第二十四話 鎖の短剣使い
━━私の傷も、完全とまではいかないが、もう動けるまでには癒えていた。まだ、魔方陣が展開され、回復の処置を施されていたが、途中で打ち切る事にした。
私は、その魔方陣の上に立ち、足の裏で地面に打ち付けた。すると、その魔方陣は「パリン」と弾け壊れた。
それを隣で見ていたクランが私に話しかけてきた。
「━━もう、大丈夫?」
心配そうに私を見詰めながら言われると、私は「ああ……」とだけ応えた。
クランは、私の言葉を聞くと少し疑い何処か、浮かない様子で私を見ていた。
「━━さてと、そろそろ行くか」
と、私は誤魔化し混じりに、身体を伸ばし始めた。そして、私は問題の、あの敵の元へと足を動かした。
━━間近に来ると、酷い有り様だった。私は、その場でしゃがみ込み、そんな死体を哀れむように手を合わせる。すると、私の影がその死体に向かって伸びた。そして、その影はその死体を呑み込み吸収していった。
「ごちそうさま……」
私は、その死体を吸収した後、その場に立ち上がる。そして、地面に突き刺さった二本の短剣を両手で引き抜いた。
よく見ると、二本の短剣の柄には、途中で途切れた鎖が巻かれていた。
(━━やっぱり、クランがやったんだな……)
私は、改めてクランが使ったであろう、私の短剣を見てこう思っていた。それから、私はクランの方を見て、こう言った。
「この剣やるよ」
と、私は二本短剣をクランに渡す。すると、クランはこう返してきた。
「━━いいの?」
またも浮かない様子で私に言ったが、私は「ああ……」とだけ言った。
クランは、フード越しに剣を二本受け取ると、その剣を見詰めていた。
「━━まぁ、鎖だけじゃ今後も何かと不便だしな」
と、そんなクランを気にかけてか、不器用ながらに言うと、クランはほんの少し嬉しそうに、剣を抱き抱えた。
━━次に、私は周囲を見渡し始めた。すると、先程の死体が持っていた、大きなハンマーを見つけた。
私はそのハンマーの元へ行くと、そのまま何事もなく手で触れた。その時、なんと直ぐにサラサラと形が無くなって、砂と化したのである。
(何だ? 証拠隠滅か?)
と、そんな事を思った。すると、砂の山になったところから、何やら謎の石みたいなものが見えた。
私は、それを手で拾った。それは、琥珀ぽいもので、その中に魔力だろうか、何かが入っていた。そのまま、見ていると「パキッ」と、その石に罅が入ったのである。そして、次の瞬間「パリン」と、粉々に砕け散った。
━━結局、あの敵は何だったのかも聞き出せず、ハンマーも謎の石も壊れ、何も得られなかった。
残すは、あの床に大きく描かれた魔方陣だったが、これも何の為の魔方陣なのか、わからなかった。
一先ず、その魔方陣に近付き、手で触れてみた。すると、矢張先程と同じように「スー」と、描き消されていった。
それと同時に、周囲を照らしていた魔方陣が無くなった事により、一瞬にして真っ暗になった。
「━━あぁ、面倒くさ……【聖なる妖精】」
私は、すかさず魔法を唱え、周囲を明るく照らした。私が余計な事をしたまでに、魔法を使うハメになってしまった。
結局、何の手掛かりもなく、ただ私の生存が危うく死にかけただけで終わった。
私は、ため息混じりに、クランと此処を出る事とした。その矢先、私はクランを横目にジーと見ていた。
クランは視線を感じたのか、私にこう言ってきた。
「━━マスター、何?」
「ああ……いや、何で剣ずっと抱え込んだまま何だろうって」
私が、気になっていたのは、さっきクランにあげた剣を未だに、抱え込んで持っていたのである。私は、それが気になり、ずっと見ていたのだ。
すると、クランが首を傾げると、暫くしてこう返してきた。
「これ、しまうものない……」
「えっ……?」
私は、思わず声を漏らした。そして、クランを見るなり、こう言った。
「━━えぇ……じゃ、魔方陣の中に入れたりはしないのか?」
すると、クランは訳のわからなそうに首を傾げていた。私は、そんなクランを見て察した。
まさか、あれだけの鎖を出し入れしていたクランが、魔法の使い方を、未だに理解していなかったのである。
私は、質問次いでにクランに確認してみた。
「クランは、いつもどうやって鎖出してたんだ?」
「━━気づいたら出てる」
私は、頭を抱えた。いや、まぁ案の定クランが、無意識で出していたのは薄々ながらも気づいてはいたのだ。そして、クランが独りでに先走るのも納得した。
後、しかもそれ理由になってないし……と、私は軽く突っ込みたくもなった。が、今はそんな事をしている場合ではない。クランに、軽くだが、魔法の使い方を教えなければならなかったのだ。今後に響いても困るので私はクランに魔法を教える事となった。
