第二十一話 鎖で縛られた魂
━━地面に横たわりながら変わり果てた私の姿を、クランは抱き締めて泣いていた。
「嫌だ、嫌だよ。 死なないで、ますたぁ……」
クランは何度も私に語りかけるも、返事は返ってこなかった。
私の回りには、最後に唱えた魔方陣が展開され起動していた。が、虚しくも先に身体が耐えきれず、そのまま力尽きてしまったのである。
その光景を横目に、私を倒したその人物がこう言ってきた。
「あっれぇ? もしかして、あいつ死んだぁ?」
そして、それを聞いたクランは、涙を流しながら振り向きその人物を睨み付けた。すると、その人物は何かを悟った様子で笑みをこぼしながら言った。
「キヒヒ━━そっかぁ。 死んだんだぁ。 結局、死んだんだぁ。 ククク━━アハハハハハハハ。 最高な死に様だよぉ」
「……るさい」
クランは小さく口挟んだ。それを微かに聞いた、その人物はクランを見た。そして、クランは何度も何度も繰り返し怒鳴りつけた。
「━━うるさい、うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!」
その人物は、クランの言葉が負け惜しみに聞き捉え、お腹を抱え高笑いをさせた。
「アハハハハ━━お前は何も出来ずに、ただ見てたんだろぉ? 詰まり、お前が殺したんだぁ」
その言葉を聞くとクランは、悔しくも再び涙を溢す。明らかに、自分のせいで死んだのだと思い込んだ。そして、私の方を見るなり、涙をポタポタと溢していた。
「それにしても、あいつもあいつで魔法唱えたまま死ぬとか間抜けだなぁ。 そんな主を持ったお前も不幸だぁ。 キィヒヒ━━」
と笑いかけた瞬間、その人物の頬が切れた。よく見ると、クランが右腕を伸ばし、その人物目掛けて、鎖に巻かれた短剣を放っていた。そして、クランはこう言った。
「マスターを…馬鹿に…しないで!」
すると、余りにも一瞬の出来事で、その人物は反応出来なかったのである。
「━━私の顔に傷をつけたなぁ?」
頬から滴る血を手で脱ぐって、クランに怒りを覚えた。そして、大きなハンマーを構え、クランの元へと襲いかかった。
すると、クランは決意を決めたのか、涙を拭い私に告げた。
「マスター、少し待ってて。 今からあいつ殺しにいくから」
そう言うと、クランもまた、その襲いかかる人物に立ち向かっていったのである。
◇◆◇◆◇
━━そして、私はというと……
「此処は……身体が軽い━━そうだ……あの時、私は魔法を使った後、そのまま力尽きたんだ」
今までの事を振り返り思い出し、私は一呼吸置いた。そして、今この場所が何処なのか、辺りを見渡し始めた。
そこは、一面真っ暗で何故か私は浮遊している感覚だった。よく見ると、私の身体の傷は無く、それどころか痛みすらも感じなかった。
「━━もしかして、私は死んだのか……」
そう口挟んだ後、私はフとクランの顔が浮かび上がってきた。そして、私は独り言を呟いた。
「あぁ……クランには、悪い事をしてしまったな。 クランは今、大丈夫だろうか……もし、私を追いかけて、クランも死ぬような事してたら━━」
と私は、途中で打ち切り、これ以上悪い考えをするのは止めた。そして私は目を瞑り、ただ流されて行く感じで、暗闇の奥へと、流されるがままに向かっていった。
「━━ああ。 何だろうこの感覚は……何とも言えない心地さだ。 痛みも感じなければ、私を邪魔するものも何もない。 この異世界に来てようやく、楽が出来た気がする」
私は、優雅にただただ浮いて漂っていた。そして、次に私の反省点も述べ始めた。
「あの時、クランを庇わずとも、一緒に避ければよかったのに、何故クランを庇ったんだ? そしたらこんな目にも遭わなかったのにな……」
何故か私が思い浮かべるのは、クランの面影ばかりだった。私は、そろそろクランの事を考えるのは、止めようとしたのだが、いつも側にはクランが居る事が辺り前になっていたせいで、どうしても頭から離れていかなかったのである。
クランが微笑んだ時や、怒った時や、悩んだ時や、心配してくれた時や、キスした時も、そして私が倒れた際は、いつも隣で見守っていてくれた。
そんなクランは、何処かで私の支えになっていたのかもしれない。
━━すると一瞬、嫌な光景が頭に浮かんだ。それは、クランが唯一、私に現さなかった感情である。そうクランは、まだ私に涙を見せた事がなかったのだ。
私の思考では、クランが泣いていた。それは、いつも無表情で、泣くというそんな感情はないと思っていた。が、何となくだったが胸が苦しむ感覚がした。
クランは私の姿を見て泣いている。そんな光景が私の頭の中で強く刻まれた。私は、クランのそんな姿は見たくはなかった。そもそも、私の為に泣いて欲しくなかったのである。
