追跡
「疲れた。もう無理。」
セザルが椅子の背凭れ一杯に体重をかけて両腕を天井に向かって伸ばす。
神州トガナキノ国ではコンピューターを作っていない。イデアがいるので国体母艦等の運用は問題ないが、行政機関などの仕事にはイデアの使用を禁じている。
文明程度とそぐわないからだ。
将来のことを考えるとコンピューターは文明程度の発展に合わせて、俺以外の人間が開発してくれないと困る。
だから、雷精魔道具も現代日本のようなコンピューターが内蔵されているような物ではない。
誰かが発展させて欲しい。
魔法という概念が定着している世界なのだ。現代日本とは別の観点から発展していくのではないかと俺は期待している。
したがって、連邦特別捜査官が人定記録を確認するには、一つ一つのリストを捲って確認する必要がある。人定確認用のリストは連邦捜査局にもあるが、区役所から貸し出されたリストと照らし合わせる必要もある。これは複写時に複写ミスがないかを確認するためだ。
コピー機もないため、一つ一つの作業が手作業になる。その結果、単純なミスが発生する。そのミスを織り込み済みとして、人定記録の確認を行っているのだ。
膨大な作業量だ。魔虫のモニターを見詰めながら、人定記録に記載されている写真と比較し、一人ずつ探し出す。人定記録に乗っていれば、一旦その人物は除外し、後で、人定記録の確認作業を行う。載っていなければ、その人物を抽出して、その人物を捜査対象とする。だから、部外者であるセザルが弱音を吐くのも無理はない。俺だってそんな作業ゴメンこうむりたい。
「泣き言を言うな。お前以外は全員、黙々とこなしてるぞ。」
局長、厳しいイイイ。
その局長の言葉にセザルがチラリと周囲を見回す。
人定記録を確認するにはハルディーデル王都全人口の人定記録書を確認する必要がある。
ハルディーデル王都の全人口は約百二十八万人。
偽装の組手をしていた共犯者からの証言でクルタスは男性だということがわかっているが、年齢は不明、身体的特徴についても不明だ。
ハルディーデル王都の男性は約四十九万人。三十畳ほどの部屋に人定記録簿が山積みの状態だ。
その簿冊の谷間に埋もれるようにして捜査官が点在している。トドネなどは影も見えない。
「ダメだ。俺には到底無理だ。」
セザルがそう呟き、立ち上がる。うん。無理だよね。
「続けろ。」
局長が強い口調で命令するが、セザルはお構いなしに出口に向かって歩き出す。
「煙草だよ。煙草ぐらい吸わせてくれ。ここは禁煙だろう?」
振り返ることなく、そう言った時には、既に扉を開けて出て行った。そして、その日、セザルは戻ってこなかった。
翌日、全員が、連邦特別捜査第五班の執務室で、ぐったりしているところにセザルがやって来る。
「よう。おはようさん。朝飯を買って来たぞ。」
全員が簿冊の谷間からセザルの方を睨む。
「お嬢ちゃん。腹減ったろう?ほら、この簿冊をどけて、飯にしようぜ。」
トドネが恨めしそうにセザルを見る。
「お肌がツヤツヤなのです…」
「そりゃそうさ。俺はグッスリ眠ったからな。」
「煙草を吸ってくると言って出て行ったのです。」
セザルがキョトンとした表情でトドネの顔を見る。
「そうだよ?俺は家に帰って、飯を食って、風呂に入ってから、ゆっくりと眠って、今朝、煙草を吸ったのさ。」
「色々と省略されてるのです~」
「トドネ。そういうのは省略とは言わない。嘘を吐いた、というんだ。」
「イノウ君ヨ。そいつは酷いな。そもそも俺は賞金稼ぎだぜ。ここでやってることは時間外だ。手当も出ねえのに俺がここにいる理由はねえだろ?こうやって、イノウ君たちのために朝飯を買って来てやったんだから、それだけでも感謝されるはずだ?違うかい?」
