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月トガリ  作者: 吉四六
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もしかして、国王のお仕事って怒られることなの?

 神州トガナキノ国には、現在、五十六の国家がトガナキノ連邦国家として参画している。

 ハルディレン王国で発生した魔獣災害。その時に解き放たれた魔獣は六年の歳月をかけて連邦国家内だけでなく、世界各地に散っており、俺は魔狩りとして依頼を捌く毎日だ。

 数週間前にもウーサ大陸の南、丁度、現代社会で言うところのアマゾン地帯だな。その元アマゾンに建国されているトルザンス王国に出向いて、体長二十七メートル、推定体重は八十トンの地龍の変異種を仕留めてきたところだ。

 この地龍に分類される魔獣。実は兵器ではなかった。

 あの魔獣は整地開拓用の魔獣で、荒れた大地を耕作可能な状態に修復するために造られた生体重機だったのだ。

 何森源也が惑星を修復するにあたって、設計開発し、事業が終わったと同時に休眠状態になっていた物だった。

 それが、なにが原因かは不明だが、突然、目覚めて、ジャングルを整地開発し始め、村まで整地開発しようとしていた。それで俺たち魔狩りが出向いたって訳だ。

 で、合間を縫って、各国首脳人との会食をしたりしているが、俺の本職は魔狩りなので、その会食をすっぽかしたりすることがままあるのは仕方がない。

 うん。仕方がないったら、仕方がない。

「そんな訳ありません!!」

 うん。思いっきり怒鳴られた。

 安寧城に帰って来ると、ヘルザースが飛んで来て、すごい剣幕で怒るんだよなぁ。

 そんなに怒らなくっても良いじゃないか。別に俺がいなくったって何の問題もないんだからよぉ。

「いや、しかし陛下、来訪される各国の王族は、陛下に拝謁できるからこそ喜び勇んで参られるのです。それを突然、反故になさるのは流石に神州トガナキノ国の信用に関わりますので。」

 後から国王執務室に入って来たズヌークまでそんなことを言う。

「だって、国王は働いちゃいけないし…」

「会食ぐらいでなんですか!食事をして!ははははと笑ってやるぐらいのことで、そのようなこと!仕事でもなんでもありますまい!!」

 だって、俺、堅っ苦しい食事って嫌なんだもん。

「堅っ苦しい食事って嫌なんだもん。」

 あっ声に出てた。

 ヘルザースが俯いて肩を震わせてる。あれ?もしかして、うけた?

「嫌なんだもんとは何事ですかああああああ!!」

 そうだよね。思いっきり怒鳴られた。

「陛下。わかりました。とにかく、会食の折は食事をしていただかなくても結構でございます。ただ、そのご尊顔をお見せいただくだけで結構でございますので、とにかく、とにかく、会食の折にはそのお姿をお見せください。」

 うん。ローデル。お前のその優しさが胸に沁みるよ。でも三人で俺を囲むのは止めて頂きたい。オッサン三人の圧迫感が凄いから。

「ローデル!其方がそのようにこのガキを甘やかすから!こいつは調子に乗ってあっちにフラフラ!こっちにフラフラと好き勝手に出歩くのだ!!」

 ズヌークがヘルザースを止めに入る。

「ヘルザース閣下、陛下をこのガキ呼ばわりされてはいけませぬ。陛下のいらっしゃらないところでしたらともかく、陛下の御前ですぞ。」

 お?陰では俺のことをこのガキ呼ばわり公認ですか?お?

