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月トガリ  作者: 吉四六
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コルナって上司にしたくない女性ランキング一位だと思う

 無縫庵から空港までは近い。

 三人が無縫庵のスキップフロアを上がり、渓流に跨るデッキに出る。

 コルナが腕に装着した簡易錬成器を操作し、エアロカーを再構築する。霊子ローターと霊子ジェットで空を飛ぶ車だ。

 車としての機能が付録のようになっているが、その形状から、やはり、車だろう。黒いスポーツタイプの車の形状をしている。

 コルナが一つしかない前部座席に座ると、そのシートがスライドして、車体中央へと位置取りを変える。前のコントロールパネルが開いて、各種スイッチとメーターが出現し、背面パネルからコルナの横へとレバーが迫り出してくる。コルナは八点式のシートベルトを締めてからスイッチの一つを押して、後部ドアを解錠する。圧縮空気の抜ける音が合図となって、トドネが後ろの座席に座る。

「サラシナ・コルナ・ヒラギ。」

 自分のフルネームを口にしながら、パネルに右手を置く。

『声紋、指紋、骨格、霊子周波数認証。起動いたします。』

 このエアロカーにはイデアの複製プログラムが組み込まれている。運転する必要のない車だ。

 後部座席の窓をトネリが拳でノックする。

 ガラスを下ろして、トドネが顔を出す。

「トドネ。苦しくなったら逃げな。一目散に逃げるんだ。死んじゃ駄目だ。いいね?」

 トネリの言葉にトドネが笑う。

「普段と言ってることが違うのです。いつもはヤートの誇りを忘れるな。トドネ、お前はヤートの女だ。多少の無茶は当たり前だよって言ってるのです。」

 トネリが笑う。

「そうさ。でも、その多少の無茶が効かないなら、そん時は一目散に逃げるんだよ?ヤートは戦うことに誇りを置くが、逃げることに掛けちゃ、どの部族よりも優秀なんだ。戦って、戦って、無理だとわかれば一目散に逃げる。それが、ヤートの戦い方なんだよ。」

 トドネが頷く。

「わかったのです。戦って、戦って、無理だとわかれば一目散に逃げるのです。それが、ヤートの誇りある戦い方なのですね?」

「そうだ。それで良い。」

 屈んだ上体を起こして腕を組む。満足気に頷くトネリはコルナに視線を移す。

 横目で見ていたコルナがトネリに向かって頷き、後部座席の窓を閉める。

 ローターの回転音が静かに響き、体に軽いGを感じて車体が浮かぶ。後ろに引っ張られるような感覚を味わうとともに急激な加速を感じる。

 トネリがエアロカーを見上げる。

 トドネがトネリを見下ろす。

 トドネは笑っているが、拳を握り締めていた。

 トネリは笑っているが、組んだ腕の下で、その衣服が破れんばかりに拳を握り締めていた。

「トドネ特別捜査官。」

「は、ハイ!」

 コルナの声にトドネが前を向く。

「既に貴様は王族から除籍している。今後は一般市民と変わらぬ立場で仕事に励んでもらう。いいな?」

 トドネの目が真剣味を帯びる。

「ハイなのです。」

「よろしい。」

 眼下に空港が見える。八か所の発着場を備えた巨大な空港だ。煌々とライトに照らされ、全長二百メートル近い航空艦と呼ばれる機体が、数機、離着陸をしている。その航空艦の隙間を走るようにエアロカーが飛ぶ。

