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月トガリ  作者: 吉四六
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国王の一言は大変なことになるので今後は考えます

 魔獣災害と魔虫災害の直前にこの国体母艦を建造したんだが、その時は学校に給食制度の導入は考えていなかった。俺の思い出では、学校給食は不味かったからだ。しかし連続した二回の災害が給食制度の導入を致し方のない状況とした。

 学校開設当初から子供達にひもじい思いをさせる訳にはいかない。だから、この魔導学校には給食がある。

 串カツに大盛りラーメンと、結構食って来たのには訳がある。この給食が不味いだろうと予測していたからだ。不味ければ、こっそり分解して、後で食材に再構築してから再調理すれば良いやと思っていたのだ。

 この給食。

 壮絶に美味かった。

 なんで?学校の給食って言ったら不味いのが相場だろ?なんでこんなに美味いの?

 子供には贅沢じゃないの?って思えるぐらい美味かった。結構、腹が一杯だったのに、普通に美味しく食えた。素材はヒジキだとか大豆だとか、簡素で極々一般的な物が多かったのに、なんで?

『味付けが絶妙だったね。型崩れしないように素材の食感を残しながら煮るのは難しいのに完璧だったよ。肉の火の通し方も抜群だね。』

 イチイハラがここまで褒めるなんて、かなり珍しい。

 手の込んだ料理が多い。根野菜を茹でたものを里芋の()ったもので包み込み、それを天婦羅にして、餡をかけてある。

 根野菜には人参、蓮根、牛蒡が使われており、それぞれの野菜の火の通し加減が抜群に良い。風味を損なうことなく、野菜独特の食感もしっかりと味わえる。

 餡がかかっているにもかかわらず、衣もしっかりしている。

「凄いですね…まったく夢の国だ…」

 俺も頷く。

「ホントだよな。給食だぞ?ガキどもがタダでこんな美味い物を食えるなんて、なんか、納得がいかん。」

「え?」

 俺の言葉にカルザンが驚きながら俺を見る。

「俺がガキの頃なんてこんな美味い物、食ったことも見たこともなかったぞ。最高に美味かったのって熊肉を味噌で煮込んだ鍋ぐらいだ。」

 オルラと食った熊鍋、美味かったなあ。

「そ、そうなんですか?」

 俺の子供の頃の食事事情と俺が給食の内容を知らなかったことの二重でカルザンが驚く。

「ああ。俺はヤートだからな。そりゃ酷いもんだ。雑草を野草だって言いきりやがるんだからな。」

「え、いや、それは本当に食べられる野草だったのでは…」

「そんな訳あるか。その草を食った後、酷い下痢と頭痛に襲われたんだ。食える野草な訳あるかよ。絶対に、俺で食えるかどうかの実験しやがったんだよ。」

 俺ではないトガリ本人の記憶だ。

 その記憶では、姉のトネリが、俺に「お食べ。滋養の付く野草だよ。」とシレッと食わせて、実験動物を見るような目で観察し、最後では「やっぱり無理か…」と呟いていた。

「そ、それはまた、何と言っていいのか、言葉に困りますね。」

「うん。そうだな。今後のカリキュラムにサバイバル教練を入れよう。」

「え?」

「赤道直下の島に放り出して、一週間ほど放置してやるか。」

「ええ?」

 俺はカルザンの方に視線を転ずる。

「お前も経験しとくか?」

「いや。いや~、私は生き残る自信がないです。」

「そうか?結構楽しいぞ。多分。」

「そうですね。間違いなく楽しいのであれば、参加したいと思うところなんでしょうね。」

 やたらと間違いなくってところを力強く言いやがったな。

 俺は目を瞑って上を向く。

 楽しいと思うけどな。熊を狩ったり、蛇の皮を剥いたり、食べ物を自分の手で獲るというのが、堪らんのだがな。

 俺は一つ頷く。

「うん。間違いなく楽しいぞ。」

 真摯な気持ちを込めて、カルザンの目を見詰めるが、カルザンは引き攣った笑顔で「公務が忙しいので無理です。」と答えやがった。

「そうか。無理か…お前がいれば俺も楽しいのにな。」

「陛下のお気持ちは嬉しいのですが、無理ですよ。今回、帝国を離れるのにも随分と無理を押して来てるんですから。」

「そうか。お互い不自由な立場だよな。」

 俺の言葉にカルザンの顔があからさまに歪む。

「え?」

「いや、だから、不自由な立場だよな?」

「いや、その前の言葉です。」

「え?お互いにだろ?」

「陛下はそんなことないでしょう?今朝だって自由気ままだからヘルザース閣下に怒られてたんでしょう?」

 うん。確かに。俺は自由気ままでした。

「…怒られたくねえな…」

「すいませんが、その気持ちには共感できません。私は怒られたことがありませんので。」

「けっ優等生のボンボンは。これだから話が噛み合わねえんだよな。」

「陛下は我慢が足りないのですよ。もうちょっと、ご辛抱なさればよろしいのに。」

「だってよ~。王様って、もっと楽できるもんだと思ってたのによ~次から次へと仕事が舞い込んで来て、寝る間もないんだぜ?」

 そんな経験はないが多分そうだと思う。ヘルザースは絶対そうなるように追い込んでくる。

「仕方がありませんよ。だって、この国、言葉通りにこの国を創ったのが陛下なんですから。」

 俺は誰にでもわかるように、口をへの字にひん曲げる。

「そんな顔したって駄目です。現実を直視なさらなくては。」

「なんか、俺の周りって、怒る奴と説教する奴ばっかりだ。」

「プッ」

 カルザンが可愛く噴き出す。

「笑うなよ。最近じゃトンナは料理番組の仕込みで忙しいからって、子供の世話を押し付けてくるし、コルナはコルナで俺が仕事をしないから私が働いてんだって説教するし、アヌヤとヒャクヤは相変わらずズレてるし。ロデムスなんてオルラにべったりで、滅多に姿を見せなくなってるし、ヘルザース達は俺の顔を見るたんびに小言を言うし、お前まで説教するなよ。」

