第二十話 悪魔の契約
━━そして、クランが駆け付けると、うつ伏せで倒れた私を、仰向けにさせ抱えた。すると、私はその起こされた事により、口から吐血しながら目を覚まさせた。
「ゲホッゲホッ」と血を吐き出し、息を荒くさせている。そんな私をとても心配そうに語りかけてくる。
「マスター、マスターしっかりして」
私はクランを見るに、声を霞ませながらもこう語りかけた。
「クランか━━すまないが私を置いといてくれ」
クランは言葉の通り、私をそっと仰向けにし置く。抱えられた反動で私の意識は戻ったが、どうやら相当な激痛を伴ったようだ。
それから私は、こうクランに言った。
「クラン━━私を置いて逃げろ」
すると、その言葉に対しクランは「嫌だ」と首を振る。まぁ予想はしていたと言った様子で私は息を整え始めた。クランは無表情ながらも、変わり果てた私の姿を見るなり、今にも泣き出してしまいそうだった。
そんな様子を横目に、黒緑色なツインテールの髪に瞳はエメラルド色をしていて、黒いフードを羽織っている。大きなハンマーを持った、15歳くらいの女の人物はこう言ってきた。
「ねぇ? 何でそいつ生きてんのぉ? 私、確かに仕留めたんだけどぉ?」
と、確実に私を殺しきったような口調だった。私でも、生きていて意識も戻った事が意外なくらいだった。恐らく、あの時【妖精の保護】を施していたのが幸いしていたらしい。この魔法は、対象とし施したところの耐久性も高めてくれるので、死に直結しなかったようだ。
更にその人物はこう言う。
「ねぇ? 無視なのぉ? 私を無視しないでよぉ!」
と突然、その人物は私達の元へ走り、襲いかかって来たのである。そして、そんな襲いかかって来る人物を、クランは後ろも見づこう怒鳴りつけた。
「邪魔、しないで!」
すると突如、地面から無数の鎖が下から上に伸び、飛び出してきた。そのままその鎖は私達を囲うように回りに檻のようなものが出来たのである。
その人物は檻に戸惑う事もなく、大きなハンマーで叩き突けた。激しい音と火花が散り、鎖がしなる音がした。が、その檻は壊れる事もなく、ただ聳え立っていた。
これには、その人物も予想外だったらしく「━━ッ」と眉をひそめた。そして、その人物は壊れなかった檻に激怒し始めたこう呟いた。
「はぁ? 何で壊れないんだよぉ! さっさと壊れろぉ!」
と明らかにさっきとは別人と言った口調で、何度も何度もその檻に、大きなハンマーを叩き込み続けている。
そんなクランは、少し険しそうな表情を浮かべながら、どうにか鎖の檻が壊れないように耐えていた。
一先ず、ある程度の時間は稼げた。クランが足止めしている間にも私は、次にやらねばならない事をし始めた。
(━━さてと先ずは確認か。 左腕は動かなくて、背骨と肋骨も折れてるかな。 次いでに、肺と他の臓器も潰れてるか…)
呼吸をするだけで其処等じゅうに激痛が走っていた。だが、呼吸をしないと、今度は苦しくなってしまう。今でも呼吸するだけで苦しい状況である。このまま何もしなければいずれ死ぬだろう。
私は、一先ず確認をしたところで魔法を唱えた。
「緊急応急回復魔法━━【生命回復魔法】」
すると、私の回りには大きな魔方陣が展開させた。がしかし、魔法が発動しなかったのである。思わぬ事態に私は「なっ…」と声を出してしまった。
その直後、私は無理に魔法を唱えた事により吐血した。まさか、こんな状況化で魔法が使えない挙げ句、それを追い討ちかのように私の状況が悪化していた。
それをクランは、ただ見守る事しか出来なかったので、責めてもの私の右手を握り締め、私を見ながら無事を祈ってる。
そんな中、私は他にやれる事をし出した。
「緊急再生回復呪文━━【再生呪文】」
だが、これもうまくは発動しなかった。
「━━クッ」
流石の私も、焦り始める。というのも、次の魔法で私が最も出せる最後の回復魔法だったからである。
普通の【治癒回復】等では、身体の損傷までは治せないのだ。
そして、私は最後にかけて魔法を唱えた。
「生命の源の元に我の傷を癒さんとす。 その理を持って我に治すれ。 緊急回復詠唱魔法━━【治療魔法】」
すると、先程の魔方陣と比べ大きく二重の魔方陣に膨れあがっり、黄緑色の光として輝き始めた。これでようやく回復出来ると、そう思っていたのだが、なんと魔方陣が展開させただけで、なんの効力も生まれなかったのである。
そして、私は絶望した。最後の望みであったこの魔法さえもうまく発動してくれなかったのである。私は始めて、この身体を姿を呪った。まさか、こんな緊急事態であるというのに、何も出来なかったのだ。
次第に、私の意識も朦朧とし始めてきた。それどころか、身体の感覚も次第に薄れていた。
私がやれる事はやり尽くし、完全に詰み状態だった。だが、そんな事も思っていられなかった。檻の外では、大きなハンマーで鎖を叩き突けて壊していた。このままだと、時期に壊されクランも危険に曝されるのである。
それでも、私は最後まで諦めず考え出した。が、この薄れ行く意識の中では、思うように頭が働かなかった。
(━━何か、何かないのか。 クッ、何も思い浮かばない)
そう思いながら恐らく、これが最後になるであろうと、確信し私はクランを見る。クランは、必死に鎖の檻が壊されないように集中しながらも、私の右手を握り締めていた。
