの再会が一番に嬉しかった。
思わず、私はパパとママに飛び込み抱き締めた。すると、パパとママは私に、こう言ってくれた。
「━━クラン。 お帰りなさい」
━━そして、感動の再会が済み一段落したところで、私は改めてパパとママに自己紹介をした。
「パパ、ママ━━この人は、私の命の恩人で、捕まっていたところを助けてくれた、ハクアというの」
そう言うと、マスターはぎこちない様子で「━━どうも」と言った。それから、パパとママはマスターにとても感謝した様子を浮かべていた。
━━それから、私達は早速お祝いのパーティーをする事になった。私とパパとママと三人でお出掛けする事になった。
マスターはというと「━━折角の親子との再会なんだから、三人で楽しんで来たら?」と言って、別行動をするらしい。何でも、色々買い占めるものもあるとかで、先に出て行ってしまった。
恐らく、私達の間に水を差さないとしているのだろう。私は、少し残念そうに眉を潜めていた。
━━それからも、私達は三人でお買い物を楽しんだ。それは、本当に久し振りの事で家族という温もりを感じた。
私は、よく会っていた人達に声をかけ回っていた。パパやママ以外にも、近所のおじさんや、おばさん他には商店街のお母さん、喫茶店のお父さん、私の友達だった人達、色んな人に声をかけた。
時間は、あっという間に過ぎ去り、私達のお出掛けも終わりに向かっていた。そして、そのまま家に戻ると、家の前にはマスターが待ってくれていた。
私は、マスターに手を大きく振ると、マスターも右手で軽く振ってくれた。
「━━楽しめたか?」
すると、何処か寂しそうな、だけど軽く笑みをした表情で、マスターが私に言ってきた。
「うん━━楽しかったよ」
私は、満面な笑みでそう応えた。そして、私達は家に帰って来たのだった。
それから、パーティーをする為に、ママは料理し私はそのお手伝いをした。それまで、パパはリビングであれこれ準備していた。
マスターはというと、私達のお客様でしかも命の恩人という事もあり、部屋で待機していた。
ママと一緒に、料理をしたのはいつ振りだろう。私は脳裏に巡らせた。ママのお手伝いは、ある程度染み込んでいたので、感覚で覚えていた。
料理が出来ると、テーブルに運んで並び始めた。リビングには、パパも居てリビングに飾り付け等をしていた。
そして、お手伝いも終わり、私はマスターを呼びに行ったのである。すると、部屋にはマスターがベッドに腰掛けていた。
私は、マスターにこう言った。
「━━マスター、準備が整ったから早く行くよ」
すると、マスターは軽く頷き「━━ああ」と返した。私は、マスターと一緒に、パパとママが居るリビングへと向かった。
そして、リビングにはパパとママが既に座っていた。私達も、椅子に腰掛けて座る。
ようやくして、私達の祝福パーティーが行われた。
(━━マスターも居るので、歓迎会かな)
と私達は、日々の出来事と、これまでにマスターと旅して来た事を沢山、パパとママに話した。
話しは盛り上がり、パパは軽く撫でてこう言ってくれた。
「クランも大人になったな」
私は、パパに撫でられるのが嬉しかった。ママは、微笑んでくれていた。家族との、かけがえのない日々がずっと続けばなと私の心の何処かでそう願っていた。
━━やがて、楽しい時は過ぎパーティーも無事、楽しく終わった。私とママは食器を片付け、パパとマスターでリビングの片付けを始めた。
そして、片付け終えると、今日は一緒に泊まる事にした。一先ず、私とマスターは、お風呂に入る事になった。
マスターが一緒に入るのを抵抗するも、私が強引にマスターを引き連れて入った。
マスターと一緒にお風呂に入るのも久し振りな気がした。私は、つい笑みが溢れた。マスターは、少し嫌ながらも「全く……」と言った様子で、呆れていた。
そして、私達は風呂を上がり、着替えに着替えた。マスターは私の着替えを着せてあげた。意外にサイズ的にも、申し分なかった。私は、そんなマスターの着替え姿を見て、こう言った。
「━━マスター、似合ってるよ」
すると、マスターは若干、頬を染めてそっぽを向いた。
(マスターも、もう少し自分に自信を持てばいいのに……)
私は、そんな事を思っていた。そして、私達は私の部屋に入り、一緒ベッドで寝る事にした。すると、マスターはこんな事を言った。
「━━少し、狭くないか? やっぱり、私が下で寝ようか?」
「駄目、一緒に寝るの」
私は、咄嗟にマスターの腕を掴みくっついた。すると、マスターは「ビクン」とさせていた。
そんなマスターを、何処か可愛いらしくて、余計に離したくなくなり「ぎゅー」と更に抱き付いた。
「━━クランは、今が幸せか?」
「━━うん」
突然、何を言い出すかと思えば、そんな質問は勿論、私は今が幸せだった。すると、次にマスターはこう言った。
「クランは、このままパパとママと一緒に過ごすのか?」
それを聞いて、私は言葉を見失った。そう、折角私の家に着て、パパとママと再会出来たら、後は一緒に過ごせばいいのだ。そもそも、私はこれ以上旅を続ける理由もなかったのである。
あんな危険な目に合って、此処まで来たのなら尚更。それだったら、このまま家族と一緒に過ごせるのなら、それが望ましかったのだ。
でも、マスターはどうするのだろう。私が、この家に残るとなると、このまま一人で旅をする事になるのだ。
私の心の中では、両親を取るか、マスターを取るかで悩まされた。
そんな悩んでいる私に対して、気にかけてくれたのか、こう言った。
「━━正直、今が一番クランにとって、大切だと思えるところに行けばいいんじゃないか? 私の旅は恐らく、これ以上に過酷なものに、なるかもしれないし此処から先は、クランの目的とはかけ離れている。 危険を犯してまで私に付いて来るか?」
私は、マスターが言っている事が、わかるようでわからなかった。私には、どちらかを選ぶ何て選択肢が見つからなかったのだ。私は、マスターにこう呟いた。
「━━わからない……わからないよ。 私はどうしたらいいの?」
流石のマスターも、これには返せなかった。すると、マスターが突然、私を抱き締めたのである。
私は、マスターの温もりに抱かれるまま瞼が重くなり、そのまま眠りに就いてしまったのだった。
◇◆◇◆◇
━━暫くして、私は途中で目を覚まさせた。よく見ると、ベッドには先程、一緒にいたマスターが居なかったのである。
私の意識がボーとする中、思考を研ぎ澄ませていた。
(━━私は、あの後マスターに抱かれ、意識が朦朧となって、そのまま寝たのかな)
それでも、今の状況ではマスターが居ない事には変わりなかった。私は、恐らくトイレにでも行っているのかなと思い余り深く考えなかった。
すると突然、外の方から「ドサッ」という音がしたのである。私は、何か嫌な予感がし、恐る恐る窓から外の様子を見た。
だが、空は雲っていて、はっきりとは見えなかった。でも、人影らしきものが見えたので、私は気になり玄関から外に出る事にした。
私は外へ出るや、先程の場所へとやって来た。そして、そこには人らしき人物が立っていた。
すると、雲が晴れ月が徐々に姿を現すと、その人影も姿を現したのである。
その人影の人物が誰だったのかも明白となった。そして、驚愕する。そこに居た人物は、刃物らしきものを片手に、その足元には誰かが倒れ込んでいた。
私は、その人物と目が合うや、こう呟いた。
「━━ま、マスター?」




