第十八話 雑貨屋の少年
━━それから、靴屋を後にした私達は、次に隣にある雑貨屋に足を運んでいた。だが、この店は無用心な事に店員の姿がなかったのである。回りを見渡しても、人の気配もなくただ店だけが空いていた。
明らかに、おかしいとは思ってはいたが、また巻き込まれるのも嫌だったので、これ以上は深く考えなかった。
そんな事はさて置き、クラリックから貰ったタイツを履いたものはよかったものの、私はこのようなものを履いた事がなかったので違和感を感じていた。私はそれを横目にクランが履いたタイツを見ていた。クランは何も違和感も感じてなさそうな様子でただ店内を物色していた。
因みに、私が履いているタイツの色は黒で、クランの履いているタイツの色は白だった。お互いに太もも等返までの長さのタイツである。これも、クラリックが衣装と揃えてくれたのだろう。
そんな風に思いながら、一先ず私は地図を探し始めた。すると、恐らくこれであろう地図が丸めて端の方に置いてあった。
私はその地図を取って広げてみた。そこにはいくつかの村や街や王国と他にも色んなものが手描かれていた。その中でも一際、どデカい都市だろうか、明らかに他の国よりも大きいのもが一つ描かれてあった。
(それにしても、やっぱりこの世界だと手描きなんだな)
と私が元居た世界と比較し始めた。そして、今私達が居る街を探す。確かこの街の名前は『エルボル』という街である。それを指でなぞりながら探していた。
すると、奥の方からドタバタと音が鳴り、慌てた様子でとある人物がこちらに現れた。よく見ると、私達よりも幼い少年だった。若干白がかった金髪に、瞳の色はイエローだった。どうやら、寝過ごしていたみたいである。
そして、その少年は私達の存在に気づき、私を見るなりこう言いながら叫んだ。
「ドロボー!!」
まさかの泥棒呼ばわりに私は、遠い目で「えぇー」と声を漏らす。一方クランは、余り気にしていない様子で、店に置いてあるものを物色していた。クランは物珍しそうにしていて、それどころではなかったのである。
そして、その少年は震えた状態で、そこにあった木の棒を私に向けていた。それを見て私はため息越しでこう言った。
「私達は客だ」
すると、少年は信用出来ない様子でこう返した。
「嘘だ! ボクはまだ店を開けてない。 不法侵入だ!」
と私の方を睨んできた。私は何か勘違いしている少年にこう言う。
「店開いてたから、てっきりやってるものかと思って、勝手に中に入っただけだ」
それを聞いた少年は、フと思い出したかのように急に冷や汗を滲ませる。どうやら昨日、店に鍵をするのを忘れていたらしい。
「ご、ごめんなさい!」
すると、少年は自分の事を反省してか、礼儀正しく謝罪してくれたのである。ようやく、勘違いも晴れて私も本題に入れる様子で少年に言う。
「これ、買いたいんだけどいいか?」
少年は「かしこまりました」と急に律儀になり、慌ててお会計を済ませる。私は、金貨を一枚少年に出した。すると、少年は目を丸めながらこう言った。
「こ、こんな大金お釣出せないよ」
と少年は、戸惑っている様子だった。私は「ああ」と声に出しつつもこう言った。
「いや、お金これしかないし… まぁ欲しいものも手に入ったし、別にお釣も要らないかな」
そう言うと、少年は渋々ながらも、金貨をしまう。
それから少年は、他に何か気になった様子だったのか、私に話かけてきた。
「でも、まだ子供なのに地図買うの珍しいね。 おねぇちゃん達は、お使いで頼まれたの? それとも冒険家さんだったり?」
私は、その"おねぇちゃん"というワードに、何処かこそばゆい感じがした。言われた事もなかったせいで慣れていなかったのである。そもそも元男だった私からしてみれば不思議な感覚だった。
そんな事を思いながらも私は、少年にこう返した。
「まぁ冒険家ではないが、旅をしてる」
