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勇者と魔王の息子は一般人です  作者: イマノキ・スギロウ
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8.お使いはダッシュで?

とりあえず今日はここまで。明日また書いて早ければ夕方までに投稿します。

 セブリナが2度目の気絶をした後、時間を持て余していた正人は母である魔王の真央に頼まれて夕食に使うのに足りない食材をかいに出かけていた。


「油は買った。岩塩、抹茶塩、タルタルソースも買った。あとはサラダに使うトマトとレモンか、スーパーより商店街の八百屋で買ったほうが安そうだな」


 買い物メモを確認しながら正人が八百屋に向かうと、そこには店主と話し込む勝気な雰囲気の女性が居た。


「おっちゃん、このキュウリいいねぇ! トゲしっかりしてるし、何よりずっしりと重みがある」


「おぉ、わかるか嬢ちゃん。そいつは今朝仕入れたばっかの一級品よ」


「他にはなにかいい野菜はあったりする?」


「そうだなぁ、今はトマトとナスがおすすめだな。煮て良し、焼いて良し、生で食うなら冷やすとさらにうまい」


「ならキュウリと一緒にそれを二つずつ買いだ!」


「はいよ、キュウリとトマトとナス二つね、トマト一個オマケしちゃおう」


「おぉ、ありがとおっちゃん」


「良いって事よ」


 ドラマのようなやり取りで女性が買い物を終えたのを見計らい、正人も続けてトマトとレモンを購入すると、家に帰ろうと歩き出したところで、先ほどの女性が通せんぼをしていた。


「?」


 偶然進路が被ったのだと思い、正人は少しだけ方向を変えて、通り過ぎようとしたが、2度3度と明らかに女性は正人の進路を塞ぎに来ていた。


「あの、俺になにか御用ですか?」


「ん~~? いや、用っていうかねぇ、君、もしかして向こう側の関係者?」


「向こう側?」


「あれ? わかんない? おっかしいなぁ、君からかすかに漏れてる変な魔力、絶対元向こうの人だと思ったんだけど」


「…………」


 その時、正人は女性の言った魔力について思い当たる心当たりを一つしか知らなかった。


 絶対母さんの血の影響だ、と。


「それとも……しらばっくれてるのかなぁ?」


 女性の声のトーンが少しだけ下がったその瞬間、正人はぞくりと背中に冷たいもの感じ取り、急いで反対の道に向かって走り出した。


 商店街から自宅までは直線で200メートルもないため、正人は路地道を駆使して相手を巻くように走り、アパートに帰り着くころには、額に汗が浮かび、肩で呼吸していた。


「た、ただいま~」


「おかえり正人、そちらの方は?」


「へ?」

 

 玄関に繋がる廊下から出迎えてくれた父の言葉で振り返った正人の視線の先には先ほどの女性も息も乱さずに平然と立っていた。


「うおわ!?」


「どうも~、おじゃまします」


 振り向くのと同時に正人は女性にヘッドロックを掛けられ、拘束された状態で家の中へ連れ込まれた。


「招いた覚えはないんだけどなぁ」


「そう言わずに、ちょっとこの坊やの事とあとはそうだね、あんたにも聞きたいことが……」 


「…………貴様………何をしている?…………」


「!!?!?」


 つい一秒前まで余裕たっぷりだった女性の顔は地の底から響いてくるような魔王の問いかけの声に驚きを隠しきれず、うろたえた様子で警戒する。


「なんだこの威圧感、こんなのまるで……」


「ちょ、離し……」


「黙ってな!」ギュッ


「ぐ、苦し…」


「その薄汚い手を離さんか------------!!!!!!」


 怒りの咆哮とともにバチンと正人と女性の間を隔てるように魔法の壁が出現し、球状の壁は正人を守るように包み込み、反対に女性の方は家の壁との間で挟み込んで締め上げていた。


「うぐ、」


「まーくん! あ、いや正人!! 大事ないか? どこかケガはしておらんか?」


 魔法の壁と同時に現れた魔王は母親としての顔を見せ、正人の身体のあちこちを確かめる様に触っていく。


「へ、平気だよ、ちょっと苦しかったけど、なんとか大丈夫」


「そうか……ならばよし。少し待っておれ、今夕食にするからの、その前にこの愚か者をプチリと潰してかたずけるから……」


「あの母さん、殺人沙汰はほんとにやめて、」


「うん、僕からも頼むよママ、さすがに腹の虫が治まらないだろうから多少罰を与えるのはいいけど、その子もセブちゃんと同様、元僕の同僚だから命だけは助けてあげて」


「何? あの女と同じ?」


 その言葉を聞いた魔王はどす黒い感情をにじませながら勇者に詰め寄ると、胸元を掴み上げで問いただす。


「あのシスターの時も思ったが貴様! これまで我の元に一人で来たような事を言っとったが本当は仲間が大勢おったんじゃないのか!? 女の仲間が!! ええ? どうなんじゃ!??」


 がっくんがっくん揺さぶられながら勇介は気の抜ける口調で返答する。


「あ~~そ~~だね~~、特に仲間と思った事はなかったけど、勝手に付いてきてた同僚は何人かいたね」


「具体的には!?」


「えっと、シスターのセブリナとそこで拘束されてる戦士のヴァネル、それから狩人のアミスくらいかな? あとは国からの監視役のアサシンも数人居たけど、一緒に戦ったことはなかったし」


「そのアミスとやらも女なのか?」


「うん、でも言っとくけど、三人とはそういう関係は一切もったことはないからね? 僕はママ一筋だから」


「ふん、信用できるか。こっちのラノベの勇者みたいに女にふしだらでない所だけは唯一の美点と思っておったが、どうやら見誤っていたようだの、このハーレム勇者め!!」


「だから違うって。僕にはママだけだよ」


「聞く耳もたん!」


 唐突に始まった夫婦喧嘩に正人はどうすれば良いかわからず、言葉に詰まり、二人の間に割って入ったのは別の人物だった。


「…………あの、喧嘩をされるのはかまいませんが、ヴァネルの顔色がそろそろ赤から青に変わってきたので一度拘束を解いていただけませんでしょうか?」

   

「ん? ………なんじゃお主、もう立てるようになったのか」


「立てるだけで身体はガタガタですけどね。あの、本当にヴァネルが死にそうですので解除を、殺人罪になったらお子様と会えなくなりますよ?」


「…………仕方あるまい」


 正人と会えなくなるという一言でいまだ怒り心頭の魔王であったが、ひとまずヴァネルを押さえつけていた魔法の壁を解除した。


「まー、正人、こっちに来い。もうそ奴に抵抗する力はないだろうが念のためだ」


「……あ、うん、」


 拘束を解かれたヴァネルは壁に背を預けたままぐったりとした様子で勇介が介抱する。


「息は出来るかい?」


「あ、ぁぁ……」


「視界は安定してるかな?」


「ああ、」


「…………うん、骨も折れてはいないね。これなら少し休めば回復するだろう」


「あ、あんた……いや、その魔力の感じ、もしかしてあなたは!」


「僕はただのサラリーマン兼父親だよ」


「いや、その魔力は確かに……」


 ぐうぅぅぅぅぅ~~~~っ


 唐突にヴァネルの言葉を遮った音の正体は大食らいで燃費の悪い高校生特有の腹の虫だった。 


「……ひとまず夕飯にするかの」


 魔王の一言でその日の平川家の食卓はいつも以上に賑やかとなった。 

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