イノウが口を窄めながら「確かにそうですけど…」と言いながらセザルが買って来たサンドイッチに手を伸ばす。
「七十八ダラネ。」
「え?」
「え?じゃねえよ。そのサンドイッチは七十八ダラネだよ。」
「お金取るんすか?」
「ハルディレン王国にタダの物があるなら教えてくれ。」
「空気。」
「じゃあ、それだけで生き延びてくれ。」
セザルがニッコリと微笑み、イノウは口をへの字に曲げてセザルを睨む。
「…わかりましたよ。」
イノウが内ポケットから財布を取り出し、金をセザルに支払う。
「じゃあ、あたしはセザルさんの優しさでサンドイッチを貰おうかしら。優しさってタダよね?」
ウタネヤがセザルに近付きながらニッコリと笑う。
「そう。その回答が正解。だからウタネヤちゃんは、どれでも選び放題。ただし、俺の優しさには下心があるから、その辺は覚えといてくれよ?」
「覚えていられるかどうかはわかんないけど、ありがとう。」
ウタネヤがニッコリと微笑みながらサンドイッチを摘まみ上げる。イノウが恨めしそうにウタネヤを見詰めてる。
「で、お嬢ちゃんは、俺がお嬢ちゃんと呼んでるからな。子ども扱いだからタダだ。」
「素直に喜べないですけど、ありがとうございますなのです~」
トドネはサンドイッチを二つ摘まみ上げる。
「ってことは、俺たちオッサン連中からは当然…」
「そう。当然、オッサン相手の優しさは鼻っから無いから、しっかりと支払ってもらう。」
ブロスが口元を緩めながら、ティーラーの代金も支払い、サンドイッチを三つ摘まみ上げる。
「局長には、俺が惚れた弱味だ。タダにしてあげるよ。」
局長がウンザリした顔で財布から代金を支払う。
「全員の分だ。ブロスとイノウに金を返してやりな。」
「おお。カッコイイねぇ。お嬢ちゃん、将来はこういう上司にならなきゃな。」
そう言いながら、一旦は仕舞った金をイノウとブロスに返金して回る。
「さて、それじゃあ、食いながらでいいんで、ちょっと聞いてくれ。」
セザルが立ち上がり、全員の顔を見回す。
「魔虫のカメラに写っていた人間は、あの二人を除けば全部で二十三人。その内、あの付近に住んでいる人間は十九人。つまり四人の人定確認を書類でしなくちゃいけない。」
セザルがそう言いながら板壁に四枚の写真を貼り付ける。
「で、俺はその十九人にこの四人を以前から見たことがあるかと聞いてきた。」
全員が口を開ける。
「それでわかったのは、この四人の内、こっちの二人は何度か見かけたことがあるとの証言を得た。」
セザルがその二人の写真を板壁から引き剥がす。
局長とイノウが唇を噛み締める。
板壁に貼られた写真を指差しながらセザルが話す。
「俺はこの二人の写真を持って、魔法使い協会で話を聞いてきた。」
板壁に残った二枚の写真の内、一枚をセザルが引き剥がす。
「こいつは魔法使い協会に登録していた。名前をグオティア・スードル。貴族に雇われている。」
板壁に残った最後の一枚。その写真を指しながら、セザルが話す。
「クルタスってのが偽名じゃなけりゃあ、こいつがクルタスだ。」
「確かにそうだが、決定的じゃないねぇ。」
局長が呟き、その言葉を受けてセザルが肩を竦める。
微妙にカメラ目線の男が写っている。黒いローブで、フードを頭からすっぽりと被っているが、魔虫のカメラは高解像だ。男の視線まで捉えている。
「その通り。でも、四人から一人に減ったんだ。ちょっとはマシだろ?」
局長が口元を緩める。
「よし、魔虫のコントロールセンターと連携して、この男の足取りを追うよ。あたしたちは写真を焼き増しして、現場周辺の聞き込みだ。ウタネヤ、イノウと組みナ。ブロスはティーラーとだ。トドネ、お前はあたしと来るんだよ。」
全員が立ち上がる。