 コルナがコントロールパネルのタッチパネルに指を走らせ、通信機のチャンネル局を探す。

「外事警○○三から第一管制塔メリットいかが?」

『第一管制塔メリット五にて受信。外事警○○三どうぞ。』

「了解。外事警○○三にあっては緊急着陸したし、可能な発着場の指示よろしく。」

『外事警○○三、緊急着陸、了解。発着場ナビゲーションビーコン発信。受信状況及び車両状況報せ。』

 フロントガラスにビーコン受信の点滅信号が点る。

「外事警○○三にあっては、公務執行のため緊急着陸、車両状況問題なし。ナビゲーションビーコン受信。どうぞ。」

『第一管制塔了解。ナビゲーションビーコンの指示に従い着陸すること。どうぞ。』

「外事警○○三了解。」

 フロントガラスにエアロカーを着陸させるためのナビゲーションシステムが立ち上がり、ビーコンの指示に従い、指定された第三発着場へとエアロカーを向かわせる。

「あれか。」

 第三発着場の信号が点滅して、コルナのエアロカーを誘導する。

「外事警○○三から第一管制塔。着陸プログラム起動。どうぞ。」

『第一管制塔了解。着陸プログラム起動を確認。コントロール移譲。着陸まで四十三秒。どうぞ。』

 コルナがハンドルから手を放し、シートに凭れ掛かる。

 この空港には発着場が十四か所用意してある。内、四か所がエアロカー専用の発着場だ。エアロバスの発着場が四か所で、航空艦の発着場は六か所になる。

 神州トガナキノ国の航空艦は全て翼のない垂直離着陸機だ。滑走路を必要としないため、敷地面積に対して発着場を多く設定することができる。

 発着場は地盤面よりも低い位置に設置されており、エアロカーの発着場は九台、駐車できるように設定してある。

 コルナが駐車した第三発着場もエアロカー専用の発着場だ。

 そのエアロカーのすぐ傍を巨大な航空艦が下降する。

 機体横に連邦国内便を表す数字とハルディレン王国を表す頭文字が明示されている。ハルディレン王国からの便だ。

 機体の下、その三分の一程が地盤面よりも下に隠れて着陸する。それを追いかけるようにしてコルナのエアロカーも地盤面下へと潜っていく。

「外事警○○三から管制塔。着床完了。降車する。どうぞ。」

『管制塔了解。通信終了。どうぞ。』

 エアロカーのドアから圧縮空気の抜ける音がして、自動で開く。気圧調整のためにドアの密閉性は高い。

「直接、ハルタたちに会いに行こう。」

 コルナが降車しながらトドネに話し掛ける。

「ハイなのです。」

 二人がタラップを上り、地上に出る。コンクリートで綺麗に舗装された地盤だ。鉄の手摺の向こう側、地中に埋まっているような白い機体。クジラのような航空艦が見える。

 白線と黄色で区分された歩道を進んで、ハルディレン王国からの航空艦へと向かう。

 手摺から上体を乗り出し覗き込む。深い谷のようになった航空艦の発着場、深さは二十メートルだ。その谷底を、ハルタを始めとした特別捜査第五班の面々が立っている。

 コルナが通信機を取り出し、ハルタを呼び出す。

『はい。ハルタです。』

「外事警察庁のコルナだ。今からそちらに下りる。」

 コルナの名前を聞いた途端、遠目にもハッキリとわかるほどにハルタが姿勢を正した。

『りょ、了解いたしました!お待ちしております!』

「なんだか、ハルタ局長がお気の毒なのです。」

 ハルタの様子を見て、トドネが呟き、コルナがトドネに視線を向ける。

「どうして気の毒なんだ?」

 聞かれていないと思っていたトドネが肩を竦める。

「いえ、コルナ姉さんの連絡を受けるとハルタ局長が物凄く緊張するのです。」

「ああ。」

 納得するようにコルナが頷く。

「以前、旦那様に直接会いに来たことがあってな。」

 トドネが興味深そうにコルナの方を見る。

「局長がトガ兄ちゃんにですか?」

 コルナが頷く。

「王国の法整備をしている時でな。旦那様は結構疲れていたのだ。たしか、あれは、旦那様が、まだ、十一歳の誕生日前だったか。」

「へえ。」

「会わせろと、余りにしつこかったのでな。ちょっと説教してやったのだ。」

「せ、説教ですか?説教だけなのですか?」

 コルナが頷く。

「うむ。しつこくされる側の苦しみというものを教えるためにな、二日間、徹底的に説教してやった。」

「ふ、二日間…ですか…」

「うむ。トイレにも一緒に行ったし、食事も一緒にしてな。寝かしてもやらなかった。眠そうにしていたら覚醒魔法で無理矢理起こしてな。延々と同じ説教をしてやった。もう二度と致しませんというので、連邦捜査局で働くように言ってやったら、泣きながら、もう勘弁してくださいと言ってたのだが、そんなことで旦那様にしつこくした罰は許される訳がない。」

 て、徹底してやがんな…そんな話、初めて聞いたよ。トドネの顔も真っ青だよ。たしか、寝かせない拷問ってあったよな?

