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月トガリ  作者: 吉四六
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少女を絶望が覆うが、俺がそんなこと許すと思う?

残酷なシーンがあります。

 演算能力の違いである。

 演算能力の違いがマイクロマシンに書き込まれた命令を上書きする。トドネが支配移譲を幾ら使おうとも、クルタスがその命令を書き換える。

 トドネの支配から一旦離れたマイクロマシンを再び自分の物にすることはできない。トドネが支配を移譲させることができるのはトガリの支配するマイクロマシンだけだからだ。 

 トガリがそのようにマイクロマシンを設定したからこそ、トドネがマイクロマシンを支配できるのだ。

「テメエが!クルタスかよオオオオオオオオ!!」

「死んで詫びるのオオオオオ!!」

 アヌヤとヒャクヤが同時に走り出す。二歩でクルタスとの間合いを潰し、二人同時に放った左右のストレートがクルタスの顔面を襲う。

 クルタスが消える。

 アヌヤが後ろを、ヒャクヤが上へと首を振る。

 真後ろに現れたクルタスを一直線にアヌヤが追う。

 ヒャクヤは大きく回り込んで、右からクルタスを襲う。

 アヌヤの拳を、再び、クルタスが瞬間移動で躱す。

 クルタスが消えた場所をヒャクヤが通り過ぎ、急激なカーブを描いてアヌヤの背後へと回り込む。

「瞬間移動なんて!」

 ヒャクヤが叫ぶ。

 その目の前にクルタスが現れる。

「パパと散々!練習したのオオオオオオ!!」

 ヒャクヤの拳がクルタスの顔面を抉ったかに見えた。

 顔面の一部が消失したかのように見えたが、直ぐに元通りに復元される。

 クルタスが眼前に迫ったヒャクヤの頬をベロリと舐める。

「死ぬのオオオ!!」

 怒りに顔を真赤にさせたヒャクヤが左の拳をクルタスに放つ。

 クルタスが口を開く。

 その口にヒャクヤの左拳がぶち当たる。

 ヒャクヤの拳がすっぽりとクルタスの口中に収まっていた。

 滑稽に見えるその表情とは裏腹にクルタスの目が不気味に歪む。

 

 ブチッ


 太いロープが引き千切れるような音。

 その音と共にヒャクヤの左拳が消失していた。


 その場にいる全員が息を呑んだ。

 アヌヤも口を開いた状態で、棒立ちとなった。しかし、その場で即座に動いた者がいた。

 ヒャクヤだ。

 左手首の先からを失ったヒャクヤが右の拳を繰り出す。

 左の拳を消失したことを物ともせずに。

「きひっ」

 クルタスが声を上げて笑う。

 左の手刀を薙ぐように払う。その軌道とヒャクヤの右拳が重なる。

 ヒャクヤの右拳が、その半分を残して斬り飛ばされる。中途半端に斬り飛ばされた五本の指がバラバラと地面を叩く。

 鮮血を振りまいて、ヒャクヤが左腕を伸ばす。

 拳は無い。

 (かじ)り取られた傷口をクルタスの顔面にブチ込む。

「くひひっ」

 ヒャクヤの血で塗れた顔が歪み、クルタスが笑う。

 やはり傷付いたままの右手でヒャクヤがクルタスの顔を殴ろうとする。

 再びクルタスの左手刀が大きな軌道を描いて空間を薙ぐ。

 ヒャクヤの二の腕から先が斬り飛ばされる。

 返す手刀がヒャクヤの首元を狙う。

 音が弾ける。

 アヌヤの酒呑童子。

 その前腕がヒャクヤの首を救う。

「テメエ…」

 ヒャクヤが意識を消失し、アヌヤの腕に倒れ込む。

「テメエッ!!」

 クルタスを睨み上げる。

 アヌヤの足が跳ね上がる。

 クルタスはその爪先に乗って軽々と後方へと飛び退く。

 空中で消える。

「頭の上なのです!!」

 アヌヤがヒャクヤを抱えたまま、その場から跳ぶ。

 着地と同時に振り返って、今まで自分がいた場所に視線を向ける。

 アヌヤの頭上であった空間にクルタスが現れる。

 爪先からクルタスが着地する。

「ほほう。粒子化光速移動を見ることができるのですか…」

 クルタスがトドネの方へと視線を向ける。

「一瞬ですが、消える瞬間に軌跡が見えるのです。」

 トドネの目は精霊の目だ。粒子の動きを見ることができる。

「お前の瞬間移動は雑なのです!」

 トガリの瞬間移動ならば、トドネは追うこともできない。

 これも演算能力の差である。クルタスとトガリの演算能力の差。

 クルタスの瞬間移動は粒子化する時に、僅かではあるが、その進行方向へと粒子が伸びるように乱れる。

 トドネにとっては矢印で進行方向を教えているようなものだ。

 ヒャクヤを静かに地面に下ろしながらもアヌヤはクルタスの隙を見逃さない。

 クルタスへとアヌヤが襲い掛かる。

 消えない。

 今度は、クルタスは消えなかった。

 消えることなく広がった。

 シートのように、膜状にクルタスの体が広がり、アヌヤの反応速度を超えてアヌヤを包み込む。

 大きく膨れ上がったクルタスの内部が激しく蠢く。

「アヌヤ姉ちゃん!!」

 トドネの声にクルタスが笑う。

 クルタスの体が歪に伸びたり縮んだりする。クルタスが蠢く体を楽し気に擦り、顔を上げて笑う。

「くかかかっ」

「アヌヤ陛下アアアア!!」

 ヘルザースを始めとした暗黒精霊に囚われた兵士たちが叫ぶ。

「アヌヤ…姉ちゃん…」

 足から力が抜ける。

 トドネが膝をつく。

 絶望が肩に圧し掛かる。

 肩が下がって、背中が曲がる。

 ヒャクヤの出血は止まっていない。

 ヒャクヤが死ぬ。

 アヌヤの動きが鈍くなっている。

 アヌヤも死ぬ。

 トドネは尻をついた。

 諦めが色濃くトドネを染める。

 ゆっくりと黒がトドネを染め上げていく。ヘルザースもズヌークも黒く染まっていく。

「たすけて…トガ兄ちゃん…」

 止まった思考の中で口が呟いた。


 爆発と轟音。


 トドネとクルタスの中間地点に突如発生した砂煙と豪風。

 その砂煙から声がする。

「痛たた。まったく、イズモリは無茶をするよ。」

 トドネが目を見開く。

 ヘルザースは口を開く。

 ズヌークは眉根を顰める。

 しかし同時に口々に叫ぶ。

「トガ兄ちゃん!!」

「陛下!!」

「トガリ陛下!!」

 三者三様に違う呼び方で同一人物の名を叫ぶ。

 砂煙が薄れた中から現れた男は「よっ。」と気楽に右手を挙げてトドネに向かって微笑んだ。

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