 ヘルザースが執務机を力任せにぶっ叩く。

「このガキは!このガキだ!!各国の情勢!外交のことなどお構いなしで!国交のない国の人権問題!紛争への介入!魔獣討伐に!災害時救援物資の搬入にインフラ整備!!全て!勝手にしてきて、あとの尻拭いは!全て!儂がやっておるのだ!」

 うーん。真剣に怒ってるっぽいな。

「苦情は殺到するわ!友好条約を結びたいと申請が飛び込んで来るわ!その結果!融和調停のために会食をセッティングしておるのに!このガキは簡単にその会食をすっぽかしおる!種を蒔くだけ蒔いておいて、その後は全て儂任せで、調整した結果がこれだ!!このガキ呼ばわりして、何が悪い!!」

 ヘルザースが肩で息をしている。そりゃそうだ。これだけの長台詞を一気に息継ぎなしで喋ったんだからな。そりゃ、呼吸も荒くなるわな。

『違うだろ。興奮してるから呼吸が荒いんだ。』

 わかってるよ。目を背けたい現実ってのがあるだろ?現実主義のニヒリストめ。

「わかった。ヘルザース。」

 いつになく真剣な俺の声に三人の執政官トップが俺に注目する。

「退位しよう!!」

 俺の言葉に三人が項垂れる。

 あれ?国王辞めろってことじゃなかった?あれ?

「へ・い・か…陛下が国王を辞めてどうするんですか?この国はどうなってしまうのですか?」

「…」

「…」

「…」

「…」

 ズヌークの言葉をスルーしたつもりだったが、全員が俺の言葉を待っている状態だったので、仕方なく、俺は口を開く。

「お、」

「お?」

 三人が前のめりになって俺の言葉を待つ。

「お前らで考えろ。」

 ヘルザースの髪の毛が逆立っている。

 ズヌークとローデルは肩を落として、俯いている。

 うん。この反応は予想通りだ。

 ヘルザースが目を閉じて、大きな溜息を吐く。

「承知いたしました。」

 お?予想外の答えだ。

「それでは、トロヤリ殿下を次期国王とさせていただきましょう。」

「え?」

 ズヌークが頷く。

「致し方ありませぬな。オルラ殿を大公妃殿下に据えて、国政を担って頂きましょう。」

「うむ。トロヤリ殿下であれば、陛下のように我儘を仰ることはありますまい。」

 ローデルまでが追随する。

「それは駄目。」

 自分が働くのが嫌だからって、息子に働かせるってどんだけ駄目な親爺だよ。なんかいけない。いや、人として終わってるだろ。それ。

「では一体どうしろと仰るのですか?!」

 もう、怒鳴るなよ。

「適任者が三人もここにいるじゃねえか。お前らが、なんでもかんでも勝手に決めちまちまえよ。俺の裁定なんか必要ないだろ?」

 ズヌークが眉を顰める。

「陛下、そのようなわけにはまいりませぬ…」

 俺はヘルザースに向き直り、鋭い視線を送る。

「国の名前を勝手に決めた奴が、お前らの目の前に居るだろうが?」

 ズヌークとローデルがヘルザースへと視線を向ける。

「おい。目を逸らすなよ。」

 さっきまでの勢いはどこへやら。ヘルザースが俯き加減で目を逸らしやがった。

「神州なんて勝手に付けやがって。ったく。その上、この国体母艦にまで新神(あらがみ)母艦なんて名前を付けやがっただろうが。」

 居丈高に怒鳴っていたヘルザースが蚊の羽音のような声で「いや、それは…」と呟いてやがる。

 国体母艦は現在、十四隻が稼働している。その内、城塞都市を乗せているのは五隻だ。それぞれの城塞都市に都市名を付けなくては区別し難いとの議案が提出されたが、俺は「一番艦とかの番号で良いよ。それでわかるし。」と、議案その物を却下した。

 却下したその日の内に一番艦の名前が新神母艦という名前になっていた。しかも、城塞都市の名前は新神(あらがみ)浄土じょうどだ。なんだよ、その仏教に出てきそうな天国みたいな名前は。どういうことだよ?まったく。

「あ、あの時は、オルラ様とお話しして、ヤート語で新たな神を表すお言葉について話しておったのです。それで丁度良いお言葉を賜ったものですから、これは天啓と判断いたした次第です。」

 開き直りやがったよ。くそ。ヘルザースめ。いつか酷い目に合えばいいのに。

「ほれ、勝手に決めてるんだから、俺は必要ないじゃねぇか。大体、新神母艦だけじゃねえだろ?二番から五番まで、全部、お前が名前を付けてるじゃねえか。だから、お前らで勝手に決めろ。俺がお前達のやることにダメ出ししたって、結局はお前達の提案が通っちまうんだからよ。」