 発着場の壁面に取り付けられた階段を二人が下りる。

 ハルタがコルナに気付き、慌てて姿勢を正す。それを見ていた班員が局長の左側に回り込み、整列しながら気を付けの姿勢をとる。

 コルナが局長の前に立つ。

「敬礼!!」

 特別捜査第五班の全員が軽く腰を折ってコルナに対して脱帽の敬礼を行う。

 局長が気を付けの姿勢を取ってから、再び「直れ!!」と、号令を掛ける。その号令を受けて班員が直立不動となる。

「報告いたします!神州トガナキノ国連邦!連邦捜査局長以下五名、特別連邦捜査第五班!神州トガナキノ国に到着いたしました!」

「うむ。ご苦労。この船には被害者が乗っているのだな?」

 労いの言葉もそこそこにコルナが本題を切り出す。いや、もうちょっと労ってやれよ。

「はい。クルタスを目撃したセドン・セリック・ブルーニ侯爵邸にて四十八人の洗脳された男女を発見いたしました。本国での治療が必要と判断し、連邦特別捜査第五班にて搬送しました。」

 報告を終わらせ、口を閉じた局長がチラリとトドネへと視線を向ける。

 トドネが本国に帰還した後、セドン・セリック・ブルーニ侯爵邸で大規模な捜索が行われた。発見された四十八人の男女の健康状態は良好であったものの、全員が洗脳されており、その解除には神州トガナキノ国の治療技術が必要だった。

 他に発見されたのはセドン・セリック・ブルーニ侯爵本人とその家族の首なし死体だった。あの時、ロデムスが、血臭がすると言っていたのは、セドン・セリック・ブルーニ侯爵たちの死体から漂っていた物だった。

「検疫は?」

「はい。ハルディレン王国でも実施済みですが、現在も検疫チームが航空艦内にて実施しております。」

 コルナが頷く。

「結構。では、皆に改めて紹介する。」

 コルナがトドネの背中を押す。

 局長を始めとした班員全員がトドネに注目する。

「サラシナ・トドネ・ヤートだ。名前は変わらないが、この度、連邦特別捜査第五班に復帰するに当たり王室からの籍は抜いた。また、貴様らで面倒を見てやってくれ。」

 局長が目を剥く。班員全員がポカンだ。

「よろしくお願いするのです。」

 トドネが元気よくお辞儀する。

 その様子を見ているコルナがフッと笑う。

 班員の顔が青褪める。

 そりゃそうだ。

 鬼より怖いコルナ総監が娘に対するように微笑んだのだ。

 王室から除籍したって、そんなこととは関係なしに可愛がってるのがもろバレだ。そんなトドネの面倒を見ろと言われたら、堪ったもんじゃないわな。

「と、トドネ様が復帰なさっヒッ!」

 局長、頑張れ。コルナに睨まれたからって叫んじゃ駄目だ。

「様?トドネは除籍したと言ったろう?何を聞いていた?それとも貴様は部下全員を様付けで呼ぶのか?今すぐ、ここで全員の名前を様付けで呼んでみろ。今後も全員を様付けで呼ぶならば、トドネのことを様付けで呼ぶことを許可してやる。」

「も、申し訳ございません…」

「誰が謝れと言った。部下を様付けで呼ぶのかと聞いているのだ。」

「い、いえ。呼びません。」

「では、貴様は私の話を聞いていなかったのか?」

「い、いえ。聞いておりましたが、私はトドネ様の復帰に反対ですので…」

「反対?構わん。反対しろ。しかしトドネは復帰する。だからトドネに対して様付けは必要ない。」

「は、はあ。では、私はトドネ様を部下扱い致しません。」

「貴様の部下だ。部下扱いしろ。」

「い、いえ、ですから、私は反対しておるのでして…」

「そんなことは関係ない。貴様は私の部下だ。業務上、私の命令に逆らえる権限は貴様にはない。貴様がどうしても逆らうというのであれば、貴様の部下が逆らっても貴様は抗弁することができなくなる。それは指揮命令系統に乱れを及ぼす。命の掛かった仕事だ。貴様が私の命令に従わないなら貴様はこの職を降りろ。」