「俺は?」
セザルがポツネンだ。
「あんたは好きなように動きな。どうせ、あたしの言うことなんて聞きゃしないんだから。」
セザルがニヤリと笑う。
「じゃあ、お言葉に甘えて、お嬢ちゃんと一緒に動きましょう。」
「好きにおし。」
局長の言葉を受けて、トドネがセザルの方を振り仰ぐ。そして、ニコリと笑った。
執務室を出ると「にゃ~ん。」という声が聞こえる。オッサンが猫の物真似をしてるみたいな声。
トドネが慌てて、声のする方を振り返る。
「ロ、ロデムス!」
トドネの声を受けて、黒猫がトドネの肩に跳び乗る。
「暇で暇でしょうがないのじゃ。我も連れて行ってくれんかのう?」
他の二人に聞こえないようにロデムスがトドネの耳元で囁く。
「ダ、ダメなのです!ちゃんとお部屋で待っててください!」
トドネの言葉にロデムスの髭がシュンと垂れ下がる。
「なんだい。トドネの猫かい?さっさと部屋に戻しといで。」
「いやいや、局長。この猫、連れて行っても良いんじゃないですか?」
セザルの言葉に二人は目を見開きながらセザルの方を向く。
「な、なにを言ってるんだい?捜査の邪魔にしかならないだろう?」
セザルがロデムスに顔を近付けながら言葉を続ける。
「いや。この猫、かなり賢そうだ。感覚も鋭敏だろうから、使えると思いますよ?」
「はあ?」
セザルが急に小声になる。トドネとロデムスにだけ聞こえるように。
「どうやって、捜査官用の寮から出て来たのかな?簡易錬成器が使えなけりゃ、出て来れないのにな。」
トドネの顔が青褪める。
「ふむ。どうやらお主にはバレておるようじゃ。ならば話は早い。お主の言うように我を連れて行くのじゃ。」
ロデムスの言葉を受けて、セザルが笑い、局長の方へと振り返る。
「局長、俺が保証するぜ。この猫、あんた達が持ってる解析検知器よりも使えるよ。」
局長は呆れ顔だ。溜息を一つ吐き「好きにしな。」と答えた後、その顔が厳しいものへと変わる。
「ただし、途中で、その猫が死んじまっても知らないよ。」
そう一言付け加える。
「はいなのです!」
局長の言葉に「我が死ぬ局面ならば、あ奴の方が先に死ぬじゃろう。」と、ロデムスがボソリと呟いた。そりゃそうだ。ロデムスより強い人間なんて、ちょっと考えつかない。
「でだ。」
局長がロデムスを見詰めながらトドネに近付く。
「どれだけ賢いのか確認させてもらうよ。」
そう言いながら局長がロデムスの襟首を掴み、ロデムスを持ち上げ、おもむろにロデムスを抱締める。
途端に局長の顔がだらしなく崩れる。
「ふ、ふむ。け、毛並みはイイ感じだ。」
ロデムスに思いっきり頬ずりしてやがる。こんなことで利口かどうかなんてわかるのか?
『わかる訳ないだろう。』
そりゃそうか。
「どれ、これはどうだい。」
ロデムスを赤ん坊のように抱き直し、その腹に顔を埋め、思いっきり擦り付けてやがる。
「おお、こ、この猫、逃げないな。」
局長はメッチャ嬉しそうだ。
ロデムスはメッチャ嫌そうだ。
局長、そのままロデムスの体中をワシャワシャと撫で始める。その間にも「おお、良い猫だ。」とか「私から逃げぬとは、何と利口な猫なのか。」とか言ってる。当たり前だよ。こんなことされれば、普通の猫なら嫌がって逃げ出すわ。
「きょ、局長?」
「は!」
トドネに声を掛けられ、やっと正気に戻る。
「トドネ。この猫は良い猫だ。この猫が私の肩に乗っているのであれば、捜査に連れて行くことを許可する。」
いや。正気じゃなかったわ。返す気ねえのか?
ロデムスが悲惨な表情を浮かべてる。
「わかったのです。では、捜査中はロデムスをお預けするのです!」
売ったああああ!見事にスッパリと売り渡しやがった!即答だよ!トドネの奴、即答しやがった!