「子供なのに旅してるの!? 凄い! でも何で旅してるの?」
少年は目を輝かせた後、更に質問を続けた。私は少し間を置いた後こう返した。
「━━記憶探しかな」
そう聞くと、少年はこう問いかけた。
「記憶ないの?」
私は、コクリとだけ頷いた。すると、少年は続けて言う。
「おねぇちゃんは、怖くないの?」
「記憶か? うーん、怖くないな」
一番怖かったのは、性別そのものが変わった挙げ句、子供の姿になっていた事だなんて言えるはずもなく、そもそも信じて貰えるかもわからないこの状況で私はそんな事を過らせていた。
「おねぇちゃんは、強いんだね」
少年は私を見るなり、何処か寂し気に言う。それを見かねた私も少年に質問した。
「そう言えば、親は居ないのか?」
すると、少年はこう語り始めた。
「ボクの親は、冒険する前に何度か柄の悪い人達が、この店に入って来て、お金を持っていったんだ。 それから、お金を稼ぐ為に、私を置いて冒険しに出掛けちゃった。 そして暫くして、何故か柄の悪い人達がこの店にも来なくなった」
私は何処か、少年の話しを聞いて胸騒ぎを覚え感じていた。これは、私の興味本位だったのだろう。私は、少年にこう言う。
「その、両親から何か渡されたものとかはなかったのか?」
少年は少し間を置き考え始めた後言った。
「何もなかったかな」
「そうか」
流石に私の考え過ぎだろうと思い、それからは余り人の事情に触れまいと、何も言わなかった。
「最後に、もし旅の途中で見かけた時に声かけてあげるから、その親の写真あったら見せて貰えるか?」
すると、少年は少し明るい表情を見せ、急いで写真を取りに行った。
(はぁ。 何で私は人の為に何かしてやってるんだろう)
そんな私が元居た世界で、犯してきた事を思い返していた。明らかに、私自身でもこんな人の為にするような柄ではなかったのである。
(なにか、常に目覚めたか━━)
と私は、クランの方を見る。すると、流石にそれはないなと言った風で、私は確信させた後、フッと鼻で笑った。
それから暫くしていると、少年が写真を手に戻って来た。そして、少年は私にその両親が写った写真を手渡した。
(ま、何処にでも居そうな、ごく普通の写真だな)
まぁ目印としては、互いに同じペンダントをしている事である。そして、私はその写真を見た後、少年に返した。
「まぁ、君の両親に会ったら伝えとくよ」
と少年に言い、私は無事に目的だったものも買えたので、そろそろこの店から出る事にした。私はクランを呼ぶ。
「クラン行くぞ」
クランを呼び私達が、入り口の扉を開けたその時、突然その少年は「待って」と、私達を呼び止めたのである。そして、少年はこう質問した。
「最後に、おねぇちゃん達の名前教えてよ」
私は「えぇ」と言った様子で、少年の方を見てこう言った。
「やだ、教えない」
すると、少年は此処は教える流れじゃないの?みたいな顔をされ、少し落ち込んだ様子で俯いた。
「という茶番は置いといて。 いいよ、教えてあげる」
とさっきのは茶番だったのである。ただ少年が落ち込んでいたので、その場を盛り上げた演技だった。そして、私は私とクランの名前を少年に言った。
その後、少年もすかさず自分の名前を名乗る。
「ぼ、ボクの名前は、エリック」
そして、最後に私は、こう言って店を出た。
「エリックか。 良い名前だな」
エリックは何処か勇気を貰ったようなそう感じた。
名前:エリック(えりっく)
生年月日:5月13日
推定年齢:10歳
性別:♂
身長:136cm
体重:37kg
若干白がかった金髪。瞳の色はイエロー。
親が雑貨屋を営んでいて、それをお手伝いしている。とても、真面目できめ細かい。でも少しおっちょこちょいである。
今は、両親不在の為、何もかも一人で店を営んでたり、私生活も一人で行っている。
とても、10歳とは思えない働き振りである。