「ふふ。陛下の困った顔を見るのが皆、好きなんでしょうね。」

 カルザンが可愛い声と可愛い顔でそんなことを言う。

「なんでもできる神様のような陛下が困った顔を見せることで、皆が安心するのですよ。」

 俺は眉を顰めたままカルザンの顔を見る。

「陛下は神様ではなく、自分達と同じ人間なのだと。現に私も安心しました。」

 顰めた眉の片方を上げる。

「陛下のお言葉を信じられると。」

 俺は鼻頭に皺を作る。

「鼻っから全面的に信頼しろよ。」

「だって、人と人は絶対に理解し合えないのでしょう?そう陛下が仰ったのですよ?」

「そこは、ほれ、俺と!」

 俺は手を振り回して、俺とカルザンを交互に指差しながらカルザンに力説する。

「お前の仲だろうが!俺のことは全面的に信頼しとけ!」

 カルザンが口元を隠しながら「ふふ」と笑う。

「そうですね。今後はそう致します。」

 おれは大きく頷く。

「おう。そうしとけ。」

「それで、本当にサバイバル教練なんてするんですか?」

 俺は頷く。

「そうだな。思い付きだけど、実際にした方が良いと思うんだよな。」

「どうしてです?この国では必要ないでしょう?」

「確かにな。でも…」

 俺の言葉が途切れたため、カルザンが俺の顔を覗き込む。

「人間っていうか、人類という生物として弱くなるような気がするんだ。」

「生物として?」

 俺は頷きながら、カルザンに話す。

「このトガナキノ国は、空に逃げたろ?」

 カルザンが頷く。

「やろうと思えば高度を変えたり、位置を変えることで、常春の国にすることができるんだ。」

「はい。そうですよね。なぜ、そうしないのか不思議には思っていました。」

「一つは、自然を、と言うか、森林公園の環境保全のためなんだよな。」

「ああ。」

 自然公園の環境を守るため、現代日本と同じ四季を巡らせる。そうすることで日本と同じ植生の植物が育成され、生物が育成される。

「もう一つは、人の環境適応能力を保つためなんだよ。」

「環境適応能力ですか。」

「人は(ゆる)い環境下では、その緩い環境下で適応する。逆に厳しい環境下なら厳しい環境に適応する。」

「なるほど。確かに北方の出身者は体が大きくて毛深い人が多いですね。」

 俺は頷きながら話を進める。

「緩い環境を用意することはできるが、厳しい環境下を経験しなければ、人類は自然淘汰されると思うんだ。例えば、文明が進むだろ。」

「はい。」

「文明が進めば、国力が高まる。」

「そうですね。私がトガナキノ国に懸念を抱いた要因です。」

「そう。人類の中で強くなるが、特化して、自然の変化に適応できなくなる。」

「ええ?でもこれだけ文明が発達してるのに自然の変化に対応できませんかね?私は対応できると思いますけど。」

 カルザンの言葉に俺は首を横に振る。

「わずかな変化で生物は死ぬ。」

 カルザンが眉根を寄せる。

「例えば、空気中に含まれる酸素の割合が変化すれば、それだけで人間は昏倒するし、重力が変化しても生きてはいけない。」

「酸素が…変化するんですか?」

「可能性だよ。基本、酸素は生物にとって毒だからな。」

「ええ?毒なんですか?」

「老化を進めるのが酸素だ。」

 カルザンが黙り込む。

「酸素に適応した生物が生き残り、現在の生態系を保持してる。だから、そんな変化に適応できるように俺達は変わり続けなくちゃいけないんだ。」