ロデムスが口を開けて、多大なるショックを受けているのがよくわかる。
「う、うむ!そうか!トドネ捜査官はやっぱりできる奴だな!では、この猫、ロデムスというのか。お前は今日から私の肩に乗って捜査に参加するのだぞ!」
髭をシュンと垂らしたロデムスが渋々ながら局長の肩に乗り、襟巻のように寝転がる。
「おお!なんと賢い猫なのか!凄い猫だな!」
「そんなことより、局長、そろそろ行こうぜ、日が暮れちまうよ。」
セザルの一言で「ああ、そ、そうだな。行こう。」と、局長が答え、三人が歩き出すが、セザルだけが別方向に歩き出す。
「セザルさん?どこに行くのですか?」
「魔虫のコントロールセンターだよ。」
「そ、そうか。歩いて探すよりも魔虫のカメラに捉えられる可能性の方が高いからか。」
局長がハタと気付いたように言う。
セザルがニヤリと笑う。
「まあ、そうだな。魔虫を使った方が見付け易いだろうな。」
セザルの言葉に従い、三人と一匹が魔虫のコントロールセンターに向かう。
こうして、ハルディレン王国でもクルタスの捜索が始まった。
手掛かりは少ない。
クルタスと思われる男性の写真だけだ。目撃者情報からクルタスと思われる男の足取りを探すが、魔虫は連邦中に散らばっている。その魔虫が見付けてくれる可能性の方が高い。
魔虫のコントロールセンターの扉を開き、三人が入る。
局長の襟巻を見て、センター長が「変わった襟巻ですね。」と、声を掛けると、その襟巻が「にゃ~ん。」と応える。
「え?自動音声ですか?」
「違うよ。ロデムスちゃんってんだ。トドネの猫だよ。」
「え?生きてるんですか?」
「当たり前だろ。生きてるから可愛いんじゃないか。何を言ってるんだい。」
センター長の意図とは違う答えにセンター長は黙るしかないわな。
微妙な表情で、最後に入室してきたセザルの顔を確認する。セザルを見たセンター長があからさまに嫌な顔をしてら。
なんか、センター長ご苦労様です。
「ここは禁煙ですよ。」
「ああ、わかってるよ。」
セザルの言葉を聞いて、溜息を吐き、「で、今日はなんの用ですか?」と用件を聞いてくる。
「この男を検索して欲しい。」
センター長に局長が写真を渡す。それを見咎めたセザルが横槍を入れる。
「おいおい。その写真の男を魔虫で探すのかい?」
セザルの言葉に局長とトドネがナニヲイッテルンデスカ?という表情で振り返る。
「二人とも、その写真、よく見たのか?」
セザルの言葉に、やっぱり二人はナニヲイッテルンデスカ?という表情だ。
「その男、カメラ目線だろ。気付かなかったのか?」
写っている男は微妙にカメラ目線だ。しかし二人にはその不自然さがわからないようだ。
「いいか?こいつは、魔虫に気付いてる。気付くということは魔虫の役割を知っているということだ。俺がこいつに目を付けたのは、そのことが一番大きい。魔虫の役割に気付いたら、俺なら魔虫のいないところを通る。つまり、男はここのモニターに映らないということだ。」
「そんな、そんなことができるのかい?」
局長が驚く。当たり前だ。
セザルの言う理屈はわかる。しかし、セザルの理屈には前提条件として、どこに魔虫がいるのか、そのことを事前に把握する必要がある。
「できるさ。」
局長だけではない。センターにいる全員が、驚きにどよめく。
「魔虫は、ハルディレン王国を満たす幽子とは違う波長を持っている。」
「そうなのかい?」
局長の言葉にセザルが頷く。
「魔虫は、その所有権を神州トガナキノ国のトガリ陛下が持ってる。だから、魔虫の持つ霊子の波長はトガリ陛下の霊子の波長だ。」
「たしかに、霊子や幽子に波長の違いがあるってのは知ってるが、本国とハルディレン王国の幽子に波長の違いがあるのかい?」
セザルが首を横に振る。
「幽子は空間全てを満たす粒子だ。その幽子に波長の違いはない。ただ、精霊が有している波長に違いが生じる。」
「精霊に?」
局長の眉が訝し気に歪む。
「神州トガナキノ国の精霊は、その全てがトガリ陛下の支配下だ。だから、陛下は無詠唱で魔法を使えるが、普通の人々はトガリ陛下から精霊を借りるという形でしか魔法を使うことができない。」
