第二十五話 鎖のハクア
「━━ちょっと、落ち着けって」
と、私の言葉も虚しく、クランは歩きながら私を追い掛けていた。私は、何とか教会の外に出た。すると、後からクランも来るなり、鎖に巻き付かせた短剣を飛ばし、教会の扉をぶち壊した。
凄まじい破壊力で「ドーン」と、衝撃が走り扉が壊された。すると、砂煙からクランらしきシルエットが浮かび上がってきた。
それは、何とも禍々しい光景だった。クランの表情は、明らかに怒っていた。
どうにかして、クランを止める事を考え始めた。が、クランはそんな考える時間もくれなかった。私を見つけるや、鎖に巻き付かせた短剣を、私目掛けて飛ばしてきた。
私は、飛んでくる短剣を回避する。しかし、もう片方の短剣も後から、飛んできたのである。流石に、避けきれず私は【魔方陣の盾】を、すかさず発動させた。
そして、私に向かってきた短剣が弾かれた。すると、飛ばした短剣は、引かれクランの元へと戻っていく。
━━私は、どうにかしてクランを傷付けずに、クランの怒りを静める方法を考えていたが、そんな簡単には浮かばなかった。
一先ず、クランの体力を削りながら、耐久していく事にした。
(とは言っても、クランも相当な魔力量の持ち主━━)
と、私はクランの魔力を思うと、ある閃きをした。でも、これは私をも巻き込むので、とても危険だった。だが、こんな状況で躊躇していられなかった。
クランが、再び私目掛け、短剣を飛ばしてきた。
私は決断したかのように、そんな躊躇いを捨てて早速、行動に移し出た。
━━先ず私は、地面に両手を置く。そしたら、地面に向かってありったけの魔力を流出させたのである。
すると、今度は手を置いた場所に、大きく魔方陣が展開された。と、同時にクランが放した短剣が、私の肩を掠める。
「━━ッ」と、肩の痛みを耐えた。すると、クランは避けようともしなかった私に対し、少し戸惑いを見せていた。
クランの行動を察するに、本気で私を倒す事が目的ではないらしい。
そして、私は先程両手で出させた魔方陣の中から、魔力と同時に無数の鎖を地面に出させたのである。無理矢理、捩じ込ませた事により「バキッ」と、地面に亀裂が走った。
クランは、私がしている行動が訳のわからないといった様子で見ている。
━━すると、ある程度魔力を使い、出し切ると私は、激しい目眩に襲われた。それは、同じ魔力を保有しているクランにも、襲いかかっていた。
クランは、激しい目眩に立っていられなくなり、その場に伏せた。
そう私が狙っていたのは、魔力切れだったのである。クランと契約した際に、その魔力は互いのものとなっていた。それを突いて私は、魔力を切らし、魔血を狙ったのだった。
それにしても、無謀と言える挑戦だった。少しでも多く切らし過ぎると、今度は身体に危険を及ぼすので、ある程度は残さないといけなかった。
でも、私は次いでに、クランの魔法も使えるかどうかの確認もしたかったので丁度よかったのだ。
一先ず、この戦いも終わった様子で、私はフラ付きながらも、立ち上がりクランの元へと歩く。そして、クランが伏せてるところに、私が手を差し伸ばした。
すると、クランは顔を上げ、私の顔を見るなり手を取った。何とも言えない気持ちだったのか、クランの表情は少し固くも照れた様子だった。
私は、手を握った後クランを起こした。そして、私はクランにぎこちながらも、こう言った。
「━━その、さっきは……そのすまなかった。 もう少し、クランの気持ちも考えるべきだった」
すると、クランは首を振りながら、こう返した。
「━━私も少しやり過ぎた…… その、肩の傷付けるつもりはなかった。 ごめん……」
と、矢張クランは私の傷を気にしていたらしい。そんな申し訳なさそうにしているクランに私は、安堵な表情で応えた。
「いいよ━━それに、お互い様だしな」
そう聞いて、クランは少しホッとした様子を浮かばせていた。
「それじゃ、そろそろ行くか」
私が言うと、クランは「うん」と頷いた。
「━━ところで、何でずっと手繋いだままなんだ?」
私は、クランに問いかけたが、クランは何も言わずに、ただ私の手を握り、少し嬉しそうな表情を浮かばせていた。
◇◆◇◆◇
そして、私達は地図を頼りに、教会の少し上に位置した、湖へと足を進めていた。
湖に着くとそこには、木々で覆われてとても雰囲気の良い場所だった。ただ一つ問題と、言えば此処は結構な森なので、月光は届かなく薄暗い場所でもあった。
私は【聖なる妖精】を使い、何とか周囲が見えるようにした。
一先ず、私達は此処で一休みする事にした。私達は先ず、着衣を全て脱ぎ、血や泥等の汚れを湖の水で洗った。
この汚れは、以前に【妖精の保護】を使用していたので簡単に落ちた。
洗い終わった着衣等は、私が鎖を出し木々に巻き付けて、その鎖にかけて干した。
更に私は、鎖で檻を作ってみせた。これは、クランがやった要領で、私も似たようなものを作った。
「━━それにしても、この鎖便利だな」
と、私は独り言を言っていた。それから私は、枝等を拾い地面に並べると、鎖同士で摩擦を起こさせ火花をちらつかせる。すると、枝に引火し火が付いた。
ところで、クランはというと、湖で水浴びをしていた。私も、一通り作業も終わったので、水浴びをする事にした。
「━━はぁ。 何か、久し振りに休めた気がする……」
と、私は力無くただ水の上に浮かびながら、私の声が漏れ出て独り言を呟いていた。
━━暫くして、私達は湖から出た。そして、焚き火したところで乾かした後、そのまま私が作った、鎖の檻へと中に入り、休息を取った。
すると、クランが何やら恥ずかしそうにモジモジとさせていた。
私は、そんなクランに気付いた様子で「ああ……」と声出した。
(━━そうだった。 クランは、仮にもまだ女の子だった……)
肝心な事に、目を回していなかった。裸のままクランを寝かす訳にもいかなかったのである。
私は、魔方陣を展開させ、中から大きな布を一枚取り出した。それを、そのままクランに手渡した。
これで正真正銘、私も気楽に眠れると、私は横になった。そして、私が目を瞑り、眠りに入ろうとした時、何故か上に布を被せられる感覚がした。その後、クランであろう背中が、ピトと私との背中と付けられたのである。
そんな行動に私は、クランに声をかけた。
「━━何してるんだ?」
「マスターも、裸のままだとよくない」
まさか、クランはそれを心配して、私と隣同士でくっついて、寝ようとしていたのだった。私は、ため息混じりにクランに、こう言った。
「私はいいから、クランが使いな」
「駄目、マスターも一緒」
と、私の言葉を聞かなかった。私は「はぁ」と、ため息を溢した。
(━━クランは、一度言い切ると、聞かないからな……)
私はそう思い、クランの行動が読めるように、これ以上は何も言わなかった。
そして、私は最後にクランにこう言った。
「━━おやすみ」
すると、クランも言葉を合わせるように「おやすみ」と返したのだった。