 局長が俯く。

 うん。真っ当な正論だ。

 書き物の上では確かに真っ当な正論だが、元々が無茶苦茶なんだから、こりゃ局長が可哀想だよ。だって、トドネには特別捜査官になる資格がないんだから。

「し、しかし、トドネ様は連邦特別捜査官になる資格を有しておりません。本来の正規の資格を取得してからでしたら私もコルナ総監に抗弁いたしませんが、トドネ様の復帰は明らかに異例です。」

「その通りだ。しかし陛下の御裁可は降りている。貴様は陛下の勅命を蔑ろにするのか?」

 その場の雰囲気が一気に殺気立った物へと変貌する。って、ちょっと待ったああ!!俺は反対したの!!お前も居ただろ?その場に!!勅命ってなんだよ!!いい加減にしろよぉ。

「い、いえ…け、決してそのようなことは…」

「なんだ?歯切れが悪いな。貴様は陛下に逆らうというのか?ならば、この場で私に殺されても文句は言えんが、どうなのだ?」

 ひ、ひええええええ。コルナの目が暗殺者モードですよ?暗殺者の目ですよ?連邦特別捜査官全員がガクブルですが?おい。俺を盾に殺すとか言うなよぉ。勘弁してくれよぉ。

「い、いえ。私は陛下に逆らおうというのではなく…トドネ様の身の安全が、ほ、保障できかねますので…」

 おう。スゲエな。暗殺者モードのコルナに対して抗弁してるよ。流石は局長だ。

「研修期間を設けてください!!」

 顔中に脂汗を流したトドネが慌てて横槍を入れる。

 コルナがトドネの方へと視線を向ける。

「研修期間?」

「は、ハイなのです!研修期間を設けて頂き、その間はコルナ総監の預かりということにしてもらえないでしょうか?そうすれば、局長が私の身の安全を保障する必要はないのです!」

「それでも、部下として扱うのだ。局長には責任の一端は負ってもらうことになる。」

「ならば、局長の代わりにコルナ総監が班長をすればよいのです。」

「無理を言うな。総監としての仕事があって、そんなことはできない。」

「役職だけで良いのです。班長はコルナ総監で副班長を局長にするのです。」

「ふむ。実務に関してはハルタにやらせて、私は一日の報告を受けるのか。うむ。それならできるな。」

「決まりなのです!」

 コルナが局長に向き直る。

「ということでな。貴様ら連邦特別捜査第五班は外事警察庁総監直属の班とする。明日にでも通達を出すから、貴様らはそのつもりでいろ。」

 連邦特別捜査官全員がポカンだよ。

 なんか色々すんません。ウチの姪っ子と嫁がご迷惑をお掛けして。ホントにすんません。

「さて、それでは、検疫の様子を見に行くか。連邦特別捜査第五班の班長としてな。」

 なんだよ。結局、ノリノリじゃねえか。久しぶりの現場で昂ぶってやがんな。

 コルナを先頭にゾロゾロと全員が歩き出す。局長の隣にトドネが並ぶ。

「局長、ごめんなさいです。どうしても復帰したかったのです。皆さんの足を引っ張ることは重々に承知しているのですが、あのまま、放っておくことができないのです。」

 トドネの言葉に局長が口角を上げる。

「新神記に出てくる陛下と同じだね。」

「へ、陛下とですか?」

 局長がトドネの頭を撫でる。

「陛下は一〇歳の頃から神懸かり的な、いや、神としての力を発揮されていた。その陛下と同じ様にはできないが、あんたも、自分が良いと思ったことは必ず実行する。そこが陛下と同じなんだね。」

「そ、そうでしょうか?」

「ああ、陛下はヘルザース閣下たちの反乱を未然に防いだ。今の神州トガナキノ国なら明らかに違法な行為を沢山してね。でも、実行した、多くの領民の命を護るために。」

「はい。陛下は天下の大悪党なのです。」

 うっく、ト、トドネ…最後に俺の心を抉るのは止めてくれ。

「そして、国内で一番多くの人に愛されているのです。」

 局長が笑う。

 う、最後に泣けることを言ってくれるじゃないか。そう言ってくれるのはお前だけだよ。

『悪党は天下で、愛されているのは国内だけだね。』

 うるせえ!イチイハラ、お前、最近、イズモリ化してねぇ?