━━魔方陣は浮かび上がっているのに発動はしていない。先ずは、魔力欠損を疑った。いや、そもそもこの姿事態魔力が弱いのか。だが、これまでにも、色んな魔法は少なからず扱えていた。そして、私の手を握り締めているクラン。僅かながらクランの魔力を感じた。
すると、私の頭からフと、ある事が閃いたのである。それは、私本来の力だ。そもそも私は、悪魔の血も宿していた。この力を使えば恐らくこの状況を打開出来なくはないだろう。だが、この考え事態余りにも無謀とも言えた。そもそも、私はこの力を好んで使いたいとは思いたくもなかった。それでも、今この状態ではこの考えが関の山だった。
(仕方ないか━━クランにとっては、恐らく苦痛を味わうかも知れない。 でも、クランが私の為に尽くしているのなら……)
そう思いながら私は、かすんだ声でクランに語りかけた。
「クラン━━やって貰いたい事がある。 私が施した術式を解除してくれ…」
突然、何を言うのかと思えば、以前暴走を押さえ込む為に一時的に施していた術式を解除しろというのだ。これには、クランも驚きを隠せなかった。
「でも、解除すると暴走するかもよ?」
クランは私を心配した様子で返した。あの時の事もクランは理解していた。だが、これしか、方法はなかった。
「頼む━━やってくれ」
私は最後の望みをかけて、私はクランに術式を解除させた。すると、クランは「━━わかった」とだけ言い、術式解除の為のスペルを唱えた。
すると、クランの胸元に魔方陣が展開された。そしてその中から無数の鎖が飛び出してきた。矢張、制御は出来なかった。更に、クランの集中も溶け、今まで耐えていた、鎖の檻が壊れてしまったのである。
鎖の檻が壊れた事により、さっきまで檻の外で激しく、大きなハンマーで叩き込んでいた、人物が掛け声と共に襲いかかってきた。
「━━死ねぇ!!」
完全に殺られると、私は「クッ、これまでか」と言い終わりを確信させた。だが、希望はまだ潰えてはいなかった。なんと、まさか暴走している鎖が無数に散らばり、それがその人物の妨げとなっていたからである。
この予測不可能な鎖のお陰で、何とか足止めをしていた。
このチャンスは逃さないと、私は最後の力を振り絞り、クランの握り締めていた手をほどき、そのまま右手で胸ぐらを掴んだ。そして、私はクランに「血を飲め!」と叫びながら、掴んだ胸ぐらをグイッといった形で、私の右腕を引きクランと口付けを交わさせた。
そして、私が吐血し口に残っていた血をクランは苦しそうながらも飲んだ。そして、私もクランの唇をカリッと歯を立て血を出させ、クランの血を飲んだ。
「プハッ」と口を離し息をした。すると、お互いの血液が身体に染み渡り、私はこう呟いた。
「━━我は汝を持って命ずる。 我が肉体とその魂を一つと成りて此処に宣言せよ。 悪魔との契約により我モノとす」
呟いた途端「ドクン」とお互いに、心臓を鷲掴みされるような感覚がした。すると、クランが苦し気に自分の胸手で押さえ込む。そして、そのまま息を整えた。
一方、私はもう余り身体の感覚もなかったので、それほど苦しい感じにもならなかった。
すると、私とクランの魔力が一つに繋がったような感覚がした。そう、この悪魔の契約では、血で契約した者の魂や魔力等といった、自らのモノに出来るのである。すなわち、クランの全ては私の管理下に納められた訳である。
更には、クランの魔力が私に肩代わりしたお陰で、クランの暴走も次第に収まっていた。
そして、私はすかさず魔法を唱え始めた。さっきまでは、失敗続きだったが、クランの重い魔法を保有した私は、今なら成功すると思ったのだ。
「生命の源の元に我の傷を癒さんとす。その理を持って我に治すれ。緊急回復詠唱魔法━━【治療魔法】」
右腕を伸ばし、最後の最後の力を振り絞って私は魔法を唱えた。すると、今までにないくらいの大きな魔方陣が展開され、黄緑色の光を輝かせていた。次第に、魔法の力が強くなり、私の回りには魔力の薄い幕が広がった。
これでようやく、魔法が成功したのであった。がしかし、私が気を緩んだその瞬間、私の口から大量の血が出て吐血したのだ。
すると、同時に私の腕が力無くして倒れた。そして、口からは血が止まる事なく溢れ返り、その目は半目で開いたまま、瞳には光が無かった。
「━━えっ?」とクランが目を見開き私の光景を見た。
そこには、さっきまで息をし身体が動いていたはずが、今では何も動いてはいなかったのである。
それを見たクランは、何かを察したかのように、私に問いかけた。
「マスター? ねぇ、マスター? 起きて、起きてよ」
震える声でクランは、私の身体を擦りながら何度も何度も問いかけた。がしかし、私は何も返す事もなく、そこには虚しくも儚く、私が横たわっており、ただ血だけが広がっていた。
「ああああ━━マスター、マスター」
変わり果てた姿に、クランは初めて私に涙をみせた。
緊急大三回復魔法
緊急応急回復魔法━━【生命回復魔法】
緊急再生回復呪文━━【再生呪文】
生命の源の元に我の傷を癒さんとす。その理を持って我に治すれ。緊急回復詠唱魔法━━【治療魔法】
効力はただただ変わらない回復魔法である。
違いを指すのであれば、それぞれの魔法の仕組みが異なっている。