「だから、サバイバル教練ですか…」

「まあ、話が飛躍しすぎだがな。そういうことだ。」

 俺は通信機を取り出し、ルブブシュへと発信する。

『はい。』

「おう。ルブブシュ?今、大丈夫か?」

『へ、陛下でございますか?!』

「ああ。お前に検討してもらいたい案件がある。ヘルザースと相談して決めてくれ。」

『は、はい?案件ですか?陛下が?』

 なんだよ。その言い方は。

「そうだよ。俺がだよ。なんか文句あんのか?」

『いえいえいえいえいえいえいえいえ。まさか!文句なんてございません!で、いかような案件でございましょうか?!』

「おう。学校のカリキュラムにな、一か月の地上での課外授業を盛り込んでくれ。」

『…』

 あれ?返事がないぞ。通信が途切れたか?

『一か月ですか?』

 なんだ、通じてるじゃねえか。

「おう。一か月だ。」

『一か月ですと他のカリキュラムが…』

「適当に削っとけよ。地上での課外授業の目的は人間の環境適応能力の向上とサバイバル能力の向上だ。ヘルザースと、そうだな。ローデルとも相談して、決定しといてくれ。」

『て、適当に削っとけって…』

「なんだよ。お前が教育関係の最高責任者だろ?それぐらいできるだろう?やれよ。」

『は、はあ。』

「なんだよ。歯切れが悪いなあ。できねえのか?できねえなら、そう言えよ。俺がなんとかしてやるから。」

『い、いえいえいえいえいえいえいえ。やります!やらせていただきますです!はい!』

「ついでに既に卒業してる奴には、同じ目的で二年間の地上労働を義務付けよう。そのへんも相談して決めといてくれ。」

『は、はあ。』

 さっきから、はっきりしねえなあ。

「嫌なのか?」

『いえいえいえいえいえいえいえいえ。嫌なんてことはないです!はい!』

「そうか。じゃあ、頼んだぞ。」

『はい!』

 通信機を仕舞うとカルザンと目が合う。カルザンはキョトンとしていた。

「どうした?」

「い、いえ。トガナキノの執政官は、その、大変だなあと思いまして。」

 カルザンの言葉に俺は顔を顰める。

「何言ってんだよ。俺なんかヘルザースにしょっちゅう怒られてんだぞ。俺の方が大変だよ。」

「は、はあ。」

 なんだか、カルザンが苦々しい顔で頭を掻いてる。

 そうかなあ?チョチョッとカリキュラムを変えるだけなんだから、そんなに大変じゃないだろうに。

 そう思って、俺はマイクロマシンでルブブシュの様子を確認してみる。


「至急!!神州トガナキノ連邦文化保全教育委員会を招集しますです!!ヘルザース閣下とローデル閣下それにズヌーク閣下にも来て頂きます!!十分以内に委員を招集するのです!!」

 ルブブシュが超ハイテンションで秘書に指示を飛ばしてる。

「じゅ、十分以内にですか?」

「そうです!!それと!教育文化保全省第五席以上の職員を全て大講堂に集合させるのです!!」

「だ、第五席以上の職員を全てですか?」

「そうです!陛下から勅命が下されたのです!!至急!招集しなさい!!」

 秘書の顔が青褪める。

「ちょ、勅命…」

 そう呟いた途端、ミニスカートの秘書がルブブシュの執務室を飛び出す。

 そうだよな…勅命って…俺、そんなつもりで言ったんじゃないんだけど…第五席って言ったら現代日本の公務員の課長級だろ?そんなに沢山の職員を集めてどうすんだよ?