私は元々、こんな人に尽くされるような人間ではなかった。それどころか、むしろ元居た世界では疎まれた存在だったのだ。それが、今では━━私の為に泣くだと?有り得ない。有り得たくもなかった。だが、それはクランだと有り得たのだ。
━━折角、さっきまで居心地良くこの空間で安らいでいたのに、クランを思い浮かべたばかりに、胸の中にどんよりとした気持ちが入り込んで、気分が悪くなっていた。
結局、私は此処に居ても、安らぐ事が出来なかった。それだったらまだ、クランと一緒にこの世界に居た方が、まだ楽だと感じたのだ。
そして、私は決意したこの空間から出て、クランの元へ戻ると、そう強く思った。━━すると突如、私の胸に光が芽生えた。それは、何とも心地よく、穏やかな感じだった。
「これは━━私の魂か」
この光の正体は魂だと直ぐにわかった。それもそのはず、私は死神なのだから。それから私は、この空間がどんな場所だったのか、ようやく理解した。
この光の正体は魂だと直ぐにわかった。それもそのはず、私は死神なのだから。それから、光のお陰で真っ暗だったこの空間は、その光が照らし出した事により、どんな場所なのか、ようやく理解した。
そう此処は、私の心の中だ。そして、あの時クランと口付けして、悪魔の契約を結んだ時に、クランと一つとなった際に生じたであろう、回りには鎖で夥しく張り巡らされていた。
「━━これが、クランの心の中なのか」
その中心には、鎖で丸まり縛られた魂がうっすらと覗かせていた。そして、クランの魔力がどうして重たかったのかも、ようやく理解出来た。
それは、無理矢理クランに侵食され、鎖で覆われていたからである。今は、私との契約により、私がその魔力を肩代わりさせているので、もうクランに負担はかからなかった。
私は、この魔力をコツさえ掴めれば、後は自分の魔力として、扱えるので、私の負担も余り感じてはいなかった。ただクランは、魔力の制御が出来なかった為に、暴走していた。ただそれだけである。
━━そんなこんなで、私は此処から出る事を考え始めた。そもそも、私は身体が耐えきれず、死んだのに、どうやって生き返らせるんだと言った様子で頭を抱え込んでいた。
死んだ者は蘇らないのが、全ての理に置いての鉄則である。だがそれは、表面上の話である。私の一族、死神ではその死んだ身体が機能停止しただけであって、その魂が健在ならば別の生きた身体に憑依させ、自分という感情が生まれるという事が出来るのだ。
だが、それではクランはきっと喜ばないだろう。何か、別に器になる身体があればいいのだが━━
と私は、フとある事が過ったのである。そして、それは確信の元へとなった。
「いける……まだ希望はある!」
私は何かを裏付けるものを見つけ出したのだ。だがそれは、余りにも低確率だった。失敗すれば、魂諸とも消滅してしまう。だが、そんな事も言ってはいられなかった。
私は、一か八かそれにかけた。そして、私は大きく息を吸い胸に手を当てた。すると、次第に私の胸に光るそも魂が、徐々に大きく膨れ上がる。そして次の瞬間、その魂にその自分の身体に響かせ、届かせる勢いで、魔力を思いっきり注ぎ込んだのである。
そう言わば、これは心配蘇生である。心配が停止している原因として、酸素が流れて来ないと同時に、魔力も同様血流に流し込んでやれば、自らの蘇生も可能ではないのだ。
だが、これには大きな欠点もあった。それは、私の身体である。あの身体では、蘇生を試みても生き返らす事は出来ないだろう。臓器はいくつか破裂していて、骨もあちらこちらと粉砕や折れている。けど、私はそんな絶望的な状況で、まだ望みはあったのだ。
それは、私が最後に唱えた詠唱魔法である。これが、発動していれば私にも生存の道が開けるのだ。そして、私は全ての望みをかけて魔力を全開で注ぎ込んだのであった。
此処でおさらい。
私は元々、死神と悪魔のハーフである。
何故か、少女の姿になっても、この力は健在していた。
そして、私は悪魔の力を使い、私とクラン魔力を結び付け、クランの魔力を私に肩代わりさせた。すると、クランの魔力暴走は収まる。
今度は、死んだ私を蘇生すべく、死神の力を使おうとするも、私は使わなかった。
なので、次に行った事が、魔力を私の身体に直接注ぎ込み、心配蘇生を試みた。
そこから先は次回に続きます。最後まで読んで頂きありがとうございます。
後、二十一話からスペースや句読点「……」といったものを、これからはなるべく使っいきたいと思います。皆様に少しでも読みやすくなって頂けたら嬉しいです。
その二十話より前は、そのままにして置こうと、思います。私の成長振りも見れていけたらなと、私のワガママをご了承下さい。
ボソッ。余りにも、苦情が殺到した際は、編集するかもしれません。