 そう。俺が、神様っぽいというか、宗教っぽい、そういう名前は止めろって言ってるのに、「いや、いや。国名に神州と付きますからな。」と言って、第二国体母艦以降には上天母艦だとか奉天母艦とか、全部に天って漢字を入れやがった。で、城塞都市は全部、‘何とか天浄土’だ。極楽だらけじゃねえか。

「陛下、お拗ねになりますな。」

 眉を下げたローデルが、我儘な孫を諭すように言う。

「べ、別に、拗ねてなんかいねぇよ。」

 そう、拗ねてない。

 トンナとコルナは下僕なのに、トンナは相変わらず暴走するし、コルナに至っては怒られることの方が多いし。

 アヌヤとヒャクヤは「わかった。」って言っては、スルーするか、斜め上のことしかしねぇし。

 ロデムスはオルラにべったりで、俺の使役魔獣じゃ無いみたいな感じになってきてるし。

 その上、家臣団のトップスリーに怒られてるし。

 兄弟分のセディナラは「諦めろ、兄弟。」としか言わねえし。

 俺の言うことをハイハイと言うことを聞いてくれるのは、ハノダだけだ。

 な~んだ~か~な~。自分で考えてて涙が出てきそうだよ。

 俺って、元から国王の扱い受けてねぇじゃん。でも、国王の仕事はしろって?理不尽だろ。それって。

「ウッウウン。」

「なんだ?ズヌーク、風邪か?」

 わざとらしい咳払いなんかしやがって。わかってるよ。合図を送ったんだろ?

 執務室のドアからノックの音が響く。

「どうぞ。カルザンだろ?入って来いよ。」

 俺の言葉を聞いたカルザンが、お辞儀しながら国王執務室に入って来る。

「やはりご存知だったのですね?」

 透き通るような高音の声。長いサラサラのプラチナブロンドをかき上げる指はしなやかで白い。美少女に分類されてもおかしくない美少年だ。

『相変わらずそそるねぇ』

 うん。クシナハラは黙ってようか?俺にそっちの趣味は無いから。

 カルザンが優雅な足取りで執務机の前に立ち、再び頭を垂れる。今度は正式な礼だ。

「よせよ。俺とお前の仲だろ?堅っ苦しいのは苦手だって言っただろ?」

「陛下は相変わらずですね。」

 カルザンがクスリとお淑やかに笑う。

 おかしいなぁ。俺の周りには女が一杯いるのに、こんなに女らしい女は一人もいねぇぞ?どうなってる。この世界。

「今日はどうした?一週間ほど前にも遊びに来たのに珍しいじゃないか?」

 微笑みながらカルザンが頷く。

「本日は魔導学校の方を見学したいと思いまして、まかり越しました。」

 俺はヘルザースの方を見る。

「予定に入ってた?」

 話題が変わったので、ヘルザースの表情がいつもの自信満々のものに変わってる。

「当然でございます。公務となりますので、いつも通り、カルザン皇帝のご案内は陛下にお任せいたします。」

 まったく。こいつらには参るよ。説教した後のご機嫌取りのためにカルザンを呼び寄せておくなんてな。

 これだけ優秀な奴らが揃ってるんだ。やっぱり俺は別に必要ねぇじゃねぇか。

「しょうがねぇなぁ。まあ、公務だからな。じゃあ、俺が学校の案内をしてやるよ。」

 俺の言葉を聞いた四人が微笑ましそうに俺を見る。やめろよ。恥ずかしいからよ。

「カルザン。じゃあ行こうぜ。歩きで良いだろ?街を冷かしながらの方が楽しい、ウウンッお前が楽しいだろうからな?」

 カルザンがニッコリと笑う。

「陛下の仰せのままに。」

 なんでコイツが女じゃないんだよ?間違ってるぞ。世界!

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