 ルブブシュが通信機を操作する。

『はい。』

 ヘルザースだ。

「ヘルザース閣下!!ルブブシュであります!勅命が下されました!!」

『なっ!なにィイイイイイイイイイイイイ!!』

「学校運営について、一か月の地上での環境適応及びサバイバル能力向上のためのカリキュラムを組めとの仰せでございます!大幅なカリキュラムの見直しが必要となります!併せて、学校卒業者にも同様の内容で二年間の地上勤務を義務化しろとのことでございます!!」

『おお、おお!おおおおおお!!!』

 なんだよ。そのリアクション。なんで通信機の向こうで叫んでるんだ?

『ま、誠か?!!』

 まだ叫んでやがるよ。

『ま、まともな勅命ではないか!!』

 そ、そこかよ…

「そうなのであります!麺を啜れだの、テレビをバラ撒けだのではなく!国民の行く末を考慮された!まともな案件でございますです!!はい!!」

 …言葉も出ねえよ。

『ま、誠に…王としてのまともな勅命…やっと、やっと…』

 ヘルザース、まさか泣いてる?

「お泣きになってはいけませぬ!」

 そう言うルブブシュも泣いてる。なんだよこいつら…何気に傷付くなぁ。

「至急!こちらにお越しください!私はズヌーク閣下とローデル閣下にもご連絡いたしますので!」

『うむ。いや。ローデルには私が連絡しよう。その方が時間短縮となる。そちらの直通ゲートを開いておいてくれ。連絡が着き次第そちらに向かう。』

「了解しましたです!!」

 ルブブシュが再び通信機を操作しながら執務室を出る。なんだよ。途端に忙しそうにしてやがんな。

「ルブブシュです。行政院、立法院、司法院の直通ゲートを起動させなさい!各院の最高執政官がこちらにおいでになります!」

 ルブブシュが通信機に向かって話していると全館放送が掛かる。

『全職員にお知らせいたします。陛下より教育文化保全省に勅命が下されました。第五席以上の職員にあっては至急大講堂に集合して下い。勅命拝聴を実施いたします。他の職員にあっては、その場にて拝聴して下さい。来省者の皆さんにあっても勅命拝聴時は安寧城に向かっての最敬礼を実施して下さい。』

 なんだ、この放送…

 安寧城に向かって最敬礼って…第二次世界大戦中の日本か?…俺の国ってこんな国なの?

「そうです!陛下より勅命が下されたのです!急ぎこちらにお出で下さい!!」

 ルブブシュはズヌークと連絡してるんだな。

 スッゲエ急ぎ足でルブブシュが大講堂に到着する。さっきの秘書が待ち構えており、大講堂の観音開きの扉を開ける。

 重厚な扉が開けられ、二百人近い職員がルブブシュに注目する。

 注目される中、ルブブシュが奥の演壇に上がり、即座に口を開く。

「気を付けエエエエエエエエエエエエ!!!」

 綺麗に整列した職員全員が直立不動の気を付けをする。ルブブシュは後ろを振り返り、職員に尻を向けて気を付けだ。

 この号令、全館放送されている。館内の職員と言わず来省者まで、起立して気を付けの姿勢だ。なんなの?この国の国民。

「安寧城に向かって!!最敬礼エエエエエエ!!」

 全職員が斉一に動き、腰を四十五度の角度に曲げる。職員が最敬礼の姿勢のまま、ルブブシュだけが上体を起こして職員の方へと振り返る。

 大講堂以外の職員は、それぞれに安寧城へ向きを変え、最敬礼してる。それを見ながら来省者の人間までもが同じ方向を向いて最敬礼だ。

 おかしくない?職員全員が自分達の職場で安寧城への方向を知ってるって。

「拝聴オオオオオオオオオオオオオオ!!」

 ルブブシュが目を閉じて、大きな声で俺からの指示を繰り返す。

「教育文化保全省にあっては!!全学校のカリキュラムに!!次の二点を目的とした授業を計画し!実施させよ!!一!環境適応能力の向上オオ!!二!サバイバル能力の向上オオ!!以上の二点を目的とした!!一か月間の地上における課外授業を実施させよ!!併せて!既に学校を卒業している者にも同様の目的で二年間の地上勤務を義務化せよ!!」

 ルブブシュが目を開く。

「直れエエエエエ!!」

 館内の人間が一斉に上体を起こす。

「陛下のお言葉である!!全職員!至急!仕事に取り掛かりなさい!!!」

 ルブブシュの言葉で大講堂の職員が一斉に走り出す。いや、走らなくったって良いよ。転ぶよ?怪我するよ?