「━━先ず、鎖を出してみてくれ」
すると、クランの袖から一本の鎖が伸びてきた。次に私は、こう言った。
「じゃ、今度はその鎖を閉まってくれ」
クランは、私の言われた通り実行させてみた。どうやら、鎖の出し入れは、本人の意思で制御出来るようだった。
「それじゃ、次はこの剣を鎖で取って閉まってくれ」
私は、その短剣を地面に刺し、私の指示通りに、クランは実行した。しかし、鎖を出し剣を取るまではよかったのだが、閉まう際に途中で鎖を切り離してしまったのである。
私は、その光景を見てクランに、こう言った。
「━━もしかして、怖いのか?」
クランの行動を見ていると、自分の意思でやっているのもあってか、まだ慣れない、しかも鎖以外のものを、その魔方陣の中へと入れる際に生まれた、その抵抗感が働いたのかと推測させていた。
クランは、私の期待を裏切らないと、少しやけになった様子で何度も、鎖で剣を取り閉まう。だが、矢張途中で鎖を切り離してしまった。
すると、私はクランに、こう教えてみせた。
「いいか? 無理に余計な事を考えなくていい。 今は剣を中に入れるだけに集中するんだ」
そう言うと、私はもう片方の短剣を手に取ると、魔方陣を展開させ、そのまま何事もなく、短剣が魔方陣の中へと吸い込まれていったい。そして、今度は別の場所で、魔方陣を展開させて、さっき閉まった短剣を取り出した。
「━━まぁ、やっぱ最初は抵抗あるとは思うけど、慣れれば簡単だから」
そうクランに言った。だが、それからもクランは、閉まえる様子はなかった。
流石に、私もこんな事で時間を潰すわけにもいかなかったので、今度はクランの隣に立って教える事にした。
「━━ほら、ゆっくり入れるぞ……」
私は、そう言いながら、クランが出しているものに、ゆっくりと入れていく。
私とクランの顔が近い事もあり、やけに息が荒くなり、心臓の鼓動が若干、速く感じていた。
すると、クランは顔を染めながら私に、こう言ってきた。
「━━ま、マスター? 私……初めてだから……もっと、ゆっくり……」
「いや、これくらいが丁度いい。 まぁクランの魔力量的に考えたら、もう少し早くてもいいな」
私が、そう言いながら、もう少し早く入れた。すると、クランはそれに対しこう言ってきた。
「━━んくッ……マスター、ゆっくり……」
私は、クランの言葉に耳を貸さないまま、全て奥へと入れた。
「よし! 全部入ったぞ?」
「━━マスターのが……全部入って……」
クランは、少し怖かったのか、若干涙目になっていた。だが、これで終わりではなかった。
「それじゃ、二本目いくか」
と私は、すかさず二本目も入れ始めた。すると、クランは首を振りながら、こう言った。
「━━マスター……これ以上は……駄目」
少し、震えながらも、私の行動にクランは耐えていた。私は、先程の早さで入れていく。
クランは「ふぅ……ふぅ……」と息を上げていた。そして、そのまま二本目も全て、捩じ込み入れたのである。
すると、クランは足に力が抜けたのか、私に凭れかかった。私は、そんなクランを見て声をかけた。
「━━だ、大丈夫か?」
クランは、ただただ息を荒く上げ、へばっていた。少し、やり過ぎたかなと私も、少しばかり反省した。
━━暫くしてクランは、ゆっくりと立ち上がった。ようやくかと言った様子で、私も立ち上がる。
すると、フラフラになりながらも、先程、クランの中に入れた短剣が、私目掛けて飛んできたのである。それは、私の顔すれすれで外していた。
どうやら、相当怒っている様子が伺われた。私は、冷や汗を掻きながらも、クランにこう言った。
「ちょっと待った。 あれか? 無理矢理入れた事か? それなら、謝るから待って━━」
と、私の言葉も聞くき無しと言った様子で、鎖に巻き付かせた短剣が私に襲いかかってきた。次も私の顔すれすれに外していた。
「━━クラン……さん?」
何故か、私はさん付けになっていた。すると、クランは鎖に巻き付かせた短剣を戻した。
先程まで、出来なかったはずが、今では寸なりと自分の中へと入ったのである。
「おお。 やったじゃないか!」
と誉めるも、クランはそんな事では、聞かなかった。そして、クランは両腕を伸ばし、私に向けた瞬間、袖から鎖に巻き付かせた短剣が、私目掛け飛んできた。
今度は、確実に私を狙ってきた行動だった。私はすかさず、しゃがみ回避した。だが、クランは器用に鎖を引き、しゃがんだ私に再び、短剣が襲いかかる。
私は、右へ飛び込み何とか回避させた。そして、私はクランにこう言う。
「━━私を殺すきか!」
クランは、そんな私に目もくれず、再び短剣が襲いかかった。
流石に、まずいと察し私は、このフロアから、教会まで一先ず、退散したのであった。




