第7話 初めての真剣勝負。さらに父親に嵌められる。
現在俺は試験官と相対している。この男はすごい。魔力も高位の魔術師レベルで体に秘めているし剣に至っては隙をついたら一撃で仕留められるビジョンが見える。おそらくこれが圧倒的経験の差なんだろう。俺が持っている剣はバランスのいい直剣。それに対して相手は大剣なのだから一撃の重みはあっちの方が上。だから鍔迫り合いを俺が避けると考えているはずだ。その油断をつくしかない。俺は全力で正面へと駆け抜けた。
「っ!?」驚いているようだがさすがだ。瞬時に判断し、こちらを迎撃するのに剣を振るう。しかしそれは悪手だ。俺には常人離れした筋力数値がある。誰もが押し勝つと思っていた試験官が吹っ飛んだことに周囲が少しざわつく、が俺は分かっている。相手にダメージは少ない。このままいけばアイリスと同じ結末を辿る。俺は瞬時に炎弾を10個作り、試験官がいる方向へとはなった。威力も速度も十分なものだ。これが当たればペースはこっちのものになる。が、世の中そううまくはいかない。土煙の中から人影が高速でこちらに向かってくる。俺はそれを剣でいなし、一太刀入れようとするが即座に蹴りを放ってくる。剣の腹と蹴りがぶつかり、
「ぐっっ!」周囲に衝撃波が走り、俺は吹き飛ばされる。男は俺に対しての追撃をやめない。まずい、ペースを握られている。そう直感した俺は身体強化を自分にかけて空気を蹴り、その場を離脱し、戦いを仕切り直す。
「さすがは未知クラスを授かっただけはあるな。ここまで強いと自分に自信が持てないわ…。仕切り直す前に自己紹介をさせてもらおう。俺はS級冒険者のグレイブだ。よろしく頼む。」
「ルイス・カーライルです、よろしくお願いします。」まさかのSランク冒険者だったようだ。一受験生に英雄をぶつけるなんて本当に頭がおかしいと思う。そう考えてるとグレイブはいきなり核心を突いてきた。
「そこでなんだが、今から木剣じゃなくて自分の武器で手合わせしないか?今手持ちがないというんなら俺の武器を貸し出す。おまえさんも本気じゃないんだろう?俺は全力でぶつかりたいと思ってる。どうだ?勝ったら一つだけ言うことを聞いてやる。俺が勝った時は何もいらない。おまえにとって何も損しないと思うんだが?」グレイブの発言に周囲はざわめく。そして学園側もそこまでは看過できないのか
「グレイブ殿!勝手なことはやめていただきたい!受験生に怪我でもさせたらどうするのですか!」
「全責任は俺が取る!それに怪我をするのはこいつじゃなくて俺の方だからな、問題ないさ。そうだろう?」困った。やはり実力者には色々とバレるらしい。だが、このチャンスを逃すわけにはいかない。俺は無言で頷く。
「で、ですが…」そんな教師陣からの言葉を無視し、
「よし、そしたら初撃はお前さんからでいい、俺はそれまでここで立っていよう。」グレイブは金属でできた1.2mほどの大剣をこちらに構える、おそらくあれは魔剣だろう。どんな特殊能力かわかるまでは容易に突っ込まない方がいいだろうが俺は何よりこの試合を楽しみたい。俺は亜空間から刀を取り出し深く腰を落として構える。この刀が俺のスキルが剣術ではなく剣刀術である理由だ。三日間俺の魔力を全て注ぎ、想像魔法で作った魔導合金(オリハルコン3、ヒヒイロカネ7)で作った最高の刀だ、銘は〈紫月〉。鞘から抜いた刀身が薄っすらと紫がかった黒であることからつけた名前だ。この刀は魔力伝達効率を極限まで高めているのでありとあらゆる属性を纏わせることができ、刀身を魔力で伸ばしたりなど、色々なことができる。そして紫月を見たグレイブは
「ほう…。」と一言だけ呟き、警戒の色を強める。
俺はグレイブを正面に捉え身体強化や補助魔法を全開でかける。あいにく超回復のおかげでMPは減っていない。
