第6話 入学試験、ルイスの悪巧み。
「うーん…………。」
今俺は学園の入学試験を受け終わった、わけだがレベルが少し低すぎる…気がした。
ここはこの国、いや世界でもトップレベルの学校である。それ故に入学試験を突破するだけでも仕事ができると言われ、卒業すればそれはもう一流の騎士や魔術師へのエリートコースが約束されているようなもので、もう生活することに不自由はないようなものだ。なので自分で作ったランダムな数式を解いて解析で答え合わせをする。という勉強をしていたのだが、試験で出題されている問題は一桁の四則演算、足し算引き算が二桁なもののみだ。歴史はこの世界にあるものは誰でも知っている創世記の本を読むだけでわかる問題である。もちろん解析を使うという不正はしていないが、自分の中で満点かそれに近い点数を取れることは確信していた。ルークに勝負と言われていたが凡ミスをしないようにだったのだろうか?あ、いやそもそも6歳で四則演算が全てできる方がおかしいのか。てことは…おれやばくない!?
そして実技訓練である。
第1試合はアイリス・フローレスが出場するようだ。フローレス家といえば知る人ぞ知る最高の名家、候爵家だ。始まりは平民からだったがその家名がつくものは全員優秀な貴族になっていると言われている。中にはクラスが農民のものもいたそうだが、その膨大な農業スキルを使って未開拓の土地を開墾し、現在のグレイシア国内の食料の30%を補っているほどだ。この出来事も国のクラスやステータスによる差別意見が減った1つの理由でもある。そしてそのフローレス家の娘であるアイリスといえば氷結魔術師という最上級水クラスを授かり、その魔術行使の美しさから氷の薔薇姫という二つ名を持っているらしい。厨二心がくすぐられるな。
なぜ俺が魔法ではなく魔術と呼称しているかというと、俺が使える『魔法』と『魔術』は別物だからだ。魔術は紙にあらかじめ書いておいた術式やその場で魔力を使い空中や地面に書いた術式、高位の魔術師であれば脳内で術式を紡ぐことによって周囲の魔力に語りかけ、事象を発生させるのに対して、俺が使っている魔法は数千万年や数億年といった古代に失われた技術で魔力で直接事象を引き起こしている。解析を使ってみたがそれでも訳がわからなかった。例えば氷を生み出すのに直接生み出そうとしても、周りの水分子の動きを遅くすることによって生み出そうとしても解析では魔法によって生み出されているとしか表示されないのだ。時間はなぜか後者の方が早いためそれこそイメージ力の違いなのかもしれない。そもそも俺の魔法はすでに想像魔法という化け物性能のものに昇華しているから通常の魔法とも同じとは限らない。
話題はされたがアイシアの試合が始まるようだ。周りはアイシアがでてきたことによりざわついている。
「おい、あれって氷の薔薇姫じゃないか?今年の主席はあいつで決まりだな!」
「いやバカ言え、今年はルーク様とルイス様もでているんだぞ。あの氷の薔薇姫でもさすがに主席は厳しいだろう。」
「アイリス様、お美しい…」
どうやら男女ともに人気があるらしいな。それよりもルークと一緒に俺の名前が出てきたことが一番気になるんだが。俺はあくまで元辺境伯家の息子…ってそれでも十分か。それに王城で住んでるんだから仕方ないのかもしれない。
試験官である男は模擬戦用の大きな木剣を構える。なるほど、隙がないな。かなりの手練れだろう。そしてアイリスも細身の木剣を抜き半身で構える。こちらもなかなか様になっているようだ。純粋な剣術では試験官の方が上のようだがこれは実戦形式だ。魔法も含めた戦いになるので試合の先は読めない。
なお、模擬戦用の木剣には手加減 Lv2〜3の付与がされており、重傷は負わないようになっている。対魔術のブローチも各自に配られており、魔術対策もバッチリだ。周りには治癒魔術師が15人ほどいるので怪我を負ったとしても大丈夫だろう。
「はじめ!」審判が開始の合図を告げる。そしてお互い見合った状態のまましばらく時間が経つ。
相手の出方を伺っている。…ように見えるがアイリスは試験官の死角である剣を握っていない方の手で魔力を緻密に練っている。それこそ一流の魔術師でなければわからないほどに。素晴らしい術式行使だ。魔力の変換効率もかなりのものだし、速度も速い。おそらく不意打ちによる攻撃で一撃で仕留める気だろう。だが、試験官も経験を積んだ人間だ。何もしてこないとわかった途端身体強化を使い瞬時に距離を詰めてくる。普通の者であればこれで勝つことができるはずだ。だがアイリスの魔術行使は一流だ。距離が5mほどに縮まったとき、術式が完成する。
「…凍って!」あの術式は、あそらく上級魔術だろう。前方に向けて圧倒的冷気を放出する魔術か。
「ぐぅっ!」前方に疾走していた試験官は避けることができずに直撃してしまう。そして試験会場は霧に包まれる。
霧が晴れた頃、アイリスの前方には高さ1mの氷の山ができていた。周りには砕けた氷のかけらがキラキラと輝いている。。アイリスは安心したような声をあげる。
「これで…勝てたかな…」圧倒的勝利だろう。ただ、俺の目は見逃していなかった。冷気にぶつかる瞬間試験官が木剣を盾にしていたのを。
そして霧は完全に晴れる。
「お嬢ちゃん、敵の姿を確認せずに警戒を解くのは良くないぜ。」試験官はアイリスの背後に立っていた。
「ーーーっ!かはっ!」アイリスは即座に剣を振ろうとするがもう遅い。試験官はアイリスの襟を掴み、地面に叩きつける。そして試合の終了の合図が告げられる。
「勝負あり!勝者、B級冒険者アイン!」
「「「うおおおおおおお!!!」」」歓声が湧き上がる。
「おい、あの試験官B級だってよ!それなのにあそこまで戦えるなんてさすがアイリス様だな!」そう、B級冒険者といえばまさに一流。最上級クラスを持っているものが多いランクだ。その相手に防御行動を取らせたというのは素晴らしいことだろう。
そして何人もの受験生が試験を終えた。中には勝ったやつが一人いた。そう。第1王子、ルークだ。あいつは開始早々から光源の魔術を至近距離で生み出し目をくらませ、身体強化全開で試験官に勝利した。しかもアイリスと戦った試験官と同じB級である冒険者にだ。もちろん周りからは鼓膜が破れるほどの歓声が響いた。
「さすがルーク様!」単純に尊敬するもの。
「かっこいい…。」好意を寄せるもの。
おのれリア充。あとで嫌がらせをしてやろう。
そして他にもいい勝負をしている受験生がいた。イリア・フォーサイスだ。フォーサイス家はフローレス家と同じ候爵家である。イリアの父はグレイシア国の宰相を務めているので、立場的にはフォーサイス家の方が多少上だ。しかしその子息である彼女たちにそれは関係ない。
イリアはアイリスとは真逆の戦い方で、開始の合図とともに試験官に接近し、剣を交わした。その瞬間炎弾を放ち、重い一撃を負わせた。しかし、試験官もさすがだ。魔術を防御することに全ての魔力をまわし、イリアの首に剣を突きつけた。これも同じくB級の冒険者である。今年はすごい人材が多い…という話が持ち上がっている時、とうとう俺の番がきた。
「最後!ルイス・カーライル!」
さて、いい経験を積ませてもらおうか。
アイリスとイリアの爵位を伯爵から侯爵へ上げました。(8話の伯爵家より高位にさせるため。)
アイリスの性格を考慮して、魔術発動時の言葉を変更しました。