 なんだよ。えらく大事にしやがったな…ホントに大変そうだよ…なんかスゲエ罪悪感なんですけど…

 俺は意識をカルザンの方に向ける。

 カルザンが首を傾げて俺の方を見てる。

「うん。なんか、大変なことになってた…」

 俺の言葉を聞いたカルザンが納得顔で「うん。うん。」と頷いてる。オメぇもやったことあるだろ?知ってたなら教えろよ。

『教える間がなかっただろ?』

 イズモリ、お前ってホント他人事な。

 そうだよな。即座に連絡したもんな。

 俺は思わず溜息を吐いた。


 ノックの音が響く。

 その音をきっかけに俺は意識を切り替える。

 見なきゃ良かったよ。クソ。

 カルザンがドアの方を振り仰ぎ「どうぞ。」と応える。

「失礼いたします。」

 校長がお辞儀をしながら入ってくる。

「如何だったでしょうか?本校の給食はお口に合いましたでしょうか?」

「お口に合うどころか、この学校の生徒は、いつも、こんなに美味い給食を食べてるんですか?」

 校長が満足げに頷く。

「全学校の共通メニューですので。」

 マジかよ?採算取れてんのか?

「予算としてはかなりのポイントを消費してるんじゃないですか?」

 校長がキョトンとした顔で首を横に振る。

「この給食はトンナ王妃様の私費にて賄われておりますが…」

「え?」

 俺は思わず立ち上がる。

「勿論、全額という訳ではありませんが、トンナ王妃様が上乗せしてくださっているので、これだけの給食を提供することができます。トンナ王妃がメニューのレシピも考えて下さっておられるのですが…ご存知なかったのですか?」

 知らねえよ。今、知ったよ。マジか?トンナがポイントを使わねえなあと思ってたけど、ここで、そんな風に使ってたのか。

 トンナは料理番組の実入りと、時折、各地区で行う‘トンナ王妃の出張お料理教室’という講演でかなりのポイントを稼いでいる。

 スゲエな。王妃らしいことしてるじゃねえか。

「どうしたんですか?悪い顔をしてますよ?」

 カルザンの言葉に俺は「ふふふ。」と笑い、校長に向き直る。

「メニュー、レシピの販売をしましょう。」

「は?」

「トンナ王妃様のレシピは人気があります。子供達がいい宣伝になってくれるでしょう。家に帰った子供達が親に給食のレシピを強請(ねだ)るようになります。それなら、商売になります!」

 カルザンと校長がキョトンとしてる。

 俺は拳を握り込んで力説する。

「その日の給食のレシピデータを子供達の簡易錬成器に送信して、下校してもらうのです。各家庭で食べられるようになれば、三食以上が売れる計算になります。一食を千ポイントぐらいに設定すれば、この学校の生徒だけで千八百人ですから百八十万ポイント。両親を含めて三掛けだから、一日で最低五百四十万ポイントを稼げます!」

「いや、それは…」

 校長が口を挟んでくるが、スルーだ。

「週四日の授業ですから、月に四週間計算として十六日。五百四十万の十六日だから八千六百四十万ポイント!!月にそれだけあれば、学校経営なんて、御茶の子さいさいだ!!」

阿漕(あこぎ)ですよ…」

「え?」

 カルザンの言葉に俺は振り返る。

 見れば、校長もカルザンも苦い茶を飲んだように口を曲げている。

「学校の運営としては相応しくないと思いますよ。」

 え?そうなの?

『この国の人間達は禊を済ませているからな。俺達とは感覚が違う。』

 え?ってことは、俺の倫理観が低いってこと?

『そういうことだ。』

 えええええ?そうなの?

「それにトンナ王妃様がお許しになるとは思えませんので、もし、実施なさるのでしたら、児童福祉教育局の方で直接、王室と交渉して頂かなくては…」

 あ、無理だ。

 トンナがOKを出すはずがねえや。

 俺は静かに椅子に座り直す。

「ま、今の話は聞かなかったということで。」

「はい。」

 校長が笑顔で返事する。

「その方が良いですよ。」

 カルザンが良い笑顔で俺の肩を叩く。

 良い案だと思ったんだけどなぁ。

「それよりも、間もなく次の授業が始まりますが、六年生の授業をご覧になりますか?次の授業には魔導実習がありますので。」

 校長が話を切り替え、その言葉にカルザンが反応する。

「いいですね。今日、一番拝見したかった授業です。」

「それでは早速参りますか?」

「はい。」

 ということになった。

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