「しっっーーー!」そして一瞬の間でグレイブとの距離を詰め、抜刀し居合斬りを一文字に払う。グレイブは反応しきれなかったのかワンテンポ遅れて回避行動をとる。が、俺は魔力で刀身を伸ばしそのまま一太刀を浴びせる、がその瞬間グレイブの体が消滅した。そして俺の後ろから剣が振られる。俺は背後に高威力の爆発を起こし、その剣を迎撃する。俺はその隙に射程から逃れることに成功するがうしろを確認するとグレイブは爆発の衝撃を受けてもそのまま剣を振っていた。なんつう力だよ。
「この一撃を初見でかわしたのはおまえが初めてだよ、経験を積めば魔王なんかよりも強いんじゃないのか!だが、このからくりがわからなかったら俺には勝てないぜ!」そう言ってグレイブはこちらに剣を振ってくるが、また俺の後ろから剣撃が放たれる。しかし、そのからくりはもうすでに解けている。俺は背後にいるグレイブのさらに背後に瞬間移動した。そして俺は雷を込めた紫月でグレイブを一閃する。そして審判からの終わりの合図が出される。
「しょ、勝者、ルイス・カーライル!」
そのままグレイブは意識を失った。その瞬間歓声が会場いっぱいに広がる。
「S級冒険者に勝ったぞ!さすがはルイス様だ!」
「なあ、グレイブって、あの《牙狼》じゃないか?あの英雄に勝つなんてやばすぎだろ…」うん、褒められるのも悪くないな。
数秒後にグレイブは起き上がると頭をボリボリとかきながら俺に問いかける。
「ああ、負けちまったか…。それにしてもヤマを張ってだって言うわけじゃなさそうだな。おまえの考えを聞かせてもらってもいいか?」そう、俺はグレイブの持っている魔剣のからくりを知っている。どうやら答え合わせの時間のようだ。
「そうですね、まず前提としてあなたは俺の後ろから攻撃してきました、ですので選択肢が指定した場所への瞬間移動だと思いました。ですがそれを考えた時の俺の位置が変わっていることがわかりました。俺は常に魔力を周囲に広げて探知していたので一瞬で探知の中心地が変わったことに驚きましたよ。そしてその魔剣の能力は他者との位置の入れ替えだろうとあたりがつきました、本来であればいなしながら使うことによって前後左右色々な方向から攻撃できるものなのでしょうがあいにく狭い空間でしたのでその能力を活かす前にバレてしまったような形だと思います。次に手合わせするときは外などの広いところでさせてくださると俺も経験が積めて光栄です。」
「なるほど…閉所だと位置で気付かれやすい、か。俺もそれは考えたことなかった。こちらこそありがとな。それに、これじゃあまだ本気を出させることはできないみたいだからな。はっはっは!」なっ、3割は出してるのにそれでもバレるのかよ…さすがSランクだ…。
翌日、俺とルークは学園へと登校した。試験は合格で俺が主席、ルークは次席で父さんと母さんはとても喜んでくれた、ルークは悔しがり、ルゥは「さすがルイスおにーさま!」と褒めてくれ、晩御飯は今まで以上に豪華な食事で食べ過ぎてしまった。
と、昨日のことを思い出しているとどうやら学園についたようだ、ルークがいる上に昨日目立ってしまった分周囲から注目されている。めちゃくちゃ緊張するのでやめてほしい、なんて思っているとルークから
「ルイス、緊張しているのかい?そんなんじゃ入学式のスピーチもできやしないよ?」と、煽り口調でとてつもない言葉が発せられた。
「お、おいルーク、ちょっと今のもう一回行ってくれないか?」
「なんだ?緊張しているのかい?って?そんなに気に障ったのか?」
「いや、その後だ。」
「そんなんじゃ入学式のスピーチもできないよ…ってまさかルイス知らなかったのか!?」
「…あぁ。」
「はぁ…学園からもらった書類に書いてあっただろう?主席入学者は入学式にてスピーチを行うので話す内容を考えておくことって。」
「は?いや待ておまえそれ誰からもらった?」
「誰からって、父様からだけど。」
「あんっっっのクソジジイイィィィ!」
こうして学園の前では俺の叫び声が響き(ルークがとっさに結界で音を遮断してくれた)、俺は入学式でそれはとてもとても素晴らしいスピーチをしたのだった。最悪な貴族(今日体験)の話を少し飾って、な。