『そうかな?』

 航空艦の横っ腹から圧縮空気の抜ける音がして、気密ハッチが倒れ込むようにして開く。

 ハッチの内側に貼られた金属板が立ち上がり、そのままタラップになる。

 局長を先頭にタラップを上がり、最後にコルナが上がる。

 人感センサーが反応して、照明が灯る。白い壁面がどこまでも続いている艦内廊下。その廊下を進んで幾つかの扉を通り過ぎる。

 コルナのハイヒールが小気味良い音を響かせている。

 扉の暗証番号入力用のテンキーを局長が操作し、レバーを下げ、圧縮空気の抜ける音共に扉を引く。

 白い防疫室の前室。左手に大きなガラス張りを見て、全員がそちらの方に顔を向ける。

 前室の照明は点いていない。

 トドネが防疫室を見下ろす。百床のカプセル型のベッドに四十八人の被害者が横たえられている。

 トドネが右目。精霊の目を起動させる。

 被害者の脳に仕込まれているマイクロマシンを確認して、そして、奇妙なことに気付く。獣人とは違う普通の人間なのに体内に蓄積されているマイクロマシンの量が異常に多いことに。

 トドネが局長を振り仰ぐ。

「体内の精霊の量が多いのです。何かあったのでしょうか?」

「ああ、治療用の精霊薬を注入したからじゃないのかい?」

 局長は不審に思わなかったようだ。

 局長がイノウへと視線を送る。

「体内の精霊についての報告はあったのかい?」

 不信に思わなくとも局長は確認を取るが、イノウは首を傾げながら答える。

「いえ、特にそういった報告はありませんでした。」

 局長がガラス下のスイッチに手を伸ばす。

 防疫室の係員に向かって声を掛ける。

「忙しいところすまない。連邦捜査局長のハルタだ。」

 ガラス越しに係員が前室を振り返る。

 防疫室の係員は全員が白い防護服とマスクそしてゴーグルをしている。その顔は判別できない。

 防疫室の係員が右のイヤホンを押さえて「何か?」と問い返してくる。

「ウチの職員が体内の精霊量が異常に多いと言ってる。何か問題でもあったのかい?」

 局長の言葉を聞いたトドネが驚き顔で局長の顔を見上げる。局長は見られていることに気付いているだろうが、それを無視して防疫室に視線を留めたままだ。

 局長に問い掛けられたマスクの係員が首を傾げる。

「体内の精霊量が見えるのですか?精霊の目ですか?」

 その言葉を聞いた局長を始めとした第五班の全員がトドネへと視線を向ける。

「ハイなのです。陛下にお願いして、精霊の目を頂いたのです。」

「せ、精霊の目って陛下がお作りになられるんですか?」

 敬語になったイノウがトドネに聞き返す。

「ハイなのです。トロヤリ殿下たちの精霊の目も、トンナ王妃のお腹の中にいる時にお作りになられたそうなのです。」

「へえ。」

 トドネの言葉を聞いた局長が防疫室の係員に向き直り口を開く。

「そうだ。ここに精霊の目を持った者がいる。」

 防疫室の係員が頷く。

「わかりました。では、被害者の体内に蓄積されている精霊を調べます。」

 係員が、横に置かれたサービスワゴンから一本の薬品用の小瓶、バイアルを取り出す。治療用カプセルベッドのスイッチを操作し、バイアルの投入口を開く。

 バイアルのキャップ部分を下に、その投入口へとバイアルを押し込むと、カプセル内のマニュピュレーターが始動し、被害者の右腕にペンのような電動注射器が伸展する。

 被害者の体内に神州トガナキノ国の精霊薬が注入された瞬間にそれは起こった。

 トドネの目にはハッキリと映っただろう。

 しかし俺の目には届かなかった。

 突然、電源が落ちたようにマイクロマシンからの情報が消えたのだ。

 この後、神州トガナキノ国で何が起こったのか俺は見ていない。見られなかったのだ。

 タイムラグなしで、マイクロマシンから送られて来ていた映像や情報の全てが途切れた。

 そして、今、俺の目の前にはクルタスがいる。

 その横にトンナを従えて。

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