「うん。」
「ここの、ハルディレン王国の精霊は神州トガナキノ国とは違う波長を持って活動している。これは、ハルディレン王国にトガリ陛下が制限を設けていないからだ。」
「な、なぜなのです?トガリ陛下は、なぜ、ハルディレン王国に制限をかけていないのですか?」
トドネが疑問をそのままに口にする。
「一つは、法規制が違い過ぎるという点。それから、脳味噌に作られている精霊回路の性能が神州トガナキノ国とは段違いに劣るからだ。」
「つまり、神州トガナキノ国では制限が必要なくらい、皆の精霊回路の性能が良いということなのですか?」
「そうだ。」
「わかりました。すみません。話を横道に逸らしてしまって。」
トドネが丁寧に頭を下げる。うん。いい子だぞ。
「幽子、もしくは霊子の波長が違えば遠くからでも発見、感知することは可能だ。」
そうだ。
カルザン帝国で起こった魔虫災害の時、イデアはその霊子の波長の違いを利用して魔虫を全てマーキングした。
「いわゆる、気配を伸ばすって技術だ。」
そんなことができるのは限られた人間だけだ。しかし、できる人間はいる。俺もそうだし、オルラもそうだ。トネリも狩の中で自然と身に着けている。トンナは毛髪で霊子と幽子を感知することができる。
「魔虫で見つけることができないなら、やっぱり足で探すしかないじゃないか。」
局長の言葉にセザルが首を横に振り、センター長に向き直る。
「センター長さんよ、ここからの指示通りに魔虫を動かすことはできるだろ?」
「あ、ああ、それは勿論。」
セザルが再び局長に向き直る。
「魔虫を避けるなら、避けさせればいい。避けさせておいて、こっちの思い通りの所に追い込めばいいのさ。」
「ああ。」
「な、なるほどなのです!」
セザルがコントロールセンターの一際大きな中央モニターへと目を向ける。
「このでかいモニターに王都の地図を出してくれ。」
コントロールパネルのタッチパネルを操作して大きなモニターにハルディーデル王都の地図と赤い光点が幾つも映し出される。
赤い光点が微妙な速度で、ランダムに動いている。
「あの赤い点が魔虫だな?」
「そうだ。」
センター長の答えにセザルが満足気に頷く。
「じゃあ、ブロックごとに魔虫を不自然にならないように配置しよう。」
そう言いながら、中央モニターに近付く。
「まずは、このブロックか。いや、各ブロックで同時に動かそう。偏りがでると気付かれるからな。その点だけ注意してくれ。」
「わかってる。」
コントロールセンターの各センター員の前には小さな専用のモニターがある。その専用モニターはタッチパネルだ。そのタッチパネルの上を各センター員が指を滑られせ、魔虫の動きに指示を出す。
「よし。いいぞ。じゃあ、このブロックとこっちのブロック以外は一度通ったルートを再検索するようにコントロールしてくれ。」
魔虫がセザルの指示通りに動く。
「こっちのブロックと、このブロックは地下の排水溝にも侵入させてくれるか。外縁部のブロックは建物内を中心に頼む。」
操作しているセンター員は、タッチパネルで魔虫を操作しながら、各魔虫が捉える映像を確認している。全員が額に汗を流し出した。
「いいぞ。もう少しだ頑張ってくれ。」
中央モニターを見ながらセザルが各センター員に声を掛ける。
静かな追跡だ。
センター員は一人で十二個のモニターを担当する。数としては多い。
魔虫をコントロールしている最中にも様々な事件を発見する。
殺人、傷害、暴行、強姦、窃盗、強盗。
センター員は事件を発見する都度、担当区域別に指令を流す。その間もモニターからは目を放さない。
魔虫のカメラには写真の男は写ってはいない。
三十分ほど、セザルの指示のもと、魔虫の追跡が続き、セザルが「よし。じゃあ、今までやった追跡ルートの役割を変えて、やり続けてくれ。」と、言いながら局長へと振り返る。
ロデムスの額を指先で撫でていた局長が頷き、セザルがニヤリと笑う。
「さあ、奴が王都に残っていれば、追い詰めたはずだ。行ってみるかい?」
「当然だ。」
局長が腕を組んで顎を上げた。
「にゃ~ん。」
ロデムスまで声を上げやがった。




